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10 囚われの先に

 懐中電灯の光を顔に当てられて、おこめ父さんは目覚めた。ポータライトって言うんだっけ…?

 おこめ父さんは光が目に当たると、クシャミが出てしまうタチだ。

 「ハ、ハクショーイ!あれ、ここは…」

 光の元を目で追うと、牢屋の見張りらしき男と、その隣に見覚えのあるモサモサ男が立っていた。

 「あ…ポテサロフさん!どうしてここに…」

 ポテサロフは大きくため息をついた。

 「そりゃあこっちのセリフだぜ…お前、何でここにいるんだよ。しかも偽名使ってたんだって?」

 「ごめんなさい、色々事情が有りまして…ちなみに今、何時ですか?」

 「チッ、夜6時だよ…俺は夜勤だ。囚人に夕飯を持ってきたんだよ…ほれ」

 寝ていたのは4、5時間だったようだ。

 ポテサロフはジャガイモを3つ投げてよこした。ジャガイモ3つが夕飯とは、なかなかハードである。犯罪者にはこれぐらいしか与えられないのだろう。

 鉄格子の隙間から投げ込まれたジャガイモを受け取り、一口かじる。一応茹でてはあるが、味は薄いし全然足りない。

 この暮らしは耐えられないな…そう思っていると、見張りの男がブルっと身震いした。

 「おい、ポテサロフ…ちとトイレ行ってくるからよ、見張っててくれるか」

 「仕方ねえな…早くしろよ」

 これは天からのお恵みかもしれない。見張り男がいなくるのを見計らって、おこめ父さんは思い切ってポテサロフに話し掛けた。

 「あの、一つ聞きたい事があります」

 「おい、やめろ!お前には世話になったがよ、話してると俺まで色々疑われちまう」

 「凄いエレクを持った人が、2年半前に捕まったって言ってましたよね?」

 「だからやめろって言ってるだろ!人の話を聞けよ」

 それでもやめるわけにはいかない。少し間を置いて、おこめ父さんはなおも語りかけた。

 「…分かってますよ、ライス王国の王子がこの牢獄の中にいるんでしょう?」

 「何だと⁉…ぐっ、知らねぇよ。俺は何も知らねえ」

 「あなたは、自分の休みが無くなるのに長いこと僕をもてなしてくれた…それに今も僕なんかに感謝してくれている。あなたはきっと誠実な人なんだと思います。皇帝のいとこの事も、悪かったと思ってるんでしょ?」

 「うるせえ、うるせえよ…」

 もう少しで見張りは戻ってきてしまうだろう。おこめ父さんは畳み掛けた。

 「僕は神に誓って、悪い事はしていません。そしてあなたとは縁があって、友達になれた気がしました…信じてくれるなら、これだけ教えてください。重要人物を入れとくなら牢獄の一番奥底だと思うんですが…ここは地下何階までありますか?」

 「うるせえ、地下4階だ!その奥にVIPの犯罪者たちが入れられてる…もう聞いてくんな‼」

 ちょうどその時、見張り役がトイレから戻って来た。

 「悪い悪い、時間かかっちまった…キレが悪くてよ…あれ、お前青ざめてねぇか?どした?」

 「うるせえな、放っとけ!」

 ポテサロフは慌てたように通路の奥へと駆けていく。おこめ父さんは心の中で感謝を唱えた。

 よし、ここからだな…


 「何だったんだ、あいつ…」

 首をかしげる見張りに向かって、おこめ父さんは勇気を出して話し掛けた。

 「彼は、私が聞かせた物語に震え上がったのです。それで怖くなって走っていったのですよ」

 「…えっ、マジかよ⁉気になるじゃねえか…見張りは暇なんだよな。でも俺ぁ、怖いのは苦手なんだ。トイレに行けなくなっちまう…もっとこう、わくわくしたり、ほんわかする話はねえのかよ?」

 ライス王国で牢屋を見張っていたヤムタロウも、暇を持て余して小説を読んだり、キネウス村長とおしゃべりしていたぐらいだ。この見張りもまんまとおこめ父さんの策に乗ってきた。

