15.トレントパニック
そのまま受付で依頼を受理して、件の森にやってきた。ここまでは森の目の前に冒険者ギルド管轄の転移用魔法陣があり、受付から跳ばしてもらった。
学院はギルドと連携し、優秀な人材を対価として依頼や施設などを融通してもらっているそう。まだ学生とはいえ、ここの生徒ならたとえ1年生でも下手な冒険者より役に立つという認識らしい。
今は森に向かってマイとシロナが探知魔法を使い、トレントの数や場所を探ってもらっている。マイのため息にも似た感想を聞く限り、相手は相当な数がいると思われる。事前に確認する理由は、トレントは一見、普通の木と見分けがつかない。別の方法が無いわけではないが、基本的には探知魔法を常時展開し、あたりを付けてから1撃軽く入れてみるのが正攻法だ。
大体の数と場所の把握が終わったらしく、マイとシロナがメモとして印を書いた地図を見る。この印はトレントたちに見つかるまでの最初の方しか使えないが、無いよりはマシだろう。
「…多分だけど、50体は覚悟したほうがいいかも〜。」
「正確には56体。1体は長老種。大きさから見て600年は生きてるはず。」
「…骨が折れそうだな。」
56体、というのは森の規模から考えたらそこそこ多いほうだ。さらに長老種までいるときた。長老種というのは、突然変異した個体の中でも長命な強いものの総称だ。思わぬ大物に今日は何時に終わるだろうかと考えかけてやめる。今は確実に探して倒すことだけを考えて、一分一秒でも早く終わらせよう。
3人で付かず離れずの距離感を保ち、警戒しつつ足早に森に入って間引きを開始する。
「たぶん君!〖風・弾〗…正解っ。お願いしまーす。」
「任せろ。」
「ユウリ、あれ。」
「了解。…当たりだな、マイ!」
「ほいほい。〖風・裂〗」
森に入ってからは、マイが探して軽く攻撃、トレントだったら僕が追撃。さらにシロナが指さした木へ僕が軽く攻撃、マイの魔法で追撃。というサイクルを繰り返す。ほとんどずっと走りっぱなしで1時間ほど、マイがふと立ち止まる。…マイはずっと浮遊魔法で浮いていて別に走ってはいなかったが、疲れたのだろうか?
「…なんか、静か?」
「入ったときから静かだっただろ。」
「森は静かなもの。」
疲れた訳では無かったようだが、不思議そうに辺りを見渡している。今更な感想に2人でつっこむと、不服そうに、そして居心地が悪そうにしている。
「いや、そうなんだけど、ねぇ?…シロナ、さっきので何体目だっけ。」
「44体。長老種はまだ見てない。」
「44か。差し引き残り12体。長老種は良いとしても…うーーーん。」
「どうかしたか?」
「いや、うん。どうしようかなって思って。」
「どうするも何も残りも倒して終わりだろ?」
何を言っているんだと目で問えばマイはやはりうーんと唸っている。いったい何がそんなに気にかかるのか。
「…倒さない選択肢はない。これは依頼。」
「…そーだよねぇ。じゃあ、あと7体倒したら帰ろう?依頼もさ、あくまで間引きだったんだし、多少残っても問題ないでしょ!」
ね?と言ってくるマイ。個人的には全部倒し切ってしまいたいが、確かに依頼はトレントの殲滅ではなく間引きと書かれてた。そのため今回はそれでもいいかと思い直す。そう思った時、ふと周囲に強烈な違和感を感じる。
…先ほどまで、こんなに近い距離に木なんてあっただろうか。それに、静かだ。さっきの発言は撤回する。森が異様なまでに静かになっていた。入った時にはあった葉が揺れ、掠れる音すら聞こえない。既に異常を感じ取ったマイもシロナも緊張した面付で臨戦態勢に入っている。
–––次の瞬間
「飛べ!!!」
ほぼ直感的にそう叫び、自身も上へ高く飛んだ。爆音につられ下を見れば、先ほどまでいた地面から先の尖った鋭い木の根が大量に突き出ていた。ぞっと背筋が凍る。あのまま地面に居たら確実に串刺しとなっていただろう。幸いマイもシロナも無事だが、攻撃の予兆が全く分からなかった。しかも本体がどこか全くわからない。
着地後、トレントを探すが、四方八方から飽和攻撃を仕掛けられ、それどころではなくなる。木の根も、枝も蔓も、どの攻撃も当たれば致命傷となりうる軌道を豪速球でとんでくる。一瞬、最近凄く似た体験をしたなと思ったが、今回はさらに葉っぱが大量に飛んできて視界が悪い。まるで森自体が敵になった気分だ。
もはや攻撃を捌くための視界の確保すら難しく、なんとか自分の分は捌ききれているが、2人の様子が一切分からない。そのうえ、攻撃の飛んでくる方向は分かるのに、攻撃をしても当たりを見つけられない。焦りから頰や足に小さな傷ができ始めたとき。
「ユウリ、正面から3つ奥に攻撃」
指示が来た。そう判断してから深く考えることはやめ、目の前から3つ目の木をはなから切り倒す勢いで叩く。
「次、右に90度4つ目、5つ目」
「まって、防御棄てないで!〖界・盾〗!」
右を向いて次は2つ切り捨てる。途中、攻撃されそうだったが、回避も防御も間に合わないので、甘んじて受けることを選択する。すると慌てた声が聞こえ、そのまま結界魔法で防がれた。
「そのまま180度うしろ目の前3つ。」
「炎よ、剣に。〖付与魔法・炎ノ剣〗」
付与魔法を使い、後ろを振り向きながら大振りに剣を振る。付与魔法で剣に炎を纏わせたので、かすっただけでもトレントたちにとっては致命傷となるだろう。
そう思い、攻撃を入れて次の指示をと思った時、既に攻撃は止んでいた。代わりにトレントの中でも一際大きな個体がゆっくりと近づいてくるのに気づき、警戒態勢に入る。
⦅落ち着きなされ、そこなお嬢さん。わしゃ敵ではないわい。⦆
「誰だ。」
「…喋る、トレントさん?」
…喋るトレント?つまりこの声はあのトレントが発しているということだろうか。声、と言うにはトレントには口が見当たらなく、音の発生源がいまいち掴めない。疑いつつ様子を伺っていると、トレントがいきなり前後に大きく揺れ動く。どうやら笑っているらしい。
⦅ふぉっふぉ。いかにも、わしは喋るトレントじゃ。ちょいとばかし長く生きておるだけじゃが、人間には長老種、などと呼ばれておる。じゃがその呼ばれ方は好かん。トト爺と呼びなされ。⦆
「分かった。トト爺。」
…シロナの順応が早すぎる。もう少し警戒心を持ってくれ。この長老種…トト爺はかなり高い知能を持っているようだが、普通魔物はそこまで知能が高くない。僕らと問題なく会話できるのは長老種として長く生きてきたからだろうか?
