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ep.83 サキュバス達の願い

 


「あたいこのムッツリスケベだけはやだ‼︎」

「うるさい‼︎俺だってやだよ‼︎」

「こいつもなんかやだ‼︎」

「なんかってなんだ‼︎」


「あんた達……」


 やっと静かになったかと思えば、今度はカクタスやパキラも一緒になって運び方に関して言い争いを始めた。


「この運び方が一番いいと思うんだけど……」


「オリビア様‼︎自分が青の勇者をお姫様抱っこする所を想像してみてくださいよ‼︎」

「どういう意味だ‼︎」

「…………」

「嬢ちゃん⁉︎お、俺様だって女の子にお姫様抱っこされるなんてごめんだ‼︎」


 騒ぎ続けるパキラ達に頭が痛くなってきたオリビアは額を押さえると溜息を吐いた。


「少しの我慢よ。ずっとそのままじゃないんだから……」

「ならご褒美にキスよりもっとすごいのを要求します‼︎」

「調子に乗るな‼︎」

「うるさいムッツリスケベ‼︎」

「やめなさい‼︎…………カクタス達も、他にいい案が思い浮かばなかったんでしょ?なら諦めて――」

「なんでお前らこんなはやく来るんだよ‼︎考える時間なかったじゃないか‼︎」

「やめなさいってば‼︎」


 カクタスはサキュバス相手だと冷静さを失うらしい。

 双方が納得できる方法を考えていると、カランコエを連れて様子を見にきたフォティニアが困惑の表情を浮かべてオリビアに問いかけた。


「な、なんでこんな殺伐としてるんです……?」

「うるさいんだけど」


「実は…………」


 オリビアが2人に事情を話すと、フォティニアは唸り声を上げながら腕を組んだ。

 そして何か思い付いたのかハッとすると、どこか表情をワクワクとさせながら手を上げて提案した。


「ブランコ!」

「ブランコ?」

「はい!体を密着させるのが嫌なら、布とか板でブランコを作って運ぶのはどうでしょう?」

「その方法にしましょうオリビア様!」

「そうだ!それがいい!」

「でも危険じゃない?」


 その方法では振り落とされる可能性がある。

 オリビアが考える素振りを見せると、サキュバスやカクタス達は必死に彼女を説得した。

 その必死さに苦笑を浮かべて「分かった」と頷くと、彼らは表情を明るくして喜んだ。



「よいしょっ」


「オリビア様……それ……なんですか……?」


 カクタス達にブランコの制作を頼むと、オリビアはサキュバス達の前に大きな砂袋を用意した。


「ラークさんやデイジーさんは2人で運ぶとして、2人の次に大きい青髪の勇者は大体80キロ以上はある。それを運ぶわけ」


「は、はい……」


「だから、今からあんた達の体力と筋力、その他素早さや飛行能力なんかを測定して、誰が誰を運ぶか決める。そして安全に運べるように、時間はないけどできるだけ鍛えるわ」


「…………」


「手を抜いたらどうなるか分かってるわね?」


 オリビアがサキュバス達を睨み付けると、彼女達は顔を青くしてゴクリと喉を鳴らした。

 そしてすぐ後にサキュバス達の悲鳴と嗚咽が響き渡ると、パキラや兵士達は顔を青くした。




 ――――


「今日はここまで」

「は、はぃぃ……ご、ご褒美、ぐだざぃ……」

「まだ元気があるみたいね」

「許じで……」

「…………黒の森を無事に越えられたら、ご褒美に何が欲しいの?」


 オリビアからの問いかけにサキュバス達は地面を這って集合しコソコソと話し合いを始めた。

 変な要求をして来たらぶん殴ってやろうとオリビアが拳を握ると、チューはオリビアを見上げ、枯れた声で願いを口にした。


「…………オリビア様にシュバルツの統治者になっで欲しいでず……」


 まだ諦めていなかったのか――

 オリビアは呆れて溜息を吐きだしたが、チューはそれでも言葉を続けた。


「隠れで暮らず蜘蛛の魔族や鼠の魔族も……オリビア様の話をじだら、会っでみだいっで…………

 シュバルツの魔族やヴァイスの人間が、ごの大陸を支配するのは怖いけど……オリビア様みだいな人が王になっでぐれだら…………自分達ももう少じ……自由に暮らぜるんじゃないがっで……」


