2 非日常
翌日の土曜日。朝6時半に起きたおこめ父さんは、家族を起こさないようそっと寝室から抜け出すと、手短に朝ごはんを済ませ、シャワーを浴びて身支度を整えた。
さらに外のトランクルームから、大きなスーツケースを2つ引っ張り出したのだが、なんと中には何も入れず、そのまま持って家を出た。
空っぽとは言え、片手でそれぞれスーツケースを引きずりながらの道中はなかなか大変だ。下にキャスターがついてはいるが、時折変な方向に曲がるのを直しながら、おこめ父さんは進んでいく。
向かった先は駅ではなく、自宅から500mほど離れた場所にあるお店だった。
「おはようございまーす」
「おお、おこめ父さん来たか!もうちょいで全部仕上がるからな‼」
ここは緒小芽市ではちょっと名のしれたお餅屋、その名も「餅兵衛」である。
おこめ父さんは時々ここでお餅やお菓子を買っており、店主とも顔なじみだった。ちなみに朝穂の一生餅もここで注文している。
「今回はありがとうございます、大変なお願いを引き受けていただいて…」
「良いってことよ!お代はしっかりもらうしな、ハハハ!ところで小芋の朝ベエは元気かい?」
「小芋の朝ベエじゃなくて人間の朝ちゃんです。相変わらず元気ですよ…それより朝っぱらからすいません、大変だったでしょ」
「いやいや、おこめ父さんの頼みとあっちゃな!昨日から仕込んどいて、夜明けから突き始めたぜ!ハハハ」
店主の目の前には大きな杵と臼、そして大量のお餅がテーブルに乗っている。つきたてのお餅はものすごく熱そうで、真っ白な湯気を立てていた。
残っていた蒸し立ての餅を臼にいれると、店主は再び勢いよく杵でつき始めた。側にいた奥さんがリズムよく手を差し入れ、餅をこねくり回している。
「よいしょー!」「はいよ!」「よいしょー!」
夫婦は実に息の合った動きで餅をついていく。わずかでも呼吸がずれれば、奥さんの手を杵で挟んでしまいそうだ。絶妙な掛け合いに、おこめ父さんはしばし見とれていた。
「よし…こんなもんだな」
店主がタオルで額の汗を拭った。見れば餅の湯気と激しい作業で汗だくだ。
「あんた、さっさとシート巻いたほうが良いんじゃないかい」
「おう、そうだな」
休む間もなく、夫婦は薄いラップで餅を包み、さらにアルミのようなシートで覆ってくれた。この作業もとても手際が良かった。
「ほいよ、こうしとけばしばらく熱々のままだぜ!」
「ありがとうございます!すごく助かります」
おこめ父さんはお礼を言いながらスーツケースを広げ、片っ端からテーブルの上のお餅を詰めていく。
「おいおい、それに全部詰めるのか?一人で運べるのかよ…?」
店主と奥さんも手伝ってくれ、5分後には全てのお餅が二つのスーツケース一杯に詰め込まれていた。
「どこに持っていくか知らんが、気を付けてな!」
「はい、本当に助かりました。これお代です」
「ちょっと、これじゃ多いよ!」
奥さんが慌ててお釣りを出そうとするが、おこめ父さんは既に出入り口に向かってスーツケースを運び出していた。
「無理言ってやって頂いたお礼です。釣りは要らねえ、取っといてくんな!…って一度言ってみたかったんですよね…へへ」
「あんた、格好つけてるけど米さんに知れたら怒られるんじゃないのかい?」
さすが奥さんは鋭い。自分の小遣いの範囲とは言え、バレると厳しく追及されそうだ。
「はは、た、確かに…この事は内緒で、奥さん!」
「仕方ないねえ…今回は気持ちよく頂戴しておくよ。今度、大福サービスするから、また来てね!」
餅兵衛を後にしたおこめ父さんが向かったのは、今度は最寄りの駅であった。
スーツ姿で重いスーツケース2台を引っ張りヨタヨタ歩く姿はかなり目立ちそうだが、早朝なので幸い目撃者はさほど多くなかった。
