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無敵の三姫  作者: 猫化猫
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20.後遺症

「お疲れ様。今日はこれでおしまいよ。各自寮に戻って休んでなさ——」

「だ、誰か助けてくれ!!」


6時間に及ぶ持久戦が終わり、会場から退出した生徒ごとに順次解散という説明を受けているとき。見るからにボロボロな状態の男子生徒が、大声で助けを求めながら準備室に転がり込んできた。只事ではない剣幕に、周りに人が集まる。流れに沿って僕も見てみると、そこには、血塗れの女生徒が倒れていた。それを見たほとんどの生徒が驚きと恐怖に飲まれ固まっている。


…なにせ、腰から下が完全に“無くなっている”から。それを認識し、すぐに近くにいたチームメンバーらしき2人に話を聞く。


「何があったんだ?」

「あ…でっかい亀の攻撃が、あたって…!」

「でも、ちょっとだけなんだ!足先が触れただけで!こ、こんな…!」


どうやら、攻撃が当たってこうなってしまったようだ。確かに、あの攻撃は凄まじかったが、まさか足先が触れただけで下半身が吹き飛ぶほどとは…。その後も2人に質問を重ねる。視界の端では、マイとシロナが患者の状態を確認しているのが見える。


「息は?」

「…無いかも。心拍ある?」

「……すごく、弱いけどある。でももう時間の問題。」

「え、この状態で心拍あるの?!じゃあ回復魔法!魔力残ってる分だけでもいいから!」


一連の動きを見て、他にも数人の生徒が我に返り、2人を手伝い始めている。長時間の戦闘後にも関わらず、魔法が得意な生徒を中心に回復魔法をかけ始め、ゆっくりとだが、彼女は元の姿に戻りつつある。一方こちらは他2人への質問も終わったので、自身の魔力をマイに渡しておく。自分で使うより、マイに少しでも長く回復魔法をかけてもらったほうがいいと判断したからだ。

そうして、女生徒が完全に元の姿に戻り、マイが「もう大丈夫。」と言うと周囲から歓喜の声が満ち溢れる。女生徒はチームメンバーによって保健室に運ばれて行く。空気も落ち着いてきたころ、ここまでの流れを後ろで静観していた担任が、拍手しながらようやく声をかけてきた。


「さすがの判断ね。ここで処置せず保健室に連れて行ってたら、道中で息を引き取っていたでしょうね。」


その可能性に気づいていて、なぜ手を貸してくれなかったのか。思わず聞けば、「必要なかったでしょう?」と突き放される。それは結果論だろうと腹が立ったが、ここは学院だ。教師に向かって怒ったところで何かが変わるわけではない。そう自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。


「…帰るか。」

「…そうだね~。流石におなかすいたし帰ろ~。みんなも疲れただろうしさっさと帰りな~?」


やるせなさに、もう帰ろうと声をかけると、思いのほか声が低くなってしまった。だが、今はそんな事を気にしてられるほど、心に余裕はない。マイは気づかなかったのか、いつもの調子で返してきたので、こちらも気付かぬフリをし、もう寮に戻ることにした。ほか生徒たちもその場に留まっていたが、マイの声にゆっくりと解散していく。



次の日。

教室にはある噂が広まっていた。

それは———“昨日大けがをした女生徒が後遺症のため、退学を余儀なくされた”というものだ。その現場を見ていた生徒たちは、あれだけの怪我だったのだから、仕方ないだろうと言っている。実際、僕もそう思っていた。しかし、どうもシロナとマイはそうは思わなかったらしい。放課後に会った時にマイが苦い顔で考え込み、シロナは表情こそ変わらないが、口数が減っているのを見るに、何かを考えているのは確かだ。


「なんかな~。なんか釈然としないんだよね~。」

「なんか、じゃなくてもっと分かるように説明してくれないか?」

「…疲れていたとはいえ、10人弱で治療した。検査の魔法も複数人で使った。確認漏れはほとんどない。だから後遺症は残っても微々たるもののはず。学院で過ごすことに影響を与えると思えない。」


シロナの推測に先ほどまで唸っていたマイがガバッと顔をあげ、首がもげるのではと思うほど頷く。


「そうそう。それだ、違和感の正体。私ね、血管も細胞も骨も筋肉も神経も魔力回路もぜーんぶ完璧に繋がってるのを確認してから送り出したのに、退学するレベルって、私どこか見落としたのかな~?ってなったんだよね。」


しれっととんでもないことを言ったマイだが、確かにそこまで確認したのに、退学をせざる負えない後遺症があったと言われたら、確認した本人が納得いかないのも理解できる。ならば後遺症とはどういうことだろうか。


「まあだから、一番可能性があるのは心の後遺症じゃないかな~。あくまで私目線での話だけど。」


心の後遺症か。確かにありえる話ではある。普通、貴族の子供たちは魔物と接敵することなどほとんどない。命の危険を感じるほどの怪我や、病気を負うこともなく、生活してきた者が殆どだろう。そんな彼らが初めて魔物と戦い、その戦いで死の直前まで追い詰められた場合。ほとんどの生徒の心は折れてしまうのではないだろうか。推測でしかないが、そう考えると辻褄は合う。


「心の後遺症?」


考察していると、シロナから信じられない質問が飛んできて、呆けてしまう。


「うん。前々から思ってたけどシロナってさ、知ってることと知らないことの差が激し過ぎない?」


マイの言葉に全力で肯定の意を示す。賢い事に間違いはないのだろうが、時折知らないことの振り幅がとてつもない。


「…良いけどね〜。簡単に言えば、心の後遺症っていうのはトラウマを言い換えたものっていう認識で良いよ。」

「分かった。」

「えぇ…?言っといてなんだけど、トラウマは分かるんだ…。」


この際だから、今後シロナの物知らずには突っ込まないことにしよう。田舎から出て来た平民が物知らずなことは割とある。知識が偏っているのも読んだ本の内容が偏ったせいなどと言った話も聞いたことがある。…実際どうかは知らないが、そういうことにしておこう。


「にしても、予想外に初退学者はC組から出たね~。」

「彼女はC組の人間だったのか。」

「らしいよ~?友達曰く、Cの3人チームの子みたいで。えーと、確か子爵家のご令嬢だったはず。頭脳明晰で、魔法の腕も、大人顔負けの魔法を幼少期から使ってた天才だって話だったはず。」


聞いたことがあるな。一時期は神童と謳われていたが、発現した能力が平凡だったために評価が“神童”から“魔法の天才”になった人物だったはずだ。

たしか彼女は、どちらかと言えば研究者タイプで、室内で活動することが多い。そのため、今回の長時間戦闘に体がついていかず、こけてしまったところに攻撃が…と言ったところだろうか。


「予想外というのは?」

「あー、それはね。最初の試験とか、演習とか、いろいろタイムが出たでしょ?あれの上位にC組が並んでることが多かったからだね。14チームしかないけど、Cは大体みんな7位とか8位までには入ってて、Cから脱落者が出るときなんて、よっぽどのことがなければ無いだろうって思われてたからだね。」

「それは誰に思われてたんだ?」

「私の友達に。」


マイはどうも友達が多いらしい。

今回のことで分かったことは、退学は案外、他人事ではなさそうということ。これまで以上に気を引き締めていかないといけない。

僕は絶対にこの学院を卒業しなければならないのだから。

いつもありがとうございます。



この学院には退学者が続出する第一歩を歩み始めましたね〜。さぁ、卒業までに何人残るのか。楽しみですね〜。

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