勇者と錬金術師。その一
お酒はほどほどに。
「フィア、入るわよ」
何度かノックしたが中にいるであろう人物からの返事はなく、部屋の鍵も開いていたため中に入ると机に向かって項垂れている妹の姿がそこにあった。
「どうしたの、そんなに項垂れて」
「きゃああああああ」
背後から声を掛けられて驚いたのか、妹が椅子から転げ落ちそうになるがなんとか体勢を立て直したようだ。
「ひどいです、お姉ちゃん」
「ごめん、まさかここまで近づいて気付かないって思ってなかったから。それで、どうしたの?」
「この前お世話になったケルト様にお礼の書状をと」
「なら、そこまで項垂れなくても」
「それは無理っすね。メルフィア様はケルケル見てないっすから」
朝食を持ってきた軍服を着た少女、ルルリアが二人の会話に入ってくる。
「あら、ルルリア。今日はサボってないのね」
「メルフィア様、ひどいっすね。いつもサボってるわけじゃないっすよ。サボりたいときにサボってるんっす」
それは近衛騎士として大丈夫なのかと頭を抱えたくなるメルフィアとその様子を楽しそうに見ているグレイフィア。
「それより、そのケルトっていうのは妹を救った人物で間違いないのよね?」
「そうっすね。でもケルケルは救ったとは思ってないみたいっすよ。ちょっとだけ手伝った程度しか思ってないっすよ。たぶん」
それを聞いたメルフィアは愕然とする。王都に高名な医術関係者全員が匙を投げたそれを……本来なら名誉なものになるし、誇っても誰も文句も言えないような。
それをただ手伝った程度としか思っていない。
馬鹿なのかそれとも本当にそう思うだけの実力を持っているのか。実際、グレイフィアの治療は順調といっていいほど。
王宮の医師たちも今までが嘘のようだといっている。その発言だけで彼を王宮の筆頭治癒師としてこの王都へ呼ぶのに十分な理由が揃っている。
「あ、姫様。ケルケルをここに呼ぼうとか思ったすね」
「顔にでも出てたかしら?」
「出てないっすよ。ただ、本来であれば誰でもそうしたいと思うことっすから。メルフィア様はこの国王女様っすから、民のことを考えるとそれが一番っすよ。でもだめっす」
そういって、短剣をメルフィアに向ける。
「何のまね?」
「これはグレイフィア様の命でもあるっす。約束なんすよ、そういう理由でケルケルを縛りつけようとするものを排除するっていう。因みに、国王陛下からの許可もあるっすよ」
「お姉ちゃん、ケルト様を利用しようとか考えないでね」
妹にまでそう言われ、降参を示すように両手を上に上げた。
「わかったわ、要するに仕官にするような手配をしたら駄目ってことでしょ。メルフィアの診療って目的で呼ぶのは?」
「呼んでもこないと思うっすよ。彼は陛下から召還拒否できる権利貰ってるっすから。それだけ本当なら領地を与えるだけの働きをしてるんす。無理強いはよくないっすよ。ただ、今から二月後にある剣舞祭には王都を訪れるって言ってたっす」
「ほんと?ルルリア」
それを聞いたメルフィアは椅子からこちらに飛びつきそうな勢いでルルリアを見た。
「さっき、手紙届いたっすから間違いないっす」
そういって二人の前に手紙を差し出した。
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