8 ポタトリアへ②
喉から腹へ、炎のように酒が暴れ出した。エレクの力とかではなく、単純にこの酒が強いのだ。
急激に気分も悪くなってきた。お昼におにぎりを結構食べたものの、消化されてきていた所だ。そこへ少量とは言え一気に強い酒を流し込んだもんだから、体は拒否反応を起こした。
「ぐかがガ…ガギ…」
(落ち着け…しっかりするんだ、友蔵!これじゃ何しに来たのか分からないぞ!)
おこめ父さんは自分を奮い立たせ、何とか体勢を戻した。が、今度は猛烈な吐き気が襲ってくる。ヤバイよ、ヤバイよ…
苦しみを堪えながら、おこめ父さんはフラフラと立ち上がった。
「どうした、オオモリ⁉」
「ちょっと、あの、おしっこ…皆さんは、二杯目を頼んで飲んでてください…」
トイレの場所を教えてもらい、ヨロヨロ動き出すおこめ父さんを、ポテサロフ達は見守った。
「大丈夫かよ、あいつ…」
5分後、割とスッキリした顔のおこめ父さんがトイレから出てきた。先程までの気持ち悪そうな顔が嘘のようだ。
そのまま席には戻らずに、おこめ父さんは店主の方へ向かった。ポテサロフ達は二杯目を飲みながら、ちょっとしたおつまみで盛り上がっている様子だ。
「あの、ちょっと…」
話し掛けられた店主は、怪訝な顔をした。
「何だよ、うちの酒のせいじゃねえぞ!」
「分かってますよ…僕、お酒がとても弱くって…さっきもそのせいです。でも、連れてきた3人には気兼ねなく楽しんでほしくって。それで相談ですが…」
「おいおい、変な事はやらねえぞ…」
店主は嫌そうな顔をしていたが、最後におこめ父さんが金貨を1枚握らせると笑顔に変わった。
「分かったぜ、任せとけよ!」
「おっ、オオモリ…普通に戻って来たな。大丈夫か?顔が青ざめてたぜ」
「はい、大丈夫です…もうスッキリしました。へい、店主!もう一杯、頼んます」
運ばれてきたショットグラスに口を付けると、おこめ父さんはグイッと飲み干した。
「えっ、お前いけるのかよ⁉さっきぶっ倒れそうに…」
戸惑う3人とは対照的に、おこめ父さんは涼しい顔だ。
「大丈夫、行けまーす。皆さんも二杯目ですよね?次の三杯目とおつまみ、頼んじゃいますね!」
三杯目を飲み干すと、さすがにポタトリアの男達も顔が赤くなってきた。一方、おこめ父さんはいつも通りである。
実は先程店主に金貨を余計に渡し、おこめ父さんの分だけ中身をただの水にするよう頼んだのだ。お酒も同じく透明だし、しかも皆酔っているから気付かれない。一緒に飲んでいるふりをして、急速に仲良くなる作戦である。
「いやあ、タダ酒は美味いぜ!オオモリ、ありがとうよ!お前実は酒に強いんだな…ギャハハハ」
(よし、だいぶ場が温まってきたかな…何気ない話題から始めるか)
「それにしても、最初に観に行ったバーレクでしたっけ?凄い良かったです…まぁ、途中でビックリしましたけど」
「ああ、新鮮なリアクションで楽しませてもらったぜ!ガハハハ…でも内容も良かっただろ?」
「そうですね、言葉の無い劇にしてもらったんで、逆に分かりやすかったですし。踊りも素敵だったなあ…終盤の音楽も身体が震えました。ポタトリアでは、ああ言う音楽が人気なのですか?」
ピロシキンが笑いながらつまみをかじった。
「いや、そんなこた無えよ…昔からある劇だからな、音楽はちょっと古いやつだ。今はもう少し…何ていうかな、うーん…」
ピロシキンはスマポを使ってガサゴソやっていたが、やがて音楽が流れ出した。
音楽はポップなメロディだが、少し物寂しい感じもする。やがてボーカルの歌も聞こえてきた。自動通訳装置のお陰で、ロシア語もすぐに訳されておこめ父さんの耳に届く。歌詞はやはり悲しげなものだった。
(あなたは私の一部 そう思っていたのに それでも私から離れていく 教えてくれ、しょせん俺は独り相撲なのか 僕の事も考えてみてください)
歌詞に感情移入して、おこめ父さんの目から涙が一つこぼれた。思わずポテサロフが驚いて叫ぶ。
「おいおい、ロシア語が分からねえのに泣けるのかよ?」
