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6 ホー君

 倒れ込んだおこめ父さんの元へ、チームメイトが駆け寄って来た。

 「ナイスだったぜ、トーサン・オコメ!」

 「い、いや…皆さんのおかげです。ノリスケさんも最後凄かったですよね…あれ何ですか⁉」

 「そうだよノリスケ、あの土壇場でエレクパスを出すなんてなぁ!さすがだぜ、ガハハハ!」

 身体から発されるエレクを伝え、ボールの軌道を変えるパスをエレクパスと言うらしい。だが超一流選手でも1試合で一度成功すれば良い方だそうだ。それを最後の最後で放ったノリスケの技術と胆力は大したものである。ノリスケは照れながら頭をかいた。

 「俺も練習で1回しか成功したこと無かったんですけど…でもその前の攻撃で休ませてもらったし、トーサンのプレーを見てたら俺も頑張らなきゃって。そしたら絶対成功するような気がしてきたんです」

 「でもそれで本当にできるのは、やっぱり凄いですよ…それに僕が頑張れたのも、皆さんに励ましてもらったり、ボールを繋いでもらって、それで勇気をもらえたからです」

 「うぃー、正にそれぞれが助け合って高め合ってってか…やっぱりよ、俺達は伝説の七人だぜぃ、ヒック!」

 「ああ、七人の勇者だ、ガハハハハ‼」

 しばし喜びを分かち合ったライスチームの七人は、審判に「早く整列しなさい!」と怒られ、そそくさと列になり相手チームと試合後のハイタッチをしたのだった。


 朝穂とアーサも観客席から降りてきて、おこめ父さんを達をねぎらった。

 「お父さん、凄かったね!」

 「ありがとう朝ちゃん、でも体は結構ボロボロかも…ハハハ、明日起きれるかなあ…」

 「あら、またrelief gardenに行ったら?」

 「あ、まあ確かに…身体を癒したいのは山々なんですが、1日に何度も痺れるのはちょっと…」

 「ふふ、それもそうね」

 笑っていたアーサは、ハッと気付くとポケットを叩いて時間を確認した。

 「ごめん、そろそろ交渉の時間だわ!もう戻らないと」

 「えっ、交渉?誰かと話し合い?」

 「ポタトリアとよ…イモモチと手下のデンプニスが頑なに口を閉ざしているけど、絶対にポタトリアと組んで何か企んでいたはずよ。それなのにポタトリア皇帝が、何も知らなかったし関係してないって。しかもポタトリア出身の二人を捕まえたままなのは人道的におかしいから解放しろって…」

 おこめ父さんは唖然とした。

 「ええっ⁉イモモチとデンプニスを返せって言ってきてるの?」

 元ライス国王イモモチの大昔の祖先はライス王国に住んでいたが、祖先が大きな罪を犯しポタトリアへと追放されていた。

 子孫であるイモモチは数十年前からライス王国に潜伏し、頭角を現して国王にまで登りつめた。そこで手下のデンプニス達を使って、ライス王国を完全に支配し、引いては地上に攻めて出ようとしていたのだ。

 数ヶ月前におこめ父さん達がそのピンチを救ったわけだが、捕まえたイモモチとデンプニスは牢屋で生活させながら何を企んでいたのか話させる、と聞いていた。

 二人との関係を認めないばかりか、あろう事か元凶と思われるポタトリアが引き渡しを要求して来るとは…

 「本当はお父さんの事も本格的に探したいんだけど、こっちの話で手一杯で…」

 そう話すアーサをよく見ると、目元にクマが出来ていた。そう言えば以前より少し痩せたかもしれない。

 「お母さんや他の村の代表者達と一緒にポタトリアと話すんだけど、話が平行線で進まないのよね…」

 「そっか…ごめんね、そんな時に呑気に試合なんかしてて。しかも見に来てもらっちゃって」

 「良いのよ、私も気分転換になったわ。夕方には終わるから、良かったら夕食でもどう?朝穂ちゃんが良ければだけど」

 「あ、はい…それは大丈夫です!じゃあ朝ちゃん、ちょっと時間つぶしてよっか」

 「うん、そだね!」


 おこめ父さんと朝穂は、結局relief gardenに行って時間を潰した。朝穂もstate of elec以外の部屋に入って寛ぎ、おこめ父さんは再び電流を浴びて気絶し、身体を回復させた。

