21.宝探し
雨の多い梅雨の季節。
今日は久々に雨が止んだな、などと現実逃避をしてみる。
周囲を見渡せば、目に入るのは木、木、木。
6月も半ばのある日、僕たちは、説明もなくいきなり山に連れてこられた。今はその山道を歩かされている所だ。
山は連日の雨でぬかるみ、歩きずらいいうえ、木々が生い茂り鬱蒼としている。ずっと登り坂なのもあり、息を切らしている生徒も散見する。
唯一の救いは、この山に魔物がいないことだ。この事だけは唯一、教えてもらっている。おそらくは、試験などで使うために管理している山なのだろう。
「うーん、そこそこ広いね〜。高さはめちゃ高いってわけじゃなさそうかな〜?」
マイは少し浮きながら、周囲を見回している。マイが移動に浮遊魔法を使うのはいつものことなので、特に驚きはしない。ただ、それと同時に探索魔法も使って周囲を確認しているようで、魔力切れにならないか心配になる。
他にも魔法に優れた生徒はいるが、そういう生徒は基本、インドアな人が多い。なので回復魔法を使いつつ、体力と魔力を温存しているようだ。
マイも温存気味に動いてくれると嬉しいんだが…。
「標高は300m以上。直線距離は500m超え。走れば数分の距離。だけど、地面が滑りやすいから転ぶ可能性大。」
一方、シロナは僕と同じく坂道を歩いて移動しているが、一向に疲れの気配を感じない。表情に出ないだけなのか、本当に疲れていないのか判断がつかないが、なにも言わないと言うことは、問題ないということだろう。
「え゛、今の一瞬で山の全体測ったの…?早すぎない?私、この辺魔法使いにくいのも相まって、そこそこ広い場所だな〜。ってこと以外分かんなかったよ?」
どうやらマイは魔法の精度に関しては、シロナに劣っているらしい。そういえば、トレントの依頼の時も、マイが言った数はかなり大まかだったが、シロナが訂正した数は正確で、長老種のことまで見抜いていたな。
「もっと集中すれば分かる。」
「ぐっ、ごもっともで。」
シロナから正論を喰らい、ぐうの音も出ない…いや、ぐうの音は出てたか。とにかく、言い負かされていたマイが、ふとこちらをじーっと見つめたまま不思議そうに首を傾げてくる。
「どうした?」
「いや、なんかユウリはすっごい安定して歩くな〜って思って。」
「まあ、鍛えてるからな?」
体幹もあるし、安定しているように見えるだけだろうと言えば、マイは違う違うと首を横に振る。
「いや、そうじゃなくてさ、なんて言うんだろ…山の中に入ってから一回も足元取られてないよね。シロナとかちょくちょく滑りそうにしてるのに全くそんなの無いな〜って思ったんだよ。」
「…そんなことない。」
自分に飛び火するとは思っていなかったらしく、珍しくシロナが不機嫌そうな顔をしている。と言っても、いつもよりほんの少し、目が細くなっているように見えただけなんだけどな。
マイの疑問に関しては、滑りにくそうな場所を選んで歩いているからだと説明する。しかし、違いなんて見た目では分からないと言われてしまう。いや、分かるだろ。単純に、明らかに滑りそうなところを避ければ良いだけだ。
「そこと、そことそこ。あとあっちも滑る。」
「えー?んー、無理!全部一緒に見えるよ〜、ね?シロナ?」
「ん。色も土の種類も同じに見える。」
実際に滑りそうなところを指しながら歩くが、やはり違いが分からないらしい。そして、指を指している時に気がついたが、滑りそうな所とそれ以外の判別は目視では、殆ど変わりが無かったことに驚きを覚える。しかし、それ以降も僕がぬかるみに足を取られることは一度として無かった。違いはなんだろう。経験の差だろうか。
そのうち諦めたのか、飽きたのか話題も変わり、良い加減、森の景色に飽きてきた頃。突然目の前の景色がガラッと変わる。
「おー、開けた場所に出たね〜。」
目の前には木が全く生えていない手入れされた広場のような場所が出てきた。広場には、既にいくつかのテントが設営されていて、うちの担任はその一角で優雅にくつろいでいた。
「遅かったわね。てっきり全員、ここまで全力ダッシュで来ると思っていたわ。」
ただでさえ足元が悪いのに、どうして全速力で来ると思ったのか。思わずため息をつきそうになる。
「まあいいわ。とりあえず今回の試験について説明するわ。じゃ、よろしく。」
「ああ。」
今回の説明はC組の担任がするようだ。おそらくうちの担任は面倒くさがり、B組の担任だとどこかしら説明に抜けが生じるせいで、説明役が回ってきたんだろうな。
「今回の試験は宝鬼をしてもらう。」
宝鬼というのは、宝探し鬼ごっこの略称のはずだ。平民の間での流行りのため、僕は詳しくないが、鬼ごっこに宝探しの要素を加えたものだったと記憶している。シロナに知っているか聞いてみたが、僕と同じく、あまり知らないらしい。平民で流行っていたというのは、記憶違いだっただろうか?