 「えっとじゃあ…ようかん父ちゃんと、あずきちゃんの話など…」

 「何だよそれ、人間か?」

 「人間ですよ。ようかんみたいにプルンとしてるからそう呼ばれてるんです。娘があずきって名前です。こちらでは馴染みの無い食べ物かもしれませんが…」

 「じゃあ、奥さんはどうなんだよ⁉」

 「おはぎさんです」

 「ふぅん…ポタトリアじゃ聞かねえ料理だが…何だかほんわかして面白そうじゃねえか。で、どういう話だよ」

 「はいはい、今から話しますから」


 ようかん父ちゃんは、あずきちゃんの事が可愛くて仕方ないのだが、それが故にかなりの心配性だ。おはぎさんにも心配し過ぎよと言われている。

 ある日あずきちゃんは小学校で動物園へ遠足に行く事になり、ようかん父ちゃんは心配で思わず後を付けてしまう。

 実際、羊が逃げ出して突進してきたり、子どもが転んでアイスがぶつかりそうになったり、お弁当を忘れたりとピンチが訪れるのだが、あずきちゃんが気づかないうちに、ようかん父ちゃんが身を挺して助けていくのだ。


 「おいおい、間一髪じゃねえか…凄えな、ようかん父ちゃん!」

 見張りの男は次第に話に引き込まれていく。

 物語が佳境に入ったところで、おこめ父さんは大きな咳をし始めた。

 「ゴホゴホ、ゲホッ!」

 「おい大丈夫かよ…それで、ライオンがお休みでどうなるってんだ。早く続きを話してくれよ」

 「ゲホゲホ…ようかん父ちゃんが良いことを思いつくんですけど…ゲホゥ!ガハァッ‼すいません、寝冷えして寒い中しゃべり続けたんで、喉が…飴とか持ってませんか?あとここすごく空気が悪いんですけど、地下何階ですか?」

 「チッ、気になる所で止めやがって…地下2階だがよ、そんなに空気悪いか⁉ちと待ってろよ…」

 見張りはポケットをゴソゴソすると、小さな包みを取り出し、おこめ父さんの方へ投げてよこした。

 「いつのだか知らねえけどよ、これで良いだろ!早く続きを話してくれよ」

 包みはおこめ父さんの足元へ転がってきたが、おこめ父さんは軽くそれを蹴り返した。

 「あ!薄暗いからよく見えなくて、蹴っちゃいました…鉄格子のそっち側にありませんか?ゲホガホ!」

 「マジかよ…どこだ?」

 

 近寄って来た見張りの、鉄格子を挟んですぐ眼の前に無表情のおこめ父さんが現れた。

 包みを拾おうとした見張りの手を、素早い動きでむんずと掴む。

 「おい、それは飴じゃなくて俺の手…痛てっ!何しやが…」

 おこめ父さんは無表情のまま見張りの腕を引っ張り、格子の内側へ引き込みながらおかしな方向に曲げた。

 「大人しくしててください」

 「痛ててて…何すんだよ!早く続きを…」

 そのままもう一方の腕も格子の奥へ引きずり込むと、半分に引き裂いておいたバンダナで両腕を縛る。格子の柱を通しているので、自分ではほどけない。さらに残ったバンダナの片割れで見張りの口元をふさぎ、頭の後ろで固く結んだ。

 「むがーっ、モゴモゴッ!続き…」

 おこめ父さんは見張りのポケットを探り、牢屋のカギを取り出しながら語りかけた。

 「…聞き入ってくれてありがとうございました。ちなみにようかん父ちゃんはライオンに変装するんですけど、あずきちゃんも友達も逃げ出すし、飼育員さんに捕まって怒られちゃうんです。ウサギぐらいにしとけば良かったわねって、後でおはぎさんにも言われちゃいましたとさ」

 「むぐぐ…もんわかぶぶぜ…」

 心なしか見張りは、続きを聞けて満足気な顔だ。

 鍵を開け、おこめ父さんは牢屋の外へ出た。


 取りあえずポテサロフの走って行った方向へ向かうと、通路や階段が幾重にも枝分かれしていた。これは厳しい…迷っているうちに兵士に見つかってしまいそうだ。

 だが、下へ続く階段は一つしか無かった。おこめ父さんは腹を括り、下へ下へと歩いて行く。降りきった先はやや広い踊り場になっていた。

 そこからは幾つか通路が続いていて、その一つの奥に、見張りが立っているのが見える。

 その見張りは段々こちらに近づいてくるようだ。おこめ父さんはギリギリ気付かれる前に別の通路に入り、相手をやり過ごした。

 ここは地下4階のはずである。重要な人物や大犯罪人がいるならこの階だ。

 おこめ父さんは試しに、向かって左端の通路を進んで行った。奥の方には鉄格子があって、どデカいイビキが聞こえる。牢屋の中にいたのは、でっぷり太ったポタトリア人の男達だった。

