11.ヒロイン(予定)を侍女にしてみた!
◆パルセノス邸 カゲ丸視点11
「みんなおかえり~」
「お疲れ様。楽しかったかい?」
パルセノス侯爵邸に帰ってくると、リカルドとミリアが笑顔で待っていた。
「お…おかえりなさいませ…」
そして、何故か侍女のお仕着せを着たテル-もそこに居たのだ。オドオドとした様子で佇んでいる。
影に沈んだ後パルセノス家まで飛ばされたのか……そんな事が出来るのはオヤジ(カゲロー)だな。
オヤジは前世を持つ魔犬だ。前世はリオンの母エステルの従魔で、消滅する前に一時【聖獣】になった経歴がある。オレ達にもその特殊能力は遺伝されているが、オヤジは桁違いだからな。恐らくリカルドに命令されて、アリサと一緒に見張っていたんだろうな。
「お父様!なぜこの方がお仕着せなど着ていらっしゃいますの?」
うん。そこはオレも気になった。
風呂に入れられたのか、こざっぱりしている。薄汚れていた服では無く、アリサと同じグレーのドレスタイプのワンピース。
意外と似合っているな。てか、こんな容姿だったんだ……。もっとこう儚げな印象だったんだけど、想像していたのと違って【普通】……モブとかで居そう。あ、だから似合ってるのか~ ←失礼
「それよりも、先ず言う事は?ミスティ?」
リカルドは(モブだけど聖人で)基本優しい男だが、子育てに関しては厳しい。リオンの母エステルが【悪役令嬢】にならなかったのは、リカルドの育児の賜物なのだから。
「…うう。目的を偽って行動して…ごめんなさい」
ミスティがシオシオになって謝罪する。既に馬車の中でアリサとハロルドに、チクチクやられてたからな~。
リカルドがミスティの頭をポンポンして、顔を覗き込む。
「うちのお嬢さんは正義感が強くて俺の自慢の娘だよ。けれどウソをついて行動するのはいけない。君はまだ子供なんだから、ちゃんと相談してほしいな。報・連・相だよ。ねっ」
…あれ?お説教、意外と優しいな。ミスティもホッとしてるようだ。
「はい…お父様」
「でもこの後、アリサの【特別指導】は覚悟しろよ。ハハハ」
「ひっ!」
なるほど……ガンバレ…骨は拾ってやる。
まぁまぁ…と笑いながら、ミリアがテル-を連れて来た。
「今日からパルセノスで働いてもらう事になったの。ミスティより二つ年上だそうよ。アリサの代わりを探していたから丁度よかったわ」
テル-はどうやらミスティの侍女として住み込みで働くみたいだ…。
え?【悪役令嬢】の侍女が【ヒロイン】??? え?物語さらに破綻した?
ミスティがテル-を虐める設定なのに……
パルセノス家は高位貴族の中でも、ずば抜けて使用人に手厚くそして優しいのだ。これはリカルドが幼少の時の影響らしい。他家から転職したいという希望も後を絶たない程だ。
そんなパルセノス家で、使用人虐めなど起こるわけ無いだろっ!
「あ…あの!テル-・ミノタリオと申します。16歳です。先程は助けて頂きありがとうございました!」
テル-がミスティの前で勢いよく頭を下げた。淑女ではないな、元平民だしな。
ミスティは目をまん丸にしてたじろいではいるが、
「べ…別に、あの者達に腹が立っただけですわ。それに!助けたのはアリサとカゲローですわ!」
照れたミスティを皆が『かわいい~』と茶化しはじめた。
「はわわ…ツンデレ…尊い…」
その中で【ヒロイン】が小声で呟くのを、オレは確かに耳にした。
◆アエトース邸 リオンの部屋 リオン視点9
「で結局、ヒロインはパルセノス家で保護されたという事か?」
約束通り夕飯前には戻ってきたカゲ丸と合流し、今日の出来事を聞いた。
カゲ丸がミスティとヒロインに接触しに行った事に関しては、薄々感づいていたさ。だってあいつら演技が下手過ぎるからな。一応、伯父上がフォローしてくれるようだったから放置したけれど…まさかパルセノス家で働く事になるとはな。
『ヒロインの名前はテル-だ。リオンと同い年。顔も性格もいたって普通の娘っぽい。良かったな』
何が良いんだ? ああ、【俺のヒロイン】って事でか? まぁ何にせよ普通が一番だとは思うが…
『しばらく様子見て、自分で確認に行くといいぞ。オレ用事出来たから、メシ食ったらちょっと出てくるな~』
と、食事を終えるとさっさと出て行ってしまった。
「…用事ってなんだ?」
◆ミノタリオ男爵家前 カゲ丸視点12
あれから時折この家の様子を伺いに来ている。
近い将来、テル-はリオンの嫁さんになるかも知れないからな。
そうすれば公爵夫人だぞ。そうなったらこの家の奴らが黙ってないだろう。
侯爵家が相手だと知り一旦は食い下がったが、立場が上の公爵夫人になるかも知れないとなれば、必ず接触してくるだろう。始末するか…? 男爵家が無くなったとしても、テル-を何処かの養女にしてしまえば事足りるし… 等々と考えていたら、
「「「ぎぃゃーーーーーーーー!!」」」
突然、男爵夫妻と義姉が飛び出してきた。 なんだ?…家が…揺れている?そして…
《ズドドドーーーーーンッ‼‼‼》
目の前で崩れ落ちる家!そして飛び出してくる大量のデカいネズミたち???いや、あれは魔獣じゃないか?? 森林の河辺に住むビーバーの種族の……何でこんなトコに??
「ワンワン!ワウン!?(おいこら!お前らの仕業かっ!?)」
一匹捕まえて問い詰める。中に人がいたらどうする!と言うと、あの三人以外の人間は居ないとの事だった。侯爵家からの金貨は贅沢に消費したようで、使用人は雇えていなかったみたいだ。
「ワンワン?(何でこんな事したんだ?)」
「ぢゅ~~~!(オジジ様の命令なのれす!)ぢゅ!(でわっ!)」
あ!こら!………いっちまったか。オジジ様?って誰か聞きそびれたな。
驚いて出てきたご近所様や通行人に囲まれて、ミノタリオ男爵家の面々が泣き叫んでいる。
周囲の話を聞いていると、ここ数日男爵家には不可思議な事が多発したらしい。
井戸の水が涸れ、害虫が大量発生し食中毒になり…そしてとうとうこの有様か。
後日、再度様子を伺いに行くと、家のあった場所は更地になっていた。
近所の店で番犬をしている魔犬に聞いた話によると、無一文になった夫妻は離婚して、元夫人と娘は『もう王都はコワイ』と実家のある遠方の領に行ったらしい。
元男爵は借金が有ったが返済の充てもなく、男爵位を返上し鉱山で働く羽目になったとの事。
う~ん。これで一安心って事か?取り敢えず不可思議な現象に感謝しておこうか…な?
[おまけ]~いつもの光景~
アリサ 「よろしいですか?淑女たるもの、物を投げつけるなど言語道断!」
ミスティ「…はい…はい…は…い」
項垂れているミスティ。
テル- 「(コソッ)わたしのせいで…申し訳ないです…」
ハロルド「(コソッ)ああ、いつもの事だから気にしないで」
ミスティ「…はい…はい…は………グゥ…」
アリサ 「お・じょ・う・さ・まーーー!説教中でございますよ!」
ミスティ「!!!ふわぁぁぁ!!ごめんなさいっ!」
説教慣れしたミスティにはお小言も子守唄に聞こえる…のかも知れない