一度パターゴルフの大会に出るという老人に「出張かい?大変だのう…」と声を掛けられたぐらいで、おこめ父さんは電車を降りて市役所に向かう。電車の駅で階段を昇り降りする時が一番きつかった。
(下の世界だとそんな事無いのにな…)
市役所では、土日でも10数人以上は仕事をしているはずだ。
役所は暇と思われがちだがそれは一部で、忙し過ぎたり仕事が終わらないが故、夜や土日の残業はザラである。おこめ父さんも今の職場以外だと平日は夜の9時10時帰りが当たり前だったし、何度も土日出勤を経験した。
よって土日に市役所に行く公務員自体は珍しくは無いのだが、スーツケース二つ抱えているとなるとそれなりに目立つ。幸い同僚には見られず、警備員室では「これも仕事で使うんです」と言ってごまかした。
おこめ父さんは、市役所地下の第四倉庫の前までやって来た。通常、倉庫の鍵は係長が持っているのだが、仕事などでよく使うからという理由で、特別にしばらくの間貸してもらっている。
断っておくが、ここの倉庫が地下世界というわけではない。この第四倉庫の中に出来てしまった入口を通って、もっと地下、数百メートルも下の世界に行く事が可能なのである。
その入口はエレクゲートと呼ばれ、空間を超えて地上と地下を繋いでいる。エレクと呼ばれる不思議なエネルギーを使い、地下世界の人間によって作られた出入口で、地下世界側にも対となるゲートが有って、互いを自在に行き来できるのだった。
今日もエレクゲートはその独特な黄色い淡い光をチラチラさせながら、第四倉庫の奥にしっかりと存在していた。サイズはちょうど大人一人分ぐらいなので、おこめ父さんはスーツケースを自分の前と後ろに従え、えっちらおっちら進んで行った。
ちなみにゲートは限られた人しか見えないし、通れもしないらしい。しかもこの倉庫は「開かずの第四倉庫」と呼ばれ、そもそも数年に一度人の出入りがあるかどうかだったから、秘密の入口には持って来いな場所である。
このゲートを作ったのは地下世界の人間のエレクによる力だが、緖小芽市物流センターの一角にある巨大なエレクゲートは、どうやら地下世界が誕生した頃、神と呼ばれる存在によって作られたらしい。
地下世界のライス王国では、神に関する色々な伝説が残っていて、神へのお供えや感謝を欠かさず行っている。ライス王国の人達は同じ日本語を話すけれど、地上の日本人と比べとても信心深いと、おこめ父さんは感じていた。
光に包まれたゲートの中を、ヒイヒイ言いながらおこめ父さんは進んで行く。餅兵衛から市役所の地下まで、かなり重量のあるスーツケース2台を運ぶのはさすがにキツかった。
もうちょっとだ、頑張れと自分に言い聞かせながら歩いていると、急に視界が開けた。地下世界側のエレクゲートの出入口に着いたのだ。そこは既にライス王国、王宮書物庫の中であった。
「ふう…」その場でしばし休憩すると、再びおこめ父さんはスーツケースを持って歩き始めた。
夏用の薄いスーツで来たものの、重い荷物を運んでいるから体は汗だくだ。それでも地下世界は、地上の真夏より全然涼しかった。1年を通じて、確か概ね25℃ぐらいのはずだ。
書物庫から出て少し歩くと、前から馴染みのある人物が姿を見せた。でっぷりした赤銅色の巨体に、人の良さそうな顔がほほ笑んでいる。
「トーサン、久しぶりー」
王国の兵士の一人、オセキ・ハーンである。
おこめ父さんが地下世界でピンチとなった所を、彼を含む5人の兵士、彼らが仕えるライス王国の王妃と王女、それからとある兵士の祖父に助けられ地上に一旦戻る事が出来たのだ。
付け加えるならばその後、自らもう一度地下世界を訪れたおこめ父さんは王女達と共に捕まってしまい、一生牢獄暮らしの大ピンチを迎えたのだが、力を合わせ辛うじて脱出し、さらに当時の国王の悪事を暴くギリギリ大逆転の末、今度こそ無事に地上に帰還したのだった。
今日はその時お世話になった人との約束を果たすべく、おこめ父さんは早起きして準備を整えていた。