 全然違うか…元来た道を戻り、隣の通路に入ってみる。今度は奥に牢屋が二つ向かい合っていて、中の男達が何やら喚いていた。

 「…だからよ、俺はムカついたやつをビリビリにしてやってだな…!おい、おかしな奴がいねえか?」

 「あぁ?暗くてよく見えねえよ!だが確かに、看守じゃねえようだな…ウヒヒ、なんだお前⁉」

 囚人達は自分に気付いたようだ。おこめ父さんはとっさに顔を隠した。

 「ギヤハハハ、あいつ顔を隠したぜ!俺らにビビったかよ⁉」

 「おい子猫ちゃんよ、どうしてこんな所にいるんだ?それより、ここから出してくれりゃあタップリ礼をしてやるぜ!」

 「なあ、聞いてんのかよ!そもそも誰だよお前?」

 目を凝らしたが、ここの牢屋は荒くれ者達だけだ。

 彼らの冷やかしにちょっとビビりながら、おこめ父さんは小走りにそこを去った。

 「ギヤハハハ、走って逃げてったぜ⁉チビり野郎が、おととい来やがれってんだ‼」


 おこめ父さんはビビリと悔しさで顔を赤らめながら、踊り場へと戻って来た。くそっ、全然収穫無しだな…

 先程の囚人達の笑い声が微かにここまで響いてくる。その声に混じって、何やら弱々しい音が聞こえた気がした。

 「セ……ナ………ア……サ」

 何だ?

 聞こえた気がする方の通路を取りあえず進んで行くと、突き当たりに鉄格子が見えてきた。

 この通路の牢屋は、こじんまりしたのが一つのようだ。近づいていくと、薄暗い中に男の人影が認められる。

 最初、自分の影が壁に映ったのかと思った。頭頂部が微かにへこんでいたからだ。だが、明らかにそれは牢屋の男のものであった。

 やつれて痩せ細ってはいるが、自分と同じ顔つきの男が弱々しく座っている。口髭はしっかり有るものの顎にも無精髭が生え、頬はこけ、目はやや虚ろげだ。

 髪もボサボサで伸び放題だが、そこにはお米頭の面影が朧気に残っていた。

 まさか、この人が…!

 おこめ父さんが話し掛ける前に、牢屋の男がヨロヨロとこちらを見た。その瞬間、男の目は大きく見開かれ、焦点もしっかりとし始めた。両の瞳が真っ直ぐおこめ父さんの顔を見つめている。


 「はっ‼……そなたは……私か?」

 おこめ父さんの額から、汗が一粒流れた。

 「い、いえ…僕はおこめ父さんです」

 「で…では、私は……」

 「…あなたは、ライス=ボール・コメス王子では?」

 「王子?コメスとな…⁉ぐああっっ、そうなのか…」

 男は頭を押さえてうめき声をあげる。もしかすると彼は記憶が混乱しているのだろうか。

 突然の展開におこめ父さんが戸惑っていると、踊り場の方から声がした。

 「おい、そこにいるのは誰だ!侵入者か⁉」

 先程ウロウロしていた兵士がこちらへ走って来た。しかも仲間も連れている。ヤバい、ビックリして注意出来てなかった…急いで隠れようにも、隠れる場所も無い。通路は行き止まりの一本道だし、二人を同時に倒せる自信も無かった。