 「何かもう、ビックリし過ぎて頭がついて行かないかも…」

 休憩室で寝転びながら朝穂が言った。今日一日で地下世界やら高速輸送機(ディストリビューター)やら、一生分の驚きを味わった気がする。

 「そうだよね、お父さんも最初はビックリしたよ…しかも崖から落ちてボロボロだったしね。でも、あのアーサ王女に助けてもらったんだ」

 「そうだったんだ…アーサお姉ちゃん、試合の時とかも優しく話してくれたよ」

 「うん、口調は時々厳しいけど優しいし、家族や仲間想いなんだ」

 朝穂が水を飲みながら視線を落とした。

 「…でも今日、辛そうだったね」

 「そうだね…」

 「私、試合の間も色々おしゃべりしたの。お父さんが王子で行方不明なんだよね?それなのに、変な奴に国を乗っ取られて、そいつは倒したけどポタトリアって所に嫌がらせされてるんでしょ…?ねえお父さん、何とか助けてあげられないかな」

 「そうだね…僕ら親子二人でお世話にもなってるし、よし何か考えるか!」

 アーサは、王子がどこか別の国にいるのかもしれないと言っていた。イモモチの支配からも解放され、ライス王国内はくまなく探したそうだから、確かに何らかの理由で国外にいてもおかしくは無い。

 それにイモモチがライス王国を騙した頃、急に王子は姿を消したのだ。これらの出来事に共通して関係してくるのは、一つの国である。


 「ポタトリアに、何か情報があるかも知れない」

 セリーナ王妃とアーサ、そして朝穂との夕食の場で、おこめ父さんは発言した。

 「えっ、急にどうしたの⁉」

 セリーナとアーサは、おこめ父さんの次の言葉を待った。

 「イモモチとデンプニスの事にしても、国外からじゃ分からないことがあるんじゃないかな。それにライスボール王子の情報も、イモモチとの関係から何か情報が得られるかもしれない」

 「…それは私達も考えたわ。でも、ポタトリアって元々ガードが固くて、私達は特に警戒されているから国内に入れてもらえないのよね。良くても皇帝の住むお城止まりなの」

 セリーナが首を振った。よく見れば彼女も、どことなく疲れた様子である。

 「…そこでです。僕が政治とかに関係ない一般人みたいな感じで、何とか理由を付けて潜入できないですかね」

 これには王妃も王女も驚いたようだ。

 「何考えてるの、トーサン!それこそ危険よ」

 「そうねえ、バレたら何をされるか分からないわ」

 「何とかなりますよ…僕、昔海外留学してたこともあって、外国の方と打ち解けてたりしました」

 「それとは訳が違うわよ!」

 アーサが怒鳴った。だが心から心配してくれているのが伝わってくる。おこめ父さんは続けて言った。

 「僕達も皆さんにお世話になってるし、何かしたいんです…あと、地下世界の他の国にも興味は有りますし。一般人がポタトリアに入るのって、そんなに不可能なんですか?」

 「うーん…私は一度も入った事無いのよ。コーネル合衆国やメンドル民国は有るんだけど、ポタトリアは話に聞いてるだけ。お母さん分かる?」

 「そうねえ…実は私は結婚前、ポタトリアに旅行に行ったことがあるの。それと結婚した時も食事会に招かれて、特別に色々国内を案内してもらったわ。私達はこんな交渉してるから無理だろうけど、一般人なら理由を付けて入れる可能性はあるかも。でもねえ…」

