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7話

 「……火之迦具土神ヒノカグツチ


 微かに聞こえた声と共に、花びらが燃え上がる。見た目は普通の火。なのに、数十メートル離れている私の肌が焼けそうなほどの熱を発している。

 それに、今、神様の名前を? さっきは拘束を解いていたし、あの人の魔法が分からない。


 銀髪の女性は射るような目で、こちらを見る。


 「まだ邪魔をするか。場合によっては、お前の息の根を止める必要があるが」


 呼吸が浅くなるのを感じた。彼女の魔法により、空気が淀んでいる。


 「そうですか」


 壁から抜け、立ち上がる。銀髪の女性は刀を携え、一歩を踏み出す。風がなびき、銀糸が揺れる。


 「それでも、私は虹彩を守ります」


 前方に花びらを生成し、体よりも大きなドリル状にする。それを、回転させながら彼女たちに放つ。

 銀髪の女性が刀を振りかぶると、それを金髪の女性が制止した。


 「魔法の使用は控えないと駄目ですよ? 海琴みことさんは休んでてください」


 そう言うと、黒を基調とした筒のような物を取り出す。筒をドリル状の花びらに向けると、円形の模様が出現した。

 魔法の経験が浅い私でも分かるほどに、魔素が集中してる。円形の模様が回転を始め、赤黒い光線が放たれた。


 空気を抉る音の正体。私の放った魔法は、いとも容易く破られ、塵となった。


 このままだと死ぬ。本能がそう叫び、反射的に花びらで壁を作る。レーザーの放たれる音。壁が破壊される音が、心臓を強張らせる。だけど、逃げるわけにはいかない。


 壁を維持しつつ、彼女たちに向けて、花びらの剣を放つ。


 「あっ、海琴さん! あれの対処、お願いします! 」


 「そろそろ仕組みを変えてくれないか? 万華鏡の中の魔素を使い終わるまでレーザーが消せないって不便すぎないか?」


 海琴と呼ばれた女性は、魔法を使用せずに刀で剣を斬り伏せた。レーザーが止み、再び対面することとなった。


 「実力差は分かったか? お前は私たちには勝てない」


 「そーだよ、大人しく帰ってくれるなら、君には手出しはしないから」


 できない。何度言われても、答えは変わらない。二本のツル状にした花びらを、彼女たちに叩きつける。


 私は距離を取りつつ、出口付近に位置取りを始めた。出口なら、魔法の被害も出にくく、住民や虹彩を逃がしやすいはず。


 海琴の剣技によって、ツルが斬られていく。彼女を抑えるにはツルだけでは足りず、ドリル、剣、矢を花びらで作り出す。

 海琴は高く刀を掲げる。


 「彦狭知命ひこさちのみこと、模造品ではない本来の武具を奴に見せよ」


 二人を囲うように、様々な剣や盾が現れた。どれも、現代の武具には見えない代物。しかし、私の魔法で作ったものは、全く通用していない。


 それに、そろそろ魔素が切れそうだ。体からどんどん力が抜けていく。


 「もう諦めたらどうだ? 奇妙な面のせいで見えないが、限界が近いんだろ」


 やっぱり、戦闘に慣れている人にはバレてしまうか。風花も、この状況では虹彩を連れ出せない。どうにか、打開できる策は……


 突如、発砲音がすると共に、海琴が刀を振るう。どこから? 誰が?


 あたりを見回しても、誰もいない。二人も見当がついていないようだった。絶え間なく銃弾が彼女たちを襲う。


 「鈴桃りんどう、結界を張ってくれ。私が索敵する」


 「了解!」


 鈴桃と呼ばれた金髪の女性が、万華鏡を地面に置く。そうすると、赤黒い宝石のような空間が彼女たちを覆った。

 私は駐車場の端にある木陰に身を潜める。未だ、銃弾は止まずに結界を襲う。ただ、結界を破るどころか傷一つつかない。銃弾では駄目だと判断したのか、火球なども放たれた。


 海琴は顔の前で刀を掲げる。


 「猿田彦神さるたひこのかみよ、我が命を狙う刺客を示せ」


 刀が淡く輝く。見入ってしまいそうになる光が消えると、海琴が目を開いた。そして、もう一度何かを唱え始める。冷たい風が吹き、空からゴロゴロと音が鳴り響く。


 近くのビルの天井や、大型のショッピングモールに雷が振り注ぐ。たちまち、銃弾や魔法は止んだ。


 確信に近づいた。彼女の魔法は、神様の力を使えるんだ。しかも、魔法が強力なだけでなく、剣技も磨かれている。私が彼女に勝てるイメージが全く湧かない。

 体の芯が冷えるように、膝から崩れ落ちそうになる。


 「海琴! 大丈夫!?」


 「ああ問題ない。少し、疲労が」


 海琴は地面に膝をつき、刀を地面に突き立てていた。尋常ではないほどの汗を流していて、呼吸も荒い。


 「魔法を連発するからですよ。少し休んでてください」


 鈴桃が万華鏡を持つと、結界は収縮していき、やがて完全に消えた。慌てて、私が飛び出そうとした時、二人の前に煙が立ち込める。

 その中から、警官が炎を纏ったコンバットナイフを持ち、鈴桃に突き刺す――


 その瞬間、海琴が警官の腹部を蹴り、すかさずナイフを刀ではじき飛ばした。それが合図だったかのように、次々と煙が立ち込め、警察が出てくる。


 海琴は体力と魔素の限界なのか、片膝をついていて、立ち上がる気配はない。鈴桃は万華鏡を空に向け、円形の模様を浮き出る。レーザーが空に向かって放たれ、空中で無数に分解される。噴水のように、レーザーが警察たちへ追尾するように放たれた。


 しかし、全ての警察を倒すことはできず、一人の警官がマンション側から接近する。鈴桃は狼狽したように警官に筒を向ける。


 まずい、あのままだと、マンションの住民に被害が!


 急いで木陰から飛び出し、マンションの前へ向かう。

 既に、円形の模様が浮かび、中心に魔素が収束し始めている。


 体内の魔素を絞り出すように、警官の前に花びらの壁を生成した。けたたましい音と共に、レーザーが放たれ壁と衝突する。なんとか持ちこたえているが、長くは持たない。


 「馬鹿!! 早くレーザーを消せ!」


 「無理ですよ! 海琴さんだって知ってるじゃないですか!!」


 このままじゃ、私の魔素が尽きるのが先だ。もう、壁を作ることすらできない。現に、壁が薄くなってきている。

 レーザーも細くなっているが、まだ魔素は十分にありそうだ。


 レーザーがマンションに直撃したら……駄目だ。でも、もう魔素が。くそ、私が弱いせいで、目の前で人が死ぬくらいなら……


 もう壁を維持できず、私は背中を向けてレーザーを受け止めた。

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