久々の現在進行形(22)
「え?なに?カバン?」
「そうだ!クソミミズんとこにあるから!急げ!」
ナノは「なにー?」「なんなのー?」と繰り返しながらプールサイドにひよひよ向かっていく。
「早くしろっ!」
「もー!なんなのぉー!?」
急かされたナノは、ブースカ文句を言いながらカバン持って帰ってきた。
「悪りぃ!ありがとな」
礼を言うが早いか、ひったくるようにして受け取ると、中から鈍く光る秘密兵器その2を掴んで取り出した。
「何それ?」
「秘密兵器だ。残りはまた元の場所に置いといてくれ」
「えぇー!?」
ナノに向かってカバンを放り投げると、俺は秘密兵器を持ったまま、メデューサの後ろに回った。
「いいか、危ないから動くなよ」
「え?なに?なに?なにする気!?」
「いいからじっとしてろ」
ジャキン!
メデューサの髪を束にしてむんずと掴み、勢いよく断ち切った。
「キャー!?なにすんの!?」
メデューサが慌てて髪を抑えようとしたが、その手を振り払って続け様に切っていく。
ジャキン! ジャキン!
「やだやだ!やめてよ!」
「いいから黙ってろ!」
ジャキン! ジャキジャキン!!
メデューサはギャーギャー騒いでいたが、それを無視して切り続けた。
不思議なことに、毛先の方まで変色していない髪は、切った後もそのまま緑色を保って浮いている。対照的に、少しでも茶色くなっている髪は、切ったそばから全体が茶色く染まり、そのまま色が濃くなって沈んでいくのだ。
これって・・腐ってんじゃねぇの?
このまま全身に広がったら・・・
そう思うと怖気が走った。
幸い、髪を切られていることに意識が集中しているメデューサには、腐れ髪のことは気づかれていない。
くっそぉ!なんでこんなことになるんだよ!?
ほんの少しスプレーしただけなんだぞ?
俺には水に溶け込んだ除草成分なんて見えないから、どこまで広がってるかわからない。
けど、ここにいたらコイツの髪が、間違いなく全腐れするだろうということはわかる。なんなら全身が腐って、溶けたゾンビみたいになるかもしれない。
「ちょっと!離してよ!」
メデューサは身体を捩って抵抗した。
「おとなしくしてろ!ただの植木バサミだよ!このままじゃ身動き取れねえだろ!」
「う、植木バサミ!?」
「そうだよ。木の枝とか切るんだったら、ただのハサミじゃダメだろ」
「失礼な!私の髪は枝なんかじゃないわよ!」
「ほら、いいから!」
「やだ!やめてってば!」
「だーっ!面倒臭え!」
お前が腐りそうだからって教えれば、大人しく言うことをきくかもしんない。でもそうなると、今ここで説明しなくちゃなんなくなるだろう。
おまけに、説明したらしたで、怒りの制裁を加えられかねないし、そうなったら、ここだと逃げ場がない。
まあ、突然髪をジャキジャキ切られてるんだ。不審感しかないわな。気持ちはわかるよ。気持ちはわかるけど、こちとらお前のために急いでんだよ。
そう思うと、こっちまでイライラしてきた。
「うっせえな!後で説明してやっから、ジッとしてろ!」
ジャキーーン!!
最後の一切りでぐるりと髪を切り終わり、ようやく自分の髪に囚われていたメデューサを解放した。
「あ、なんか動きやすくなった」
さっきまであんなに抵抗してたくせに、なんなんだよコイツ。イライラMAXだ。
「ほら行くぞ!」
「え?行くってなによ?」
訳もわからず戸惑っているメデューサの腕を掴むと、急いでプールサイドに向かう。
「ど、どこ?どこいくのよ?」
「いいから!サッサとプールから出るんだよ!」
「えぇ!?なんでよ!?」
そう言いながら俺の手を振り解くと、不満げに口を曲げて睨みつけてきた。
「だいたいさぁ、なんでこんなことになってるわけ?理由くらい教えてくんない?」
「あん?」
「突然、時間止めろなんて言ったりさぁ。髪切ったりさぁ。髪だよ、髪!また伸びてくるからいいけど、伸びなかったら容赦してないところよ。たぶん、いや絶対アンタの頭の皮ひん剥いてる」
怖っ!ガチでなんなんだよ、コイツ。
「チッ!面倒臭せえな」
「なんですってぇ!?」
「だ〜か〜ら〜、説明は後だって!とにかくお前はここから出なくちゃいけないんだよ!」
顔を赤くして声を荒げる俺に向かって、メデューサは腰に手を当てハァッと小さく溜息をついた。
「まあいいわ。絶対説明してよね」
そう言って徐ろに頭を振り始める。
「だから、早くしろって!」
「この方が早いわよ」
ビュウゥゥッ!
メデューサの深緑色の髪が勢いよく伸びていく。
「へ?」
まるで釣り人が釣り糸を飛ばすみたいだ。
頭を回したのは、釣竿を回すのと一緒かぁ。
長く感じる一瞬で、ぼんやりとそんなことを考えた。
メデューサの髪はしなやかに伸びていき、プールサイド脇の柱に巻きつくと同時に、シュルルと音を立てて俺の体にも巻きついた。
「ヒッ!?」
恐怖で全身を強張らせた一瞬の間に、髪がギュルルと縮み始め、同時に物凄い勢いで引っ張られた。
「ヒィーーーーー!?」
声にならない叫び声をあげながら、スローモーションのように自分が飛んでいくのを感じる。
隣にはメデューサがいて、切れ長の瞳でこっちをチラリと見ていた。
し、死ぬぅ。
そう思ったか思わないか、自分でもよくわからないところで、
ギュルルルルルルン・・・ビターンッ
何かを巻き取るような音がして、
「ぶっ」
メデューサは無事着地。俺だけが顔からプールサイドに突っ込んだ。