 二人も何か情報が得られる期待は有りそうだが、おこめ父さんの身を案じて、遠慮してくれている気がした。

 「よし、じゃあもう決めました!絶対行きます」

 「大丈夫、うちのお父さん、正直いつもはこんな感じだけど、やる時はやるから。公務員だから、ハードなクレームにも慣れてるし」

 横から朝穂も口添えした。

 「えっ朝ちゃん、いつもはこんな感じ…って、どんな感じ?」

 「だから、こんな感じよ」

 父子のやり取りを見て、セリーナとアーサは思わず笑ってしまう。

 「ふふ…仲いいのね」

 「そんなこと無いよ!」

 朝穂が口を尖らせた。

 「…でも、本当に頼って欲しいんです。王子の情報も得られるかもしれない」

 「…そうしたら、一度だけお言葉に甘えてみようかな。私もお母さんも、ポタトリアには何かあるって思ってるのよ。国内では実は結構みんな知ってる…なんて事もあるかも。何せ、スマポでも国外からの連絡は通じないの」

 アーサに続いてセリーナも口を開く。

 「そうねえ…意外と、国民の雑談や噂から得られる話って、結構価値があるのよね。火のないところに煙は立たないって言うし。でもトーサン、取りあえず一度だけよ。それから危ない事はしないで。私達も最大限バックアップするわね」

 かくして、おこめ父さんがポタトリア帝国に潜入することが決まった。決行は1週間後の土曜日と決まり、入る方法や段取りはセリーナとアーサで考えておく事になった。ちなみに朝穂も行きたがったが、三人に猛反対されて終わった。


 次の土曜日。おこめ父さんは身一つでライス王国へ向かった。手土産の一つでもと思ったが、地上のお菓子など持って行った日には、一発で要注意人物にされるだろう。行きたがっていた朝穂は、しぶしぶ納得して父を見送った。

 先週、うっかり何時集合か確認し忘れてしまったので、早めに行く事にした。ポタトリアへ向かうのは午後と決めていたが、それなりに準備もいるだろう。

 おこめ父さんがライス王国に着いたのは午前11時過ぎだった。書物庫から顔を覗かせると、何やら皆バタバタしている。

 ヅケマグロがいたので聞いてみると、「ちょっと事故が起きましてね…」と言いながらどこかへ走って行った。

 おこめ父さんがウロウロしていると、アーサが走ってくるのが見えた。

 「トーサン、もう来たの?実は、崖が一部崩れちゃって…近くにいた人がケガしちゃったらしいの。すり傷ぐらいらしいんだけど、ちょっと様子を見に行ってくるの。どうして起きたかも調べて、また起きないようにしなくちゃ」

 「それは大変ですね…」

 セリーナも扉から顔を出した。

 「ごめんなさいねトーサン、でも二時間ぐらいで戻ってこれると思うの」

 「全然です、どうぞ行ってきてください!僕、適当にブラブラして時間を潰してますから」

 アーサ達がそそくさと駆けていくと、おこめ父さんはポツンと1人残された。

 (さて、どうしようかな…今日は疲れてないからrelief gardenじゃなくていいな)

 そこはちょうど王宮内の卵電車駅《エッグ・ステーション》へ進む通路であった。

 「そうだ、せっかくだし…帰りのボタンの順番を覚えてれば大丈夫だろ」

 そう言うと、おこめ父さんは卵電車(エッグ・トレイン)に乗り、行き先パネルをスタタタタンと適当に押してみた。

 間もなく電車が動き出し、着いた先は全然知らない郊外の駅だった。家もあまり見当たらない。

 「せっかくだから少し歩いてみるかな…」

 目印の卵電車駅《エッグ・ステーション》の柱を忘れないよう、適当な方向に真っ直ぐ歩いてみることにした。地面はエレクアイビーが生い茂り、既に結構歩きにくい。

 やがておこめ父さんは、より一層エレクアイビーが絡まり、森のようになった場所の入口までやって来た。この辺りはエレクアイビーが密集しているのに、なぜか暗く感じる。よく見るとアイビーの種類が違うのか、光をあまり発していないのだ。

 (ライス王国も広いんだな…この辺は人もあまり来ないのかな?)

