13.演習
休憩中。ぐでーっとのびているマイとそれを完全放置して本を読みふけっているシロナを眺めていた。
シロナは髪も瞳も白く、作り物かと思うほど端正な顔立ちをしている。一方でマイは黒い髪に黒い瞳がそれとは対照的な白い肌に強調されて、顔立ちは親しみやすさの中にどこか優しさを感じる。2人並ぶとまるでオセロのようだなという感想が浮かんできたが、言わずにそっと心にしまうことにした。
「じゃあそろそろ再開するわよ。お遊びはもうおしまい。ここからは演習を始めていくわ。とりあえず全員上の観客席に移動して。」
そう言われて全員がぞろぞろと一度外に出る。と思ったら、数人の生徒は魔法で浮いて内側から観客席まで移動している。マイも「階段めんどくさいから先上がってるねー」と言って飛んで行ってしまった。浮遊魔法って、かなり高度な技術が必要で、人間にかけるのはさらに難易度があがると聞いたことがあるんだが、…そう言えば、好きなことは空中散歩と言っていたな。通りで学院に魔術首位で入れるわけだ。
シロナの方は飛んで移動している生徒たちを見て、ふわっと浮いたかと思ったらなぜか10㎝も浮かないうちに地面に降りる。
「…飛び方は分かった。でも高度が上がらなかい。なぜ?」
…どうやら今初めて飛んでみたらしい。飛べただけでも充分だと思う。僕は魔法に関してはあまり才はなく、精々上級魔法が使えるかどうかぐらいだ。なので正確に難しさは分からないが、初めてにしては凄いことではないだろうか。
残念そうにするシロナと共に階段で観客席にあがり、マイと合流し体育館を見下ろすと、先ほどまでのただ広いだけの殺風景な体育館内の光景は完全に消え去っていた。代わりにいくつもの障害物の立ち並ぶコースがそこにはあった。
「いいかしら?流れを言うからよく聞いてなさい。今からチームの中から1人もしくは2人代表者を選んでもらうわ。選ばれた代表者はこのコースに挑んでもらうから慎重に決めて。残ったメンバーは客席からの指示と補助行為は許可するけれど、他チームへの妨害行為は原則禁止とするわ。」
担任が真面目に話している横からB組の先生が横入りして、マイクを奪取する。そして続きの説明を勝手に話出す。…もちろん担任はその行動に苛立っている。
「1人の代表者に対して2つで一対のインカムを渡します〜。演習が始まってしまうと、観客席の声は完全にシャットアウトされますのでインカム越しに会話してくださいね~。」
先生の説明が終わると同時に各チームにフワフワとインカムが飛んでくる。2つだけ飛んでるチームもあれば4つ飛んでいるチームもある。僕らの所にはインカムが2つ飛んできた。
「…多分、3人以下のチームは1。4人以上のチームは2。」
「あーうん。代表者の数がね?んー、見たところかなり体を使いそうなコースだねぇ。ユウリに行ってもらうのがいいかもな~。…チラッ?」
「もう少し誘導を隠してくれ。というか効果音を口で言うな。」
「私もユウリがいいと思う。」
「…わかった。ならインカムをくれ。」
マイにもシロナにも推薦され、諦めて2つあるうちの1つを受け取り、耳につける。もう1つのインカムはマイがシロナにつけてあげていた。数度マイクテストをしてスタート地点に並ぶ。シロナ曰くスタート地点にはちょうど20人いるらしい。
「…全員そろったな。今回のゴールはこの1本道の先にある。続行が不可と判断されるまでは棄権は許されない。制限時間はないが、タイムはこちらで計っている。では始める。…位置について。よーい…」
どん!
