第33話 deleteの能力
ルクス「……どう言うことですか?」
アイリ「……思い出せないんです。」
アイリは頭をさらさら。抱えながら、何かを必死に思い出そうとする。
アカギ「……思い……出せ.......な.....い..?」
アイリ「はい、私が誰なのか、どこから来たのか……何も思い出せないんです。」
そう言って、困った顔しながらルクスたちに話しかけてくる。
アイリ「名前も、生まれた場所も、どこで育ったのか……何も思い出せないんです。」
ルクス「つまり……記憶喪失……と言うことですか?」
その言葉におずおずと答える。
アイリ「はい、言葉や物は覚えていますが、私自身の記憶が全くないんです。」
アカギ「本……当……に?」
アイリ「……はい。」
アイリは心底困った様子になっており、本当に記憶を失っているのだろう。
その言葉に2人は安堵する。
ルクス(どうやら上手くいったようだな)
アカギ(魔力の全てを使ってやったから、これで失敗したら完全に詰みだった)
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delete(消去)
遥か昔、異世界から来た者が作ったとされる禁術魔法、禁術魔法とは上級魔法の更に上で、賢者や聖女と言ったある程度の上級魔法を扱える者達の中で更に上位にいる人達が扱えるかどうかと言われる魔法、一般の人や普通の魔法使いが使うと、下手すれば己が死に、最悪の場合、国1つが地図上から消える程の恐ろしい魔法である。
ルクス達が使ったdeleteは文字通り対象者を消す魔法である。
しかし、2人は限界を超えもはや賢者と変わらない、いや賢者をも超える力を持っていた為、彼女の「記憶」だけを消した。
最初はそんな事を考えず、説得かもう一つの方を考えていたが、2人なら出来るかもしれないと思い一か八か試した。
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ルクス「あの……とりあえず、王都まで行きませんか?もしかしたら何か思い出すかもしれませんし。」
アカギ(……彼女には悪いけど、永遠に思い出す事は出来ないわ、deleteは失うと違って消すから、取り戻す事は出来ないの)
つまり彼女は永遠に思い出すことはないのだ、説得が無意味だった。彼女が唯一生きていられるのはこれしかなかった。
いや、ルクスが諦めれば、アイリは生きていられただろう..............多大な犠牲を残して
ルクス(アイリ......君の人生を棒に振るってしまった事には謝罪するよ、これがハッピーエンドではない事も、もしかしたら別のエンディングもあったかもしれない)
ルクス達はアイリを連れて王都へと歩き出す。
ルクス(でもな、俺は決めたんだ、アカギと共に同じ人生を歩むと、アカギと一緒に生きていくと)
ルクスはアイリを王都へ案内しながら、アカギの手を握る
アカギ(私達は1人の人生を奪った、でもこのままいけば彼女は永遠に囚われたまま)
なら.......解放するためには、こうするしかない
アカギ(これが言い訳なのは分かっている、私達の行いを正当化しているだけに過ぎない)
彼女は道を間違えた、もし彼女がルクスを虐めなければ、ずっとそばにいて守っていたら、きっと違う未来が待っていただろう。
ルクスの隣に立っていたのは、きっとアカギではなく、アイリだったはずだ、しかしそれは一種の可能性であり、変えることの出来ない現実、決して変えられないのだ
アカギ(皮肉かもしれないけど、私は貴女に感謝しているわ、アイリ)
表上はそう見せないように振る舞うが、心の中では
アカギ(貴女のお陰で、私は心から救われ、彼と結ばれることができた)
そうやって彼女は自身の左手を見る、そこには隣にいるルクスと同じ指輪が嵌め込まれている
アカギ(................)
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王都オワイコット
王城国王執務室にて
国王は連日の書類関係の仕事で疲れがピークに達した為、少し休憩していた、メイドが紅茶を用意してそれを飲んでいる最中、兵士が慌てて部屋の中に入り、話し始める
国王「何!?剣聖が見つかっただと!?」
国王は飲んでいた紅茶を置いて驚く、あの時来たのは勇者、聖女、賢者の3人で剣聖はいなかった、その理由を聞こうとはしていたが、連日の書類関係の仕事でその話は聞けなかったのだ
兵士1「はい、国王様、勇者様とそのご友人達が道端で倒れているのを発見したそうです。」
ご友人とは、魔王との戦いで勇者と共に戦った2人組のことだ。その人たちは後で聞こうとしていたが、勇者が広めていたらしく、大体の情報は入っている。この仕事が終わり次第、彼らも含め最前線で死闘を演じた者たちに労いを兼ねて宴の準備をしている。
国王「しかし、何故今頃になって見つかったんだ。」
兵士1「はい、ご友人たちが魔法の実験をするために王都の外に行き、勇者様も自身の鍛錬のために出ていた時に見つけたらしく、その時には気を失って倒れていたそうです。」
そう考えるとますます不思議だ。
国王「……まさか、ここまで歩いてきたと?」
そんなことはありえない。ここから魔王城までは数年かけて行ける距離だ。つまり、
兵士1「何者かによってどこかに幽閉されていたか、はたまた魔王軍との戦闘に怖気ついて逃げていたか。」
そう考えるのが妥当な判断だろう。しかし、
国王「剣聖がそこまでの臆病者なら、魔王城までは行けまい。幽閉も剣聖に勝てる程の人物などほとんどおらんだろう。何か言っていなかったか?剣聖は?」
兎に角、剣聖に聞けば何かわかるかもしれない。そう思い聞いたのだが、
兵士1「……実はそれは出来ないのです。」
国王「……何故だ?」
何故聞けない?まさか、勇者たちが彼女に知られたくない事があるから口封じを?
兵士1「確かに彼女は剣聖でした。それ間違いありません。ただ、記憶がないらしいのです。」
国王「なんだと?」
兵士1「王国の医者達が彼女を見ているのですが、どうやら記憶を失っているらしく、とてもじゃありませんが、あの状態で聞くのは無理でしょう。」
つまり、何故彼女は今になって見つかったのか、今まで何処にいたのか、何をしていたのか、何もわからないと言うことだ。
国王(釈然としないが、今は無事に戻ってきた事に感謝しよう)
記憶を失っても、何かの拍子に思い出すかもしれない。その時になったら聞けばいい。それまではここで療養させればいい。
そう思った国王は兵士にアイリが、記憶を取り戻すまでの間、ここで暮らす許可を出した。
国王「これで彼女がいつ記憶を取り戻しても大丈夫になった。あとは勇者達をどうするか。」
勇者、聖女、賢者は神が選んだ選ばれし職業。彼らはいるだけで戦争の抑止力になる。今オワイコットには他国と戦争できる程の食糧もお金も兵士もいない。野蛮な国ほどここを狙わない手はない。
しかし、勇者がいれば魔王軍と対等に戦い、たった4人で世界を救えるほどの実力者だ。やたら無闇に挑めば、相手側が負ける。
故にこそ、国王は今後のオワイコットの為にも、彼らの力が、いや勇者達の紋章が力が必要なのだ。
国王(すまないな、勇者達よ、わしにはこの王国を守る義務がある)
そう考え、残っていた紅茶を全て飲み干した。
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多分もう何話かでこの作品は完結します。
最後まで見てくださると幸いです。




