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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
最終章 私たちの居場所

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7-5

 私はお店の前に並ぶお客さんに向かって、自然と笑顔を浮かべる。


「みなさん、本日は『Dining Café 花と星』にお越しくださいまして、ありがとうございます。『Dining Café 花と星』は“星見里の自然を味わえる、デジタルとリアルをつなぐカフェ”をコンセプトにしたお店になります。ぜひ、この場所の自然を存分に味わって、よければSNSなどに投稿よろしくお願いします。投稿してくださった方は、本日のご飲食代から10%割引サービスもございます。店内は通常のカフェ席と、プラネタリウム席に分かれています。プラネタリウム席はお部屋が暗くなりますので、ご注意ください。それでは、お好きな席にお座りください」


 私がお店のコンセプトとSNSサービス、プラネタリウム席について説明すると、お客さんがわっと拍手をしてくれた。温かな光景に思わず涙が滲む。


「私、窓際のこの席がいい〜!」

「コンセントあるじゃん。最高」


「お母さん、えりこちゃん、ゆうとくん、プラネタリウム席に行こう!」

「行きたい!」

「はいはい、みんなで行きましょうね」


 みんなが、それぞれの希望に沿って席を選んでいくのを眺めては、愛しい気持ちがあふれてきた。感慨に浸っていると、昴が厨房から顔を出して「波奈、お水とおしぼり出して!」と指示をしてくる。


 そうだ。感動している場合じゃない。私はホール担当。一人で回さなくちゃいけないんだ。わたわたしながらお盆に大量のお水とおしぼりを乗せて、順番に席を回っていく。その度に「オープンおめでとう」「ハナちゃん一緒に写真撮ってください」などと声をかけられるので、一つ一つに応えていくとかなりの時間を消耗した。でも、せっかく来てくれたお客さんの言葉は一つも無碍にしたくなかった。決めたんだ。今日はどんな要望にも応えてみせると。今日来てくれたお客さんにはみんなに笑顔になってほしい。その一心でお水を運び、注文を聞くところまで済ませた。


 すべてのテーブルの注文をし終えると、厨房に戻り、昴の手伝いをする。


「忙しいけど嬉しいね」


「ああ、そうだよな。まさかこんなにたくさん人が来てくれるなんて思ってなかったから」


「私のSNSの宣伝の効果じゃない?」


 わざとおどけるようにして言ってみると、昴がふっと目を細めて「そうだな」と私の頭にぽんと手を置いた。


「波奈のおかげだ。ありがとう」


 こんなに忙しいのに、私の頭を撫でてくれる昴にきゅんとときめきを覚えつつ、こほんと咳払いをして、「店長、仕事中ですよ?」とやんわりたしなめた。


「そうだった、そうだった。ほら、働こう」


 取り繕ったような指示がおかしくて、私はぷっと吹き出してしまった。

すべてのメニューにご飯、味噌汁、副菜がつくが、この三つはあらかじめ仕込んでいたので、冷めても美味しい副菜からトレーに乗せていく。昴がメインディッシュを作ったところで、ご飯と味噌汁をよそいつつ、出来上がったプレートからせっせと運んでいった。


「お待たせしました〜! “戸倉さん家のほくほく肉じゃが定食”、“星見里の星空カレー”三つ、でございます!」


 プラネタリウム席の三上さんと子どもたち三人に料理を出すと、子どもたちがわああと目を輝かせて喜んでくれた。


「カレーに星がたくさん! おいしそう!」


 三人が頼んだ“星見里の星空カレー”は、星見里で取れたトマトをカレールーに混ぜて、さらににんじんやじゃがいもを星形に模ったカレーライスである。子ども向けではあるが、トマトの酸味が大人の舌にも合う自信がある。


「楽しんで食べてね」


「はあい! プラネタリウムもとっても綺麗だし、このお店すごく好き」


 紬ちゃんの無邪気な声が、どんな感想よりもすっと胸に溶けて、喜びに満ちていく。

 ああ、お店を開いてよかった。

 心から思える瞬間だった。

 プラネタリウム席は部屋の中が薄暗いので、テーブルにはキャンドルを設置した。それもまた幻想的だと他のお客さんからも好評だ。天井や壁に大胆に映し出される星空は、今日この日に星見里で見える星空を映し出したものである。だから当然、毎日違った星空が見られるということだ。


「三上さん、いろいろとご協力いただいてありがとうございました」


 “戸倉さん家のほくほく肉じゃが定食”の肉じゃがを口に入れた三上さんに、私は頭を下げる。三上さんにはお店の構想からコーヒーの淹れ方、仕入れ先の助言まで、大変お世話になった。その感謝の気持ちを少しでも伝えたくて頭を下げたのだが、三上さんは「とんでもない」と首を横に振った。



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