7-2
「ぷはーっ、よく飲んだな」
その日の夜、私は昴とともに中目黒の自宅に帰ってきた。川沿いに聳え立つ高層マンションを目にした昴は口をぽかんと開けて「ははは」と笑い声を上げた。
「波奈、お前すげえな」
最初は皮肉かと思ったが、マンション内に入ってから「うわ、ホテルみたい!」「廊下が厳か」「エレベーター何台あるん!?」とはしゃぎながら素直に驚く姿を見ると、さっきの言葉は本心だったのだと分かった。
自宅に帰り着いたらもう二十一時を回っていたので、順番にお風呂に入る。その後、冷蔵庫から適当なお酒を取り出して、「飲む?」と昴に問いかけた。
「ああ、いただきます」
私たちはリビングのソファに座って飲み直した。普段は昴の部屋でやっていることだけれど、自分の家でとなると、妙に緊張する。
なんだか同棲してるみたいだな。
お店で重村さんから結婚の話を聞かれたから、自然と思考がそっちの方向へと持っていかれてしまう。私はグラスに入ったリキュールをほどよく飲みながら、昴の長いまつ毛を見つめた。
「あのさ、波奈」
「へっ」
突然、あらたまったかのように名前を呼ばれたので、今まさに彼のまつ毛をじっと見つめていた私は驚いてぴょんと飛び跳ねた。
「なんでそんな驚いてんだよ」
「いや……だって急にそんなふうに改まった感じになるから、びっくりして」
「そうか? まあいいや。あの、さっきの話なんだけど」
「さっきの話って?」
私が問い返すと、昴は鼻の頭を掻きながら、「だから、居酒屋で重村が言ってた……」と照れ臭そうに切り出した。
「結婚のこと?」
「……ああ」
なんだろう。急に胸がドキドキと音を立て始めた。お酒のせいではない。もしかして今、昴は私にプロポーズしようとしてる? いやいや、そんなはずないじゃん。だってさっきは、考えてないって言ってたし……。
じゃあ、この胸の高鳴りはなんなんだろう。
昴の顔をじっと見つめる。濡れたような色気のある彼の瞳が、私の目をまっすぐに見つめた。
「ちゃんと、考えてるから」
「え?」
目的語がない。“何を”考えているのか一瞬分からずに戸惑ってしまう。が、昴の顔が耳まで真っ赤に染まっていることに気づいて、「あっ」と声を上げる。
「だから、結婚のこと。今すぐは無理かもしれないけど、ちゃんと俺、考えてるから。だから波奈も、考えといてほしい」
それだけいうと、恥ずかしいのかぷいっと顔を逸らしてまたお酒を飲み始めた。
「……」
もしかして今のって……。
「……プロポーズ?」
咄嗟に考えていたことが口に出てしまった。昴ははっとまた私のほうを見て、「ち、ちげーよ」と否定した。
「プロポーズはまた別の機会にちゃんとする! だから今のはノーカン!」
「そ、そっか」
普段は冷静な彼に似合わず、やけに感情的になっているところを見ると、昴の中でも私との結婚を本気で考えてくれていることが分かった。胸がトクトクと激しく動き出す。あふれそうになる情愛をなんとか押し留めようとしたが、だめだった。
「昴……好き」
昴の首に腕を回して抱きつく。彼は「おわっ」と体勢を崩したけれど、すぐに抱きしめてくれた。
そのまま私たちはベッドへと進んでいく。
示し合わせたかのようにお互いを見つめ合い、熱いキスをして、身体を重ね合わせた。
昴の身体の温もりを感じながら目を閉じる。
胸に抱えきれんばかりの幸せな気持ちをどうすればいいか分からなくて、必死に彼を抱きしめるしかない。閉じた瞼の向こうには、星見里で見た煌々と輝く星空が広がっていた。




