目覚め。その一
ネーミングセンスのなさにびっくり。
ま、知ってたけど。
嫌な夢を見る。
それは怖いくて痛くて、そして冷たい。舞い上がる炎とゴムが焼けるような匂いが鮮明に記憶されたそれは僕に痛みを与える。
固いアスファルトの上に横たわる姿を真上から見ているような不思議な感覚。視線の先にいるのは明らかに自分で、それはほとんど人の原型を留めていない。
傍らには自分よりもやや背丈の低い髪が腰ほどまである数分前だったら誰もが見向きをしたであろう少女だったものが転がっている。
「実験は失敗だ!」
誰かが叫ぶ。視線をそちらに向けると白衣を着たインテリ男が黒い煙に向かって叫んでいる。
「禁忌には触れてはいけなかった!!」
その言葉が何を意味しているのか僕にはわからないし、僕の身体はすでに活動していない。意識だけの存在となっている僕はその黒い煙を見た。
肉体を持たない僕が見たそれは『死』そのものだと直感で理解した。小説とかで出てきそうな悪魔が僕を見た。
そして───。
☆
「……っ!」
胸の痛みで男は目覚めた。まるで何かで胸を抉られたようなそんな痛みだ。着ている衣服には至って変化がない。というよりも着ていた衣服が変わっていることに男は気付く。
そして体をゆっくりと起こし周囲を見渡すと見覚えのない場所にいることに気付いた。
周囲を見渡して気づいたことはこの部屋にはあと二人眠っている人物がいることがわかる。一人は正義感の強そう優男。いわゆる女性受けしそうな顔立ちをしているところがなんとも腹立たしいが今はおいておくとしよう。
その男の隣のベッドでかわいい寝息を立てているお淑やかそうな長髪の少女。良家のご息女と言われても何の疑いも持たないことを自身をもって宣言できる。
窓ガラスに映る自分を見ると相も変わらず無精髭が目に付く。まだ高校生だというのにややおじさんぽいと苦笑する。他人から言わせれば渋いダンディーな雰囲気なのだが本人にしてみれば老け顔ってことでそれ以上なんでもない。
そんな三人がどうしてこんなところで寝ているか理解出来ないが、自分が寝ていたベッドやその周りの調度品を見るかぎり、かなり高価であることだけはわかる。それが実際いくらくらいなのか見当もつかないが。
ベッドから離れ、寝ている二人を起こさないように体を動かす。体にあまり違和感がないことから考えるとそんなに長時間寝ていたというわけではない。しかし、窓の外に見えるおそらく城下町というやつなのだろうが当然見覚えがない。
日本帝国軍の駐屯地にいたはずなのに。
一体どういうことだ。
自分の記憶を探る。何かの出動要請があり、現場まで向かったことは覚えている。けれどその現場で何かを見て、死にかけた。もしかしたら死んでいたかもしれないが、それ以上は何があったのか思い出すことができない。
だが、死ぬほどのダメージを受けてその傷がないことを考えると夢幻を見ていたのかもしれないとまた深い思考を巡らせてしまう。
一度考える始めると止まらないのがこの男の悪いくせだろう。
そうこうしていると、優男が目を覚ます。
「ん……ミヤビ!!」
男は起き上がるなりそう叫んだ。さきほどの男同様にあたりを見渡し、ミヤビと呼んだ少女を見つけると安心したのか涙を流した。
「よかった……ほんとに、ほんとに」
「何がどうした」
その様子を窓辺で見ていた男は優男に声をかけた。
「竜胆先輩もいたんですか。助かりました」
竜胆と呼ばれた男は頭にズキンと痛みを感じた後、何かを思い出したようにつぶやいた。
「……空間転移能力か」
「どうしたんですか、そんなに怖い顔して」
「……顔は元々だ。それよりも身体は大丈夫か?そっちの娘も……大丈夫そうだな。それより、お前はここがどこだかわかるか?」
優男は竜胆の隣まで歩いてきて、窓の外を見る。
「見たことがありません。先輩は?」
「俺もだ。お前は能力者にあったことがあるか?」
「ついこの前まで都市伝説とかって思ってましたけど。一度だけ見たことがあります、それで死にかけたというか死んだはずだったんですけど」
それを聞いた竜胆は自分の瞳を手で覆い、再びその眼を見ると黒い瞳が紅に変わり中央には十字の金色の線が入っている。
「先輩……その眼」
「俺は能力者だ。どうやら仕事で行った現場にお前たちもいたということなんだろう。たぶん空間転移系統の能力者があの場にいたはずなんだ。その反応もあったしな」
「……先輩って僕らと一緒の学生ですよね。顔はあれですけど」
「お前、殴られたいのか?ま、それはこのさいどうでもいい。確かに学生だが、俺は日本帝国軍特別災害対策室・副室長だよ」
竜胆は肩書を名乗る。
「もしかして、先輩がよく学校を抜け出しているのって」
「ああ、仕事でな」
優男は自分の先輩がそんなわけのわからない肩書を持っていることに驚いただけで何一つ状況が変わるわけではなかった。
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