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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第六章 霧が晴れたあとで

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6-9

「……」


 滝川社長の、『滝川工務店』の社長としての誇りがその言葉や発言の重みからひしひしと感じられた。滝川社長はきっと、私たちがカフェのコンセプトとして“デジタルとリアルをつなぐ場”と伝えたとき、すでに違和感を覚えていたのだろう。星見里にデジタルを積極的に取り入れることは、彼の矜持にかかわることだったのだ。

 確かに、長年星見里で暮らしてきた滝川社長の主張も分からなくはない。

 もしかしたら星見里のことを発信することで都会のひとに、この場所を踏み荒らされたくないという気持ちがあるのかもしれない。

 でも……だけど。

 私は、昴と顔を見合わせる。

 私たちのカフェは、私たちがお互いの価値観の違いを認め合い、星見里の魅力を日本全国に伝えようという想いでつくろうとしているものだ。

 簡単に譲るわけにはいかない。


「お言葉ですが、滝川社長。これを見てください」


「あ?」


 私は、星見里で暮らし始めてから日々発信していた星見里についての魅力を伝えるSNSの投稿のスクショを、滝川社長に見せた。

 限られた場所でしかWi-Fiが繋がらないので、SNSでの投稿を振り返るために、こうしてスクショで保存しておいたのだ。

 

「これは、私が星見里の魅力について発信したSNSの画像です。実は私、東京で美容コスメのインフルエンサーをしているんです。もともと私のファンだったひとたちは、星見里になんて興味がないひとばかりだったと思います。でも、こんなにたくさんの嬉しいコメントをいただいたんです」


 コメント欄をスクショした画面を滝川社長に見せる。


【星見里の空って東京の五倍は広く見えるっ笑 めっちゃ綺麗】

【今後の連休で遊びに行く予定を立てました。おすすめのホテルはありますか?】

【星見里に行きたいんだけど、星空ツアーの詳細が知りたいです!】

【子どもがりんご狩りが楽しそうだと言うので、今度行ってみようと思います】

【ハナさんが語る星見里がとても楽しそうで、魅力的です】


「これは……」

 

 星見里についてのたくさんの前向きな意見を目の当たりにした滝川社長が、目を瞠る。村のことを褒められて素直に嬉しいのか、自然と頬が綻んでいくのが見てとれた。


「どうですか? みんな、星見里のことをもっと知りたいと思ってるんです。でもこのコメントにある通り、近隣にホテルはあまりないですよね。きっと、観光客が増えたら旅行産業も発展すると思うんです。そうすればより多くのひとが星見里に来てくれるようになります。滝川社長が愛するこの地を、大好きになってくれる方が増えていくんですよ!」


 自分でもびっくりするぐらい星見里について熱く語ってしまい、ちょっとばかり恥ずかしい。昴が、熱弁する私を見て目を丸く膨らませる。そして、私に加勢するように「お願いします! 星見里の魅力を発信するために、Wi-Fiを設置してください!」と頭を下げた。


「やりましょうよ、滝川社長」


 横から声を上げてくれたのは重村さんだ。見れば、重村さんだけでなく、滝川工務店の職人たちも、みんなが滝川社長を見つめていた。


「俺たちがここから、このカフェと星見里の発展の(いしずえ)をつくりましょう」


 職人さんの言葉に、滝川社長は「ああ……」と声を漏らす。


「……勝手に計画を無視してすまなかった。Wi-Fi設置工事は明日行う」


 滝川社長の言葉に、私は昴やみんなの顔を見回しながら、わっと歓声を上げた。


「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 今日、初めて星見里への愛を、面と向かって誰かに自分の言葉で発信できた気がする。

 昴の家に初めて泊まった日、こんな田舎で何ができるのだろうといじけてしまったことがあった。都会で当たり前にできるはずのネット検索もSNS投稿も限られた場所でしかできなくて、あまりのストレスに昴に八つ当たりをして。だけど、東京での私だって、いろんなものに追われてストレスフルだったのだ。

 二拠点生活を始めてから、肩の力がうまく抜けるようになった。

 週末になれば星見里の自然の空気を存分に吸って英気を養うことができる。昴の星空ツアー解説を聞いて、遠く夜空に想いを馳せて。また来週も一週間頑張ろうと思えるようになった。

 そうだ。ここには、新鮮な空気と見るだけで癒される大自然、ここでしか味わえない作物、たくさんのひとの温もりがあるのだ。

 東京にだって、東京にしかないものがもちろんある。

 心にもやがかかって見えなくなっていた。仕事も、ファンの声も、全部私の大切な宝物だ。視界がクリアになって霧が晴れると、明日はまっすぐに前に突き進んでいけるような気がした。

 そう思わせてくれたのは星見里と——昴のおかげだ。


 昴が私の手にそっと触れる。職人たちや重村さんには見えないように握りしめた。その手の温もりはこの世でいちばん私を安心させてくれるものだった。



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