不死の樹海と人間たち。その一
早く、次の休み来いと思う木偶の坊です。
この森に足を入れてから既に半日が立っていた。森に入る前は日が差していたというのに闇よりも深い黒い場所を進む。木々の隙間から僅かに見えた月から今は夜になっていることがわかる。
けれど、その月の色は紅蓮の炎を思わせるかのような紅に染まっている。それが示す意味は【夜】が始まっていることだろう。
昔、冒険者の先輩から聞いたことがあった。【夜】の間は魔獣の強さが倍以上になり、素材の質がかなり上がるのだという。
段階を飛ばして強くなりたい少年には都合が良かった。それに倍以上の強さになっても倒せるという自負があった。
だが、それを傍かた見れば無謀にしか見えない。【夜】の間ギルドでは狩りを禁止しているわけではないが、それでも討伐系にしろ採取系にしろ推奨ランクが数段上がるのが常識だ。
それにデメリットだけではない。メリットで言えば、魔法使いは魔力の回復が早まるし、戦士で言えば肉体の修復速度が早まる上に適度の負荷が掛けられるので修行にはちょどいい。
今、必死で森を駆け回っている少年が知っていたのはメリットだけだ。デメリットも聞いていたはずなのに少年の頭からはきれいさっぱり忘れていた。
「……足が重い。剣も折れた……」
所詮安物だと呟きながら、足を緩めることなく走る。
☆
「誰もいねぇな」
戦士風の長身の男は村の離れにあ民家に勝手に入りながら、そんなことを言った。もしこれが勇者であれば許されているに違いない。幼女はそんなことを考えながら男の後に続いて部屋の中に入る。
「辛気臭ぇ部屋だな。でっけぇ竈もあるし……何度見ても魔女の館って感じだな」
「錬金術師の始祖は高名な魔女だったと言いますわ、伝統があって素敵ではありませんの?それよりもケル様のことヴァルキリーたちに任せたままでよろしいので?」
「かまわん、どうせエルフの姉ちゃんが一緒なんだ。問題ねぇだろ」
「それもそうですわ」
長身の男、アルヴィンは地下にある酒蔵を漁りながら、相棒の幼女・フラムに酒のつまみになりそうなものを探すように言った。
「ケル様に怒られますわよ、アルヴィン」
「問題ねぇよ。あの野郎、普段あんま飲まないくせにいい酒揃えやがって」
それを聞いたフラムは呆れた口調で、
「アルヴィンはもう少し大人になった方がいいと思いますわ、八つ当たりなんてみっともない」
「……や、八つ当たりじゃねぇし。これはいつも気取ってるアイツへの報復だ!」
「意味変わりませんし、みっともないことにも変わりありませんわね」
精神的に攻撃を受けたアルヴィンはとぼとぼと酒を探すのだった。
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