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夕暮れ時のキラキラとした陽光が好きだ。特に、星見里のそれは東京で見る日の光とは比べ物にならないほど幻想的で美しい。田畑を染め上げる朱も、広々とした夕焼け空も、悠々と空を飛んでいく鳥たちの姿も、すべてがおおらかで満ち足りているように感じられるのだ。
約束の十六時にバス停で会った重村さんは、昴に向かって「よう!」と軽く片手を上げた。三年も会っていないと聞いていたのが嘘のように自然な再会だった。短髪の髪の毛と、筋肉のついた腕や胸板が印象的で、一級建築士らしい風貌をしているなと率直に思った。
「うおー本当にハナさんじゃん! 本物、すげえ! 初めまして、重村です!」
「初めまして。海野波奈です。いつもうちの昴がお世話になっています」
「ちょ、その挨拶は恥ずかしいからやめて」
昴がわたわたとツッコミを照れ臭そうにツッコミを入れると、重村さんはニヤリと笑って昴の脇腹を肘で突いた。
「いい嫁だな」
「だから違うって!」
嫁、と言われてさすがに私も恥ずかしく、頭が沸騰しそうになった。
しばらく談笑したあと、私たちは昴の家に向かい、ダイニングテーブル席について、カフェの計画について重村さんに話をした。
「ほお、おおよその話は聞いてたけど、まさか本当に城山がカフェをするなんてな〜。会社員時代からいつか自分のお店を持ちたいって語ってたもんな」
「そうだったの?」
重村さんの発言に、素直に驚く。
「あ、ああ。あの頃は、半分夢みたいな感じで豪語してただけだけど。でもまさか実現させられる日が来るなんて思ってもみなかった」
「へえ。きっと、星見里でいろんなひとたちとのご縁に恵まれたおかげだね」
ここに至るまで、昴のことを支えてくれたひとたちがたくさんいることに心が温もる想いがした。
「そうだな。そのひとたちに恩返しするためにも、星見里の魅力が伝わるカフェをつくりたい。だから重村、内装デザインについて意見がほしいんだ」
「そうだな。せっかくだから、おしゃれなほうがいいよな? 最近手がけた代官山のカフェの写真を持って来たんだけど、こんな感じで明るくておしゃれな雰囲気にするのはどうかなって」
そう言って重村さんが鞄から取り出した書類には、代官山のカフェの内装の写真がずらりと並んでいた。明るいベージュの床に、白い壁、ところどころに観葉植物が置かれている。ライトはシャンデリア風の電気がぶら下がっている。
一目見て、確かにおしゃれだなと思った。綺麗めで上品な印象を受ける。
だが、どこか胸がもやもやとしだす。
なんだろう。
このカフェが素敵じゃないわけじゃない。むしろ、代官山のカフェとしてぴったりすぎるぐらいおしゃれで綺麗だ。
でも……。
私の胸に渦巻く疑問は、昴も同じだったようで、彼もちょっとだけ表情を曇らせていた。
「あの、重村さん」
私は、勇気を出して重村さんにこの胸の違和感を伝えることにした。
「とても素敵なカフェなんだけど、私たちの目指す理想の内装とはちょっと違う気がします。都会のカフェとしては最高です。ただ、星見里には合わない気がするんです。もう少しこう、温かみというか、星見里でほっとするような空間にしていんです。難しいでしょうか……?」
せっかく提案してくれたのに、その意見を否定するようで申し訳ないと思いつつ、それでもきちんと理想のお店をつくるために私たちの想いを伝えた。
昴も、「そうだな。俺も、同じことを思った」と正直な感想を重村さんに伝える。
私たちのコメントを聞いた重村さんは、気を悪くするかと思ったが——まったくそんなことはなかった。むしろ、にんまりと笑って「なるほど」と納得する素ぶりで言った。
「それもそうだな。悪い。こちらの意見を押し付けてしまった」
「いえ、そんなことないです! この観葉植物を置いているところとかは、真似したいなと思いました。最初に提案してくださったからこそ、自分たちの理想の方向が固まってきたので、むしろありがとうございます」
「うん、ハナさんは本当に優しいね。ありがとう。じゃあもう少し、この村にふさわしいような内装を一緒に考えよう。城山、よろしく」
「おう」
私たちは三人で視線を交わし合い、あれこれと意見を言いつつ、星見里に合う内装デザインを考えだした。
床も壁もウォールナット調のブラウンで統一する。ライトは橙色の温かみを感じられるものを使う。観葉植物を入れる案はそのまま採用した。
「カウンター席には電源をつけたいんだ。多少長く居座ってもらっても構わない。ドリンクおかわり割引サービスなんかを実施すれば、長くいるお客さんが何度もドリンクを頼んでくれるだろ。回転率が少し悪くても、それで客単価を上げればいい。それよりもとことん居心地の良い空間にしたいんだ」
「おお、なるほど」
昴の意見を聞いて、「カウンター席、電源」と重村さんがメモをしていく。話が進むたびに、目の前にカフェが出来上がっていくような心地がしてがぜんやる気が湧いた。
「あとは、お店の一角にプラネタリウムをつくろうと思ってる。そっちは工務店のほうに依頼してるんだけど、プラネタリウムがあっても不自然にならないような内装にしたい。できるか?」
「プラネタリウムかー。もちろんできるさ。にしても、粋なことを考えるんだな」
「昴、星空ツアーコンダクターをやってるんです。プラネタリウムのアイデア自体は村の子どもが考えてくれたんですけど、星見里の美しい星空を伝えるのにぴったりだなって思って」
「へえ、城山、そんなこともしてるのか。なんか東京にいた頃と変わったな」
感慨深そうに、しみじみと重村さんがつぶやく。昴は「そうか?」と照れたように鼻の頭を掻いた。




