弟子と錬金術師。その三
今回やや長め。
文字数が暴れまわってます。
「ケルト導師、お手紙です」
「あ、ポチさん。いつもありがとうございます」
ケルトは小さな人型の獣から手紙を受け取る。受け取った手紙を見ると手紙の封にシェルベア王家の焼印が使われている。
「どうしたんでしょう」
「ケルト導師も有名になられましたね。ガルム族としても鼻が高いです」
「いえいえ、俺なんてまだまだです。それにしても、王家から……」
ケルトは首を傾げながら、封を開けようとする。
「では、これで」
「手紙ありがとうござました」
「仕事ですので……そういえば、一つだけ。王都で勇者が降臨したという噂があります。では、本当に」
「ええ、ありがとうございました」
ポチが地図を取り出して次の目的地を調べながら歩いていった。
「ケルトお兄ちゃん、誰だったの?」
「宅配屋のポチさんだよ。うちに手紙を届けてくれたみたいだね」
ティアはケルトが手に持っている手紙に目を向けると差出人が誰かに気づく声を上げる。
「お、お兄ちゃん!王家からだよ」
「うん、知ってる」
「お兄ちゃん、何かしたの?」
王家からの手紙がくるような出来事を考えると、少し前に第二王女様の治療に携わったことぐらいしかない。
「たぶん、この前のお礼か何かじゃないかな」
「読まなくていいの?」
ケルトが手紙を自分の書斎の引き出しに入れるのを見たティアはそう尋ねる。それを聞いたケルトは苦笑しながら、
「俺宛だからね、夜にでも読むよ」
「そっか、王家からだもんね。でもでも、王家からなんだよね」
「そうだね」
「勇者に関することだったりしないかな?街で結構噂になってるよ」
それを聞いたケルトはポチの話を思い出す。
「ポチさんもさっき同じようなことを言ってたよ。こんな辺境なのに王都の噂が届くなんてね」
「勇者が出たっていうのはちょうど二月くらい前って話だよ」
「それくらいあれば、ここまで噂が来てもおかしくないね。それにしても、今の時期に勇者か……魔王が決まったのかな」
隣でケルトの言葉に耳を傾けていたティアは不思議そうな顔をする。
「魔王が決まるって?」
「ああ、ティアは知らないのか。魔王は別に一人ってわけじゃないんだよ。魔族にはそれぞれ流派というか派閥みたいなものがあってね、互いを牽制して暴動が起きないようにしているんだよ。何しろさまざまな種族がいるからね。種族が違えば、考え方や文化だって違う」
「魔族ってそんなに種類あるの?」
「あるよ。代表的なのが吸血鬼種。堕獣人に堕天使、その他にも複数の種類の種族が集まって魔族って呼んでいるんだ。人っていう種族は彼らを総称でしか知らないからね、無理もない」
話を聞いていたティアは疑問に思ったのかケルトにこんな質問をした。
「お兄ちゃんって種族的にはダークエルフだよね」
「そうだね」
「おっきく分けると何になるの?」
「分類で言えば、精霊や神霊の類だね。見た目で言えば魔族っぽいけど。けどね、精霊や神霊っていうのは人に見えるものじゃないから、言ってしまえば存在しないものや存在してはいけないものという風に扱われることが多いんだ。エルフたちは魔族を憎んでいる節があるからし、その上精霊や神霊たちを神聖視することが多い」
いつの間にかティアが用意してくれたお茶を飲み、続ける。
「もしティアがよく拝んでいる神様、いるでしょ」
「メルリーク様だよ、再生と豊穣を司る神様」
「例えば、その神様の像に落書きだったりもっといえば壊したりしたらどう思う?」
「許せないよ」
「エルフたちからすれば、ダークエルフっていうのはそれなんだ。神様に対する冒涜」
それを聞いたティアは納得したようなでも認めたくないようなそんな顔でケルト見た。
「でもそれはおかしいよ!ケルトお兄ちゃんが実際に何かやったわけじゃないのに嫌われるって」
「生まれた瞬間から決まっていることだからね。忌子というのはそういうものなんだ。ただ、何の皮肉かダークエルフは余程のことがないと死なないからね、寿命だって実際どれくらい先まで生きるのかわからないくらい長いんだ。
「でも、お兄ちゃん。出会ったとき、死にかけてたよ」
「だから、きっと余程のことがあったんだよ。死に掛けて、そしてしばらく眠って起きたら記憶がない。もう一度同じような目にあえば少しは思い出すかもしれないね」
「それはだめだよ!!」
ティアは必死に止める。
「絶対にだめ。勝手に傷ついたら許さないよ」
「それではまるで、俺は君のものみたいだ」
「はぅ……」
苦笑しながらティアの頭を撫でるケルト。そしてその笑顔があまりにも綺麗で見ているこちらが恥ずかしくなるティア。
「ありがとう。それに弟子をおいて死ぬようなことはしないさ、これも約束だ」
失った記憶を新しい記憶で補おうとする青年の姿がそこにあった。
いつも読んでくださってありがとうございます。