あ、そうだった…この3人は自動通訳装置が英語だけ通訳モードだと思ってるのだった。でも、そう思わせておいた方が、この後良いかも知れない。おこめ父さんは話を合わせることにした。
「ええ、言葉は分からないけど、何だかすごく悲しいです。もしかして、別れを歌ってるんじゃないですか?」
ポテサロフの赤くなった顔が、興奮でさらに赤みを増した。
「そうなんだよ、その通りさ!お前、分かるやつだな…‼俺、この歌が大好きなんだよ」
バンバン背中を叩かれながら、おこめ父さんはいくつか話題を振りつつ、有益な情報がポロッと出てこないか伺う事にした。
だが、何気ない会話がこの後、おこめ父さんの首を絞めることになる。
「ちなみに皆さんはスポーツとかやりますか?」
「まあ体操とかバーベル上げとかだな…あとは兵隊だからな、日々の訓練が運動みたいなもんよ」
「へえー…皆さんずっと兵士なんですか?」
ボルシチョフが三人を代表して頷く。
「あぁ、徴兵制があるからな…若ぇ頃に軍隊に入って、そのまま兵隊になるやつも多いぜ。俺達もその口だ」
「…そうなんですか。その軍隊って…」
「ライスのスポーツはどうだ?」
運悪く、おこめ父さんとピロシキンの発言が重なってしまった。さらにポテサロフが被せてくる。
「そうだな、他国のスポーツの話は余り入って来ねえんだよ…何が盛んなんだ?」
チッ…話の方向が変わってしまった。仕方ないから後で流れを戻すか…
おこめ父さんは心の中で舌打ちをしながら、平静を装った。
「例えば、エレビーですね。僕もこないだ試合やりましたよ」
「おお、エレビーかよ!それなら分かるぜ…」
「えっ、ポタトリアでもやってるんですか?」
「あぁ、他国と試合しねえから、強いのか分からねえけどな…ちなみにそっちのエレビトールはどうなってる?」
おこめ父さんの背中が凍りついた。
エレビトール…エレビトールだと?し…知らんぞそんな言葉…やっべぇー…
しかし、それがポタトリアのエレビー特有の用語なのか、地下世界共通のものなのか、判断がつかない。
下手に喋れば、墓穴を掘るかも知れない。
黙ってしまったおこめ父さんに、ボルシチョフが畳み掛ける。
「どした、オオモリ…自分のチームのエレビトールがどうなってるかぐらい、分かるだろうよ…」
ライスの皆と練習したのは実質一か月だし、回数にしたら四、五回だ。細かい説明は省いて、実戦に特化して練習したのが仇となった。
一か八か、おこめ父さんは振り切った作戦に出た。
「いやぁー、こっちのエレビトールなんて話、恥ずかしくって…とても皆さんみたいな鍛え方してないですもん。ちょっと触らせてくださいよぉー」
おこめ父さんは言いながら手を伸ばし、ポテサロフの太い腕をサワサワする。
「ん⁉ああまぁ、軟弱なライスとはわけが違うぜ!っておい…そんなナデナデすんなよ、おい!急に気持ち悪いやつだな…」
飲み会で気まずい話題を避けたり、場を繋げるために編み出したテクニック。おこめ父さん秘伝の奥義の一つ、「自分落として相手ほめ」である。今回はプラス、相手の腕をナデナデするという、ちょっと気持ち悪くて読めないキャラ、と言うトドメ付きだ。
相手は困って、どこか変になった雰囲気の打開を待っている。
ここで鉄板の質問だ。
「お三方の中では誰が一番強いですか?」
屈強な男の心をくすぐる、このキラーフレーズである。案の定、ポタトリアの男達は乗ってきた。
「そりゃあ、俺だろ!」
「いや俺だろうぜ、見ろよこのムキムキ」
「俺だってカッチカチだろうが!」
先程のエレビーの話はどこへやら。完全に3人はおこめ父さんの術中にハマった。もちろん無難に終わらせる言葉も持ち合わせている。
「分かりました分かりました、皆さん強いですよ!」
3人は満足とも付かぬ、でもちょっと上機嫌な面持ちだ。ここらで核心に繋げておきたい。
「でも、皇帝がやっぱり国では一番お強いですか?」
「うーん、どうなんだろうな…」
意外にもポテサロフは首をかしげた。
「えっ、やっぱりエレクトルとか凄いんじゃ…?僕も鍛えたいんですけど、どうやったらエレクを操れますかね」
