姫と三人の外界人。その一
ここから新章に突入します。
主人公は少しの間出ません。
新章より少し長めになってますので更新が遅くなるかもなので。
「絶対に成功して見せます!この国の、世界のために」
白のドレスが少女の可憐さを引き立て、澄み切った青空を思わせる大きな瞳にはメラメラと決意の炎を宿らせる。少女の隣に立つ魔法使いを思わせる黒のローブを纏った男は目の前にいる少女を少女だとは思っていなかった。
ただの少女にこれだけの強い意志を持つことなんて出来るはずもない。何がこの少女をここまで動かすのか男には興味があった。
「王女様なら必ず出来ます」
近くにいた兵士の誰かが発する。
少女は王女だと誰かは言う。いくら既に成人に達しているとはいえ少女は結局は少女なのだ。こんなことを本人に言うのは流石に命が惜しい。
「では、これより召喚の儀に入ります」
石造りの部屋には何人もの魔法使いと名乗る男女が、祭壇に描かれた魔法陣を中心に囲うように立ち、円を描いている。石造りの柱には召喚に必要とされる公式を示す術式を刻み、祭壇の中心には遺骨が置いてある。
降霊術や交霊術の類ではなく、憑依術の類でもない。
遺骨が誰のものなのかここにいる全員が知っている。何千年も前、何百年も前にいたとされる勇者と名乗るものの遺骨だ。これは聖遺物と呼ばれ、高次元の力を有している。
聖遺物一つで国一つ簡単に堕とせてしまうような物を供物にして行うこれは召喚術だ。それもただの召喚術ではない、英雄召喚と呼ばれる別次元にいるとされる英雄、勇者を呼び出すための儀式魔法。
そんな大掛かりな魔法だ。
大量の魔力を必要とするし、下手をすれば魔力を全て奪い取られ、命を落とす危険さえある。自分では国で優秀な魔法使いを集めたつもりだし、聖遺物のことをしっかりと調べ上げた。
問題はない。
吐息を漏らすと、緊張のためか身体が震えていることがわかる。失敗すればただではすまない。ここにいる全員の命だけで済めばそれでいいが、国全体を巻き込んだという話も書物には残っている。
しかし、これに頼る以外、人類が生き残る手段はない。
「ふぅ……。第一拘束呪式解放、続いて第二、第三隷属呪式解放」
少女は祭壇に立ち、詞を発する。
英雄召喚をするようなこんな【陣】の封印を解いただけで、一人二人が倒れる。横目で彼らを見るが意識を失っているだけで命には別状はなさそうだ。ここまでは予定通り。
第二、第三の解放を行うとさらに数人が倒れる。少女はまだ大丈夫と唇を噛み締める。
「……持って行きなさい!!!わたしの全てをっ!!!」
少女は高らかと声を上げ、自身の魔力を一気に放出した。王族特有の高密度の魔力は【陣】に注がれると少しずつ安定してきているように見えた。
「姫様!!それ以上はっ」
近衛の誰かが、少女に向かって叫ぶ。
「黙りなさい!!第四召喚制御呪式限定解放!」
少女は封印の全解放は魔力的な面からみて無理だと判断し、限定的な解放を選択した。ただこれが、この世界に訪れる勇者たちの運命を決めることになるなんて当然知る由もなかった。
☆
「はぁ………はぁ。ドレルド、どう?成功した」
二段階の封印を解放し、祝詞を唱えた少女は既に力尽き立っているのもやっとだった。
「姫様、召喚は成功です。しかし」
召喚は成功。本当なら喜ぶところなのだろうが、ドレルドと呼ばれた神父風の男の顔色が少し悪い。彼は儀式に直接干渉したわけではないのだからそれほど疲れているということはないだろうが、その顔色は疲れている人間のそれだ。
「報告しなさい」
「申し上げます、姫様。勇者と思わしき人間の召喚に成功。同時に勇者の巫女も召喚に成功しました。しかし」
そこで言い淀む。
「何?」
少女は祭壇を見つめる。そこには血だらけで倒れている勇者と思わしき人とその巫女であろう人、そして勇者かもしれない人がもう一人いた。
「……申し上げます。勇者と巫女の二名のはずが、もう一人いるのです」
少女はそんな報告よりもはやく命令を出した。
「救護班!!急いで、勇者様を死なせるわけにはいきませんっ!!!」
「もう、命令済みです。それよりもこんなことには文献には載っておりませんでしたが、よもや」
「わかっています。勇者様方が死に掛けているのも、一人伝承よりも多いも、わたしの未熟さが招いたことです。幸い王宮魔導師には被害が出ていないようなので、それだけが救いです」
「魔力切れで意識を失っているものも、治療を既に開始しております。今は、ただ勇者の回復を祈るのみですな」
少女は力なく返事をした。
☆
英雄召喚から一週間が経過した。儀式に参加していた魔法使いたちは魔力も回復し既に業務に戻っている。それはまた姫も同じことだった。
「姫様、国王がお戻りになりました。報告のため玉座の間にくるようにとのことです」
「わかりました。お父様が戻ったということはグレイフィアの様子は?」
少女の父である国王は辺境にいるという高名な治癒術師の下へ二つ年下の妹を連れて行った。妹は病弱でそれもかなりの難病で国にいる治癒師では治せないという不治の病だった。
「わたくしめが見た限りで申し上げるのなら、大変元気そうなご様子でした。まるで嘘みたいなくらい」
それを聞いて涙が溢れてくる。
「ほんとに?ほんとに、ほんとに?フィアは治りましたの?」
「わたくしめではそれにお答えする回答を持ち合わせてはおりません。姫様、ご自身で行かれては?」
「そうします。でも、その前にお父様のところへ行きます。この件に関して報告しなくてはいけません」
自分の部屋から出た少女はドレルドを引き連れて玉座の間まで向かう。玉座の間は国王直属の兵士が守りを固め、その一人一人が一騎当千に匹敵する強者だ。その一人であるルルリアが少女の姿を見つけ手を振る。
「お疲れっす、メルフィア王女。陛下もお待ちしてるっす」
「妹は大丈夫?」
「大丈夫っす。ケルケルのおかげですっかり良くなったっす」
仮にも王女に対してこの話かたは無礼になるのではと心配されるところなのだが、それはルルリアという女性だからと片付いてしまうほど、近衛の中では浸透していた。
「ケルケル?」
「あ、ケルケルって言うのは師匠っぽい人っす。いい人っすよ、カッコいいし、強いし、何より優しいんす。結婚するならあんな人がいいっすね」
「そ、そう」
ルルリアの会話からでは要領は得なかったが、とりあえず妹を治してくれた治癒術師だということがわかった。ルルリアは軽いといった印象を受けるが、それでもこの国で一番といっても過言ではない治癒術師だ。治癒師と治癒術師の違いはそれほどないが、簡単に言ってしまえば戦闘技能を持つか持たないかだけのことだ。
ルルリアは戦う医師。戦闘技能を持つ医師は治癒術師と呼ばれ、治療だけを専門とするのは治癒師。ルルリアよりも優れた治癒師ならいるだろうが、ルルリアよりも優れた治癒術師はいない。
「陛下にあったら、グレイフィア様の部屋にくるっすよね。そのときに一度厨房に寄ってほしいっす」
「どうして?」
「とって来てもらいものがあるっす。グレイフィア様を待たせてるので失礼するっす」
「わかりました」
そう言ってメルフィアは玉座の間の前に立った。
いつも読んでくださってありがとうございます。