「ハーンさん、お久しぶりです!お元気でしたか?」
「元気だよー。トーサンは今日どしたのー?王女なら今日はあいにく出かけて…」
「あ、良いんです。今日はモチモチ村に用事が有りまして」
「えー、そうなのー?」
ライス王国は7つの村で出来ている。そう言えばハーンは、正にこれから行くモチモチ村の出身だった。スーツケースの中身をプレゼントしたい所だが、今開けると飛び出てしまいそうだ。後で渡すか…
「じゃあ、こっちの奥の高速輸送機から乗ってくと良いよー。一人で行ける?」
「はい、ありがとうございます。大丈夫です!」
最初は戸惑ったものだが、高速輸送機の操作にも幾分慣れてきた。モチモチ村には一度行ったので、行き先の選択もバッチリである。
おこめ父さんはハーンに教わった通り奥の通路へ進むと、電車の停車場のような空間に出た。地上世界と違うのは、線路は無く代わりに丸いトンネルがずっと続いている事と、電車の代わりにどデカい金属の卵が浮かんでいる事ぐらいだった。
ここは卵電車駅。そこに佇む存在感ある卵型の物体は卵電車と呼ばれる乗り物である。
外から見れば太く長いパイプが網のように連なり、王国中に張り巡らされているのだが、その中のトンネル部分をこの卵電車が超高速で進む仕組みであるらしい。卵電車と駅、パイプのトンネル網を全部まとめて高速輸送機と呼ぶのだそうだ。
卵電車に乗ってスーツケースを荷物置き場に置くと、おこめ父さんは慣れた手つきでモニターのボタンを押し始めた。車内にはイスが用意されていて、座るとシートベルトが出てきて優しく包んでくれる。
息を付いたその瞬間、ものすごい加速が始まり、電車は一瞬でその場から消えた。電車同士が衝突しないよう調整されながら、エレクの力で電車は浮き、そして高速で人や荷物を運んでくれる。パイプが至る所に張り巡らされているから、隣の村に行くのも10数秒ほどの短い旅である。
モチモチ村中心の広場に程近い卵電車駅で降り、続けて移動機に乗った。国内のパイプ網は、邪魔にならないよう地面から15メートルぐらい上に張り巡らされている事が多い。上下や縦横に動いてくれる移動機のおかげで、上空の駅から地上(地下世界の地上のことだ)へ降りるのも実にスムーズだ。
かように便利なエレクの力だが、おこめ父さんにはまだまだ謎な事だらけだ。何でもこの世界の神が数百年前、自分を信じて付いて来た人々にこのエネルギーを授け、民の暮らしは豊かになったらしい。食料だけは地上からの輸入に頼っているが、こんな技術は地上には真似できない。
しかもごく一部に限られるそうだが、彼らはエレクを操る事もできるのだ。おこめ父さんは実際に、老人がエレクの力で身体の原子の繋がりを緩くし、腕や脚を餅のように伸ばす所を目の当たりにした。元国王から、エレクでできた円盤の攻撃も喰らった。極めつけは自分自身も、王女のエレクトル(エレクによる能力の事をエレクトルと言うらしい)で顔だけ家のリビング並みに巨大化した経験を持っていた。
顔だけ巨大モンスターになった経験なんて、絵本かファンタジー小説みたいだ。やっぱり地下世界の話なんて、信ぴょう性無いよな…
パイプの出口から外に出ると、広場の方からは歓声が聞こえてきた。時刻は午前9時半、日本とライス王国では時差は無いらしい。
民衆に近づいて行くと、気づいた者達がおこめ父さんを迎え入れた。
「王子⁉」「いや違う、トーサンだ!」「トーサン、久しぶり!」
王子に間違われるくだりも大分慣れてきた。ライス王国のライス=ボール・コメス王子は悲しいことに行方不明となっているのだが、おこめ父さんはその人物に激似らしいのだ。
ついでに言えば、セリーナ王妃やアーサ王女も米さんや朝穂にそっくりで、全員が一同に会したら、周りはさぞかし混乱する事だろう。
「遅かったのう、こっちじゃ!」