「宝鬼と言っても今回は通常のルールと異なり、全てのチームが鬼であり、同時に宝探しチームとなる。事前に、この山の中にはお前たちが狙うべき、多くの宝を隠しておいた。その宝を、試験終了時に持っていた数の多さで順位を決める。」
要するに宝探しとは名ばかりの宝争奪戦。他チームから奪い取るのもよし、妨害するもよしの鬼ごっことは?というルールになるようだ。今からでも宝取り合戦に名前を変更するべきだと思う。
「…ただし、通常の宝探しではない。今回の宝は人だ。」
――人?何かの比喩表現か?
「此度、王立学園の1年生のうち、100名に手伝ってもらい、今回の試験の宝となってもらった。宝である学園の生徒には、一人一つ、印を持たせてある。その印を所持しているチームが、宝を保有していることとする。」
どうやら比喩でも冗談でもなく、宝というのは人そのもの、正確には生徒の持っている印が宝となるようだ。
「宝の保有者には、印に記載された生徒を自身のチームメンバーとして扱うことが許される。しかし、もしも他のチームに印を奪われた場合、その生徒の主導権は奪ったチームに移動する。さらに、印を誰にも渡していない学園の生徒には、自由意志が認められており、戦闘に参加すること以外は何をしても良いと伝えてある。」
かなり複雑になってきたが、要するに、一つ。今回宝は意思を持ち、逃げたり隠れたりする。二つ、他チームから宝を奪ってもいい。三つ、手に入れた宝は自身の駒として使っていい。と言ったところだろうか。
「最後に、エリアはこの広場を除いた山全体だ。ここは離脱者の待機スペース兼救護所となるため、試験時ここに立ち入ったものは強制的に、試験離脱者とみなす。もし、怪我などで試験続行不可能になった場合は、各自持たせた魔法石を起動させろ。発動と同時にここに飛んでくるように設計してある。」
学院がそこまで準備するということは、今回の試験も危険度が高そうだ。決して油断をするつもりはないが、改めて気を入れなおす。
「制限時間は試験開始から3時間。試験開始まで30分のインターバルが存在する。それまでに移動と準備を済ませておけ。その間、学園の生徒は印に込められた力によって姿が見えないようになっている。戦闘や故意的な攻撃はインターバル期間は全面禁止とする。」
そこまで説明を終えると、教師は一息ついて右腕を垂直にあげ、大きな文字盤を出現させる。そこには
試験開始まで残り
[30:00]
と表示されていた。あれだけ大きければ、この広場の周辺ならいつでも時間を確認できるだろう。
「では……位置について。」
次の声と同時に空気が変わる。
全員が広場の周囲にある結界ギリギリまで近寄り、極限まで音を殺して合図を待つ。
「用意」
無詠唱で強化魔法を掛けているチームもちらほらいる。広場内の緊張が、極限まで達したように思える。
「……始め!」
ゴッ
開始の合図と同時に爆発音を響かせながら駆け出す。木々を縫うように避けて、狩場へと向かう。
………僕ら3チーム以外は。
いつもありがとうございます。
ここから、少々長めの試験回となります。
やべー奴らばっかりじゃん!となるように頑張ります。