「知らねぇよ、そんなの!…皇帝だってそれほどじゃねえんだ」
この発言は意外だった。
「ええっ、そうなんですか?血筋とか修行とかないんですか」
「向き不向きが有るんだろうよ…でもあの方は強い従者を手懐けてるからな」
ピロシキンのセリフに、ボルシチョフも同意した。
「あぁ、昔から引き連れるのは得意なんだよな」
隣でポテサロフが遠い目をした。何か思い出してきた様子だ。
「そうだったな…俺も昔、っつっても子どもの頃だけど、子分だったんだよ。懐かしいぜ…あの時は10人ぐらいでつるんでたな…」
「あれだろポテサロフ、コイモス一族の奴をとっちめようとしたら、お前殴られて気絶したやつだろ?」
おこめ父さんが質問するより先に、すかさずピロシキンが被せて来た。昔から皇帝は子分を引き連れて、誰かを攻撃したりしていたらしい。
ポテサロフは無言で何杯目かのショットグラスをあおった。ボルシチョフも思い出したようにつぶやく。
「そういやあいつ、どうなったんだろうな…あの犯罪者のガキ。その後見なくなったよな?」
「チッ、うるせえな…もういいだろ、その話は。おい店主、もう一杯持って来い!」
ポテサロフはドンとテーブルを叩いた。
(何のことだろう…それよりさっき、気になる言葉があったな…)
おこめ父さんは疑問に感じた事を口にしてみた。
「あの…今のお聞きしててちょっと気になったんですけど、気になると考えちゃうのが僕のクセで。従者を手懐けてるって、人間じゃ無いみたいな…もしかしてポタトリアって、みんなペットとか飼ってるんですか?」
3人は即座に否定した。
「ペット?食料もそんなに多くねぇのに無理だろ」
「みんな飼ってる訳ねえだろ、こんな地下でよ」
「そうだな、生き物を従えてるのはあのお方ぐらいだろうよ。特別さ」
やっぱり、皇帝だけが何やら付き従えさせているらしい。ボルシチョフが身震いした。
「皇帝一族だけが飼い慣らせる獣さ…俺も一度だけ遠くから見たが、震え上がったぜ」
「どんな獣ですか?」
「ううん…何ていうのか…この世界のものじゃねえよ」
(うーん…突然変異かな?それとも地上にいる動物か?この人達は動物自体見慣れてないからな…。もしかしてだけど、ホー君みたいな存在かもしれないよな…似たような伝説がポタトリアにも有るんだろうか)
「それってポタトリアの伝説とか昔話に出てきたりしないんですか?」
「ああ…竜が出てきて世界を荒らして回るってのは有るな…そういや、ガキの頃に見た絵本で、そんなのあったぜ。悪い子にしてると、竜に連れてかれちまうってな!」
「そんなの有ったな…そうだ!その犯罪者も連れてかれたんじゃねえか?」
「おい、その話は止めだっつったろ!」
ポテサロフは何だか、話を変えたがっているように見える。少し方向を変えてみるか…
「とりあえず、凄いんですね皇帝って」
「ああ、あの人が治めてるなら安泰だろうよ」
「そっか…ライス王国は大変なんですよ。王子が行方不明になったんで、色々と…まあでも、今は七人の代表者が肩寄せあって頑張ってますよ」
ポテサロフはぐいと身を乗り出した。
「ポタトリアでモノ決めるには、皇帝一族だけで十分だからな。そっちは、大勢で訳わかんない結論にならなきゃいいがな!」
「船頭多くして船、山に登るってやつですね」
「あん?何だって?」
さっきの会話で地下にも湖があって、小型の舟で渡れるなんて話題が出ていた。だから地下世界でも船が何かは分かるはずだ。
「船を動かす人が船頭です。みんながそれぞれグチャグチャに船を漕いでたら、船がいつの間にか山に登ってたなんてこともあるよ、って言う諺です」
「へえー、オオモリ、面白い言葉を知ってるな!」
3人は素直に珍しがってくれた。良い感じだ。
「こっちも王子がいたら違ったんでしょうけど、どこ行っちゃったのかなあ…」
「行方不明つってたな」
「そうなんです、2年半ぐらい前ですかね」
ピロシキンがふと宙を見上げ、口を開いた。
「そういやあ、ちょうどその頃じゃねえか?すごいエレクの奴を捕まえたって…」
すると、ボルシチョフがピロシキンに、ロシア語で注意した。
