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ep.84 きっと大丈夫

 


「そういえばさー!」


「いい匂いね〜なんのフレグランス使ってるの?」


「これはですね……」


「てかこれさー」



「…………」


 まるでドッジボールのように会話をぶつけ合い騒ぐ彼女達に、四葉はよくついていけるなと多少感心しながら枕を整えているとリリーがオリビアの脇を突いた。


「女子会と言えば恋バナなんですけど、オリビアさんの所はどうなんですか〜?」


「部屋に帰るわよ」


 オリビアが額に青筋を立ててリリーを睨み付けると、女性陣は「こわ〜い!」と態とらしく身を寄せ合いはしゃいで見せた。


「でもさ〜!魔王まで後少しだよ?倒した後の事考えたりしないの?」


「オリビアはもう約束してるのよね〜?」


「デイジーさん‼︎」


「いたぁい‼︎」


 オリビアはデイジーの肩を強めに叩いた。

 その顔は耳まで真っ赤に染まっており、リリー達はにやりと口元を緩ませるとオリビアは堪らず顔を背けた。


「初々しいですわ〜!」

「式には呼んでもらえるか?」

「やるならセコイアだよねー」

「やめてったら‼︎」

「羨ましいです……私にもそんな相手がいれば……」

「アタシも……」


 フォティニアとデイジーが肩を落とすとイベリスが彼女達の背中を摩りながら慰めた。


「魔王を倒せば世界中にフォティニアさんやデイジーさんの話が広がると思います……そうすればたくさんの求婚を受けると思いますよ!」


「でもそれってお金とか肩書き目当てな気がしません?私はお金がなくても君がいいって言ってくれるような人を希望します!燃える恋がしたいです!」


「アタシもそんな恋愛したいわ〜!ここの人達っていい人止まりでそそられないのよね〜」


「デイジーって悪い男に振り回されたいの?」


「違うわよ、悪い男を振り回したいの♡」


 このままでは朝まで話し込むんじゃないかと心配になったオリビアはコソコソと布団へ潜り込んだ。

 するとリリーがそれに気付いてオリビアの睡眠を邪魔するように上にのしかかってぺしぺしと布団と叩く。


「ちょっと……」


「あたし達の結婚式、オリビアもちゃんと出席してよ〜?」


「結婚式?」


「魔王を倒したら結婚式しようって四葉が言ってくれたの!」


 オリビアはギョッとして思わずイベリスの方を向いた。


「もちろん私も四葉と結婚予定ですよ!」


 彼女は胸を張ってにっこりと笑った。


「でもイベリスって姫……王女よね?そうなると……大丈夫なの……?」



「アールダは王族の一夫多妻を認めていますが、それは王が男である場合です。……なので、反発は少なからずあるでしょうが……魔王を倒せば父や貴族達を説得できるはずです」


