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翌日、十月二十日月曜日の朝、私たちは早々に農作業を切り上げて、地元の工務店『滝川工務店』を訪れていた。工務店は役場から西の方面に、十分ほど進んだところにある。比較的大きな通りに面しているので、車で通りかかったら看板が目に入る。ここらで工務店と言えば滝川工務店しかないようで、空き家のリフォームなんかも滝川工務店に依頼するのが妥当なようだった。
「こんにちは」
工務店の扉を開けると、雑多な書類や本が積まれた事務所の中に、机に向かって鉛筆で書き物をしている男性が一人、カウンターの奥に座っていた。
短い白髭が生えた顎を触りながら、机と睨めっこしている。私たちがやって来たのも見えていないのか、「あの〜」と私が声を上げたところでようやく顔を上げた。かけていた老眼鏡を外して、歌舞伎役者のような勇ましい眉をぴくりと動かす。
「あえ? お客さん、いたの?」
「は、はい。ちょうど今お邪魔しました」
「それはすまねえ。ちょっと今作業をしていたもんで」
表情はむすっとしていて喋り方も決して丁寧とは言わないが、このひとからは不思議と嫌なオーラは感じられない。
「もしかして、あなたが滝川社長ですか?」
昴が一歩踏み込んだ質問をすると、彼は「そうだけど」とぶっきらぼうに答えた。
『滝川工務店』だから、社長の名前が「滝川」であることは簡単に見当がつく。
「何の用だね? 新築建築? それともリフォーム?」
「空き家をリフォームしてカフェをつくりたいんです。カフェの中にプラネタリウムを設置できるようにしたいのですが、そういうのも滝川さんにお願いできたりしますか?」
具体的な仕事の依頼に、滝川さんがグッと昴のほうに身を乗り出した。
「ああ、もちろん。うちは星見里一の工務店だからね。……て、星見里にはうちしか工務店がないんだがな! はっはっは!」
みかけによらず、おおらかに笑うひとだと分かり、なんとなく安心した。職人気質なひとと話をするのは初めてのことなので、どことなく緊張していたのが、だんだんと解れていく。
「それで、空き家というのはどこの空き家か決まってるのか? リフォームの具体的なイメージは? あ、その前にそこに腰掛けてください。気づかなくてすまない」
ほれ、と滝川社長が指差したテーブル席についた私たちは、鉛筆とノートを持った滝川社長と対峙する。社長と知ったからか、滲み出るオーラが野生のクマのようで、「おお」と自然とのけ反りそうになるのをなんとか堪えた。
「空き家は、役場の東側にある村長の役場を使って良いとのことなので、そちらを使わせていただくことになりました。外観はこんな感じです」
昴がここに来る前に事前に撮っていた村長の空き家の写真を滝川社長に見せる。
そう、昨日の晩、村長に出会った昴は、村長が持っている空き家を譲ってくれないかと交渉していたのだ。説得するのに難航するかと思っていたが、カフェの話をすると、村長は「そういうことならぜひ使ってくれ」と言ってくれた。とんとん拍子に進んでいく話に、私は昴と思わずガッツポーズをした。
「ほう。かなり広い家だな。カフェとしては十分使えそうだ」
ノートに鉛筆でメモを取りながら、滝川社長は「それで、内装のイメージは?」と追加の質問を投げた。
「実は内装に関してはちょっとまだ決めてかねていまして。相談したいひとがいるので、そのひとに相談した後にまた滝川さんのほうにお伝えするのでもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいけど。んじゃ、先にスケジュールのほうを決めるぞ」
相談したいひと?
そんな話は聞いていなかったので、私は首を捻る。
だが、その間にも昴と滝川さんとの間でスケジュールに関する話がどんどん進んでいくので、それ以上考えている場合ではなかった。
滝川社長との話し合いの結果、十月中に内装などの打ち合わせをして、十一月から施工を始め、十二月までに完成させることになった。
仕入れ先、メニュー決めやオペレーションの確認、周囲へのPRの期間などをたっぷり二ヶ月間とり、少し暖かくなってきた三月に開店することに決めた。工事が多少遅れても大丈夫なような余裕のあるスケジュールだ。
「……てことで、こんな感じで行きたいんだけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です! よろしくお願いします」
「こちらこそ。なんだか久しぶりに面白い仕事が舞い込んできたな。うちの腕の見せ所だ。よろしく」
ニッと口を大きく開けて笑った滝川社長の歯は驚くほど白かった。
滝川工務店を後にした私たちは、一時間に及ぶ打ち合わせで凝り固まった身体をぐーっと伸ばす。




