新人冒険者と見習い錬金術師。その五
もうすぐ、今年も終わりですね。
寒くもなってきましたし。
川に向かったメルはアルがいたであろう形跡、それどころか人がいたという形跡をその川では見つけることが出来なかった。予想が付いていたこととはいえ、向こう岸に視線を移すと深い森が広がっている。どこまでも続くと噂される森は迷い込んだら最後出てくることが出来ないという伝承がある。
それでも森に入らなければいけないと息を呑み込んだ。身体中から流れ出る嫌な汗を拭いながら森への一歩を踏み出す。しかしたったの一歩踏み入れただけで息が苦しくなる。眩暈が、頭痛が。身体が重くなる。
メルはこの感覚を知っている。
これは【陣地】だ。この不死の樹海という領域を支配しているモノが発する【陣地】。その主から最終警告だろう。
これ以上進めばただではすまないと。【陣地】を崩す訓練を受けたとはいえ、これは全く意味がなさそうだ。
予想以上の【陣地】の強さに怯えたメルがその場で立ち尽くしていると、後ろからティアの声が聞こえた。
「……どうして?」
「友達をおいかけるのに、準備しないとね。それにお兄ちゃんが心配だし」
メルを追い掛けてきたティアはメルに耳飾りを渡した。
「これは?」
「お守りだよ。村の人たちは森に入っても大丈夫だけど、他の人が入るとみんな竦んじゃうってケルトお兄ちゃんが言ってた。【じんち】っていうのがこの森にはあるらしいよ」
ティアは先に森の中へ進むがどうやら【陣地】の影響を受けていないようだ。メルはティアから受け取った耳飾りを耳に着け、ティアの後を追って森に入ると不思議と【陣地】の影響を受けなかった。
「ね、大丈夫だったでしょ」
自分はまだまだだなと思うメルだった。
☆
ガルムの街がある方角から四人の人影がケルトの住む村へと向かっていた。左から、エルフ、痴女、格闘家風の男、そして幼女だ。真ん中の二人は何か言い争っているようだが、他の二人は止める気配はないようだ。
「何で、ヴァルキリーが付いてきてんだよ」
「……こっちの台詞だ、アルヴィン」
両端を歩いている二人は呆れてため息を漏らす。
一体何度目の会話なのだろうと。ガルム街から約半日。中央の二人はずっとこの調子で会話を続けている。同じことを言って───言い続けているのだからきっと二人は仲がいいのだろう。そうに違いない。
いい加減飽きてきた両端の二人は歩行速度をやや早める。
「申し訳ありませんわ、シンリー様」
「フラム、わたしの方こそすみません、うちの団長がこんなで。あと様はいりませんよ」
「それはいけませんわ、エルフの中のエルフであるシンリー様を呼び捨ては出来ませんわ。わたくしの矜持がそれを許しませんわ」
そう言って幼女の割には発育の良い胸を張る。シンリーにも勝っているそれに一瞬視線を向けるが、自己嫌悪に陥りそうだったのですぐに視界にいれないようにした。
シンリーがちょっとした敗北感を覚えている幼女、フラム・フル・フルフルートは冒険者であると同時に公爵令嬢であったりもする。
昔、フラムを様付けで呼んでいたことがあったのだが嫌がられて今は呼び捨てという形で呼んでいる。
けれど、自分はよくて相手はだめだというのはどうなのだろう。そんなところが公爵令嬢っぽいと感じるシンリーだった。
シンリーがフラムと会話を楽しんでいると目的地の方から、誰かが走ってくる。
「あれは……確か、シエルハイムが世話になっていた」
「リック様ですわ。……どうしたのでしょう、顔色が悪そうですわ」
シンリーは声が届く範囲までリックが来るのを待つと、リックに向かって話しかけた。
「リックさん、大丈夫ですか?」
「っ!ちょうど良かった、あんたに用事があったんだ」
「わたしに?」
「ケルト君が、森に行った。これを伝えればいいということだったが……意味は分かったか?」
シンリーは深く息を吸い込み、それをゆっくりと吐き出す。
「大丈夫です、伝わりました。シエルハイムも無茶をします。森が苦手だというのに……それも不死の樹海」
「急がないといけませんわ、ケル様が迷子になってしまいますわ!!」
流石にそれはないだろうとシンリーは思ったが、それでも急がないといけないというのには同感だった。
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