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ep.74 便利アイテム

 


「では、ワタクシの知る熊の上級魔族――スロウス様に関しての情報をお話し致します」


 その後、

 部隊隊長達、そして勇者3人とその仲間達が集められ、もう1人の上級魔族の情報がクロッカスから話された。

 カランコエは接点がなかったが、クロッカスは何度か話した事があるという。


「彼は…………そうですね、面倒くさがり屋です」


「……面倒くさがり?」


「はい、極度の面倒くさがりで……屋敷の広間にベッドを置いて、一日の殆どをそこで過ごしていらっしゃいます」


「…………強いのか?」


「ご主人様やラスト様――蠍の魔族よりもお強いと思いますよ」


 その場にいた者達はその言葉に驚いて大きく目を見開いた。

 クロッカスは彼らの様子に苦笑しながら言葉を続けた。


「彼の魔法は種類威力共に最高レベルです。所有するマナに関しても、恐らくここにいる誰よりも多い」


「んなバカな!」


「彼自身が持つマナ量も相当多いのですが……それだけではないのです」


 クロッカスはオリビアの方へ視線を向けると目を細めて話を続けた。



『蛇、マナエルフを捕まえたんだってぇ?』

『ゔわぁぁぁ‼︎何故ここにいる‼︎どうやって入った⁉︎』

『玄関からぁ』

『そんなわけがないだろう‼︎外には私の群れが――』

『みんな寝てるよぉ』

『なっ……!』

『神の石ちょっと見せてよぉ。そしたら帰るからぁ』



「……その後、それと同じ――いえ、それ以上の働きをする装置を作り出しました」


「嘘でしょ…………それってつまり……」


「魔法をいくら使ってもマナの消耗は殆どないって事か……」


「……でも、その性格だと俺達に対してあまり殺意は高くなさそうじゃないですか?スルーしてもいいんじゃ……」


「しかし、ヴァイスが勝てば魔族である自分もただでは済まないと考えているようですので、なんとかしておかないと魔王様の援護に来る可能性があります。そうなればかなり厄介です」


 クロッカスは地図に描かれた熊の絵の横に情報を書き込んだ。


「彼は火・水・風・地属性魔法、そして特殊属性である雷、氷、金、植物等――世界で確認されているほとんどの属性魔法を使えます」


「はぁ⁉︎なにそれ‼︎そんなに属性持ってんの⁉︎」


「本来の属性は恐らく地属性ですが、彼の作り出した魔工妖精がそれを可能にしています」


「魔工妖精?」


「はい、スロウス様の作り出したカラクリです。原理は分からないのですが、スロウス様はそれによって属性を切り替えて様々な魔法を使用します。


 スロウス様は一日を殆ど寝て過ごしていらっしゃいますが……寝ている間は戦闘用魔工妖精の自動戦闘状態(オートバトルモード)が発動し、害をなす者を排除する行動をとります。……そしてその間、スロウス様には結界が張られます」


「ははっ……」


「起きてても寝ててもめんどくせーのな……」


「…………他に情報は?」


 カクタスからの問いかけにクロッカスはペンで顎をとんとんと叩きながら唸り声を上げて考えた。


「そうですね……

 彼は動く事が好きではないので、戦闘用の魔工妖精だけでなく、家事専用の魔工妖精、お風呂のお手伝いをしてくれる魔工妖精、食事を食べさせてくれる魔工妖精等……とにかく自分が動かなくて済むようにあらゆる魔工妖精(カラクリ)が屋敷にいます。

 しかし、戦闘用以外は戦える力を持っていませんし……移動用のスライムがいるだけでご主人様のように他に奴隷や蠍の魔族のように契約している魔族もいません。

 ……あと提供できる情報は見た目の詳細ぐらいですかね…………小柄な方で、熊の剥製のような物を被っています」


 クロッカスは地図に描かれた熊の絵に鼻提灯を付け足すとにっこりと笑った。


「話した通り、かなりの面倒くさがり屋さんなのでこちらと戦う事が面倒だと思わせる。もしくは、こちらに協力すればヴァイスが勝っても楽に生活する事ができるとお話ししてみてはどうです?」


