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2話

 「はぁ!? いきなり、何言ってるの!」


 そう問い詰めると、人差し指を向けてくる。


 「私の血にも、膨大な魔素が流れている……」


 容姿相応の、子供のような顔をしていた。縋るように首を傾げる。


 「もし、君が私の魔素に適合しなかった場合、死ぬ可能性がある。だけど、この手しかない。


 君たちを助けたいのは本当だ……お願いだ……」


 助けるために血を飲ませるなんて、何の繋がりも感じない。なのに、弱々しく添えられる手が、私の心を揺らがせる。瞳の奥に、熱がこもっていた。


 嘘をついているようには見えない。実際に助けてくれた。それでも、喉がざらつく。死ぬ可能性がある。それに、利用されているだけかもしれない。人の血を飲むなんて嫌だ。死ぬのだって怖い。


 だけど、それ以上に虹彩が傷つくのは嫌だ。助けられるかもしれない道があるんだ。


 だったら、私はその道を進むしかない。


 「分かったよ。風花を信じる」


 「ふふ、そう言ってくれて良かった……」


 風花はニカッと微笑む。


 人差し指を噛むと、赤い血がじわりと滲んだ。それをこちらに向けてきた。


 「さあ、飲んでくれ。一滴も無駄にしないでくれよ?」


 向けられた手を取る。唾を飲み、指を咥えた。口の中に、鮮血が広がっていく。金属のような臭さと、海水のような塩味。お世辞にも美味しいとは言えない。


 風花は、頬を赤らめて、こちらを見ていた。


 「まさか、そこまでするなんてね。あまり乱暴にしないでおくれよ」


 思わず、体が止まる。


 そんないかがわしいことをしてるみたいに言われると、こちらもやりにくい。


 瞼を閉じ、舐めることだけに意識を向ける。


 時々、艶っぽい声が漏れてきていた。薄っすらと、私の耳に熱が帯びる。


 それから少しすると、口の中の塩味がなくなった。


 私は、指から口を離す。風花は唾液に濡れた指を、大切なものを眺めるように見ている。


 「ゔっ……」


 熱い、痛い。全身の血管を巡る血が、沸騰したみたいに体が沸き立つ。ゾワッと汗が滲むが、それすら蒸発するようだ。


 耐えきれず、地面に倒れてしまう。


 「だっ、大丈夫かい!? そんな、せっかく……」


 風花が何か言っているが、聞く余裕がない。体中に異物が駆け巡る。握ってくれている手が、やけに冷たい。


 だんだんと足音が近づいてくる。そして、ついに。


 「おい!! 見つけたぞ!」


 視界が歪んでよく見えない。だけど、男達が来たのは分かる。虹彩は立ちすくんでしまい、動けない。


 はやく、はやく二人を逃さないと。そう思っても、体は動かない。


 男達は、虹彩の元へ真っ直ぐ向かってくる。


 逃げるよう声を絞り出しても、呻き声しか出ない。繋がれていた手が離される。


 男達と虹彩の間に、風花が立つ。


 「悪いけど、この子たちには手を出させないよ」


 「さっきは不意打ちでやられたが、女一人で何ができる」


 男の一人が、手に氷を纏わせる。風花は徒手空拳で圧倒していたが、人数差によって押されていく。何度も、何度も魔法を受ける。それでも、立ち上がった。


 初めて会ったはずなのに、ここまで必死に守ろうとしてくれている。


 私の手を掴んでくれた……だったら、今度は――


 熱が引いていく。異物感が消え、体に馴染み始める。


 鈍い音と共に、風花が転がってきた。傷だらけの体。薄汚れた白衣。なのに、夢を叶えたような笑みを浮かべる。


 「よかった……適合したんだね……」


 その言葉に、男達は体を大きく震わせる。


 「なっ、なんで魔素が……」


 「関係ない、あいつを捕らえることが我々の目的だ」


 男達がそれぞれ魔法を使用する。


 私は手を突き出し、魔法を使用した――


 風が吹いた。そう感じた次の瞬間には、白色の丸みがかった花びらが視界を覆い尽くす。風が吹き止み、花びらが粒子となって霧散していく。


 男達は壁にめり込んでいて、微動だにしない。