 おこめ父さんはポケットから包みを取り出し、牢屋の男へ向かってぶん投げた。

 「と…取りあえず、これ食って少しでも元気つけてください!中身知らんけど」

 「かたじけない…ならば私からも…」

 男はボサボサの頭に手を突っ込むと、髪の中から何かを取り出してよこした。それはセリーナにもらった金貨に似ていた。

 「こ、これは…?」

 「偽の金貨だ…少し思い出してきた…この牢屋の近くで大量に作っているのを見つけたのだ」

 「…これを、僕に?」

 「ああ、何となくそなたに託したい。そなたは何故か信頼できる気がする」

 兵士達がすぐそこまで迫ってくる。おこめ父さんはとっさに男と同様、自身のこんもりした髪の中に金貨を隠した。

 その時、やって来た兵士達がおこめ父さんの腕を捕まえた。二人に羽交い締めにされ、身動きが取れない。

 「あっ、こいつ上の階の新入りじゃねえのか?」

 「スパイ野郎かよ…入ってすぐ逃げ出すとか、どんだけだよ‼」

 取り押さえられ、顔や腕を引っ張られながら、おこめ父さんはギリギリで叫んだ。

 「セリーナ…!…アーサ‼…ぐっ、もご…さっきあなた、そう言ってませんでしたか⁉…家族でしょ⁉」

 「セリーナ……アーサ……それは私の……ぐがああぁ‼」

 男はまだ記憶が混乱しているのか、先程より激しく頭を振り始める。

 「おい、囚人が囚人に話しかけるな!」

 「モゴゴ!ムバッ…チ」

 口を塞がれ、おこめ父さんは見張り達に引きずられていった。


 「本当にふてえ野郎だぜ…」

 「あぁ、何考えてやがんだ…取りあえず独房行きだろ!」

 見張りはポテサロフ達ではなく、見たことの無い奴らだ。おこめ父さんは何だか少しだけホッとした。

 しかし、ホッとして落ち着いている場合でも無かった。

 おこめ父さんの行き着いた先は、最初の牢屋よりもずっと狭い独房だった。小さい格子が最低限数か所だけ付いている。中をチラッと見るのと、食料を入れるためだろう。中は寝転ぶこともできない狭さである。

 「くそ、皇帝に何て言や良いんだよ…早速逃げられかけましたなんて言いたくねえよ!」

 「ちょ待てよ…確か今日はメンドルとの夕食会じゃなかったか?まだお戻りじゃねえだろうし、戻ってもすぐ寝るだろ」

 「あぁ、じゃあ明日の朝番の奴に引き継いで、報告は任せるか!」

 彼らもやはり皇帝を恐れているらしい。

 「おいスパイ野郎、二度とこんな事するなよ…ここでしばらく反省するんだな!あぁそうだ、独房にいる奴は一日一食が基本だからな…悪く思うなよ!」

 あんな少ない食事を一日一回とは、数日とても耐えられる気がしない。おこめ父さんのお腹は悲鳴を上げた。

 見張り達が行ってしまうと、辺りは急に静かになった。本格的にマズいな…このまま帰れずに飢え死にしてしまうんだろうか。もう家族に会えないかもしれないと思うと涙がこぼれてきた。

 下へ行かず、破れかぶれで出口を探せば良かったかな…しかし右も左も分からぬ地下牢獄では、遅かれ早かれ捕まってしまったかもしれない。

 おこめ父さんは目に涙を浮かべながら、鉄格子の外の微かな明かりを眺めていた。


 おこめ父さんが独房に入れられてから約三十分後、ポタトリアの貿易用エレクゲートに人影が現れた。見張りのポタトリア兵が槍を構えると、出て来たのは3つのケースを運ぶ4人の男達であった。

 ケースは段ボール箱のような形だが、アルミか何かの金属で出来ていて、大きさは洗濯機ほどである。

 一箱ずつ台車に乗せられ、3人がそれぞれの台車を押し、もう一人が先導する格好だ。先導役は許可証のような札を兵士に見せた。

 「ちわー、コメニウム運んできましたぁ」

 兵士は槍を収めると、ケースと運送業者を交互に見た。

 「今日は遅かったじゃねえか…どうかしたのか?」

 「えぇ、いつもの人達が崖崩れで怪我しましてね…なに、こちらの話です。それで、いつもの所で良いですよね?」

 「あ、あぁ…おい、中も見せろ」

 業者の一人がケースの蓋を開けると、中にはお米粒のような鉱石がわんさか詰まっていた。これはコメニウムと呼ばれる、ライス王国でも近年研究が始まったばかりの鉱石で、ポタトリアではなかなか産出されない貴重な資源である。

 「ふん、確かに…じゃあ、倉庫に置いてってくれ。俺たちゃ見張りで忙しいんでな。早くしろよ!」

 「うぃー」

 業者達はケースを台車に載せたまま運んでいく。その先には倉庫があり、空間記録装置(スペース・レコーダー)が目を光らせていた。

 倉庫内に入ると運送業者達は奥の通路へ進み、ケースを横に倒した。蓋が外れ、中身が溢れ出てくる。溢れ出たコメニウムの奥から、男達が一人ずつ現れた。空間記録装置(スペース・レコーダー)からは柱とケースで死角となっている。

