第10話 リーリャと子供達
「いつも寄付をありがとうねぇ」
「子供達はお腹をすかせていニャいか?」
「大丈夫よ。補助金も増えて、こうしてあなたが食料品を持ってきてくれますから」
授業が休憩時間に入り、子供達が率先して物資を室内に運んでくれる。これは何、あれは何と楽しそうに会話する彼らを見ると元気が出る。
「でもしばらくこれないんだニャ」
「何も気にする必要はないですよ。今まであなたのお陰で貯蓄をする余裕がありました。ここからはババアの腕の見せ所だね」
このおばあさんならなんとかなる、そう確信できる。
「リーリャお姉ちゃんもう来ないの?」
話を聞いていた子供がこちらにやって来ては裾を引っ張る。リーリャはしゃがみ込んで子供達に目線を合わせると、優しく微笑んだ。
「そうニャ。しばらくオストリアに行くんだニャ」
「どこそこ~?」
「そうだニャあ……、すごく遠いところニャね」
そう小さい女の子の頭を撫でると、寂しそうに目を潤ませた。
「ウチには大切な人がいてね、その人を守るためにオストリアに行くんだニャ。だから、みんなもいつか大切な人を守れるように、しっかり勉強するんだニャあ」
「私、聖女になりたい、私もお姉ちゃんみたいにたくさんの人を守りたい」
「そうニャねぇ……、なら頑張って勉強しニャいとニャね」
うんっ、と大きく頷く子供の頭を優しく撫でる。聖女は努力だけでなれるものではない。魔力量は後天的に増やすことはできているとされているが、どこまで増やせるかは先天的に決められているものであるし、そもそも聖魔法が使える人は少ない。まず聖魔法の適性がなければ後から訓練で使えるようになることはない。
この子が聖女になれる確率は低い。しかし、この子の夢を応援しなくてはいけない。それが自らの仕事だと、リーリャは思う。
「シスターキャサリン、ウチはこれから頑張るニャ。ウチも立派な弟子を育てるニャよ」
「ええ、あなたならできるわ」
「いつか王都に戻ってきたら、また顔を出すニャ」
「そのときにはくたばってるかもしれないねぇ」
「少し、歩いて帰ってもいいかニャあ」
しばらく孤児院の子供達と会話をして、庭で遊んで、他のシスターの人たちに挨拶をしてしばらくこられないことを伝えた。まだ日はわずかに傾いていて、孤児院はそろそろ昼食の時間だ。リーリャは今日昼食抜きの予定なので、匂いでお腹がすく前に退散することとなった。
「そうですね……。国王陛下との面会がお昼すぎからですので、散歩は面会後になさった方がいいかと。もうあまり時間がありませんので」
「そうニャか……。なら仕方ないニャね」
最後にこの周りの景色を見ておきたいと思ったのだが、それは叶わないらしい。これから私はどうなるのだろう。不安もあるが期待もある。そんな複雑な気持ちを抱えながらリーリャは馬車へと乗り込んだ。
馬車に付いている小窓のカーテンを開けて、見えなくなるまで手を振る子供達とシスターに手を振り続けた。子供達の未来に幸多からんことを祈って。
「少し遅かったわね」
「ごめんニャ」
離宮について案内された部屋に入ると、複数人の侍女に囲まれてフィリーがメイクをされていた。部屋に入ってすぐ私も多くの侍女やメイドに囲まれると、そのまま浴室まで抱えられるようにして移動させられた。
そこで身ぐるみを剥がされると、あれやこれやと体を洗われ、そのまま湯船に付けられた。普段自分では洗わないような細かいところまでそれはもう丁寧に洗われてしまい、リーリャは多少の精神的疲労を抱えた。
「フィリーはいつも大変ニャねぇ……」
「リーリャ様も慣れていただかなければ。いずれはこれが日常になるかもしれませんよ」
「ウチは一人でお風呂に入るニャあ……」
こうやって他人に体を洗われると、恥ずかしいを通り越して虚無を感じるのだなと知ったリーリャは、ぶくぶくと湯船に口元を付けた。
「リーリャ様はフェリシア殿下と違ってお胸が大きいですね」
「ひぇっ?! こ、この変態侍女めっ」
コップに入った水を差し出しながらそう言ってくるトレイシーを軽く睨み付けると、彼女はほほほと優雅に笑う。体を洗われるときに妙に入念に触られると思ったら揉まれていたのか、と気がついた。第一王女の側近達はこうして王女様にも軽口を叩いているのだろう。もちろん公の場ではしっかりしている人たちで、フィリーの信頼を得ているからこその風通しの良さなのだろうと思う。
この離宮にいる人がフィリーの悪口を言っているところを一切聞いたことはない。もちろん軽口を叩いているところを聞いたことはあるし、嫌みを言っているところを聞いたことはある。ただ、いずれも冗談の範囲内で、すぐにフィリーをフォローする言葉が続くのだ。
彼女は尊敬されている。そして、彼女を好いている人たちが集まっているのだろう。リーリャにとってこういう環境はとても居心地のいいものであった。




