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ep.82 クソジジイ

 


 シオンの言葉にオリビアは驚いてどういう事かと問いかけると、黒の創造神も代償を払う為に神域から降りてこの世界の者に憑依している事が説明された。


 もう少し詳細に話が聞きたかったが、熊の魔族の屋敷までの移動とカードゲームでの疲れが襲って来ると、シオンが話を切り上げた。


「今日はもう休め。話はまた今度してやる」


「……はぁ……分かったわ」


「うぅ……なんかどっと疲れたなぁ……」


「黒髪の勇者様はコロコロとお顔が変わって面白いですね」


「…………こっちの気も知らないで……」


 四葉は口を尖らせてクロッカスを見ると、すぐに視線をシオンに移して眉を寄せた。


「…………もう少しだけ待ってください」


「出発前にまた声をかける。待てるのはそこまでじゃ」


「…………」


「……白の創造神の世界にお前や、お前の仲間達はきっと選ばれるじゃろう。じゃが、熊の魔族は分からん」


「!」


「お前が救いたいのは手の届く範囲だけなのか、それともそれも含めた世界なのか…………白の創造神を信じたいのなら好きにしろ。じゃが、僕はオリビアやヴァイスだけではない、全てを必ず救ってみせるぞ」


 シオンは立ち上がり、パチンと指を鳴らした。


 その音が部屋に大きく響くとシオンとキャットの姿が消え、時が動き出した事を確認したクロッカスは苦渋の表情を浮かべる四葉の背中を押しながら部屋から出て行った。


 オリビアはベッドに横たわると部屋から出ていく時に見た四葉の表情を思い出して大きく息を吐いた。


「協力してもらえれば、心強いは心強いんだけど…………シオンはどうして話そうと思ったんだろ……」


 オリビアは創造神の勝手な理由で、この世界での未来がない事を突きつけられ絶望していた。


 そんな時にシオンから声をかけられ、カクタス達との未来を強く望んでいた事、そして創造神が創ろうとしている世界を許せなかった事で、シオンに協力する道を選んだ。


 そう、創造神に不信感を抱いており、協力する可能性が高かった自身の時とは違う。

 それなのに四葉に話をしたのは何故なのか。


「頷いてくれるといいけど……」


 彼にとって、すぐに信用できるほどこれは簡単な内容ではない。


 オリビアは態度の悪かったシオンを思い出し、協力を拒否されるのではないかと不安を感じながら目を閉じると、そのまま眠りに落ちた。




 ――――


 次の日の朝、


「ギャハハハッ!また僕の勝ちじゃ!」

「い、イカサマだぁ……!」

「イカサマじゃない!このクソガキめ!」

「ぐっ……!つ、次はブラックジャック!」

「今度こそは俺が勝つ!」


「…………」


 オリビアが目を覚まして部屋から出ると聞き覚えのある騒がしい声が耳に入り、呆れと怒りに眉を寄せた。

 声のする方へ向かうとベッドの周りにあった壁がなくなり、熊の魔族と四葉、シオン、そしてラークがトランプをして遊んでいる姿があった。

 周りにはそれを見守る兵士達、そしてカクタスとパキラの姿も見える。


「……何してんの」

「オリビア!今日もボロ儲けじゃぞ!」

「どぉしてボクは、朝ごはんのフルーツを桃にしちゃったんだぁ……!」

「泣くな‼︎まだ取り返すチャンスはある‼︎」

「俺はデイジーの分の桃を賭けるぞ‼︎」