声の方を向くと、まるで杵のような形の頭をした老人が手招きしていた。潔いほど髪は一本も残っておらず、やや凹みは浅いけれど、そのまま頭の上で餅つきできそうである。さっきまで実際の餅つきを見てきたおこめ父さんは、ちょっと笑ってしまった。
「何じゃい、何かおかしかったか?」
「いえ、何でもないです…お久しぶりです、キネウス村長」
「そんなに久し振りかの?老人は時が経つのが早いでな…まあ良い、こっち来て観戦じゃ!」
見れば上空には、光る文字で「ハレ踊りプレシーズンコンペティション」と描かれていた。どんな技術で映し出しているのか分からないが、おこめ父さんはこんな事ではもう驚かない。
「あれ、でもハレ踊りって…確か年始めのハレ祭りで優勝者を決めるんじゃ無かったでしたっけ?」
ハレ祭りはモチモチ村の伝統行事で、新年のお祝いと合わせて開かれ、確かそこでハレ踊りが披露されると聞いていた。
キネウス村長は聞いていなかったようで、出場者の踊りに声援を送っている。
「その通りなんですけど、村長が踊りの大会だけ開くって言い出しましてね。先々月だったかな…1年に一度だと腕がなまるから、年に2回か3回はこんなふうにお披露目会が有っても良いんじゃないかって」
隣で突然、別の声がした。見れば、伸びたお餅のような帽子を被り、メガネをかけた青年が立っていた。
「あ、ノバリスさん!ご無沙汰してます」
「いえいえ、こちらこそ…」
彼の名はノビー・ノバリス。モチモチ村役場に勤める若者で、前国王の悪事を暴くために協力してくれたのだが、そのせいでおこめ父さん達と一緒に捕まり、共に臭い飯を食った仲だ。
あと意外に笑いのセンスが有り、お笑いにうるさいおこめ父さんとしては勝手に対抗心を燃やしていた。
「しかも、今回はお土産もあるから、なるべく大勢に来てほしいって。2カ月前からアナウンスしてましたよ」
お土産か…確かキネウスと前回話したのが先々月だ。3月に地下世界を訪れたときはモチモチ村を訪問しなかったので、ゴールデンウィークの途中で仕事に出た振りをして、もう一度訪れたのだ。
その際、おこめ父さんが今度はみんなにお土産を持ってくると言ったら、村長はやけに細かい日取りも指定してきた。
餅兵衛に頼むなら朝の方が都合が良かったのでその事を伝えると、「ならば予定は…ええ…7月8日の午前9時過ぎで決まりじゃ、この日時で絶対よろしく頼むぞい!」と念押しされていた。
ノバリスのスマポから映し出された映像には、「7月8日9時開始 ハレ踊りプレシーズン 優勝者以外にもたぶん豪華景品があると思うぞい!」と書かれていた。事前に村人には電子チラシが配られていたらしい。
(僕が急な予定入って行けなかったらどうしてたんだろう…ギリギリだなあ。まあ来れたから良いか…)
ハレ踊り大会は盛況だった。
太鼓と電子音がミックスされたような音楽に包まれ、特設ステージの上で数人が踊りを披露していく。
どうやら予選が何グループかあって、5、6人程度が一緒に踊り、良かった人達が残って決勝に進むらしい。
踊りは結構人それぞれに見えるが、身体のしなやかさと激しさがポイントなようだ。両方の要素がきれいに混ざり合った者が勝ち残っている気がする。
しばしの間、おこめ父さんやキネウス村長、ノバリスも会話することなく「頑張れー!」「良いぞー!」などと声援を送った。
予選が終わり、いったん休憩のあと決勝戦が始まった。6人が一斉に、ステージ上で華麗で激しい踊りを披露していく。
おこめ父さん的には右から2番目の青年の踊りが結構良いな…と思っていたら、正にその男性が優勝者となった。
「ふん、まあまあじゃったな…まあワシも負けてはおらんが」
「分かってますよ、村長は遠慮して出場しないんですよね」
キネウスとノバリスが話す側で、おこめ父さんはスーツケースの中身の事を思い出した。