「…………」


「オリビア様は怒るど怖いじ……脅ずじ……男の趣味も悪いげど……」


「おい」


「でも……嫌な顔じでも、あだい達の――魔族の気持ちに寄り添おうどじでぐれだ…………」


 チューは体を起こすと地面に手をついてオリビアに頭を下げた。


「ヴァイスの人間だげじゃなぐ……どうが……シュバルツの魔族も……皆じゃなぐでいいがら……面倒みでぐれまぜんか……オリビア様……」


「ちょ……やめなさいよ!私にそんな権限ないの!」


 これならいやらしい要求をされた方がマシだった。

 オリビアは眉間に寄った皺を押さえて上を向くと、彼女達にマナを含ませた水を渡して逃げるようにその場を去った。


 チュー達は眉を下げて大人しくその後ろ姿を見送った。




 ――――


「振り落とされないようにベルトをつけるとかどうです?」

「サキュバス2人で女性3人を運ぶとか……」

「木の板に布を……」


「オリビア大丈夫?」

「えっ……ああ……ごめん……」

「サキュバス扱きすぎて疲れたんじゃねぇか?」

「主語がサキュバスだと意味深に聞こえます……」

「せ、セクハラじゃねぇぞ⁉︎」


「俺達で考えるから休みなよ」


「そうするわ……」


 心配そうにするカクタスに、オリビアは安心させるように笑みを見せて部屋へと向かった。


 途中クロッカスが彼女の様子がおかしいことに気付いて近付いて来ると、オリビアは少し考えてシオンと話がしたいとお願いした。


「何か問題でも?」

「…………少し、聞きたい事があって……」

「ワタクシのスキルを使えば、ワタクシにも話の内容が伝わってしまいますが大丈夫ですか?」

「大丈夫」


 クロッカスは少し悩んでからシオンに連絡を取ると、嬉しそうなシオンの声が脳内に響いた。


 “「オリビアどうしたんじゃ?僕が恋しくなったのか?ん?」”


 いつもの調子で話すシオンに心が少し落ち着くと、クロッカスにスキルで繋いでもらったまま部屋へと移動し、シオンへ話をした。


 “「…………サキュバス達が戦争が終わった後、私に統治者になって欲しいってお願いしてきたの」”


 “「なに?…………ふむ……戦争でヴァイスが勝つということは、自分達を目の敵にしていた者達が自分達を支配する事になる。奴らにとってそれはどんな魔族が上に立つよりも恐ろしい事なんじゃろ……じゃからオリビアにそう言ったんじゃろうな」”


 “「うん…………女神を殺して神の選別を阻止できても、結局はヴァイスにシュバルツを任せる事になる。統治者になるつもりはないけど、不安がる魔族達をどうすればいいのか分からなくて……」”


 “「放っておけ。お前が悩む必要のない事じゃ」”


 “「放っておけたら苦労しないわよ……」”


 仲間に加わったカランコエから始まり、自分を好きだと言って懐くサキュバス達、四葉やシオンに子供のように構ってもらおうとする熊の魔族――


 考え方が少し違うだけで、自分達と大して変わらなく見える彼らに、オリビアは情が湧いていた。


 チューに懇願され、自分にできる事がなにかあるだろうか――つい考えてしまう。


 オリビアは彼らの行く末を関係のない事だと目を背ける事が、どうしてもできなかった。



 “「……お前がやつらの面倒をみてやる義理はない。してやれる事といえばセコイアの王に話をするぐらいじゃないか?」”


 “「うん……それで納得してくれるかしら?」”


 “「納得してもらうしかない。統治者になるつもりはないんじゃろ?だったらこれ以上半端に情けをかけるのはやめておけ、魔族の為にも、お前の為にも…………人が来たから切り上げるぞ」”


 “「……分かった。ありがとう」”



 シオンの声が聞こえなくなり、オリビアが溜息を吐くとクロッカスが声をかけてきた。



 “「オリビアちゃん、大丈夫ですか?」”


 “「……大丈夫よ」”


 “「……あまり一人で考え過ぎないようにしてくださいね。では、失礼します」”


 “「うん。ありがとね」”


