42.魔獣お悩み相談所 ④
◆聖バルゴ学園 リオン視点32
「ルチアに手を出すなんて悪手ですよ。シリウスに嫌われるだけです。それに、ルチアが暴れれば一番最初に被害に遭うのはシリウスですが、まさか考えて無かった…とか、仰いますか?」
廊下の角の向こうから、テル-の声が聞こえる。凛としてよく響く声だ。
「(コソッ)そろそろ止めに行くか?」
「(コソッ)アレク生徒会長の初仕事だな」
学園外で起こった出来事とはいえ、リブラリア王国から贈られた光竜に薬を盛って暴れさそうなど…国際問題に成りかねない案件だぞ!
「お手を煩わせてすみません。先に私が行きます」
責任を感じているシリウスが先に歩き出した。
「わたくし!何も知らないわっ!たかが魔獣の戯言でわたくしを貶めようとするなんて!なんて酷い人なのかしらっ‼ この事はマンティス伯爵家より、正式に抗議させて頂きます!」
「義姉上を愚弄なさるとは…酷いのはいったいどちらなのでしょうね」
いつも温和で礼儀正しいシリウスにしては、冷めた声音だった。怒っているのだろう。当然だ・・・
「‼ シリウス様っ⁉ これは…その」
俺とアレクもシリウスに続いて姿を現した。
「シルビア・マンティス伯爵令嬢。色々調べはついてるよ。大人しく事情聴取を受けて貰おうか」
アレクが令嬢に引導を渡した。もう薬を盛ったあの男も確保してある。【王家の影】もやる時はやるのだ!
「…わたくしは、ただ…シリウス様の婚約者になりたくて…前にお会いした時に、竜に嫌われてしまったから、このままでは無理だと…そう思って・・・」
何て自分本位なんだろうな・・・まったく。
自分の幸せの為なら他者の不幸は省みない。典型的な貴族思考…その家の教育の程度が知れるというものだ。
こんな人間に好かれたシリウスはもう犯罪被害者じゃないのか?
後継を残さねばならない同じ嫡男として、他人事ではないな・・・俺も…ちょっと真剣に考えようか。
「ご自身が良ければ、他はどうでも良いと・・・」
テル-の声で現実に引き戻された。
実際、騎竜自体はそんなに強くは無い。飛ぶ事に特化したため体もスリムで、ブレスを吐いたりもしないし人も食べたりしない。
ルチアが暴れたからといって、被る被害の程度は…建物の損壊や乗り手のシリウスがケガをするぐらい、死人が出る事は無いと思うのだが・・・
大きな問題が別にある。
ジジさんは、光竜の製造過程の事で質問した時『竜たちが幸せなら構わん』と言っていた。
なら、人間の悪意ある行動で【不幸】になったなら、どう思うだろう・・・
「貴方のやった事は、最悪【魔獣と人間の戦争】を引き起こしたかも知れないんですよ‼」
「ひっ‼‼」
そう、きっとジジさんは許さないだろう・・・
騎竜は竜騎士を見捨て、従魔達は主人と契約を破棄、そして魔獣に蹂躙される王都が出来上がったかも知れない。
【マオ】が居なければ、有り得た未来なのだ。
「わたしは魔獣達と話せますから、彼らの心情も分かります!ルチアはとても悲しんでいました!大好きなシリウスの事で、本当に悩んでいたんです!貴方にとっては『魔獣如き』なんでしょうが、魔獣達にもわたし達と同じ感情があるんですよ!仲間が蔑ろにされれば当然怒ります!その怒りの矛先がどこに向くかわかりますよねっ‼」
テル-がマオ目線でブチ切れている。魔王だもんね。そりゃ怒るわ・・・
異世界転生者のマオは、そもそもの感覚がこの世界の貴族達とは違う。良くも悪くも染まっていないのだ。
そういうトコロが、ミリア伯母上によく似ていて好ましいと思っている。そう…好ましいと…。
「わたしがこのスキルを持っているのは、心が通じない種族間の橋渡しをする為だと思ってます!だからこれからも魔獣の事は守っていきます!」
ああ…君が【魔王】で良かった。ジジさんや魔獣達に愛され、関わった人達からも好意的に思われる。
そして俺も・・・きっと、
「うう…」
「では一旦、学園長室に連れていこう。リオン!私は護衛と共に、令嬢を連れて行って学園長に説明してくるから、後は自由にしてくれ!ではな…」
…いきなり学園長室に突撃出来る行動力は、さすが王族で生徒会長だな。
去って行くアレク達を見送って、
「じゃあ、俺たちは帰ろうか。シリウスは竜騎士団に行くんだろう?マ……テル-は馬車できたのか?」
「…今日はちょっと街へ行きたくて、馬車は頼んでいないのです」
なるほど、コカゲの【影移動】を使うつもりだったんだな。市街地はペリステラ伯爵家と学園の中間に位置しているから、能力の高いコカゲなら余裕だろう。馬車を使っているのも御者に仕事を与えるためだろうし・・・
「そうか、俺もいっしょに行っていいか?少し話もしたいから」
「はい!わかりました!では、コカゲ~~」
「あっ!義姉上!」
突然シリウスに声を掛けられ、振り向くテル-・・・
「なんでしょう? あ!そうだ、ルチアには『解決したよ』と教えてあげてくださいね」
満面の笑顔のテル-を見て、シリウスは頬を染めていた。
「あ…は…はい、わかりました。伝えておきます。お気を付けて…」
「はい! ではリオン様、行きましょう!」
シリウスに背を向けたテル-には見えていなかっただろうが、
その背を見つめる瞳に【恋情】が籠っていたのは、鈍い俺でも流石に気が付いた・・・
[おまけ]~鳥だからね~
魔鳥A『ジジ様!魔王様がまたひとつ事件を解決しましたよ』
魔鳥B『見てた見てた!言い負かしてたよ!流石魔王様!サスマオ!』
魔鳥C『え~~~ちょうど見れなかったの!教えて教えて!』
魔鳥A『しょうがないな~え~とね。最初に~・・・』
古代竜「おヌシ等…ピーチクパーチクうるさい…魚が逃げるのじゃ~」
そして相変わらず釣れないジジさんであった。




