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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第六章 霧が晴れたあとで

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6-7

「ああ、変わったよ。なんかあの頃はいろいろと切羽詰まってていつ死んでもおかしくないって顔してた」


「そりゃひどいな」


「はは。でも本当さ。逆に今は、人生楽しくて仕方がないって顔つきになってる」


「それはそれで、恥ずかしいんだけど」


「褒め言葉だよ。っしゃー、楽しそうな二人を見てると俄然やる気が湧いてきた。一緒にカフェづくり頑張ろうな」


 ニカッと爽やかな笑みを浮かべる重村さんが心底まぶしくて、協力してくれることがとてもありがたい。私たちは三人で拳を突き合わせると、これから始まる挑戦への気合いを十分に貯めた。



 それからの毎日はとても慌ただしかった。

 私は、平日は東京に帰り、休日になると星見里に戻ってくるという二拠点生活を始めた。


 十一月、いよいよ村長に譲ってもらった空き家のリフォームが開始する。私は、「よろしくお願いします!」と昴が滝川工務店の滝川社長と従業員数人と重村さんに頭を下げるところから、工事の様子を動画に収めていった。


「やはり、ずいぶん立派な空き家だ。これならリフォームのし甲斐がある」


 滝川さんが髭を触りながらニヒルな笑みを浮かべる。もちろん、空き家は事前に見てもらっているのだが、今から実際に工事を始めるとなると、思うところもあるのだろう。

 工事自体は社長をはじめ、職人さんたちがやってくれる。でも、私たちもできるだけ工事の様子をそばで見守ることにした。



【11/1 カフェづくりスタート! 地元の工務店『滝川工務店』さんと、一級建築士の重村さんに施工、デザインを依頼しました。私たちのこだわりが詰まったカフェが完成するまで、どうか皆様も温かい目で見届けてください】


 キャプションと共にインスタグラムに動画を投稿する。

 ひとの顔はできるだけ映らないように細心の注意をはらう。古びた空き家がこれからカフェに変身するなんて、正直まだ実感が湧かない。でもきっと、滝川社長や重村さんたちが素敵に仕上げてくれると思うと、今から胸の高鳴りが鳴り止まなかった。

 私のファンのひとたちが、こういった動画にどこまで興味があるのか分からなくて、内心ちょっとひやひやしていた。私の普段の美容コスメのPRの仕事とは全然違う動画なので、ファンが離れてしまうかもという不安もある。だけど、それでも私は星見里の魅力を全国に発信したい。昴や、『喫茶きこり』の三上さん、星空ツアーコンダクターの星田さん、長嶋さん、星見里で暮らすすべての住人たちの想いを載せて、星見里の名を広めようと最大限私にできることをしておきたかった。


「あれ、工事してる〜」

「なんだろ? 旅館?」

「ご飯屋さんじゃない?」

「あ、昴お兄ちゃんと波奈お姉ちゃんだ!」


 地元の小学生たち三人が近くを通り過ぎると、その中に見知った顔があった。三上紬ちゃんだ。紬ちゃんは私たちに大きく手を振ると、笑いながら駆け寄ってきた。紬ちゃんの友達も一緒に。


「こんにちは、紬ちゃん」


 青空の下、やってきた小学生たちの目線に合わせるようにして身体を屈めながらにっこりと笑う。


「こんにちは! カフェをつくってるの?」


「そうだよ。紬ちゃんが考えてくれたプラネタリウムのお部屋もつくるから、楽しみにしてて」


 そう。プラネタリウムは結局、カフェの一角ではなく別で部屋をつくることにした。明るい場所で休みたいひとと、プラネタリウムを楽しみたいひとの席を分けることで、お客様のニーズに合った席にご案内しようと思っている。もちろん、食事は明るい席でとり、プラネタリウムは別で見たいというお客様がいれば、それはそれで要望を叶えられるようにするつもりだ。


「わー、本当につくってくれるんだ! 楽しみ!」


 紬ちゃんは隣の女の子と顔を見合わせて満面の笑みを浮かべた。前に話してくれていた“えりこちゃん”だろうか。とすれば、もう一人の男の子は“ゆうとくん”か。


「プラネタリムなんて絶対きれいじゃん! 完成したらたくさんお友達連れてくるね」


「ぜひ、みんなでいらっしゃい」

 

 無邪気に喜んでくれる小学生三人を見て、私も昴も心が洗われるような心地になった。それから、三人は「ばいばーい!」と言って手を振って田んぼの畦道を駆けていく。小学生と田んぼはよく似合うな。ピンク、黒、水色のランドセルが踊るように揺れながら遠ざかっていくのを見ながら、元気な子どもたちを見られるもの、星見里の魅力の一つかもしれないなと感じた。


「あの子たちが通ってくれるぐらい、居心地のよいカフェになるといいな」


「うん、そうだね」


 昴にそう言われて、ふと、もし自分たちが高校生の頃にこのカフェがあったらどうだろうと考える。ちらりと昴の横顔を見つめると、その瞳は「ん?」と私に優しく問うように丸くなっていた。


「なんでもない!」


 なんだか妄想をしている自分が恥ずかしくなってぷいと目を逸らす。

 制服姿の私たちが並んで田んぼの畦道を歩いている姿が脳裏に浮かんで、胸がきゅっと締め付けられるような心地がした。


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