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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第六章 霧が晴れたあとで

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6-8

 工事はおおかた、滞りなく進んでいったように思う。

 十一月の星見里の気温はぐっと下がり、迫り来る冬の気配が身体を包み込んだ。工事をしている職人さんたちは額に汗を浮かべているので、工事がどれだけ重労働なのか思い知った。

 十二月に入ると、壁、床の補修や水道、電気工事などもほとんど終わり、プラネタリウム室もできてきた。重村さんと打ち合わせした通り、ウォールナット調の落ち着いた店内が出来上がっていき、私の心もときめいた。


【12/12 ほとんど完成に近づいてきました✨

こうして形になると、なんだかとても胸にくるものがあります。】


 インスタグラムの投稿には、日々コメントが増えていった。


【本当にカフェつくってるんだ】

【おしゃれ! 完成するのが楽しみ〜✨ 行ってみたい】

【ハナちゃんお疲れ様です。来年のGWに行こうと思います^^】


 寄せられた温かいコメントを読んで、みんなが待ってくれているのだと希望が持てた。


 職人さんたちも余裕が生まれてきたのか、時折現場では「はっはっは」という笑い声が響く。ただ私は、なにか一つ、工事で忘れていることがあるような気がして、不安になって昴に聞いた。


「ねえ、工事ってもうほとんど完成に近づいてるのよね?」


「そうだと思うよ」


「あの……Wi-Fiの工事って終わってるんだよね?」


 忘れているかもしれないと気づいたのはWi-Fiの工事だった。私はいま、工事の過程を動画に撮って、投稿自体は役場に行っている。まだカフェのWi-Fiができていないのをちょっとだけ疑問に思っていた。


「うん、終わってると思うけどなんで?」


「いや、滝川社長、全然Wi-Fiの話をしてないから、どうなんだろうって。打ち合わせの時はちゃんと伝えたはずなんだけど……」


 なんとなく滝川社長がWi-Fiの工事を忘れているような気がして、昴に不安を打ち明けた。昴は、顎に「うーん」と手を添えたあと「たぶん大丈夫だと思うけど」とぼやく。


「Wi-Fiの設置については自治体からの補助金が出るって話もしたし、ちゃんと覚えてるはずだよ」


「そう……。でもやっぱり怖いから、聞いてみてもいい?」


「それはいいけど、作業に集中してるから危険がないようにな」

 

 昴はもともと東京で建築施工管理技士として現場の安全管理をしていたから、私が危ない目に遭わないか心配なのだろう。昴の気遣いを無駄にしないよう、作業をしている滝川社長のもとへ、慎重に近づいて声をかけた。


「あの、滝川社長」


 後ろから声をかけると、頭にはちまきを巻きつけた滝川社長が「ああ?」とこちらを振り返った。ぞんざいな返事に聞こえるが、彼はいつも誰に対してもこうなのだ。だから、私はひるむことなく「Wi-Fiの工事なのですが」と話を切り出した。


「まだ工事はされていませんよね? いつされる予定でしょうか」


 思い切ってそう尋ねると、滝川社長はばつが悪そうに眉根を寄せた。


「ああ、Wi-Fiか。その件だが、今のところ設置の予定はないぞ」


「え?」


 返ってきた返事に耳を疑う。これには少し離れたところから私を見守っていた昴も近づいてきて、「どういうことですか?」と滝川社長に訊いた。


「この村にWi-Fiなんてものはいらん。みんな、自然の中で慎ましく暮らしているんだ。それを、都会のようにデジタルだのなんだのと騒ぎ立てるようなことはしたくない」


 固い声で持論を展開する滝川さんに、私も昴もさすがに納得することができない。


「ちょっと待ってください! Wi-Fiを設置することも、このカフェのコンセプトも最初にお伝えしたはずですよね? どうして今更そんなことを……」


「俺は、星見里で唯一の工務店の社長として、星見里にふさわしくない建築はできないんだ。星見里は自然に囲まれた豊かな大地と星空を楽しむ場所だ。現地に来て、身体全部で自然を感じるところだ。デジタルに汚染されてちゃいかん」


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