 クロッカスの声も聞こえなくなると、オリビアはベッドに横たわった。


「そうよね…………うん……なんで私が…………」


 魔王を倒した後は神との戦いが待ってる。


 そこで勝たなければ魔族の未来どころか、自分の未来だって――


『……一緒よ、当たり前でしょ』


「…………倒せた所で、ここに残れるかまだ確定じゃないのに…………はぁ…………」


 そう、まだ確定ではない。


 オリビアは両手で顔を覆うと静かに息を吐いた。




 ――――


「そこまで!……すごいじゃない、これなら余裕で黒の森を越えられそうだわ」


「えへへ〜!あたいってば努力家なもんで〜!」

「うちに言ってんだよ!」

「あたしだよ!」


「やめなさい!まったく……」


 サキュバス達は2日に及ぶオリビアのスパルタ訓練によって筋力、飛行能力共に大幅に上がっていた。

 パキラ程の重さを片手で軽々と持ち上げられるようになったのには驚いたが、これならば安心して身を任せられるだろう。


「オリビア様のお水おいし〜!」

「これをやり遂げたらほっぺにチュー……ぐふふっ」

「私は瞼にチューしてもらうんだ〜!」

「えっ⁉︎瞼か……そっちもいいな〜……」


 あれからサキュバス達は何も言わなくなった。


 変わらず絡んでくるサキュバスにオリビアは内心ホッとしつつ少しだけ申し訳なさを感じていたが、敢えて触れはしなかった。


「嬢ちゃん“ブツ”ができ……うおおっ⁉︎な、なんだお前らその姿は……!」


「どうこの肉体美!」


 何故かこの訓練でラークやデイジーよりも大きく、筋肉隆々になったサキュバス達――パキラが驚いて口をパクパクとさせると、サキュバス達は自慢げにその筋肉を見せつけるようにポージングを始めた。


「これならお姫様抱っこでも恥ずかしくないんじゃない?」

「冗談きついぜ…………おっと、忘れる所だった。できたぜ、誰が乗っても大丈夫だと思うが……」


 パキラが持って来たのはブランコとして使うための紐と布が巻かれた板だった。

 サキュバスが持つ部分には手を離しても落ちないようベルトが付いている。


「はははっ!すげー!」

「あははっ!振り回しても落ちないー!」


 試しにそれをチューに装備させてパキラを乗せて飛んでもらうと、2人はおかしそうに笑いながら空をビュンビュンと音を立てて飛び回った。


 その後、イベリスとクフェア、そしてリリーの3人を乗せて試し、問題なく運べる事が分かるとオリビアはホッと息を吐き、サキュバス達を整列させて彼女達を見つめた。


「これで出発の話ができる。日時に関してはまた連絡するわ。それまでその状態を維持、分かった?」

「はい!」

「……頼んだわよ」

「お任せください!」


 何故、サキュバス達の筋肉隆々な体が油を塗ったように光沢を帯びているのか――

 思わず問いかけそうになったが、真剣な眼差しでこちらを見るサキュバス達にオリビアは何も言えず、黒の森のある方向へと視線を向け、覚悟を決めるように強く拳を握った。




 ――――


 サキュバスの訓練している間に殆ど準備は終わっていたようで、会議で出発は明後日の明朝に決まった。

 明日はもう一度会議、そして確認作業が行われる。


 オリビアはいよいよかと緊張に胸をざわつかせながら部屋へ寝支度をしに向かおうとすると、熊の魔族と四葉の会話が聞こえて来た。


「うーん……やっぱりダメだぁ……うまく転移させられなぁい……魔王様の所までどれぐらいで着く予定なのぉ?」

「うーん……何も問題なければ2日ぐらいじゃない?空を行くからさ、そんなにかからないんだって」

「それまでにマナの回路は治ると思うけどぉ……手伝わなきゃ誓約魔法に引っかかるよねぇ?」


 四葉は熊の魔族のベッドに横になりクッションを抱き締めてそのままそこで寝るつもりなのかと思うほどゆったりとしていた。


 もちろんそれを気に入らないリリー達は恨めしそうに熊の魔族を睨んでいるが、邪魔する様子はなかった。


「リリー……もしかして黒髪の勇者、熊の魔族と寝るの?」


「うん……魔王を倒しに向かうからしばらく体力温存しようって話になってさ……もー!」


「体力温存……」


 聞くんじゃなかった――オリビアが眉を寄せると、リリーが「そうだ!」と声を上げてオリビアの手を掴んだ。


 

「オリビアあたし達の部屋で寝なよ!四葉いないし!」

「嫌だけど」

「嫌じゃない!フォティニアとデイジーも呼んで女子会しよ!ね!」


 勘弁してくれとオリビアが顔を顰めさせたタイミングで女子会と聞いたデイジーが飛んでくるとフォティニアと共に部屋へと強制的に連行された。


 四葉はニコニコと笑って手を振り、カクタスは苦笑を浮かべてそれを見送った。

少し改稿しました。

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