12.前座
あれからマイは宣言通りその日のうちに移籍権を使い、僕らに確認の書類が渡され、数日後には移籍と寮の部屋移動が完了した。
マイが入学試験の魔法技術1位であることと、その彼女が僕らのチームに移動したことはあっという間に学院中に知れ渡った。一連の騒動の一部を人もたくさん集まる学院の食堂で行ったのだから当然と言えば当然か。しかも噂によれば移籍権の使用が歴代の最速日数を上回ったらしく、それも広まった要因と化しているらしい。冷静に考えれば、入学3日目で移籍って、どれだけ前のチームはひどかったのかと考えてしまうのは仕方がないと思う。
僕らが学院に入学してからちょうど1週間がたったころ。マイが部屋にやってきた次の日のホームルーム。体育館に集合しろという指示が出されたので、シロナと共に体育館に向かう。中に入ると見た目以上に広く、2階部分には観客席もついていた。
「お、いたいた。ユウリ、シロナ待ってたよ〜。チームごとに固まっとけってちょうど今指示があったところ。」
到着と同時ぐらいにマイが目ざとくこちらを見つけてくる。移籍は既に済んでいるが、通常の授業はクラスごとに行われるため、まだマイとは同じチームになった感じがあまりしない。今の認識は寮の同室の友人レベルだ。そういえば、寮の部屋は移動なのにクラスの移動がないことに何か意味はあるんだろうか?
「はーいみなさん。お揃いですね~?授業、はじめますよ~。」
思考の海に囚われる前にB組の先生が話を始める。今回は最初からB組の先生が取り仕切るようだ。…というよりは、きっとうちの担任が口を挟まれるのを嫌ってあえてやらせているような気がする。
「では、今日の授業はチームでの演習になります~。演習、といってもまだまだ最初は簡単なゲームをしてからですので今は気軽にやってくださいね~。目的としてはこの先にある大会のためにチームでの連携を高められるようにしています。結果はあまり関係ありませんよ~。ではでは、まずはアイスブレイクしていきましょ~。」
アイスブレイク、というのは初対面同士などでの緊張緩和やコミュニケーションの促進に使われる体を使った自己紹介のようなものだ。本来は試験よりこっちを先にやるべきなのでは?
「最初は~共通点探しゲーム!わードンドンパフパフ~」
先生が口で効果音を言った瞬間にどこからか紙吹雪が湧いてくる。触ることができないので幻影魔法の一種なのだろうが、無駄に演出が凝っている。…何故かは分からないが、マイの手からも紙吹雪が出ているように見える。
……見なかったことにするか。
「共通探しゲームとは、チームメンバー全員で共通する事柄を探すゲームで~メンバー人数が多いとすこーし不利かもしれません。ので!人数によって目標数を設けますね~。5人のところは1つ、4人のところは2つ、3人は3つ、2人は4つ、共通点を探してみてくださいね!」
「…ストップ。制限時間を言い忘れてるわよ。」
「おーっとと、そうでした。制限時間は10分!ではでは~よーい、スタート!」
スタートの合図と共に先生は前のほうに大きな砂時計を出してひっくり返す。きっとあれが落ちきるまでに探し出せばいいんだろう。
担任も説明のし忘れをきちんと指摘するあたり、決して仲が悪い訳ではないのだろうな。…いや、あの先生の場合、二度手間をかけたくないだけの可能性があるのか。
「共通点探しだって。なにがあるかな~?」
「…人間であること?」
「いや、違うだろ。…違うだろ?」
シロナの回答に思わず突っ込んでしまったが、そういうことではないだろう。…違うよな?
「ちょ、違うって言っておいて自分で不安にならないで?こっちまで不安になるじゃん。えーっと、こう言うので無難なところでいったら、犬派か猫派かとかだよねぇ?」
「犬だ。」
「犬派、猫派とは?」
「ん?えーとね、犬のほうが好きか、猫のほうが好きかって話だよ。例えばさ、犬好きの人はあの従順さが好き!とか。猫派の人はあの気まぐれな感じがたまんない!とか。ユウリは即答だったね~。」
マイがによによという効果音が付きそうな表情でこちらを見てくるがスルー。シロナは少し考えるような動作をしてから答える。
「多分、両方。」
「おふ、…えーっと、どっちか選べって言われたら?」
「それは飼うということ?」
「うん。それでいいよ。」
「なら、猫。」
「なんだろ。すごい納得できる。」
マイがなんとかシロナから答えを引き出す。まさか犬派猫派の説明からすることになるとは思わなかった。しかも両方って、この手の二択問題の暗黙のルールを完全に破ってるだろ。
…これは僕一人だと相当苦労していたかもしれない。マイも明言しなかったが、この時点でそろっていなかったので、既に違う話に話題が移っている。
「うーん。あとメジャーなのでいったら、得意なこととか、趣味とか?あとはー、家族構成とかかな?」
「…どれも合わないと思う。他には?」
シロナの意見に僕も同意する。正直に言えば得意なことがバラバラなことは入学試験の結果で証明されているし、趣味も2人の放課後の過ごし方を聞いている限り、僕と合わない。家族構成は分からないが、シロナが合わないと言っている時点で普通の家庭で無い可能性があるため深掘りできない。…これ一生合わないのでは?
