閑話 五年前の錬金術師。その三
今回はちょっと長め。
シェルベア王国の辺境に位置するガルムの街には高名な治癒術師がいるという噂が王都シェルベアの国王の下に届いていた。
「ケルト・シエルハイム……そのものならあるいは。だが」
「召還してはいかがですかな?」
仰々しい王座に座る屈強そうな老人とその隣にいる策略を廻らせてせていそうな、長身の男が立っていた。その近くでは衛兵の姿はあるものの、彼らの会話に入ろうとはしない。というよりも立場的にそんなことは難しいのだ。
衛兵たちが見ている相手はこの国でトップにいる二人。国王と宰相だ。
そんな二人が何を話しているかといえば、ケルトなる治癒術師のことについてだ。何でもガルムという辺境で次々に難病を治しているという話だ。
「暗部の調べでは、その者は人がどうか疑わしいとのこと。余自らが赴くべきなのだろうな」
「それはいけません。王に何かあったらどうするおつもりですか!」
「武技で余に勝てるのは何におると思っている」
「近衛騎士団長のカイエンぐらいでしょう。あれなら王にも届きましょう」
王は腕を組んで唸る。
「内密にその者に会いたいのだ。召還するわけにもいくまい。魔族という噂もあることだしの」
「なっ!!正気ですかっ!!国王」
「娘のグレイフィアのためなのだ……わかってくれ。ジン」
宰相はジンと呼ばれ、言葉を詰まらせる。
「オウル……俺はお前が心配なんだよ。お前が娘のグレイフィア様を大切に思っているのは知っている。だが、昔と違ってお前は国王なんだ。だから立場を大切にしてくれ。代わりに俺がガルムを訪れる……申し訳ありません、出過ぎたことを」
「いやよい。ここにいる皆、昔からの友人だということは知っておる。誤る必要なぞ、どこにもないのだ。……でも、こればかりは、な」
「でしたら、近衛は全て連れて行ってください」
「カイエンだけで結構。近衛が離れれば王都の守りをどうする」
宰相はこれ以上は無駄だろうと近くにいた衛兵の一人にカイエンに任務を言い渡すように伝え、頭を抱えた。
☆
「リックさん、腕の調子はどうですか?」
「あ、ケルト君。調子はいいよ。むしろ前よりもいいかもしれない」
「何かあればすぐに教えてください。痛みがあれば普通に薬を調合しますので……」
外套を深く被って、リックと呼ばれた男とは視線を合わせているかどうかの判別は出来ない。リックがケルトにそれを被るように言ったためそうしているに過ぎないのだが、やはり顔を見て話をしたほうがいい。
同時に最近はケルトの治癒術の噂を聞いて、たくさんの人が村にくるのだからケルトが外套を外せないというジレンマに陥っていたりもする。
ふたりがいつものように会話をしていると村の入り口の方がかなり騒がしいことに気づく。
「ケルト君は見に行かなくてもいいのかい?」
「俺が言ってもあまり意味はないでしょうから。俺は自分の家に帰ることにします。ティアがこちらにくるようでしたらくれぐれも気をつけてくるようにとだけ言っておいてください。それと、俺の目の届かないところで錬金術を使ってないでしょうか?」
「大丈夫だよ。あの子は聞き分けがいいから。君から教わったことはちゃんと守っているよ。じゃあ、何があったか見に行くから」
そう言ってリックは村の入り口に向けて歩き出した。
「村の人たちにも体に違和感があったらすぐに知らせるようにしてください。薬の調合が甘かったのもあるかもしれないので」
「伝えておくよ」
ケルトは満足そうに薬草が山のように入った籠を背負いながら自宅へ戻るのだった。
☆
自宅へ戻ってから数時間が経つ。いつもよりも家の前が騒がしいように感じ、外へ出ると、そこには村長と見知らぬ一行がいた。
「どちらさまで?」
「この方はこの国の国王さまじゃよ。おまえさんもあいさつし」
それを聞いてケルトは慌てて挨拶をしようとするが、屈強な男は片手を挙げケルトの挨拶をとめる。
「よい。内密にここいるのでな」
「わかりました。ここのでは何ですので、中へ」
そう言って家の中へと招き入れると王様は感嘆に吐息を漏らす。後から入ったほかの面々も同じような状態だった。
「みすぼらしいところですみません」
「これは……汝が一人でやったのか?」
その外観からはわからない内装が王都にいる大貴族にも負けない調度品の数々がそこにはあった。
「作れるものは何でも作るのが、価値観というかやり方なんですよ。それでどういった用向きでこちらに?」
「そうであった。娘のグレイフィアの状態を診てもらいたいのだ」
そういうとケルトと同じように外套を深く被った女性がケルトの前に立ち、その外套を外す。そこにはどの宝石よりも輝きを放っていたであろう少女がいた。だが、その顔は病魔に犯されているせいか顔色が悪く儚い少女といった印象を受ける。
「グレイフィア・フォン・シンシェルベアです……」
今にも倒れなそうなその少女をこれ以上立たせるのはまずいと感じたケルトは病室代わりに使っている部屋に案内し、そこへ寝かせた。
「すみません、ケルト・シエルハイム様」
「どうして、名前を?」
その問いに対し、王が説明した。何でも治癒術師として王都ではそれなりに噂になっているそうだ。
「ま、治癒術師ではありませんが。彼女の病気なら治せそうです……それとここまでくるのにかなり時間を掛けたはずですよね。でしたら、彼女の担当医が一緒にいるはずですが」
そう言われ、一人の近衛騎士が名乗りをあげる。
「わたしっす。グレイフィア様直属で、ルルリア・キルフィールドって言うっす。一応、一等治癒師で王宮治癒騎士でもあるっす」
「そうですか、王女様を治すのは問題ありませんが……」
「それは真か!」
「ええ、一時的とは付きますが治すのは一瞬で出来ます。ただその状態を維持するには長期的に治療しないといけない状態になっています。自分はこの場所を離れるつもりはありませんし、王女様に往復していただくのも大変でしょう。それに王女様に留まっていただくにもここでは満足にもてなすことも出来ません。それで、初期の治療は自分が担当します。それを完全完治まで支える必要がありますので、ルルリアさんに手伝ってほしいのです」
「わたしは構わないっすよ。グレイフィア様には大変よくしてもらったっすから。わたしに出来ることならなんでもするっす」
それを聞いて何かを決意したようにため息を漏らす。
「では、術式に入りますので。大変申し訳ありませんが、ルルリアさん以外はこの部屋に入らないようにお願いします。では、ルルリアさんは手伝ってください」
部屋中に呪符を張り、呪符を織り込んだ縄で儀式用の祭壇を作る。
「治癒とは違うっす」
「俺は錬金術師ですので。病魔の原因だけを分解し、破壊します」
「理屈はわからないっすけど。手伝うっす」
そういって術式を開始した。
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