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「波奈ちゃんとか、昴くんのような若者がこんな素敵なカフェをつくってくれて私はすごく嬉しいのよ。正直私も、デジタルから隔離されたこの村の未来がちょっと心配でね。でもこうして、大人も子どもも楽しめる空間をつくってくれて、星見里の未来に希望が持てた。だからお礼を言うのはこっちのほう」
三上さんが「ありがとうね」と言ってくれるのを聞いて、胸に熱く込み上げるものがあった。泣いちゃだめだと思うのに、目尻には勝手に涙が溜まっていく。部屋が暗くてよかった。紬ちゃんに、「波奈ちゃん泣いてるの?」と揶揄われなくて済む。
「本当に、ありがとうございます。今日は……いや、今日だけじゃなくて、何度でも『Dining Café 花と星』をお楽しみください」
「もちろん、何度も楽しませてもらうわ」
優しく微笑んでくれた三上さんに再度頭を下げて、「すみませーん」と声を上げるお客さんのほうへと駆けていく。息をする間もないほど忙しい一日だったけれど、お世話になったたくさんのひとたち、新しくこの場所を知ってくれたひとたちに会うことができて、心はかつてないほど満たされていくのだった。
「本日はありがとうございました。またのご来店をお待ちしております!」
二十一時、すっかり夜も深まってきた時間帯に最後のお客さんを見送って、ようやく「ふう」と息をついた。途中休憩はあったものの、オープン日ということで、今日一日で何十人ものお客さんと接してきたので正直かなり疲れた。でもこの疲れは心の底から心地よいと感じる。
「お疲れさま、波奈」
奥から出てきた昴もほっとしたのか、やわらかな表情を浮かべて私の背中をぽんと撫でた。
「昴こそ。ずっと厨房で大変だったでしょ」
「お客さんと常に接してる波奈と比べたらそうでもないよ。やっぱり波奈はすごいな。あれだけのお客さんにずっと笑顔で接客できて。プロ意識を感じた」
「ぷっ。何それプロ意識って」
昴が妙に素直に感心しているのがおかしくて、私は吹き出す。
先程までたくさんの人で賑わっていた閉店後の店内はなんだか秘密基地のようで胸がドキドキとした。
「そのままの意味だよ。波奈はすごいよ。俺には絶対できない仕事をしてる。『Dining café花と星』の一日目を無事に終えられたのは、波奈のおかげだ」
「そんなことないって。昴がカフェをやろうって計画してくれて、流れに乗ってここまでこられただけだよ。でも今日、たくさんのお客さんと話せて本当に嬉しかった。こんな気持ち、画面越しでは味わえないことだよ。だからすごく感謝してる」
そうだ。スマホでライブをしてどれだけ好意的なコメントをもらって嬉しくても、今日実際に対面してお客さんと話せた喜びには到底及ばない。
「ねえ昴、外行こうよ。今日すごく晴れてたからきっと星が綺麗だよ」
「ああ、そうだな。星を見よう」
私はそっと昴に右手を差し出す。その手を握り返された時、心の底から昴と一緒に『Dining café花と星』をオープンできて良かったと思えた。
「今日は星空ツアーガイドの仕事も休ませてもらったからな。波奈だけにガイドして差し上げよう」
「嬉しい。そうこなくっちゃ」
高校時代、昴とあと十センチの距離が埋まらなかった。でも今は、こうして“ハナ”ではない、“波奈”として彼の隣にいられることが夢のようで、本当に嬉しい。
外に出た私たちは、「いっせーのーで」で二人一緒に空を見上げる。
夜空に瞬く星たちが、私たちのこれからの輝かしい日々をお祝いしてくれているようだった。