という合図とともに全員が走りはじめる。タイムは計っている、という言葉に前回の試験を思い起こさせられたことも一躍買って、代表者は全員もれなく全力疾走だ。
スタートダッシュは先頭になれたが、問題は上からも見えた障害物らしきものだ。そう思って走り続けるとぞわっとした感覚に思わず後ろに飛ぶ。すると先ほどまでいた場所は地面が大きく崩れ、底がまったく見えなくなっていた。
『ユウリ、地面が崩れるまでの時間がある。崩れる前に…』
…走り抜けたらいい。と解釈してシロナの声を聞き終える前には走り出す。走りながら少しだけ後ろを振り向くと走ったところはどんどんと穴が開いていくが、数秒もしないうちにみるみる塞がっている様子が確認できた。きっと魔法が使われているんだろうが何が使われているかは全く予測できない。
『右に避ける!』
シロナの珍しい感情的な焦った声に驚き前を向くと、目の前にはもうすでに避けきれないほどの距離に鉄球のようなものがとんでもないスピードをで飛んできていた。コースライン的に鳩尾に入る!と思いとっさに防御の姿勢に入ったが、鉄球はぎりぎりのところで軌道を変え、肩を掠めながら飛んでいった。掠めただけにも関わらず、かなり痛みを感じるので青あざはできただろう。
『魔法で軌道を変えた。次は気を付けて。』
「すまない。気を付ける。」
次は油断しないように次々と剛速球で飛んでくる鉄球をかわしながら進む。飛んでくるラインが鳩尾だったり脳天だったり地味に殺傷力を持っているのは気のせいだと思いたい。
…思いたかったんだが、その後も滑る床かつ、天井を見上げても落下地点の予測できないつららが落ちてくる場所。底なしの穴の中に飛び石のように狭い足場がかなり広い間隔で設置され、明らかに潰されていない刃のついた斧のようなものが一定間隔で左右に揺れている場所。極めつけは最後の直進ゾーンだった。
『気を付けて。足元に罠がたくさん仕掛けられてる。…足の踏み場がないくらい。』
シロナの言っていた通り、道には明らかに罠だと分かるものや、よく見ないと分からないもの、さらに全く違和感を感じないが直感的に踏んではダメな気がする所まである。そして何より邪魔なのが、先ほどの飛び石ゾーンを抜けたあたりくらいからずっと自動追尾機能のついた鉄球が何度もアタックを仕掛けてきている。マイの魔法で何度か止めてもらっているが、距離が遠くてずっと止めつずけることは難しいらしい。
「走り抜けたら…ほっ。なんとかならないか?…そろそろ2番目の走者と距離がかなり近づいて…よっと、…きたんだが?あと鉄球がいい加減邪魔だっ!」
『…マイがどうにかユウリが走り抜けられるようにするって。だから…』
「じゃあ走るから、あとは頼んだ。」
いい加減鉄球に嫌気がさしてきたのもあり、説明を遮って一歩目を踏み出す。すると足元からガコッと音が鳴り、どこから出てきたのか。目の前に全長5mはあるだろう魔獣が立ち塞がった。流石に真面目に相手をしていると後方に追いつかれてしまう。なので、僕は剣に手をかけて再び走り出す。魔獣の攻撃を避けつつすれ違いざま、居合の要領で、魔獣の足を全て斬り落とす。そして、その場から動けなくなった魔獣を放置してゴールをした。
「1番乗り。あまりにも罠関係の殺意が高く無かったか?」
『…最後のはユウリが悪い。マイが対処するのに3秒だけ待って、という前に走り出すから。』
「まじか。…確かにあれ以外の罠は全く動かなかったな。マイにありがとうって言っておいてくれ。」
『分かった。』
鉄球に苛立っていたとはいえ、人の話を最後まで聞かなかったのはダメだったなと反省する。剣をしまい、ゴール内でゆっくりとしていると次々と生徒たちが多少怪我をしていたり、巨大岩にとんでもないスピードで追いかけられ全力疾走で駆け抜けたりしながらゴールしていく。…あの巨大岩に追いかけられたら流石に危なかったかもな。次からは指示は最後まで聞いておこうと密かに誓う。
その後17人目がゴールしたところで笛の音が鳴る。
「そこまで。今回はここまでとする。各自今日はもう帰っていいぞ。」
その言葉を合図に演習は終わりとなった。寮に戻ると、いつも通りのシロナとオーバーヒート寸前のマイを見て、やっぱりオセロみたいに正反対だと思った
いつもありがとうございます。
次は13.5話ですが、確証はないですが、今の所飛ばしても問題はありません。ご自由にどうぞ。