「その方向で考えた方が楽な気がしてきたわね……」


「話し合いに応じてくれるかは分からないけどね……」


 それを聞いたカランコエは四葉に向かって声をかけた。


「あんたがいた世界に何かこの世界にはない生活を豊かにする便利なアイテムとかなかったの?その話をすれば少しは気を引けるんじゃない?」


「ああ、黒髪の勇者様は確か異世界人でしたね……確かにその話題を出せば話し合いに応じていただけるかもしれません」


「俺の?……うーん……便利なアイテム…………」



 四葉は思考を巡らせるが、いいアイテムが浮かばないようで腕を組んで何度も唸り声を上げた。

 オリビアも前にいた世界の事を思い出しながら何かいいアイテムはないかと考えたが――


「(思い浮かぶのって家事を楽にするアイテムが多いのよね…………面倒な家事は魔工妖精にやらせてるみたいだし、今更それで気が引けるかは微妙ね……)」


「…………少し考える時間をもらってもいいですか……」


「とりあえず情報は得たわけだし一旦解散しようぜ」


「では、パキラ様とカクタス様には残っていただき、お仲間の方々は部屋に戻っていただいて……」


「なんでだよ‼︎」


「お2人にはまだこの先の移動に関してのお話があります」


「黒髪は⁉︎」


「四葉様には今話に上がりましたアイテムを考えていただこうかと……」


 やだやだと駄々を捏ねるパキラを置いてオリビア達は会議用の部屋を出ると、一先ず部屋へと戻ることにした。






「ここがオリビアの部屋です!」


 フォティニアの案内で、オリビアは割り当てられた部屋にやってきた。

 特に使われていなかったのか片付けられたのか、中にはマットしか置かれていなかった。



「2人1部屋になると思ってたけど……」


「黒髪の勇者様達が1部屋だけでいいって言ってくれたお陰で部屋が余ったんです!ちょっと狭いかもですけど……」


「特に長くいるわけじゃないし寝られれば十分よ。ありがと、少し休むわ」


「はい!右隣の部屋は私で、左隣は勇者様とカランコエの部屋なので、何かあったら呼んでください!」


 フォティニアを見送り、オリビアはマットに横になった。

 天井を見上げながら次の上級魔族の攻略法を考えていると、扉をノックする音が聞こえた。


「誰?」

「ワタクシです」


 返ってきた声はクロッカスのものだった。


「…………少し話せますか?」


 オリビアは彼を部屋に入れると、植物の加護で椅子を作り出してクロッカスの方を向いた。


「座って」

「…………そんな……」

「いいから」


 クロッカスは苦笑を浮かべてそれに腰掛けると、オリビアはマットに腰を下ろして頬杖をついた。


「何の用?」


「……オリビアちゃんがどこまで知っているのか、確認の為にやって来ました」


「オリビアちゃ……⁉︎」


「お父様がそう呼んでいましたので」


「…………はぁ……まぁいいわ。知ってる事、ね…………今の神が元々は1人の人間だったことと、そいつが世界を自分の望む形にしようとしていて、シオンとキャットが阻止しようとしている事。……それと2人の正体も知ってる。後は知らない」