「ラークさん……勝手にデイジーさんの桃を賭けたらダメでしょ」

「うぐっ……」

「仕方ないな。ならスープを賭けろ」

「シ…………アスター‼︎」


 オリビアがシオンを怒鳴りつけると、シオンは口を尖らせて「少しぐらいいいじゃろ」と不満を口にした。

 しかし、オリビアが拳を握るのが目に入ると慌てて首を振りラークの後ろに隠れた。


「し、仕方ない!僕は賭けないが、僕に勝ったら賭けた物全て返そう!」

「あんたねぇ……」


「オリビア」


 オリビアが呆れていると、カクタスが手招きしている姿が目に入った。


「カクタス、どうしたの?」

「彼らのこと大目に見てあげて」

「……もう、甘いんだから」

「楽しそうにしてんだからいいじゃねぇか」


 カクタスとパキラがゲームを楽しむ彼らを微笑ましく見ているのに対して、オリビアは溜息を吐いた。


「おい。イカサマはいかんぞ」

「ぐっ……なんでバレたんだ……」

「勇者様はイカサマしないと僕に勝てないのか〜?ん〜?」


「「(こいつホントに協力させる気あるのか……⁉︎)」」


 煽るシオンに、オリビアと四葉は顔を同じようにぎゅっと歪ませる。

 そこに兵士の一人がやって来ると勇者達に向かって頭を下げた。


「勇者様、会議の用意ができました!」

「ふむ、今日はここまでじゃな」

「俺の桃がぁ!」

「くっ……次こそは勝ちますからね!」

「……もぉ行っちゃうのぉ〜?」

「お前ももう少し安静にしてなきゃだろ!また後でな!」

「ちぇーっ」


 拗ねる熊の魔族を笑って宥める四葉に、シオンは静かに笑みを浮かべてトランプを回収した。

 そしてラークの背中を叩くと「桃は後で回収するからな」と声をかけてキャットの元へと向かった。


 ラークがトボトボとカクタスの元へやって来ると、カクタスは苦笑を浮かべて慰め、パキラと共に会議へと向かって行った。


「鍛練してたら勇者様と入れ違いになっちゃったわ〜!あら、ラークどうしたの?」

「賭け事して負けたの。デイジーさんの朝のフルーツまで賭けようとしてたわよ」

「何ですって⁉︎」

「お、オリビア殿!告げ口なんてあんまりだ!」


 デイジーに叱られるラークに背を向けて、オリビアは四葉がうまく話してくれる事を祈った。


「戦争なんてやめて皆でゲームして過ごせばいいのにぃ…………また退屈な日々が始まるのかぁ……」


 熊の魔族がぽつりと呟いた声は騒がしさの中、静かに溶けて消えていった。






 ――――


「オリビア、少し会議に参加してもらってもいいかな?」



 魔工妖精が用意してくれた朝食を食べ終えて部屋に戻ろうとした所、慌ててやって来たカクタスに引き止められた。

 カクタスの後ろではまるで褒めて欲しそうに目を輝かせる四葉の姿も有り、サキュバスの話が通ったのだと分かるとオリビアは頷いて会議へ参加した。



「……というわけで、可能ならサキュバス達に協力をお願いしたいんだけど……」


「そうね、呼び出して話をするわ」


「ありがとう。その後はさっき話した通り魔法陣を使って兵を移動して……」


 会議の内容を聞きながら四葉の方を向くと、彼はドヤ顔でオリビアを見ていた。

 思わず笑いそうになるのを堪えながらうんうんと頷くと、彼は嬉しそうに鼻の下を指で擦った。



「この作戦ならば魔王戦に我々も参加できます。白魔法士による治療も可能ですし、回復薬や遠距離武器が不足する心配もなくなります。……全力でサポートさせていただきます」