 「何とか入れましたね…」

 コメニウムまみれのビーフンが小声で言った。同じくコメニウムまみれのカキタネとボリンが、横で地図を広げ始める。彼ら3人は各ケースの底に隠れていたのだ。

 カキタネから先導役と運ぶ役の4人に倉庫の大まかな情報を伝えておいたので、ここまで迷わずスムーズに来れている。だがここからが難関だ。

 若手6人にカキタネを加えた7人が、倉庫内で身を寄せながら地図を眺め始めた。

 「さて…」

 地図はどうやら皇帝のいるポタトリア城を示したもので、縦から見た図と横から見た図の二種類ある。

 カキタネが縦から見た方の地図に手をかざすと、地面の下らしき場所が光り出した。

 「なるほど…この地図では地下1階までしか載っていないが、米の人はさらに下の方にいるようだよ。平面図では…ううむ、ここから繋がっているのか?」

 地図に載っていないため、そこに辿り着くにはある程度の運が要るだろう。だがそれでも、カキタネの情報と知識は貴重だ。

 「カキタネさん、何でそんなに詳しいんですか…?やっぱり忍びの一族だからですか」

 ナットの問いに、カキタネは薄く目を細めた。

 「まあよ…何度か運送業者に扮して来ておるからよ。確かこの辺に…」

 カキタネは倉庫の奥の方へ行ってしばしゴソゴソやっていたが、やがて黒いボールのような物を手に抱え戻って来た。

 「では、手はず通りに」

 ボールが勢いよく地面に叩きつけられ、割れた中からモクモク煙が出てきた。

 

 「火事だ、火事だーっッ‼」

 倉庫から慌てて飛び出して来たコメニウム業者達の叫びに、兵士達はもっと慌てた。

 「おいおい、何で火事が起きるんだよ…って煙も出てんじゃねえか!」

 「早く消火しねえと燃え広がるぞ!荷物が焼けたら処分モノだぜ⁉」

 右往左往する兵士を横目に、ニセ運送業者達は元来たエレクゲートへは戻らず、城へと進んで行く。

 「外の倉庫で火事だー!みんな手伝ってくれ!」

 驚いた事にカキタネが、流暢なロシア語で叫んだ。

 城内の兵士も何事かと驚き、焦ったり逃げ出すばかりで、ライスの七人を気に掛ける余裕も無い。彼らは城内の迷路のような通路を走り抜けながら、何とか独房に繋がる入口までたどり着いた。

 「ん⁉なるほど、ここに階段が作られたのか…皆、こっちだよ」

 一列になって階段を降りた先には、信じられないと言った顔つきの見張りが2名、身体を強張らせていた。

 「おい、侵入者だ!みんな来て…ガフッ!」

 カキタネの目にも留まらぬ速さのチョップを打たれ、叫んだ兵士は気絶した。もう一人逃げようとした兵士にサケマロが体当たりすると、その兵士は壁とサケマロに挟まれて伸びてしまった。

 手早くノリスケとレタスが、兵士のポケットを探して鍵束を取り出す。

 「面倒だ、全部持って行きましょう…きっとどれか当たります!カキタネさん、こっちの奥ですか?」

 走りながら尋ねたビーフンに、カキタネが答える。

 「そうだ、そのまま真っ直ぐ…途中の分かれ道を…右だ!急ぐぞ‼」

 

 泣き疲れてボンヤリするおこめ父さんの耳に、ガヤガヤ、ドタドタと騒々しい音が聞こえてきた。

 「ここっぽいな!くそ、どれが合う鍵だ?」

 「見ろよ、鍵穴が独特な形してるぜ…うぃー、これだろ!」

 ガチャガチャとした音が鍵穴を通じて響いてくる。

 疲れすぎて、幻聴が聞こえてきたのか…こんな所で日本語が聞こえるわけないしな、うぃーとか言ってるし…

 うぃー⁉

 その時、ガチャリと重々しい扉が開き、おこめ父さんは幻聴に続き幻覚を見たのかと思った。だって、こんな所に彼らがいるなんて。

 なぜか運送業者の格好の男達は、おこめ父さんに向かってガッツポーズをした。


 「助けに来たぜ、トーサン‼」

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