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猫獣人の元聖女、辺境で孤児を鍛えます。  作者: べちてん


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第12話 リーリャ、国王陛下と会う

 コの字型の王宮の2階中央にあるのが執務室で、3階が私室になる。今回向かうのは3階の来客対応用に作られた部屋で、陛下と個人的に仲の良い貴族を招いて話をしたり、著名人を王宮に招くときに使ったりする部屋だ。

 王族同士での会話であれば3階にあるリビング的なくつろぎスペースで会話をすることになるのだろうが、あくまでリーリャは平民であり、特別な役職に就いているわけではない。いわば無職だ。無論、明日以降は役職が付くことになるが。


 しばらくして到着したのは、一般的な扉の付いた見た目は普通の部屋。3階以上は基本的に王家のプライベートスペースになるので、特別飾るなどはしない。少し豪華な屋敷程度の扉の前には2人の侍従が立っていて、リーリャ達をここまで連れてきた執事が声を掛けると、3回扉をノックした後、2人の内の1人がゆっくりと扉を開いた。

 大きな黒いソファーがローテーブルを挟んで対になるようにして並んでいる内装は、一般的な来客対応ができる部屋という感じで、特別面白いものでもない。しかし、その右手側に座っているのは、国王陛下と王太子殿下であった。


「フィリーとリーリャ、よく来たね」

「お初にお目に掛かります。リーリャです」


 リーリャには姓も肩書きもない。ドレスに手を当てて礼をすると、促されるようにして右手側のソファーに座った。

 リーリャ側からみて右手側にいるのが国王陛下であるドゼルヴェン国王陛下だ。左手側にいるのがエズラ・オード・カルシュタイン王太子殿下。国王陛下は少し痩せ気味で、立派なひげを持った気の弱そうな見た目をしている。すでに髪は白く染まり、少し疲れたような表情だ。しかし彼の治世は安定しているため、見た目ほど無能ではないはずだ。

 横にいる王太子殿下は武勇に優れた令嬢人気の高いイケメン王子で、非常に頼もしそうに見える。実際有能で、すでに国王陛下のサポートをしながら譲位の準備を早い内から行っているそうだ。


「リーリャ、今回は君を巻き込んでしまって悪かったね。俺は別に猫アレルギーなんかではない。一度君を辺境へ送り出してしまったら、当分の間教会が自由に動かせる聖女が一人減る。送らないにしても第一王女の寵愛を受けている聖女は扱いにくい。それに将来の権力者たる第一王女から敵視される可能性がある。そもそも純潔を守れていない聖女を聖女としていても良いのか」

「失礼な。リーリャは純潔を守っていますわ。私には付いていませんもの」

「そうか。ならそういうことにしておこう。話を戻すぞ。これらの問題を解決する方法があるんだ。それは君を教会から追い出して、空いた枠に新しく聖女を置くこと。それならば君一人の犠牲で済むだろう」


 悪かったとは思っているが、君にとって必ずしも悪いことではないだろう。と彼は言う。その通りだった。もし教会に残っていれば、リーリャとフィリーは分かれることになった。今後の政局の安定のためにもフィリーは辺境へと行く必要がある。辺境に会いに行くために通うなんて言うことはできなかったわけで、リーリャはフィリーのいない5年間を耐えきれる気がしない。

 もしシスターが言っていたとおりにリーリャが辞職という形になっているのであれば、聖女がその仕事を辞してまでついて行った徳の高い王女様ということになり、フィリーの格は上がる。そして彼女の領地は安定する。領地が安定すれば彼女の評価は上がり、王国の食糧も安定する。

 結果として、この形が最適解であった。頭の回る国の調整担当と教会の頭脳はそれぞれでそう結論を付け、結果としてこのような形に落ち着く。教会は今や顔にもなりつつある有望な聖女を失ったが、今後王国東部の農業地帯はリーリャが教会とは関係ないところで回っていく。教会の負担は軽減となる。


「それにしても、まさか獣人の子をだとは思っていなかった」


 そう少し口角を上げながら陛下はリーリャを見つめる。にゃはは……と気まずそうに笑うリーリャに陛下はひとつ問いかけをした。


「リーリャ君、フィリーのどこが好きかな?」

「ふむ、それは俺も気になるな」

「そうニャね……、たくさんありますニャが――








「うんうん、君にならワシらの大切なフィリーを任せられるわい。安心じゃねぇ……」


 娘馬鹿と妹馬鹿はそううれしそうに笑う。歯を見せて笑うのはマナーが悪いとされているが、プライベートな状況においてはそんなに気にはされないらしい。30分以上にわたり勝手に自身の話で盛り上がられたフィリーは恥ずかしそうに頬を赤く染めてうつむいていた。


「それで、夜のフィリーはどうなんじゃね?」

「おお陛下、聞きたいかニャ?」

「ちょ、ちょっと、おやめくださいお父上! リーリャも乗らないでよっ!」


 膝の上にのせていた手を机にたたきつけると、紅茶の入ったカップが少しはねたように見える。耳まで真っ赤に染めたフィリーをみて、エロ親父とその息子はそれはもう愉快そうだ。


「フィリーはな、俺らにとって待望の妹で、父上にとっても念願の娘なんだ。君は武術、剣術にも優れていると聞いているが」

「そうニャ。聖女時代からよく近衛兵と一緒に訓練をしていたニャよ。猫獣人の特性で夜目も利くニャし、身軽ニャね」

「そうかそうか。ならばリーリャ君、君をフィリーの騎士に任命しようじゃあないか」

「お父上! そんな勝手にっ」

「にゃは~っ! 謹んでお受けいたしますニャ」

「リーリャ……」


 そうこめかみを押さえるフィリーの嘆きが聞こえているものはいない。


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