 イベリスはぐっと拳を握るとリリー達を見つめた。


「私は四葉も好きですが、リリーやクフェア、そしてイキシアやアマリリスの事も大好きです。一緒にいたいです。だから、絶対、説得して……皆でいられる未来を掴みます」


 リリー達は嬉しそうに笑みを浮かべてイベリスを抱き締めた。


「説得できなければ家を出ます!」

「あははっ!やば!まぁ、どれだけ報酬が出るかわかんないけど、あたしらならなんとかやっていけるっしょ!」

「どこか自然の豊かな土地に家を建てて皆で暮らすのもいいですわね!」

「畑作ってオリビアに管理してもらおー」

「おおっ、いい案だな」

「なんでよ!」


 オリビアがクフェアに向かって枕を投げ付けるが、それはひらりと躱されアマリリスの顔面に直撃。

 アマリリスは赤くなった鼻を押さえながらオリビアを睨み付けて同じように枕を投げようとしたが、手元が狂いリリーの頭に当たった。


「痛いじゃんかよ!」

「いたっ!ちょっとぉ!」

「お前達やめないか!へぶっ!」


 恋バナから一転――

 部屋の中を枕が舞い、子供のような争いが始まった。





「何を騒いでるんだか……」


「さぁ……?」


 ――そんな騒がしさに、そろそろ自分達も寝ようかと話していた男性陣は苦笑を漏らした。


「魔王様との戦いが控えてるのに緊張感とかないの?」


 カランコエは指で耳を押さえながら溜め息を吐くと、カクタスはおかしそうに笑みを溢してオリビア達のいる部屋の扉に視線を向ける。


「あんた!枕置きなさいよ!」


 いくつも聞こえる騒ぐ声――

 そんな中でもオリビアの声は、カクタスの耳にはよく届いた。


 怒っているように聞こえるが、その声にはどこか楽しさが混じって感じる。


「赤髪、お前なにニヤけてんだ?」

「えっ……いや……楽しそうだなと……」

「まーた嬢ちゃんの事考えてたんだろ」


 口を尖らせるパキラに、カクタスは慌てて視線を泳がせると、彼は吹き出して背中を叩いた。


「さっさと魔王倒して、さっさと幸せになれよ」


「あれ?応援するんですね……パキラさんってオリビアさんの事好きなのかと思ってましたけど……」


「えっ!好きだぞ!赤髪がフラれたらいいなって思ってる!」


「……あんまり本人の前でそういう事言わないで欲しいんですけど……」


 パキラは口を大きく開けて豪快に笑うと、四葉は呆れたように彼を見つめ、カクタスは溜め息を吐いた後、釣られるように笑みを溢した。


 騒がしかった女性陣の声が止むと、男性陣はそれぞれの部屋へと移動を始める。

 カクタスは天井に視線を向けた。


「……もうすぐか」


 ここ最近、毎日のように魔王を倒した後の事を考えている。


 どこで想いを伝えよう。

 どうやって想いを伝えよう。

 どんな顔をして、

 どんな返事をしてくれるんだろう。



『必ずなんとかしてやる』


 そして、それを考える度にシオンという兵士の言葉がひどく不安を煽る。


 シオンという名前が出た時、オリビアは嘘をついた。

 ここにはいないと――



 シオンという兵士が何者なのか、

 なんとかしてやるとはなんの事を言っているのか。


 オリビアに問いかける事も、シオンという兵士を問い詰める事もできずにここまで来てしまった。



『早くこの戦いを終わらせたいってこと』


 シオンという兵士が何を企んでいるのか分からないが、オリビアは自分との未来を望んでいる事は確かだ。

 だから、きっと大丈夫、悪い事にはならない。


「大丈夫……」


 カクタスは不安を押し込めるように自分に言い聞かせると、カランコエを連れて部屋へと移動した。


「(魔王を倒したら……全てが終わったら――)」





 ――――



「魔王様はぁ……黒いマナを使って攻撃するしぃ……力は強いしぃ、体の割に速いしぃ……」


「もっと詳しく話せねぇのか……」


「だってぇ……ボクは戦った事ないしぃ……魔王様と戦ったことあるのはラストぐらいじゃないかなぁ……」


 熊の魔族から聞かされた情報は、文献等に残されている物と対して変わりはなく、あまり役に立つようなものではなかった。


 文献と違ったのはドラゴンの姿ではなく、人の姿をしているということだけだった。


「100年ごとに力を増してるんですよね?…………大丈夫かな……」


「今までは黒の森でかなり消耗してからの戦闘を強いられてたけど、今回はオリビアのおかげでそれがない。それに魔法陣のおかげで物資や回復に関しての問題も少ない。きっと大丈夫だよ」


「ボクもいるしねぇ」


「お前は魔王と戦うの……平気か……?」


「えぇ〜今更ぁ〜?」


 熊の魔族は四葉の様子に口元を押さえてクスクスと笑った。


「元々四葉達を倒したらボクが魔王様倒しちゃおっかなぁって思ってたしぃ……平気だよぉ〜…… 」


「は、はは……不安なのは俺だけかぁ」


「ねぇ……ホントに魔王様倒さないといけないのぉ?」


 熊の魔族の一言に、騒がしさが遠のく。

 少ししてパキラが「何を言い出すのやら」と苦笑を浮かべると、熊の魔族はちらりと四葉の方に視線を向けた。


「誰か死んじゃうかもよぉ……勇者、3人しかいないんでしょぉ?」


「その代わり、俺様達には多くの仲間や兵士達がいる」


「…………お互い関わらなければ誰も怪我しないし死ぬ事もないよぉ」


「そんな簡単な話じゃないんだよ……」


「なんで魔王様やキミ達が戦わないといけないんだろぉねぇ……」


「自分達の世界を守る為だ。一番強い奴が戦うのが当然だろ」


「そういう意味じゃないんだけどぉ……まぁいいやぁ…………」


「…………」



 オリビアは横目で四葉を見た。

 彼は険しい顔をして拳を握っていた。


 この世界の人間、特にヴァイスの人間はこの戦争の始まりに、あまり疑問を持っていない。


 放っておけば黒の神に世界を奪われる。

 だから自分達の世界を守る為に戦うと言うが、

 神が一つに戻る事を望んだから起きた戦争だ。

 黒の神だけでなく、白の女神も。


 少しでも理不尽さを感じたりしないのか――


 そのまま話は流れ、黒の森を越えた後の事や、魔王との戦いでの立ち回りの確認を終え、彼らは解散した。

 そして、


 “「オリビアちゃん、夜にまた声をかけます」”



