17.アナスタシア王女の独り言
◆王宮 国王執務室 アナスタシア・ヴァリオス(13歳)視点1
先日から王太子である兄の姿が見当たりません。三国会議が一か月後に迫っているのに、何処に雲隠れしたのでしょうか。
「お父様。アレクお兄様はどちらにいらっしゃるのですか?」
王である父は執務室で書類仕事に追われていらっしゃいます。その書類に目をやると、王太子案件のモノも見受けられました。消えたお兄様の替わりにこなしておられるのですね。
「……公務で遠方に行かせて」
「ウソですね」
お父様はウソをつく時、ちょっぴり右目を眇めます。気付くのは恐らくお母様とわたくしだけでしょうが。
「はぁ~…実は私も何処にいるかわからん」
お父様の話によると、アエトース公爵家のリオン様が魔法の修行に連れ出したそうで、その行方は【影】すらわからないそうです。
三国会議のエキシビジョンに出る事が決まってから、お兄様はずっと沈んでおられました。
わたくしと違って真面目で優秀な人なので、周囲の期待が大き過ぎて時々心配になりますが、本人は持ち前の明るさと根性で何でも乗り越えようとするのです。
ですが今回の魔法の披露に関しては、埒が明かなかったようで……明るいお兄様の暗い表情を見るのは正直辛い。かといって、わたくしにはどうする事も出来ません。
「ところでお父様…カサンドーラ帝国からわたくしに婚約の打診があったと聞きましたが」
「……あぁ耳が早いな。カサンドーラのグスタフ皇帝から、皇太子のビクトルの嫁に来ないかときたよ」
わたくしより確か五歳年上の方でしたわね…。
「尊敬できるお方でしょうか?」
「ハハッ‼」
わたくしの質問にお父様が笑っています。…ああ…もう理解できましたわ。お父様はカサンドーラ帝国を重要視していませんのね。
「アナスタシア。いや、アナ。私はお前を政略の駒にしようとは考えていないよ」
お父様はわたくしの傍へ来ると、頭を撫でてそう仰いました。
「アレクにせよアナにせよ、国の事を考えてくれるのは嬉しい。けれど、無理をする必要は無いんだ。幸いうちの国には逸材が多いし、日々発展し続けている。それに対して隣国から協力を申し込まれる事はあるが、こちらが媚びを売る必要など無い」
そして最後に、
「君たちの【幸せ】が一番なのだよ」
と、黒くない笑顔を見せてくださいました。
「…ライラ」
王の執務室を出て、自分の部屋へと向かいます。護衛のライラが外で待っていました。
「はい。王女様」
「…モフモフと戯れたい気分ですわ」
「!…フフッ。はい!了解いたしました」
ライラは昔お父様の護衛だったカイゼル卿の次女で、わたくしにとっては護衛であり気の置けないモフ友なのです。
◆カサンドーラ帝国
三国会議を前に、皇帝グスタフは頭を悩ませていた。
「何だこの返答は…腹黒王め。舐めくさりおってからに…」
ヴァリオス王国のアナスタシア王女とビクトルとの婚約の打診をしたのだが、
『子の婚姻は本人の意思にゆだねている。私が決める事では無い。もっとも私の子はどちらも人を見る目があるから、もしもその眼鏡にかなう事が有れば考えてみよう』
腹の黒いステファンならではの言い回しだ。暗にお前の不出来な息子を選ぶ事は無いだろうと言っているのだ。
カサンドーラ帝国は20年程前に少数民族を束ねて出来た【帝国】とは名ばかりの小さな国である。
天候不順に見舞われ、あちこちで問題が起きた為どうしても強固な後ろ盾が欲しいのだ。
ヴァリオス王国にはちょうど王女がいるからと、婚約の打診をしてみたが…
「おのれ…」
ステファンからの手紙をグシャリと握りつぶした。
皇太子のビクトルは頭の良い男では無い。女にもだらしないと噂されている。ステファンからしたら、何の旨味も無い国の最低な男で間違いないのだ。
「伯父様ぁ。だったら、あたくしがヴァリオス王国のアレクセイ王太子を落としてみせますわ♡」
グスタフ皇帝の姪に当たるイザドラ・カリスト公爵令嬢が、玉座に寄りかかる。何かにつけて城を訪れ金の無心をして行く姿は、己の妹に生き写しだとため息が出るグスタフであった。
「やれるものならな…失敗しても儂は無関係だからな」
「あ~ら!そんな事仰って!あとで泣いて感謝する事になりますのに!ウフフ」
イザドラは確かに美女ではあるが性格に難がありすぎて、20歳を迎えても婚約が調わない超問題児なのである。
問題が山積みのカサンドーラ帝国にとって、今度の【三国会議】は正に正念場なのであった。
[おまけ]~可愛いは正義~
ライラ「隣国の皇太子様は18歳だそうですね」
アナ 「そうなのよ…お断り出来そうで良かったわ」
ライラ「王女様は『可愛いもの大好き』ですから年下一択ですもんね♪」
アナ 「しーーーっ!しーーーよっ!」
いつも毅然とした王女の意外な一面である。