「おい、良いのかよ。そんな本当か分からねえ噂話を話して」
「あん?これぐらいは大丈夫じゃねえのか」
二人はロシア語になったが、おこめ父さんには聞こえている。
(すごいエレク?アーサのお父さんならあるかもな。王子には悪いけど話に乗っかるか…)
話が変わる前に、おこめ父さんは畳み掛けた。
「えーそうなんですか、そういや王子の一族は犯罪者だって噂もあって。先祖が昔、別の一族を追い出したとかいう話も聞いたんですけどね…もしそんなすごい人を捕まえるなら、きっともっと話題になりますよね?」
しゃべりながらおこめ父さんは、周りの空気が変わっている事に気づいた。ポテサロフが冷えた目をこちらに向けている。彼は英語でハッキリと言い放った。
「おい…滅多な事を言うもんじゃねえぜ」
しまった、突っ込みすぎたか…何とか空気を変えないと。
「そ…そうですよね、すいません何か変な事言っちゃって。お詫びにもう一杯…へい店主、飲み物!それと美味い料理も頼みまーす!」
3人は酒には勝てないようで、再び陽気なムードに切り替わった。金貨のお陰か、酒もすぐに運ばれてくる。
「さあ、乾杯でーす!すいません、ベラベラ尋ねちゃって…皆さんが色々詳しいしお話が新鮮だから、つい」
ポテサロフも和んだように、中身を飲み干したグラスに目を注ぎながら、ロシア語でポツリと小さくつぶやいた。
「…まあそんな奴がもしいるんなら、しっかり牢屋に繋いどかねえとじゃねえか?」
ピロシキンとボルシチョフはポテサロフを同時に見ると、笑いながらロシア語で応じた。
「ハハハ、それこそ要塞にな!」
「違えねえ、ガハハハ!」
おこめ父さんはよく分からないふりをして、ニコニコしていた。
ちょうどそこでメイン料理が運ばれてきたので、しばし話題は食事の事に移った。ポタトリアではライス王国よりも、食の環境が良さそうだ。追加のお酒も進んでしょうがない。
「ハーハハハ…ウップ。グプッ!」
2時間近くが経ち、おこめ父さん以外は完全に酔っ払っていた。特にポテサロフは飲み過ぎたのか、かなりフラフラ気味だ。
「あぁ…ゲブ…今日は飲み過ぎたな…」
4人が酒場を出ると、外はまだ明るかった。だがライス王国や日本では夜7時頃のはずだ。
ピロシキンとボルシチョフは何とか自分で歩けそうだが、ポテサロフはヨロヨロして危なっかしい。店を出る時も扉に頭をぶつけて「なんだお前、やるのか?」とか言っていた。
「まいったな、俺達そろそろ家に帰らねえと、家族に叱られんだよ。こいつと逆方向でよ…」
「あ、じゃあ…僕がポテサロフさんを家まで運びまーす!皆さん今日は本当にありがとうございました!」
「おう、また来いよオオモリ!」
ピロシキンとボルシチョフに手を振って、おこめ父さんはポテサロフに肩を貸しながら歩き始めた。
「ウブッ……すまん、すまねえなオオモリ…」
「何言ってるんですか、困った時はお互い様ですよ!」
おこめ父さんにも、酒を飲み過ぎて失敗した経験は何度もあった。だから酔って辛い時の気持ちは分かる。
「ガフッ、お前良いやつだな…」
「皆さんこそありがとうです…また、もっと交流したいですよ。あんまり国と国がもっと交流しようって事にならないんですか?」
ポテサロフはしばし無言になった後、口を開いた。
「…さあな、お上のことは俺にはよく分からねえ。だが、お前は良いやつだから忠告するけどよ…あまりライス王国の人間が、ちょくちょく来ないほうが良いんじゃねえかな。この国を探りすぎると、スパイ扱いされたり、捕まるのがオチだぜ」
先程から彼は、何か色々と怖がっているのだろうか。
「…さっき言ってた、その王子だかの話も深入りしねえ方が良いぜ」
「えっ、どういう事ですか?」
「だからしつこく聞くなって!この国じゃ誰が聞いてるか分からねえんだ。密告も日常茶飯事だし、カメラも至る所にあるからな…皇帝の目と耳だよ」
「何だか…大変なんですね、あなたも」
「まあな、でも家族を養わにゃならんからよ。逃げられねえさ…俺も牢屋にぶち込まれちまう」
