閑話 五年前の錬金術師。その二
今回はちょっと長め。
幾人もの男たちがまだ日が昇る前だというのに、汗水垂らしながら文句一つ言わずに木材を運んでいる。男たちに若いという印象は受けず、かと言って年老いているというわけでもない。働き始めて風格が染みついてきた屈強な男たちだ。
そんな男たちに紛れるように一人怪しげな男がいた。男と判断するのは少し早計かもしれないが、背格好から察するに男でいいはずだ。背丈の高い女性はそれ程珍しいわけでもないが、女性にしてはやや肩幅が広い。正確なシルエットは纏っている外套のせいで判断は出来ないが、間違いないはずだ。
日差しがまだ出ていないとはいえ、丸太を何往復も運んでいるのだ。あの姿は暑くないのだろうか。
他の男たちは上半身裸になってまで作業しているというのに。そのせいで余計に目立っていることは言わずとも分かろう。
さてさて、この男たちが何をしているかと言えば、小屋にしては大きい気がするが、だからと言って屋敷と言われると小さい気がするそう言った建物を建築中。
要するに普通の家だ。一人で暮らすには広かろうが、家族で暮らすには少し窮屈くらいの。
何故、こんなことになっているのかというとそれは数日前まで遡る。
☆
数カ月ほど前にこの村に一人の男が増えた。とは言ってもほんの数日前までは噂に過ぎない程度のことだったのだが、その男はふわりと現れた。
最初はみな、怪しいやつだと警戒していたが男の隣には楽しそうな少女の姿を見つけ、その少女がこの村一番の狩人リックの子供だということが分かった。
「お前さん、一体誰さね?」
村人の一人が男に尋ねた。
「こんな姿ですみません。俺はケルトっていいます」
物腰の柔らかい男の声は若く、その印象から好青年といった感じだった。まるで大商人や貴族を思わせる上品な言葉遣いに唖然とする村人たち。
「そうかい。あんさんが噂になっとる……男ってわけさね」
「そんちょうさん、おはようございます」
ケルトと名乗った男の隣で、少女が挨拶をする。ケルトに話しかけてきた人物はどうやらこの村の村長だったようで、ケルトは気まずそうな顔をする。
「おはようさん、ティアちゃん」
「あなたが村長でしたか、ちょうどよかった。少しお話、よろしいですか?」
「かまいやせんよ。あたしゃあ、どうせ暇さね」
村長は二人にそう言うと、付いてくるよう付け加えた。
「ここがこの老いぼれの家さね……ケルトと言ったかい?」
「はい」
「丁寧に話す必要なんてないさね」
「年長者は敬うものですから」
フードで顔を隠しているせいで表情を窺うことが出来ない。
「そりゃあ、この老いぼれに言っておるのかえ?」
「……俺自身のことですよ」
それを聞いた村長さんは年に似合わず、豪快に笑う。
「バカ言っちゃいけないよ。お前さん、エルフさね」
「そんちょうさん、おしい」
ティアは楽しそう笑う。ティアの言葉に合わせるようにケルトはフードを外す。
「こりゃあ、驚いたねぇ。ダークエルフだったのかい?」
「その割には、あまり驚いていないようですね」
「この歳まで生きてりゃあ、驚くことなんて山ほどあるさね。お前さんの方が随分と長く生きているんじゃないかえ?」
「お兄ちゃんっておじいちゃんなの?」
「どうだろうね?それで村長、本題何ですが」
ケルトは今までのことと、どうして村長を訪ねてきたのかその経緯を村長のペースに合わせながら、ゆっくりと話した。
ゆっくりと話していたせいか、ティアの頭がこくり、こくりと睡魔と闘争を広げていた。それを見たケルトは微笑みながらティアが机に頭をぶつけてしまわないように膝枕をしてあげる。
「随分、懐いておる」
「人懐っこいですから、ティアはいい子ですよ」
「そうさね。お前さんの提案は全く問題はないさね、ただ、良ければ皆のケガを診てやってくれんか?」
☆
「坊主!!次は何を運んだらいい?」
「それはこちらに」
村長の提案通り、数日掛けて村で病に侵されている者や昔の怪我の後遺症に苦しんでいるものを次々に治療した。村人はそのお礼に家の建築を手伝ってくれている。
建築と言っても村人は丸太を言われた場所に持っていて、指定された場所へ置くと丸太はすぐさま解体され、建築に使うにはちょうどいい角材などへ変化する。
あとは力のない人たちがその角材を指定の場所に運ぶだけでいいので、日が昇る頃には子供たちも交じって材料を運んでいた。
「こりゃあ、たまげた」
日差しがちょうど真上から差し込む頃にはほとんど、完成しておりあとは細かい家具なんか設置していけば家が出来上がるところだった。
「みなさん、後は俺一人でもできますので休んでいてください」
「坊主、もっと頼ってもいいんだよ。村の奴らはみんなそう思ってる……それに難しいところはみんな坊主がやってんだ。いちいち気にしなくていいぜ。やるぞ!!野郎ども」
村の男どもは一斉に奇声をあげると最後の作業に嬉々として取り組んだ。それからまもなくしてケルト・シエルハイムの家が出来上がった。
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