第13話 リーリャ、出発する
「まあここからは大事な話だ。現状、次の国王はエズラでほぼ確実となっている。大抵の貴族も第一王子派でまとまっていて、そこの譲位は順調に進むだろう。しかし、一部の貴族が第二王子と第五王子に付いているんだ」
「どうしてニャか? 譲位は確実なら……」
「そうだ。王妹室を狙っている。もちろんフィリーにも多くの貴族の後ろ盾があるから、順調ならそのままなのだが、第二王子に権力を持たせたい派閥、一番若い第五王子に権力を持たせて、陰で操りたい貴族。そうした他の派閥の貴族がフィリーを狙っている」
他にも、フィリー自体を操るために、娘を側近にと差し出してくる貴族が増えているらしい。数年前まではそうした貴族は押さえられていたのだが、すでに愛人がいるとわかり、愛人候補になるのを避けるために娘を送るのを避けていた貴族達が、こぞって押し寄せるようになったのだ。
「だからウチに側近を」
「そうだ。こちらでも適切な令嬢を選定しているのだが、どうしても考えが凝った者が多くてな。フィリーにはあわんだろう。だから3人、3人だけでいいから女官、近衛兵に入れるための騎士、魔術師、代官、どんな職についても構わん。将来の王妹の右腕として育ててほしいのだ。どの仕事をさせるかは子供の成長次第だ。特性を見ながら育ててほしい。そして将来フィリーが王妹になった暁には、君とその側近がフィリーを守るのだ」
「5年だと、どこまでできるかわからないニャ」
「承知している。できる限りのことをやってほしい」
「……わかったニャ。全力を尽くすニャ」
そう堅く手を握った国王陛下の表情は先ほどまでとは大きく異なって、意思の決まった堅いものであった。リーリャに託された任務は重い。
「そろそろ出発ね」
「5年以上も離れるニャんて初めてかもしれないニャ……」
翌日の早朝、うっすらと空が明るみ始めた頃にリーリャ達は馬車に乗り込んだ。近衛兵達も連れて行くということもあり相当な大所帯となった今回の旅、王都の大通りや門が混雑する前に街道へ出てしまおうということだ。
昨日の夕方に聖女宿舎を訪れたリーリャは、残念ながら古くからの友人である聖女見習いに会うことはできなかった。それでも町を歩いて、日頃お世話になっていた住民達に挨拶ができた彼女は、晴れやかな表情である。
列の中央付近のひときわ大きな馬車に乗り込むのは、リーリャとフィリーの2人だけ。周辺に護衛となる馬車や騎乗隊がいるものの、有事の際はリーリャがフィリーを守る役目となっている。リーリャは昨日、フィリーの騎士となったのだ。
「これなら快適そうニャね」
「そうね。長期間の移動用に用意したものなのよ」
リーリャ達の馬車は一般的な座席が向かい合っているだけの馬車ではなく、ベッドが付いている寝泊まり可能なものであった。長方形の馬車の前方にひとつ扉が付いていて、扉を開けて目の前には向かい合わせに配置された1人がけソファーが2つ。小さな机が付いていて、食事が取れる程度の幅はある。
馬車の奥側にはベッドが1つ。本来王女様が一人で寝ても狭くないようにと多少広めに作られたベッドは、旅の間はリーリャと2人で使うことになる。通常護衛は一緒に寝ることはないため、そもそも護衛の寝るスペースを考慮に入れていないのだ。
ただ、多少狭いが2人で眠れないほどのサイズではない。
まだ静かな王都は、王女様が馬車で通りを通っているといってもそこまで大きな歓声が上がったりはしない。昼間に通ってしまえば紙吹雪が舞ったり、勝手に民間音楽隊の演奏が始まったり、屋台が出たりとそれはもうお祭り騒ぎになってしまうのだが、早朝なのでそのようなことはない。
カタカタと揺れる馬車の中、早起きで疲れている2人はソファーに座るわけではなく、そのままベッドに横になってゴロゴロとしていた。通常は2人で眠るには狭い。しかし、2人でくっつけばちょうどいいサイズ。常にベタベタとくっついている2人にとって、このベッドは十分な大きさであった。
フィリーはリーリャに後ろから抱かれるようにしてベッドに横になる。そのまましばらくぼーっと馬車の揺れに身を任せていると、少し手持ち無沙汰になってごろんと向きを変える。2人は向かい合わせになって小さく笑い合うと、しばらくしてそのまま眠ってしまった。