 ――彼はようやく、決断したようだった。




 ――――


 四葉の返事が気になりオリビアは早々に部屋へと移動した。


 しばらくしてクロッカスから連絡があると、オリビアの部屋に四葉とクロッカスがやって来て――



「やっほー」

「まったく、こんなにギリギリまで待たされるとは……」


 その直後に時が止まり、シオンとキャットが部屋の中に現れた。

 シオンの姿に四葉は顔を強張らせ、ごくりと音を立てて唾を飲み込むと、シオンは椅子に腰掛けてゆっくりと四葉へ視線を向けた。


「決めたか?」


「俺は……」


 四葉の様子にシオンは答えを察すると、眉を寄せて大きく溜め息を吐き出した。


「……拒否するんじゃな」


「えっ⁉︎」


 オリビアが驚いて声を上げると、彼は気まずそうに視線を逸らした。

 シオンはゆっくりと背凭れに寄りかかり天井を見上げて目を細めた。



「……分かった」


「すみません……やっぱり――」

「いやいい、責めるつもりはない。魔王を倒す事に集中してくれ」

「…………」



 言葉を続けようとした四葉を止めるようにシオンは言葉を被せた。

 四葉は考えていた言い訳を飲み込むと、口をぐっと噛み締めて俯き、また小さく謝罪の言葉を口にした。


 キャットは頭の後ろで手を組むと、揶揄うようにシオンに声をかけた。


「おじいちゃんが意地悪ばっかするから〜」

「なに⁉︎僕は意地悪などしてない‼︎ちょっとトランプで負かしただけじゃ‼︎」

「シオン様、大人気ないですよ」

「おいクソガキ‼︎本当に生意気になりおって‼︎」

「なんで俺を叩くんだよ‼︎」


 シオンが八つ当たりするようにキャットを叩くと、またケンカが始まった。

 オリビアがそれを止めクロッカスがクスクスと笑う――その様子に四葉はまたぐっと表情を歪ませた。


「フンッ……オリビア、会議の内容は?」

「あ、あの……」

「なんじゃ?」

「俺……出て行った方がいいですよね……?」

「会議の話はお前も聞いていたんじゃろ?どっちでもいい」

「ちょっと!そういう言い方がダメなんじゃないの⁉︎」

「オリビアまで僕を責めるのか!ひどい!」


 拗ねるシオンにオリビアは呆れて額を押さえながら会議の内容を話した。


「卵に戻ろうとした時の対策は結局どうなった?」


「いい案は出なかった。文献の情報では完全に卵になる前に少しだけ時間があるみたいだけど、近付けなかったみたいだし……確実にトドメをさせる攻撃を、魔王が負ける事を察するよりも早く喰らわせるしか――」


「賭けてみるか」


「何を?」


 シオンはキャットに目配せして椅子から立ち上がった。


「オリビア、頼みたい事がある」


「……なに?」


 キャットは紙を取り出すとそれをオリビアに手渡して、内容を確認しろと言わんばかりに「んっ」と軽く顎を動かした。

 オリビアは恐る恐る紙を広げて内容を確認すると、驚いてシオンの方を向いた。


「……これ……うまくいくの?」


「分からん。じゃが…………」


「うまくいくと思うよ」


 キャットは少し悲しげに笑うと、オリビアの肩を叩いた。


「頼んだよ」


「……生意気だって真っ先に殺されたりしないわよね?」


「大丈夫、気の短い人じゃないから。……さて、俺達は神様殺しの計画も話さないといけないわけだけど、それを聞かせるのはまずいよね?」


「そうじゃな。……()()


「えっ……」


「巻き込んで悪かったな」


 シオンが指を鳴らすと、部屋からシオンとキャットの姿が消えた。


 四葉が慌ててオリビアの方を見ると、既に計画は話された後のようだった。



「さて、明日も早いんだからさっさと寝るわよ。そういえばあんたは今日も熊の魔族と寝るの?」


「……あ、はい…………一緒に寝たいって言われて……」


「随分と懐かれたわね……」


「…………」


 四葉はそれに返事をする事なく、表情を複雑そうに歪めながら部屋から出て行った。


「大丈夫でしょうか」

「さぁ……」

「シオン様、少し残念そうでしたね」

「そうね……でも、時間もなかったし……あの子にはリリー達がいる。仕方ないわ」


 クロッカスはオリビアに頭を下げると続いて部屋から出て行った。


 シオンは協力を得る為に何かしようとはしなかった。

 だが、なんだかんだ四葉は協力してくれるのではないかとオリビアは思っていた。



 キャットに渡された紙を見ながら、オリビアは重い溜息を吐き出してベッドへ横になった。



少し改稿しました。

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