家族を想う気持ちは、おこめ父さんにも痛いほど分かった。どこかためらっている様子のポテサロフを抱きかかえながら、おこめ父さんは黙って次の言葉を待った。
「…あいつは昔からそうだった。気に入らねえとぶちのめしたり、捕まえたりだ。コイモスって一族がいるんだがよ…どこかから流れて来て、ポタトリアに住み着いたって噂だ。そうだ、お前らライスの奴らに顔が似てるんだよ…はぐれ者の一族なんだが、皇帝は今もそいつらを虐げたり、こき使ってる」
「…そうだったんですか、知らなかったです」
ポテサロフは天を仰いだ。
「…今の皇帝には、いとこがいたんだ。同じぐらいの年でな…でもそいつはコイモス一族として暮らしてた。子どもの頃、そいつを集団でいじめてたんだよ…今思えば悪いことをした。そいつは父親も母親も病気で死んじまった。謝りたいと思った時には、そいつは行方知れずになってたよ」
ポテサロフの告白に、おこめ父さんは何も言えずにいた。
「言ったろ?そいつを襲ったことがあるって。何回かそういう事があって、実は最後みんなやられちまったんだよ。でも目覚めたらそいつはいないし、皆どうやってやられたか、よく覚えていなかった。毒ガスでもかがされたんじゃねえかって噂も流れたんだが…だが、俺は薄らぼんやりだが、確かに奴の身体から黄色い円盤が出たのを見たんだよ。誰も信じねえから言うの止めちまったけどな。でも、もしかしたらあれは亡霊だったんじゃねえかなって…今でもたまに夢に出るんだよ…そしていつか、俺達をもう一度倒しに来るんだ。いじめた罰だよ」
ポテサロフの後悔が、この世のものとも知れぬ体験と相まって膨らんでいるようだった。彼の恐怖を感じる理由が少し分かった気がした。
そして、彼の話には思い当たる節がある。虐げられていた一族。黄色い円盤。まさかイモモチが皇帝のいとこだとは露にも思わなかったが…
おこめ父さんはポテサロフの目を見て言った。
「僕は、あなたの話を信じます」
ポテサロフは驚いた様子を見せたが、やがて唇をニヤリと曲げた。
「へっ、調子の狂うやつだぜ…でも、ありがとよ」
数分後、二人はポテサロフの家に到着した。
「ゲホッ…玄関前で良いぜ、オオモリ。本当ありがとよ…つうか、皇帝にはこの事…」
「分かってますよ、普通に劇場とか美術館とかを案内してもらったって言っときます」
「すまんな…もてなせって命令なのに、こんな酔いつぶれちまったと知れたらヤベえからな…恩に切るぜ。そういや、帰り道分かるか?」
「あ、はい…たぶん」
「そっちの道をずっと真っ直ぐ行きゃあクレムリンだ。高速輸送機だと目的地の入力が説明しづらいからよ、15分ぐらいかかるが歩いた方が確実だ。悪いな…」
「いえ、酔い覚ましに歩く方が良いでーす。では、楽しかったです!また今度でーす」
おこめ父さんはキョロキョロ周りを見物しながら、帰り道を歩いた。しばらく行くと左手前方に、工場のような建物が見えてきた。
「へえー…何か作ってるのかな?」
敷地の塀は2メートル程で、縁に手を掛けてジャンプすると、若干だが中の様子が分かる。奥の方にチラッと、黒く長めの筒が何本も置いてあるのが見えた。
「うーん、気になるけど…でももう戻らないとな…」
未練を残しつつ、おこめ父さんは小走りにクレムリンへと急いだ。その姿を捉えていた街頭のランプが、キラッと光った。
「ハァハァ、すいませーん、ギリギリになっちゃって…」
クレムリンの敷地に入ると、兵士達がおこめ父さんを取り囲んだ。
「こっちだ」
厳重なおもてなしを受けながら、おこめ父さんは城の内部を進んで行く。案内された扉の先には、何やら機械が立ち並んでいた。モニター画面も壁一面に広がっている。
「あの、こっちでしたっけ…?」
ちょっと嫌な予感がした。すると部屋の奥の扉が開いて、ショカライ皇帝が入って来た。
「皇帝、見学させてくれてありがとうございました!あれ、ライスとの協議は…」
「…協議は抜けてきた。見過ごせぬ事態だからな」
皇帝は鋭く凍った目でおこめ父さんを見据えた。
「貴様にはスパイ容疑がかかっている。この場で逮捕させてもらう」