「おっけ~?じゃーあー、方向性を変えてみるか。ユウリ、シロナ。なんでもいいから好きなこと、嫌いなこといくつか挙げていってくれる?」
マイがいきなり話題を180度転換し、質問を繰り出してくる。好きなことと嫌いなこと、な。何があるか、と考えているとシロナが眉間にしわをよせて答えている。
「本を読むことは好きだと思う。嫌いなことは、…非効率なこと、だと思う。」
「なんかすっごいふんわりしてるね?でもまあ、いきなり好きなこと聞かれて答えれる人も少ないか。ユウリは?」
「そうだな。好きなことは剣を使った戦闘全般で、嫌いなことは、無駄に脱線して長話をする講師の授業。」
「絵にかいたような戦闘狂ですありがとうございました。」
余計なことを言ったマイをひと睨みし、お前はどうなんだと言外に問う。
「私はね~。寝ることと空中散歩が好きだよ。嫌いなことはー、うーん。うーん?」
「聞いてきた本人が一番悩んでる。」
マイが嫌いなことで考え込んでいるとシロナがいいパンチを繰り出す。僕もシロナに同意してマイを急かすと、急にマイの目が据わる。
「…あー、そういえば。ずーっと無駄な喧嘩をして、そのうえ余所にまで迷惑をかける人たちは嫌いかもな~。なんかどこかの天才美少女に仲裁してもらって、既に反省してるらしいけどさぁ。
……………ね?」
「それに関してはすまなかった。本当に悪かったと思ってる。」
「…私は大声をあげてない。悪いのはユウリ。」
完全なる責任転嫁だな…。でも今は大人しく謝っておかないと絶対に面倒くさいことになるだろ。と思った次の瞬間、先ほどまで無表情に近かったマイの顔が少し険しくなる。
「シロナ。あなたは頭がいいからあの話が当事者だけで解決しないこと、薄々分かってたよね?…しかも話を掘り返すのは決まってシロナのほう。どう考えてもシロナにも責任があると思うんだよねぇ。私。ね?シロナ?」
「……ごめん。」
…マイを怒らせるのはやめておこうと心に刻む。シロナは完全にマイに負けて謝罪し、マイがもう。とため息交じりにこぼして空気を切り替えるように明るく話題をすり替える。
「大雑把に考えたらみんな無駄なことが嫌いって事で良い?」
「どこをどう取ったらそうなったんだ?」
いや、本当に。シロナは非効率、僕は無駄話をする講師、マイは無駄な喧嘩…なのか?どちらかと言えば深夜に起こされた私怨のほうが大きいように聞こえたんだが。
「いや、もうそういうことにしとこ?って話。ただでさえ1つも見つかってないのにもう時間切れ寸前なんだよね~。」
言われて初めて気が付いたが、マイの言う通り、もうすでに砂時計は落ちきる寸前といった様子で、流石に1つもあっていないのはマズイということで僕もシロナも渋々受け入れることにした。
「はーい!そこまでですよ~。タイムアップですね~。皆さん、共通点見つけられましたか~?もしも見つからなくても気を落とさないでください!これはただのウォーミングアップですからね~。ではでは、お次は~」
…共通点は無理に見つけなくても良かったらしい。初日の試験のせいで教師の言動に神経質になっているようだ。そうして、いくつかのゲームのようなものをこなして、一旦休憩に入ることとなった。
12話を読んでいただき〜って、もういいか。
いつもありがとうございます。
作者は皆様の1PV数に一喜一踊しております。
無駄話ばっかりに見えたと思いますが、タイトルの通り、今回はあくまでも前座なので。
無駄話が多くてごめんねユウリ…。