「ついにここまで来たかー……残った問題は卵に戻らないようにする事だな」


「俺達の代で終わりにしたい……考えないとですね……」


「負けそうになると卵になっちゃうんですよね?熊のやつみたいに挑発します?」


「毎回逃げてるやつだぞ……今更挑発が効くか?」


 卵になってしまう事を失念していた。

 オリビアは腕を組んでそれをどう阻止するか考えたが、それに対してキャットが何も言わなかった事に疑問を覚えた。


 シオンが出発前に声をかけると言っていた事から、その時に話がされるのだろうかと考えていると、ヘリーが翼をばたつかせながら声を上げた。


「熊の魔族から話を聞くのはどうでしょう?何か分かるかもしれませんよ!」

「確かに……」

「まだ安静が必要みたいなんで、後で話を聞きに行きましょうか」

「まったく……転移の事といい、肝心な時に使えない魔族ですねぇ!」


 ヘリーの発言に四葉が睨むように視線を向けると、ヘリーは慌ててカクタスの後ろに隠れた。


 その後、しばらく提案や質問を繰り返しているとひと段落して一度解散となった。


 部屋を出ると四葉が真っ先にオリビアの元に来てコソコソと話しかけてきた。


「俺うまくやったでしょ!」

「ふっ……そうね」

「ちゃんとさり気なく話したんですからね!……あのじーさんも多少は褒めてくれますよね?」

「…………褒められたいの?」

「ち、違いますよ!協力しろっていいつつ俺への態度が悪いから見返してやりたくて――」


「コソコソ何話してるの?」


 少し冷ややかなカクタスの声が後ろから聞こえて来ると、オリビアと四葉は肩をビクッと跳ねさせた。


 慌てて後ろを振り返るとにっこりと笑みを浮かべるカクタスと口を尖らせたパキラが2人を見ていた。


「いつの間にそんな仲良くなったんだ?」

「えっと……リリー達の事で少し……ね?」

「は、はい!それじゃ、失礼します!」


 四葉はカクタスの顔を見て青ざめるとそそくさと逃げて行った。

 残されたオリビアは四葉の背中を睨み付け、ぐっと表情を取り繕うと2人に話題を振った。


「屋敷の外の敷地、少しだけ使わせてもらおうかと思ってるんだけど……誰に聞けばいいかしら?」

「何するの?」

「サキュバスがちゃんとカクタス達を運べるように訓練しようと思って」

「…………なぁ、聞きたい事があるんだが……」

「なに?」

「俺様達の運び方……まさか、()()()()()()じゃねぇよな……?」


「……そのつもりだけど?」


 オリビアはその問いかけに首を傾げる。

 背負うのは飛行の邪魔になる、サキュバスにしがみ付くと両手が塞がるし、脇の下に腕を回して宙ぶらりんで飛ぶのは危険だ。


 そうなると残されるのは横抱きなのだが、その言葉を聞いてパキラとカクタスはあからさまに顔を歪ませて拒否反応を見せた。


「仕方ないじゃない……」

「俺は魔法で……」

「魔王との戦いの前にマナを消費するのは良くないでしょ。…………一応サキュバス達ともどう運ぶか話し合う予定だけど……」


「サキュバス達と話す時、同席してもいい?」

「いいわよ。今から呼ぼうと思うけど……いつここに着くか分からないからまた声をかけるわ」

「赤髪、その間に運び方考えるぞ」

「はい」


 オリビアは真剣な表情で頷き合う2人に思わず苦笑を漏らした。

 そして、熊の魔族と隊長達に許可を取って外に出ると、開けた場所でサキュバス達に来るように念じた。

 するとすぐに名前を呼ぶ声が遠くから聞こえてきた。


「オリビア様〜‼︎」


「…………」


 その甘ったるい声にオリビアは思わず眉を寄せると視線を向ける。

 そこにはサキュバス達が嬉しそうに笑みを浮かべてこちらに手を振る姿があった。


 サキュバス達が飛びついて来るかと身構えたが、彼女達はオリビアの前に整列して胸に手を当てると深くお辞儀をした。


「お呼びでしょうか、我らが王よ」

「……はぁ?」


 先頭に立つチューの発言にオリビアが片眉を上げて呆れと困惑を含んだ声を上げると、チューは頭を上げてニコニコしながらオリビアを見つめた。