 「たす、かった……?」


 風花が地面に寝転がりながら言う。


 「みたいだねー」


 私はつきものが取れたように、尻もちをついた。実際に、体にあったものが抜けたように、力が出ない。


 虹彩を、風花を助けられた……? 良かった。何かが込み上げてきて、瞼が熱くなる。


 ふと、虹彩を見ようと振り向いた時、飛びつかれた。


 「うわーーん! 怖かったよーー」


 子供を寝かしつけるように、背中を叩く。


 「二人とも、ありがとねー!」


 「はいはい、虹彩が無事でよかったよ」


 「二人とも、少し良いかな」


 風花を見下ろすと、居心地が悪そうに言う。


 「早くここから離れようか。男達がいつ目を覚ますか分からない」


 頬に指を走らせる。


 「来夏、私のことを背負ってくれないかい? どうにも体が動かなくてね」


 焼き切れたように体が痛むが、私は風花を運んだ。背中から微かに聞こえる、笑い声。命が助かって、安心したのだろうか。私も、笑みがこぼれる。


 しばらく走り、自宅に着いた。小さなアパート。築十年ほどで、外観も悪くない。ただ、防音性には難ありで、日当たりも良くない。


 虹彩はスタスタと家に上がり、部屋を見渡す。


 「相変わらず、地味な部屋だねー」


 「そうだね、女子高生の部屋には見えないよ」


 否定できない。家具一式と勉強机に棚だけの部屋。娯楽と言えるものも、数冊の小説だけ。初めて虹彩が来た時は、顔が青ざめるほど驚いていた。


 風花は、私の部屋に行き、棚を見る。参考書や小説に交じり、一つだけ木製の小さなケース。それを持ち、中を開くと指輪が入っていた。


 しみじみと、愛おしそうに見つめる。


 「あれ、私があげたやつじゃん! 触っちゃ駄目だよ!」


 指を差し、風花に注意する。


 私は口元に人差し指を当てて言う。


 「ちょっと、隣人が……」


 私が言い切る前に、壁が「ドンッ」となる。


 「……ごめん」


 虹彩がしょぼくれたように言った。


 「二人は仲がいいんだね。とても微笑ましいよ」


 「そうなの! ずっ友なんだからね」


 「ずっ……とも?」


 虹彩が口を押さえる。


 「知らないの!? もしかして、今どきの小、中学生は知らない感じ?」


 「ジェネレーションギャップという奴かな?」


 風花はリングケースを置く。


 「さて、それよりもこれからの話をしよう」


 私たちの背中を押し、リビングへと向かう。埃やシミ一つなく、テーブルと椅子が二脚だけある。夕日が差し込み、静けさに満ちていた。


 虹彩は私たちに椅子を譲ってくれたが、私の肩に抱きつくような形で話を聞く。


 「まず、間違いなく今後も、虹彩は狙われ続けるだろう」


 虹彩の手に力がこもるのを感じた。


 「残念ながら、警察や自衛隊でも奴らの力には敵わない。無論、私もだ」


 私への視線が外れ、虹彩へと向けられる。


 「そこで、君にも魔法を使えるようになってほしい」


 「えーー! 私!?」


 「その通りだ。多少なりとも自衛能力は持っておいて、損はない」


 「うーー、それはそうだけど。怖いよ」


 私は虹彩の手を擦る。


 風花の眉が下がった。微笑んでいるように見える。だが、瞳の奥には確かな覚悟が灯っていた。


 炭の奥に隠れた、熾火のように。


 「絶対に、君たちは死なせないよ。命に代えても……」


 なぜ、そこまで私たちのためにしてくれるのか。聞けなかった。彼女の目を見ると、どうしても喉が引っかかってしまう。それに、どれだけ聞いても、返ってくる言葉は一つだろう。


 「私も、風花を死なせないよ……」


 おかしそうに笑う。


 「どうしてだい?」


 「助けたいから……それに」


 キョトンとした顔で、私を見つめる。


 「もう、友達でしょ?」

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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