 アイビーの葉に触れると、尖った葉の先がおこめ父さんの指をチクッと刺した。

 「痛てっ!」

 思わず指を引っ込める。よく見ると、葉が鉄のようにガチガチに硬く、そして鋭いのだ。人を寄せ付けまいとしているようにさえ思える。

 (なんか怖くなってきたな…もう戻って王宮で時間を潰そうかな)

 おこめ父さんがそう思った時、茂みの奥で何かが光った。ハッと目をやると、赤い二つの光がこちらを刺している。やがてそれはただの光ではなく、得体の知れない何かの目である事に気付いた。

 (やっべー…何かいる…怪物か何かだったら食べられちゃうな…)

 おこめ父さんはジリジリ後ずさりしたが、途中でツタに引っ掛かって転んでしまった。赤い目は一層光を増しながらゆっくりと動いた。終わった、食べられちまう…


 「どうした、米頭(こめあたま)の人よ」

 おこめ父さんの横からくぐもった声がした。しわがれているが、若そうにも聞こえる声だ。

 尻もちを付いたまま、おこめ父さんが声の方を向くと、すぐそばに布を顔に巻いた男が立っていた。

 いつからここにいたのだろう、全然気付かなかった…

 男は若そうに見えるが、よく見ると目元にシワもあった。口元と頭は布で覆われていて、年齢もよく分からない。

 「あ、あの…米頭って、僕のことですか…?」

 「いや、すまん…オコメ・トーサンだったよ」

 名前を呼ばれて、おこめ父さんはむしろビックリした。

 「えっ、僕のこと知ってるんですか?」

 「まあよ」

 そう言うと男は、茂みの方を向いて低く叫んだ。

 「おーい、この人は信頼できるやつだ、大丈夫だよ」

 すると茂みの奥でゴソゴソ音がした。それは鉄のようなアイビー同士が擦れる音で、やがて二人の眼の前のアイビーもスルスルと動き始めた。意思を持ったかのようにツタや葉が外へ広がって行き、茂みの中心がポッカリと空いた。

 空間の奥から、赤い目がこちらへ近づいてくる。姿を現したのは、鳥に似た巨大な生き物だった。


 「で…で…出たーーっっち‼」

 背の高さは4、5メートルはあろうか。長めの首はクジャクにも似ているが、尻尾は2メートル程は有りそうだ。翼は大きく畳まれていて、おびただしい数のカラフルな羽根が生えていた。さらに鳥に似ていると思ったのは、金色に輝く、鋭く伸びたくちばしを備えているからだ。

 「えぇ…あばば、と、鳥なのか…⁉とりとられ…」

 おこめ父さんが意味不明の言葉を喚く側で、布男が静かに諭すように言った。

 「驚かれるのも無理はない…地上の人はもちろん見たことは無いだろうし、地下世界でも存在を知るのはごくわずかよ」

 彼は全然動じておらず、むしろ昔からこの生物を知っているようだ。男は続けた。

 「ときに米の人よ、なぜここへ?」

 「えっ、ああ、あの…えっと、適当にボタンをいくつか押しちゃいました…僕の生年月日とかで。アーサ王女に会いに来たんですけど急な用事が入ったんで、ブラブラ冒険してみようかと…王国へ帰る操作は分かるので」

 おこめ父さんが慌てながら一気に話すと、男はなるほどと言うようにうなずいた。すると先ほどより少しだけ、緊張がほぐれてきた。

 「あの、こちらの方は…あなたのペットですか?」

 男はすぐさま被りを振った。

 「いやいや、ライス王国にはこんなペットはいない。なんせ食料が慢性的に少ないからよ…」

 「そ、そしたら…この鳥さんは何を食べてる…」

 「水と空気だよ、あと地中の石とかだね」

 急に眼の前の生き物がくちばしを開いた。

 「うわぁー、しゃべってる⁉」

 再びおこめ父さんはガクブルしだした。

 喋るしこちらの言葉も分かるとは…ペットとか失礼な事を言ってしまった。ヤバい、やられる…

 が、その生物はペット云々は特に気にしていないようだった。

 「そりゃ喋るよ、口あるし…あと、鳥でもないけどね。まあ、君の世界では鳥が一番近いのか…でも、こんな鳥いないでしょ?」

 「あ、はい…たぶん」

 そもそも身長が数メートルもある。昔ならプテラノドンとか、恐竜でこれぐらいの空飛ぶ動物はいたかもしれないが、目の前にいるのはもっと鳥に近い。あとたぶん、プテラノドンは人間語を喋らない。