⦅それにしてもお嬢さん方、若いのによくあの状況から生き残ったなぁ。あれはトレント流のおもてなしのようなものなのじゃよ。あれを潜り抜けた者だけが森に認められる、一種儀式でもある。まぁ下手をすればあの世行きじゃがな。⦆
ふぉっふぉっふぉと笑っているが、笑い事ではない。本当に、何か少しでもしくじれば命がなくなるかも知れない状況に、事前情報も無くぶつけてこないでくれ。
⦅まあなんにせよ、そなた等はあの精鋭たちによる猛攻を生き残っただけでなく、返り討ちにしおった。その強さと鋭い観察眼を称え、おぬしらに褒美をやろう。一応言っておくが、拒否権はないぞ?うおっほん。…では、まずはわしから森を代表しておぬしらに祝福をやろう。⦆
そういって長老種はわさわさっと枝葉を揺らす。すると僕らの周囲にキラキラと何かが降りかかってくる。しかし綺麗だと思う間も無く消えていってしまう。
⦅これなるは森の祝福。全ての森に好かれ、森に棲むものたちと縁を結びやすくなるもの。…そしてこれを。⦆
ゆっくりと僕らの目の前に勲章のようなものが降りてくる。
⦅それはそなたらの様な格好をしたものが、わしらのおもてなしを越えられたら渡せと言われたものじゃ。よくわからんが、伝言をいうでな。よく聞いておれ。ん゛ん、「学院の子よ。君たちが受け取った勲章は、君たちの強さの証明だ。堂々と左胸につけなさい。そしていつの日か、全ての勲章を手に入れる子が誕生することを願う。」…というのがそなたらの学院の長からの伝言じゃ。⦆
3人とももれなく全員固まったいた。…仕方がないと思う。僕らはお試しのつもりでトレント討伐に来たのだ。なのに、トレントにおもてなしという名の苛烈な攻撃を食らい、退けたと思ったら長老種がやってきて、なぜか祝福をもらい、さらにはおそらく学院長にあたる人物から魔物越しに勲章までもらった。思考がショートし、フリーズしてしまっても仕方がないと思う。
「学院長の勲章に、森の祝福…って、あれ…?あっ、あーーー!まってまって。〖水・滝〗!」
比較的早く復活したマイが何かを思い出したかのようにいきなり後ろに向かって大量の水魔法を放ち始める。つられて後ろを向けば、水浸しになったトレントだったものが3つ並んでいた。
……3つ?…そういえば、最後にトレント3体に対して炎を纏わせた剣で切ったような…。その後、火の始末ってどうした、、、?
記憶を遡るが、何もしてない。サーっと青ざめ、マイに感謝を伝えておく。危うく森が火の海になるところだった。
「いいよ~。私も今の今まで忘れてたし。でもギリギリだったかも。間に合ってよかったぁ。」
⦅ほほ。そこの黒いお嬢さんは勘がええの。気づかず帰ったら祝福は無くなっておったの。それに先ほどこちらがお主らを包囲する前から森の異常に気づいておった。中々に鋭い勘を持っておる。すごいのは黒いお嬢さんだけじゃない。白いお嬢さんは、トレントの中でも特に潜伏の得意な奴らをいとも容易く見つけおった。そこの剣士のお嬢さんはただの鉄の剣でわしらの自慢の硬い体を一撃で斬りはなしおった。およそ人とは思えん力じゃ。⦆
トト爺は僕らのことを1人づつ褒めてくる。僕らは同胞を倒したのに、そんなに軽くて良いのかと問えば、「そのうちまた生えてくるから問題ない」と言われた。この辺の死生観が魔物らしい。
⦅…うむ。お主らはなかなかに良いチームではないか。気に入った。また遊びに来ると良い。そのときはまた別のおもてなしを用意するでな。⦆
「はーい。気が向いたら来るね〜。」
「…もう不意打ちは遠慮願いたいな。」
「依頼があれば来る。」
僕らの返事を聞いた長老種のトレントは笑いながら森の奥へと消えていった。祝福やら勲章やら考えないといけないことが山積みだが、さすがに疲れた僕らは、一旦考えを放棄してそのまま学院に戻ることにしたのだった。
後から知った話だが、今回の戦闘で怪我をしたのは僕だけだったらしい。マイはまだしも、シロナはどうやって避けたんだ?
いつもありがとうございます。
初戦闘&初魔法詠唱(?)回でした。
次回、感想会で、次々回祝福、勲章とは?の答え合わせです。




