姫と三人の外界人。その二
新年あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
「お父様、メルフィアです」
玉座に座る屈強な男に向かってそう発言する。
「よく来た、それでは報告を聞こう。件の勇者たちはどうしている」
「はい。召喚には成功しました。今は不安定な召喚のためか少し眠っています」
それを聞いた王は顔を顰める。
「不安定とは、完全ではなかったということか?勇者たちの命は?」
一緒に召喚の儀に参加した魔導士ならメルフィアの苦労が分かるだろうが、目の前の男にはそれがどれほどのことか分からない。目の前の仰々しい椅子に座る男には一切の魔法的才能を持たない。だからといって弱いわけではない。魔法の才能がないイコール無能とはならないのが世の中の摂理だ。
一切の魔力を持たない生物はこの世界には存在しない。微生物ですら微弱ながら魔力を持っている。それは召喚した勇者であっても例外はない。
目の前の男は潜在魔力だけで言えば、メルフィアなぞ到底足元にも及ばない。かつて勇者を名乗っていただけのことはある。言うなれば先代の勇者といったところだ。
ただ召喚した勇者と違うのは生粋の地元民ということだ。つまり天然ものの勇者。現役を退いて十数年と経つがそれでもかつての威光を失うことはない。
それが自分の父親だとわかっていても委縮してしまう。
「よい、許す。本来であれば我々の問題だ」
地鳴りにも似た低い声がこの場を支配する。
「勇者様に頼らないといけないのはそれだけ復活した魔王が強いということですよね」
「強い。という言葉だけでは済まぬ」
一度立ち会った男のいう言葉には重みがあった。かつて国を挙げて戦いを挑み多くの戦友を失っている元勇者の現国王は正妻この戦いで負傷兵の治療中に魔法戦に巻き込まれて殉職した。
死後数分以内なら治療できる術があることを知り、一人で後悔していたことを第一王女あるメルフィアは知っている。もうあんな出来事が起きないように治癒術を使える人間を必ず、王族の側近に付けている。
メルフィアであればナギサという黒髪ロングの巫女がいるのだが、今は所用のため数日ばかり外している。本来こんなことではいけないのだが、王宮内にはそれなりの治癒師がいるし問題ないと判断したため、メルフィアが許可していた。
先ほど玉座の間であったルルリアという女性は軽薄そうな印象を受けるが、病弱な妹であるグレイフィアの担当医をするほどの実績を持っているのだから、世の中見た目で相手を侮ってはいけないということの証明なのだろう。
「報告は以上です」
メルフィアは召喚の際にあった出来事を全て話す。
「ご苦労。では下がってもよいぞ」
「それでは失礼します、お父様」
そういって退室する際、王の顔を一瞬拝見したがかなり機嫌がいいように娘には見えた。英雄召喚よりの報告よりもよほどいいことがあったのだろう。
メルフィアにはある程度それが予測出来ていた。
不治の病とまで言われた妹がわざわざ遠征してまで治療に行ったのだ。そして帰ってきてから王はかなり上機嫌だった。
玉座の間を出てからこの部屋に入る前にルルリアから頼まれていた厨房へ行くという用事を済ませることをにした。
厨房へ向かう途中にいつもよりメイドの数が少ないような気がしたが、それは些細な問題だとそのまま向かう。
厨房へ到着するころには誰一人ともすれ違うことなく部屋に入ってしまったので、さすがに不思議に思ったが。
「……料理長?」
いつも飄々としている料理長が真剣な顔で何かについて悩んでいる様子だった。その様子を見かねたメルフィアが声をかける。
「あ、ああ、これはメルフィア様。どうかなさいましたか?」
「いえ、少し様子が変でしたので」
「実はちょっと困っていまして。グレイフィア様が完治されたことはすでにご存じですか?」
「事実確認はまだですが、ルルリアの様子が嬉しそうだったのと父が上機嫌だったのでなんとなくですが」
おそらく不治の病だったはずのそれが治った、もしくはそれに準ずる何かがあったのではと予測はしていた。
「今までは、病気のため薬膳料理が中心だったのですが、完治されたとあってはそれではいけないと思いまして」
「健康に気を付けてくれていたのでしょう?」
「それはもちろんです!ですが、とても王族の方に食べていただくのは心が痛むといいますか」
そんなことをグレイフィアは気にしないと思うのだけれどと感じるメルフィア。
「どんな料理でも作ってくれた方の思いが籠っているものだと思いますが。それに治ったばかりで、わたしたちと同じような食事では身体にあまりよくないのではないでしょうか」
「そうですね。分かりました……。ところでメルフィア様はどうしてこちらに?」
料理長に問われ、用事を思い出す。
「そうでした。ルルリアが何か厨房から取ってきてほしいとのことだったのですが」
それを聞いた料理長は顔を真っ赤にして怒り出す。
「あのやろう!姫様をパシリに使うなんて、何様のつもりだ!!」
「野郎ではないと思いますが、どういうことでしょう?」
料理長は姫の目の前だということを思い出し冷静になる。
「ルルリアにはグレイフィア様への朝食を持っていくように頼んでいたのです」
「もう作ってあるのですか?」
先ほどのやり取りだとまだ作っていないのではとメルフィアは考える。
「朝食はもう作ってあります。悩んでいたのは夕食についてですので」
「そうでしたか。では、それはわたしが持っていきましょう」
「いえ、メルフィア様を煩わせるのは……」
「メイドたちの帰省日でしたよね、さきほどまで忘れていましたが、厨房も人が少ないようですし。それにどちらにしてもグレイフィアの部屋にこれから行く予定でしたので、ちょうどいいです」
「申し訳ありませんメルフィア様。配膳用のカートをすぐに用意しますので」
「お願いします」
メルフィアは忙しなく動く料理長を見て苦笑しながら最愛の妹にあったら何を話そうかと考えた。
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