23.印の役目
「おはよーございま~す。……うーん。起きないねぇ?」
眠らせた生徒たちを一か所に集め、印らしき札を回収してからマイが声をかけているが、一向に起きる気配がない。捕まえたのは男性2、女性1の全部で3人。頬を叩いても起きないところを見るに、想像以上に深く眠っているようだ。それを見たシロナが未だペチペチと頬を叩いて起こしているマイの腕をそっと止めた。
「…魔法で眠らせたのだから、起きなくて当然。」
「あっ。それもそうだねぇ。うちの生徒って、なんでか知らないけど状態異常系の魔法の効き悪いから忘れてた。えー、ん゛ん〖おはようございます〗」
改めて魔法で寝かした3人を魔法で起こす。どう考えても詠唱がおかしかったが、マイに魔法の事についてあれこれつっこんでも、時間の無駄であることは学んだので、あえてスルーをする。因みに、シロナは今の詠唱を聞いて絶句している。表情変化が乏しいから分かりにくいが、あれは絶対にそうだろう。
それよりも学院の生徒にそういった魔法が効きずらいのは、対策用の魔法を使っているか、魔道具を身に着けている生徒が大半だからではないだろうか。学院ではいつ、何が始まってもいいように、ほとんどの生徒が常にある程度の対策を講じて居る。それと通常の、同年代の繋がりを主に置いた学園の生徒を一緒にするべきではないだろう。…いや待て、何で効きにくいことを知ってるんだ?もしかして、試したのか?
「…う゛、——ここ、は?」
「い゛っ、つーーー!!」
「…え?」
恐ろしい事実に気づきかけた時、眠っていた生徒が起き始める。三者三様の反応を見せつつ、だんだんと意識の覚醒に伴い自分たちの置かれている状況が理解できてきたようだ。その後3人とも慌てたように自身の持ち物を確認している。なので、試しに、先ほど眠っている間に拝借した札の形をした印であろうものを掲げながら質問をしてみる。…もちろん奪い返されないように、細心の注意を払いながら。
「そこのお三方。お探しなのは、この札かな?」
「そ、それ!」
どうやら当たりだったようだ。サーっと顔色を悪くして、驚愕の…いや、焦りの表情を見せている。
「か、返していただけないでしょうか?」
すると、1人の男子が印の返却を求めてくる。
下手に話しかけてくるのは恐らく僕が貴族だと気付いたからだろう。…爵位がばれると少々厄介なんだが、この様子だとまだ気づかれていないと思われる。思い出される前に、なぜ返してほしいのかと聞いてみることにした。
「僕たちはそれがないとこの山にある危険から身を守れないと、先生から言われています。それが手元にあるうちは、この山の中ならたとえ崖から飛び降りても無傷でいられると。逆にそれがないと最悪死んでしまうとも。ですので、返していただけないととても困るのです。」
相手の返答を聞き、思わず顔をしかめる。面倒なことになったな…。この印が無いと、僕たちは試験で成果を残せない。しかし、向こうは向こうでこれがないと常に身を危険にさらすこととなる。…よくできた試験だな。
恐らく、このためにわざわざ学園の生徒に助力を頼んだのだろう。そこそこ優秀な生徒が集まるが、学院ほど実力主義ではない世界で過ごす彼らを。
「どうしよっか。ここは他よりマシな地形とはいえ、流石になにも対策なしじゃ危なすぎるよね~。」
「?離れたところで戦えば問題ない。今回価値があるのは印であって、生徒ではないはず。」
シロナの言い方に久しぶりにイラッとする。
「戦闘が激化してきたら、離れたところにも被害が及ぶかもしれないだろ。」
「うんうん。そうだね~、相手がうちの生徒なら、自己防衛よろしくね~って放置決め込むんだけど、流石に学園の子たちをポイっとするのはよくないんじゃないかな~。あの先生たちのことだし、そこら辺の罠が無いことも否定しきれないでしょ?」
こちらの意見には全く反応を見せなかったが、マイの意見には納得したようだ。釈然としないが、掘り返しても良いことは無いので話を進める。
「………なら、保護魔法を掛け続ける。」
「難しいこと言わないで??流石の私も戦闘と同時並行で魔法をかけ続けるのは無理があるからね?」
思ったより力ずくな案にマイが即座に却下する。シロナは最初から案が通るとは思っていなかったのか、他にもいくつかの案を提示してきた。ギリギリまで印を持っててもらう案、近場に身を隠す案、奪われることを前提に他チームから奪っていく案など他にもいくつか挙げられた。
今回は近場で身を隠す方と、他チームに奪われないよう、こっそりと印を手に入れる方に分かれて行動することに。
そしてそれぞれを『籠城班』と『宝探し班』(命名マイ)と呼ぶことになった。
僕は宝探し班。…班と言いつつ、単独行動だ。
さて、隠密行動頑張るか。
――試験終了まで残り:2時間50分
いつもありがとうございます。
今後、「印」のことを「札」と呼ぶことがありますが、形状が札の形をしているためです。将来的に読み返して分かりにくいと思った時には修正をいれます。