「そうだ村長、こないだ言ってた例のブツを持ってきたんですけど…足りるかなあ」
「おお、そうじゃった!いやぁ有難うの‼なに、少しずつ分けるから大丈夫じゃろうて。トーサンよ、荷物を持ってステージに一緒に来てくれるか」
ノバリスもスーツケースを運ぶのを手伝ってくれ、3人はステージ上の優勝者の方へ近づいていった。
ステージに立つとキネウスは、まず優勝した青年をねぎらってから、村人に語りかけた。
「みんな、お疲れじゃった!全員がなかなか良い踊りじゃったぞい。観客も声援で一層盛り上げてくれたのう…それで今日は、優勝者以外にも賞品があるんじゃ。この、トーサンが持ってきてくれたんじゃよ…分かっとると思うが、王子じゃないぞい」
おこめ父さんがスーツケースを開けると、中のお餅はまだ大分温かかった。
「少しずつになるが、皆の分あるでの。慌てずに受け取りに来てくれい」
おこめ父さん達は何人かで手分けして、お餅を小さく千切ってどんどんみんなに渡していった。
「うわあ、美味しい!」「あったかくてモチモチがスゴイね!」
集まった人々は満面の笑みである。
すっかり大体に配り終えると、残りは野球ボールぐらいのサイズになってしまった。
「僕は大丈夫なので、村長も食べたらどうですか」
「おお…良いかのう」
「あの…俺も良いですか」
声の方を向くと、何と優勝した若者がヨダレを垂らしてこちらを見ていた。一緒に配るのを手伝っていて、自分は食べていなかったのだ。
「良い人だな…もちろんどうぞ!ねえ、村長」
「おう、優勝者じゃからな…まあ何だ、忘れてたわけじゃないんじゃが…まあ何だ、すまんかったのう」
結局、まだ食べていなかった青年、村長、ノバリス、そしておこめ父さんの4人で残りを分けて食べることにした。もちろん青年の分を一番大きく取り分けてあげた。
周りは思い思いに寛ぎ、お餅を食べたりしゃべったり、帰っていく者もいる。イベントの後の和やかな雰囲気の中、4人も取りあえず地面に腰を下ろし、お餅に舌鼓を打った。
「こりゃうまいなあ…いやあ、優勝しなくてももらえるとは思わなかったです」
ノバリスが言うと、おこめ父さんはほほ笑んだ。
「僕も大好きなんです、このお店のお餅。夫婦が2人でやってて、大きくはないけど評判なんです」
おこめ父さんはそこまで言って、しまったと思った。いつでも食べる事ができる自分が、そんな事言うと嫌味に聞こえるかもしれない。
だが、他の3人はそんなに気にした風でもなかった。ややあって若者が食べ終わり、一息を付いた。
「美味しかったです…でも確かに、まさかみんな食べられるなんて思わなかったです。結局プレゼントは優勝者だけかもと思って、今日に向けて結構頑張ったんだけどな、ハハハ」
そう言う姿は、別段本気で悔しいわけでも無さそうだ。
「当日になるまで分からんかったからの…苦労かけたな、ノリスケよ」
「本当ですよ、ハハハ…修行の合間を縫って練習したんですから」
冗談を言い合う二人だが、おこめ父さんはちょっと気になって尋ねた。
「あの、修行って?」
「ああ、エレクの修行ですよ」
ノリスケと呼ばれた青年は事も無げに答えた。
「えっ、エレクって修行するものなんですか?もしかして、エレクトルが使えるようになったりとか?」
「おお、そうじゃよ。まあ、修行しても皆が上手に行ったり、エレクトロになれるわけではないんじゃ…資質や向き不向きもあるしの。じゃが、成功した者は皆すべからく努力しておる!」
キネウス村長が言い切った。ちなみにエレクトロとは、エレクトルを使える人の事を指す。
この老人が言うなら何となく信じられる気もする。何しろ先ほど話に出てきた、エレクで身体をお餅のようにほぐして伸ばしてみせたのがこのキネウスなのだ。
さらに彼は、おこめ父さんをマジマジと見つめて言った。
「そうじゃトーサン、あんたも修行してみんか?」