 それに、こんなにカラフルで、尻尾もすごく長くて、こんな生き物見たことが…

 (あれ?見覚えがあるぞ…)

 おこめ父さんは思わず叫んだ。

 「そうか…アーサのおもちゃにそっくりだ‼」

 布の男が反応した。

 「ああ…王女のことかいな。そうか、あの子が持っているか…だが恐らく、あの子はまだ、これが実在する事は知らんと思うよ」

 「えっ⁉」

 おこめ父さんが聞き返すと、男は急に口を閉ざした。

 「…少し喋りすぎたよ」

 「大丈夫だよ、カキタネ。確かに誠実で真っすぐな人みたいだし…たぶん秘密も守れそうじゃないかな。

それに僕も思い出したよ。君、こないだ崖の下で寝てなかった?」

 巨大生物に話し掛けられ、おこめ父さんはドキッとした。

 「こないだ…崖でですか」


 突然、おこめ父さんの脳裏に情景が蘇った。

 最初に地下世界へ来て崖を転がり落ちた日の明け方、何かにツンツンされて目を覚ました。起きたら地面に、鳥みたいな影が一瞬映っていたのだった。

 しかしその後、街を歩いてても鳥なんて見掛けないし、寝ぼけていたのかと思い、その後特に気にもしていなかった。

 「うん、死んでるのかなと思ってつついたんだ。起きそうだったから飛んで逃げたけどね…明け方は大体誰も起きてないから、たまに空を少し飛んだりしてるんだけど、上空から君が見えてね」

 そうだったのか…あれは夢じゃないし、見間違えでも無かったのだ。

 「まあよろしくね、コメアタマくん」

 「いや、僕はおこめ…まあ良いか。よろしくです…えっとあなたは」

 「知ってる人は僕のこと、ホーオーって呼ぶけどね」

 「ホーオー…ですか」

 「拙者も本名はよく知らんが、鳳凰(ほうおう)と呼んでいるよ」

 先ほどカキタネと呼ばれた布男が、久しぶりに喋った。鳳凰は軽く頷く。

 「まあ、コメアタマ君の呼びたいように呼んでよ」

 「僕もコメアタマ君って呼ばれてるから、あだ名で呼びあっても良いか…えーっと、じゃあ…ホーさんかな」

 「ホーさんだと言いづらいし堅苦しいな…ホー君で良いよ!」

 今度はカキタネが少したじろぐ。

 「おお…この鳳凰をそんな軽々しく…」

 「良いよ良いよ、気軽な感じでさ」

 おこめ父さんは思った事を口にしてみた。

 「あの、ホー君はここで暮らしてるんですか?」

 「そうだよ、ここは僕の寝床なんだ。僕は1週間ぐらい寝て、1日起きたりするんだよ。今は君の気配で起きたとこ。君とはちょうど、よく会うよねー」

 「この辺は限られた者がさり気なく見張っているんだよ。まあこんな所、普通の人は来ようとも思わないがね」

 カキタネがおこめ父さんをチラッと見た。

 「え、えへへ…すいません、来ちゃいました。ちなみに、人間語はどうして分かるんですか?」

 「たまに人の話を聞いてたら覚えたかな」

 (こんな所に住んでて、そんなに会うのか…?しかも1週間寝て1日起きてなら、会う機会が少ないんじゃ…さっきカキタネさんも、アーサだって存在を知らないって言ってたしな)

 信じがたい顔のおこめ父さんに、カキタネは軽くため息をついた。

 「米の人よ、鳳凰は何百年も生きているのだよ。我々の考えが及びもしない生物なのだ」

 「ええー?先輩に生意気な口聞いて、本当にすみませんでした!」

 「ははは、だから良いって」

 「あの…あなたは、神の遣いなのですか?伝説の書にも、神が聖なる獣を従えてやって来たって」

 ホー君は少し困った顔になった。

 「うーんそれ、カキタネにも聞かれるんだけど、よく覚えてないんだよ…ごめんね。何せ数日は続けて眠るし、しかもここに来た時の僕は赤ん坊だったんだ。物心が付いたらここで暮らしていたんだよ」

