↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/15

第9話:喉まで届いた告白

第9話:喉まで届いた告白


 エレナと近衛騎士が温室で想いを確かめ合ってから、いくつもの話し合いが重ねられた。


 アルヴィンはエレナの父である公爵に、婚約解消を願い出た。王家にとっても公爵家にとっても大切な縁談だったため、簡単には決まらなかった。それでも、エレナ自身の望みと、騎士のこれまでの働きが認められ、やがて両家は婚約解消に合意する。騎士とエレナの婚約も、彼が遠征から戻り、功績を立てたのちに正式に認められる見通しとなった。


 城には祝福の声が広がった。


 エレナはミリアを抱きしめ、「あなたがいてくれたから、勇気を出せたの」と礼を言った。ミリアは彼女の胸元で喉を鳴らす。エレナの笑顔には、もう温室で見た涙の影はなかった。


 その笑顔を見て、ミリアも心から嬉しかった。


 エレナの願いが叶い、騎士の想いも届いた。二人には、これから一緒に歩いていく未来がある。


 ――よかった。


 そう思うのに、祝いの席が終わってアルヴィンと二人きりになると、ミリアの胸には寂しさが戻ってきた。


 その夜、アルヴィンはミリアを連れてバルコニーへ出た。空には星がいくつも瞬いている。庭園の木々は夜風に揺れ、遠くの噴水が静かな音を立てていた。


「今夜は、みんな嬉しそうだったな」


 アルヴィンは手すりにもたれ、腕の中のミリアを見つめた。


「エレナ嬢も、騎士殿も。二人が望む道を歩けることになって、本当によかった」


 ミリアは小さく鳴いた。彼女もそう思っている。けれど、アルヴィンの声がわずかに寂しそうに聞こえたのは、気のせいだろうか。


 アルヴィンはミリアをそっと抱き直し、星空を見上げた。


「君は、誰かの幸せを願える子だな。言葉は話せないのに、いつも僕の気持ちを分かってくれる」


 ミリアは彼の胸元に頬を寄せる。鼓動が耳に伝わってきた。


 しばらく、二人は黙って星を見ていた。アルヴィンの指が、ミリアの背をゆっくり撫でる。毛並みを整えるような優しい手つきだった。


「君がいなくなったら、僕はどれほど寂しいだろう」


 その言葉に、ミリアは顔を上げた。


 アルヴィンは、彼女の青い瞳を見つめている。


「君の瞳も、仕草も、僕を見上げる顔も……。書斎で眠っているときも、失敗してリボンに絡まったときも、君がそばにいるだけで、毎日が明るくなる」


 彼は苦笑した。まるで、自分の気持ちをどう扱えばいいのか分からないように。


「こんな話をしても、君には困らせるだけかもしれないな」


 ミリアの胸が大きく鳴った。


 違う。困らない。もっと聞かせてほしい。私もあなたが好きだと、伝えたい。


 ミリアは一生懸命、彼の胸に前足をつき、顔を見上げた。喉が震える。声を出そうとする。けれど、唇からこぼれたのは、かすかな鳴き声だけだった。


「ミリア?」


 アルヴィンは少し驚き、それから彼女の頭を撫でた。


「大丈夫。君は何も言わなくていいんだ」


 彼はミリアを胸に抱きしめる。告白しかけた言葉を、そっと胸の奥へしまい込むように。


 ミリアは彼の服に頬を押しつけ、懸命に喉を鳴らした。どうか伝わって。言葉にならない想いも、あなたを好きだという気持ちも。


 アルヴィンの腕は温かかった。けれど、彼が飲み込んだ言葉は、二人の間に小さな距離を残していた。


 夜空の星は、何も言わずに二人を照らしている。


 ミリアはその胸の中で目を閉じた。彼の想いが喉まで届いていたことを、彼女は確かに感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。