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「はあーっ! なんだかこっちが拍子抜けするほどあっさり進んでいくね」
「星見里のひとはみんな、人がいいからね。なんだかんだ、この村の経済を活性化させようとする俺たちの活動に希望を持ってくれているんだよ」
「そうね。スケジュールも決まったし、あとはまっすぐ突き進むのみ!」
私がグーパンチを突き出して見せると、昴は「その件なんだけどさ」とどこか言いにくそうに切り出した。
「カフェの準備期間が全部で五ヶ月ぐらいあるだろ。その間波奈、自分の仕事はどうする? さすがにずっとこっちにいてもらうのも忍びないと思って」
カフェの開業を手伝ってほしいとお願いしてきたのは昴のほうだったが、いざ計画を立てると私の仕事のことを気にしてくれているらしい。ちょっと前まではお互いの仕事について分かり合えないと思っていたことが嘘のようだ。
「それなら大丈夫。十一月からは二拠点生活しようと思ってたし」
「二拠点生活? 東京と星見里で?」
昴は分かりやすく目を丸くした。
「そう。だめ?」
「いや、だめじゃないけど。金銭的にも体力的にも大丈夫かなって。もちろん交通費は俺が出すけど」
「ノンノンノン! お金なら大丈夫! そのためにこれまで稼いできたんだから。昴のそばにできるだけ長く一緒にいたいし、だけど東京での仕事も頑張りたいの」
ここ数日の間で考えていたことを口にする。昴のことは大事だけど、インフルエンサーの仕事だってもちろん大切にしたい。これまで私を支えてくれたファンのひとたちにも、これからも応援してほしいと思っている。
素直な気持ちを口にしたことで、昴が「そっか」と淡く微笑んだ。
「そういうことなら、応援するよ。だけど無理はするなよ?」
「うん、ありがとう。あとさ、カフェをつくる様子を私のSNSとかYouTubeチャンネルで紹介するのはどう? 視聴者も一緒にカフェをつくってるような感じになって、開店前に話題をつくっておきたいの」
「いいじゃん。波奈がやりたいようにやりな」
私の頭にぽんと手を乗せてわしゃわしゃと撫でる。その手のやわらかさと温もりを感じながら、照れ臭くなってちょっと目を伏せる。
なんか最近の昴……前よりもっと格好よくなったような気がする。
気のせいだろうか。恋人同士になったから、そう見えるだけなのかもしれないけれど。それでも私は、昴が私のことを一番に考えてくれている気がして心底嬉しかった。
「そうと決まればあれだな。早速進めていかないと。今日、実はこの後会う約束をしているやつがいてさ」
「え、そうなの?」
知らない話だったので純粋に驚く。これから会う約束をしているひと? 今日は工務店に話をしに行って終わりだと思っていた。
「ああ、俺の東京時代の元同期なんだけどさ。フリーで建築事務所を立ち上げて頑張ってる。一級建築士の重村豊ってやつ」
「へ、へえ。そんな知り合いがいたんだ。先に言ってよ」
「悪い悪い。アポが取れたのが昨日でさ、飛んで来てくれることになったんだ。内装のことでいろいろと相談したくて。今日の十六時に、バス停に迎えに行く」
「工務店で『相談したいひとがいる』ってその重村さんのことだったんだね」
「ザッツライト。というわけで、今日はもう少し付き合って」
「望むところです」
ペロリと舌を出して笑ってみせる。インフルエンサーとしての私ではない、昴の隣にいるまるはだかの自分の心が顔を覗かせていることに、自分でも気づいていなかった。