 そう言えば、おこめ父さんの眼の前のこのホー君は、子どもに近い話し方である。

 日本で鳳凰と言えば不死鳥と同一視され、永遠の繁栄や不滅の象徴だ。数百年前に生まれたとしても、鳳凰の世界ではまだ子どもなのかも知れない。

 しかし鳳凰が実在するとは、さすがに思ってもいなかった。歴史の教科書で銅像の写真を見たことがあるが、想像で作ったものと思っていた。京都の有名な寺院の上なんかに乗っているやつだ。記憶では、その銅像はホー君と似ている部分もあるが、ちょっと姿形は異なるようだ。

 

 おこめ父さんが物思いにふけっていると、いつの間にかホー君は少し悲しそうな表情になっていた。

 「…時々、歴代の国王とか、他にも会いに来た人達がいたけど、みんな僕より先に亡くなっちゃうんだ」

 ホー君の辿ってきた数百年の孤独を想い、おこめ父さんの目から思わず涙がこぼれた。

 起きている時間が8日に一度だとしても、数十年分はあるだろう。その間、限られた人間とだけ会話し、しかもその者たちは消えてゆくのだ。自分の周りだけが老いてゆく辛さは、察するに余りある。

 「ありがとう、心から悲しんでるのが伝わるよ。コメアタマ君、いい人だね…まあでも、仕方ないからあんまり気にしてないよ。そういうものだし」

 「き、急にドライだな…」

 「まあ、でも知り合いが増えるのは嬉しいよ。あまり皆に知られると困った人も来ちゃうから、普段は出てきたりしないんだ。カキタネが大丈夫だって言うからさ」

 どうやら彼はホー君の信用を得ているらしい。素性は分からないが、きっと良い人なのだろう。

 「…だって、カキタネが子どもの頃から知ってるからね。彼の一族は、古くから僕の周りの事を気にしてくれているんだ」

 おこめ父さんは興味が湧いて尋ねてみた。

 「えっ、それってどれぐらい前なんですか?カキタネさん何歳ぐらいか分からなくって」

 「おいおい、それは聞かんでくれよ」

 カキタネが苦笑したので、詳しくは内緒で終わった。時計を見ると、そろそろ王宮に戻ったほうが良さそうな時間だ。

 「ありがとうございました、また来ます…ちょっと今日はこの後大事な用事が有りまして」

 「いや、こちらこそ本当に感謝しているよ…時に大事な用事とは?」

 カキタネに聞かれてちょっと迷ったおこめ父さんは、少しボヤかして答えることにした。

 「えっと、ポタトリアに行くんです…ちと見学旅行で」

 カキタネはしばらく黙っておこめ父さんを見つめていたが、やがて近づいて来た。そして、おこめ父さんの背中まで手を伸ばし、思いきりハグし始めたのである。

 「…気を付けるが良いよ、米の人」

 (ググ、苦しい…凄い力だなあ。なんて感動しやすい人なんだ、この人…)

 「それと分かってるとは思うが、鳳凰の事はアーサ王女を含めてまだ内緒で頼むよ。本来は王の後継者と、他のごく一部の者にだけ、然るべきタイミングで伝えられていくんだよ」

 ようやくカキタネが離してくれたので、ゼエゼエ息を整えながら、おこめ父さんはカキタネの言葉を心の中で反芻した。

 (そっか、王子が急に行方不明になったんだもんな…見つかるかもしれないし、僕から言うのは辞めといたほうがいいよな…)

 「分かりました、僕からは何も言いません。そろそろ行きますね。ホー君、またね!」

 「うん、またねー」


 おこめ父さんが王宮に戻ると、アーサとセリーナは既に準備を始めていた。

 「あら、お帰りなさい。どこ行ってたの?」

 「はは、ちょっとその辺を…」

 「じゃあ、作戦に移るわよ」

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