「オリビア様……新たな魔王様への挨拶なんですがどうですか?」



『オリビア様がシュバルツの統治者になってくれるって事ですか⁉︎』


 チューが前に言っていた言葉を思い出すとオリビアは額を押さえた。

 そして大きく息を吐き出すと、チューの額を指でぐりぐりと押しながら睨み付けた。


「ふざけないで……ならないわよ」

「えぇっ⁉︎なんでですか‼︎あたい達を助けてくれるんじゃないんですか⁉︎」

「考えてやるとは言ったけど統治者だとか魔王だとかになるつもりはない‼︎」

「そ、そんなぁ……」


 サキュバス達はそれを聞いて目に涙を溜めると地面に転がり駄々を捏ね始めた。


 子供ならば優しく宥めただろう。


 しかし、彼女達は立派な成人女性の姿をしている。


 オリビアは植物の鞭を作り出し地面を強く叩くと駄々を捏ねるサキュバス達に再度整列するように指示した。


「うぅ……ひどい……」

「オリビア様の嘘つき!」

「嘘も何もそんな約束はしてない‼︎…………はぁ……あんた達を呼び出したのは、お願いしたい事があるからなんだけど……」

「ご褒美は⁉︎」

「今度は口にチューして欲しいです!」


 統治者や魔王などと言いながら、舐めた態度を取るサキュバス達にオリビアが額に青筋を立てると、怒りを察したサキュバス達は口を閉ざしてビシッと背筋を伸ばした。


「…………魔王の所に向かう途中に黒の森があるのは知ってる?」


「はい!あの黒いモヤモヤがある森ですよね?ラスト様がたまにそこを通って魔王様に会いに行ってました!」


「魔王の所に行く為にそこを通らないといけないんだけど……ヴァイスの人間は精神に影響を受けるの。だからそのまま通るんじゃなくて飛んで行こうと思ってる」


「そうなんですね〜」


「あんた達を使って」


「へ〜あたい達を使って…………ん?なんですって?」


「私達を運んで欲しいの」


 サキュバス達は顔を見合わせ、しばらくすると突然取っ組み合いの喧嘩を始めた。


「ちょ……!何してんのよ‼︎」


「オリビア様を運ぶのはあたいだ‼︎」

「ふざけるな‼︎うちがオリビア様を運ぶんだよ‼︎」

「馬鹿言え‼︎お前らは他の人間運んでろ‼︎」


「やめなさい‼︎」


 オリビアが再び鞭で地面を叩くと、サキュバス達は喧嘩をやめてオリビアの前に整列し直した。


「私は自分で飛んで行くわ」

「えっ⁉︎で、でも魔王様との戦いが控えてるんですよね……?あたい達が運んだ方が……」

「そこは心配しなくていい」

「…………」


 それを聞くとサキュバス達は途端にやる気のなさそうな顔で視線を斜め上に向けた。


「あいつら運ぶの〜?」

「やだ〜」


「…………断るって事?」


 オリビアがじっとサキュバス達を見ると、彼女達は不服そうに口を尖らせて肩を竦ませた。


「……だってぇ」

「そう……短い付き合いだったわね」

「へ?」


 オリビアは態とらしく大きな溜息を吐いて目頭を押さえると、静かに背を向けた。


「私の為ならなんでもしてくれるって……勘違いしてたみたい」

「お、オリビア様……?」

「今までありがとう」

「…………ま、待って‼︎待ってください‼︎」

「運びます‼︎」

「嫌なんでしょ?」

「いいえ‼︎喜んで運ばせていただきます‼︎」

「…………そう?」


 オリビアは「ありがとう」と言って笑顔を貼り付けた。

 サキュバス達は向けられた笑みに顔を赤くすると歓喜の声を上げた。


「嬢ちゃん……いつか後ろから刺されるぞ」

「…………どういう意味かしら」


 なんとか丸めこめたと安心していると後ろから呆れた声がかかった。

 そこには苦笑を浮かべたパキラとカクタスが立っており、オリビアはふいっと顔を背けて鼻を鳴らした。


「さて、問題はまだ残ってるわよ」

少し改稿しました。

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