 オリビアは淡々と答えると、クロッカスは目を細めて考える素振りを見せると、オリビアは眉を寄せた。


「…………あの2人が私に話してない事がまだあるのは知ってる。私、そこまで信用ないのよ」


「いえ、そんな事はないと思いますよ。……話していない事はまだ多くありますが……」


「……そう」


 多くあるのか――オリビアが溜息を吐くと、クロッカスは苦笑して首を振った。


「ワタクシも直接聞いたわけではないので、同じですよ」


「気を遣わなくていいわ。……満足した?」


「……お父様が負っている代償について知りませんか?」


「…………それが本題ね」


 オリビアが腕を組んで指先で二の腕をトントンと叩きながらクロッカスを見ると、彼は悲しげな表情を浮かべていた。


「残念だけど知らないわ、聞いたらはぐらかされた」

「そうですか……分かりました」


 他に聞きたい事はないようだったが、クロッカスは腰を上げる事なくオリビアを見つめた。

 その姿にオリビアが首を傾げると、クロッカスは静かに口を開いた。


「誓約魔法があるのです……聞きたい事があれば聞いてくれて良いのですよ」


「…………直接会いに来たのはそういう事?」


「はい、スキルだと指示を受ける前に切り上げる事ができてしまうので。これならお父様やシオン様に言い訳ができます」


「あんた、悪い子ね」


 オリビアは呆れたように溜息を吐き出し、手をひらひらとさせた。


「別にいいわよ」


「何故です?」


「…………他に何を隠してるか知らないけど、話してくれるのを待つわ」


 クロッカスはそれを聞いて軽く目を伏せると、ゆっくりと腰を上げた。


「今回の件は……ワタクシが正気を保っているのか、どういう状況なのか分からなかったからお話にならなかったのだと思います。ですから――」


「いいってば。私にまで誠実でいようとしなくていいのよ」


「…………シオン様が懐いていらっしゃる理由がよく分かりました」


 クロッカスは再び頭を下げて扉へ向かってドアノブに手をかけると、オリビアの方を振り返り笑みを浮かべた。


「1つだけ」


「なに?」


「シオン様もお父様も、脇のくすぐりに弱いです。何かあればこの情報をお使いください」


「…………ふっ、すぐ使うことになりそうね」


 ウィンクして部屋を出て行ったクロッカスにオリビアは思わず笑みを溢すと、シオンとキャットがどんな反応をするのか想像しながら少しだけ目を閉じた。




 ――――


「人をダメにするクッション……着る布団……うぅーん……」



 オリビアが夕飯を食べに出て来ると、四葉が1人ぶつぶつと呟きながら考え込む姿が目に入った。

 聞こえてきたワードに懐かしさを感じつつ、オリビアはクロッカスを呼んで四葉の側に座った。


「いいアイテムは出てこないみたいね」


「うぅ……なかなか…………えーっと、クロッカスさん……熊の魔族は寝る以外に何かしてたりとかしないですか?もう少しヒントが欲しくて……」


「そうですね…………

 ああ、そういえば……カラクリを作ったり新たな装置を作る作業をする時は、寝ずに起きていらっしゃるようですが…………」


「へぇ……面倒くさがりならそういうのも魔工妖精ってやつに作らせそうな気がするけど、細かい作業はできないのかしら?」


「そういえばそうですね」


「…………そのような作業が好きなのかもしれません。ご主人様の話では神の石を元にした装置を作る際も、ずっと起きていたようですので」


「工具系のアイテムとかも考えてみるか……」


「創作意欲を掻き立てられる物もいいかもね」


「スマホとか興味あるかなー」


 四葉が机の上にスマートフォンを置くとオリビアはギョッとしてそれを見た。

 その視線に気付くと四葉はどこか自慢げに胸を張ってスマートフォンの説明を始めた。



「なんだこの板はって思ったでしょう!ただの板じゃないですよ!

 これはスマートフォンと言って、俺がいた世界で使われている…………えーっと、離れたところにいる人と声や文字なんかを使ってコミュニケーションが取れたり、色んな知識や情報を簡単に調べたりできるすごい板なんですよ!…………まぁ、圏外な上に充電もなくなって、ホントにただの板になっちゃったんですけど……」


「黒髪の勇者様のいた世界のカラクリですか…………マナか魔法石で動くのですか?」


「いえ、充電……えーっと……電気?あんまり詳しくないんですけど……」


「黒髪の勇者様が作られたのではないのですか?」


「まさか!俺は消費者側です。すごい物ですけど、俺の世界ではほとんどの人が持ってるんですよ」


「電気で動くのならばジェンシャン様に頼んでみるのは?」


「絶対壊れます……この板はデリケートなんです……」


 クロッカスは机に置かれたスマホを見つめながら顎に手を添えて考えた後、笑みを浮かべ視線を上げた。


「面白い品ですね。……先程の話の通りそういった物作りが好きなのであれば興味を持たれると思いますが……」


「でもそれ、大事なんじゃないの?渡すことになったら困らない?」


「…………別に、圏外だから連絡は取れないし……」


 四葉はスマホを見ると唇を尖らせて少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。

 オリビアはその表情に、彼も前の世界に家族や友人がいるという事を思い出した。


 慰める言葉が見つからずオリビアが思わず視線を泳がせていると、カクタスが四葉の隣に腰掛けた。


「作戦会議?」


「そんな所です!これを使って気を引いてみようかと!」


「…………これなに?」


「これはですね!」


 また嬉しそうに説明を始める四葉を横目で見ながら、オリビアは少し考えを巡らせた。


 物を作る作業が好きなら興味を持つかもしれない、でもそれは憶測での話だ。


 興味を示してもらえず戦闘になった際――いや、そんな時間もなく戦闘になる可能性も高い。


 強力な魔法とはどれぐらいの強さなのか、属性が多すぎて対処の方法を考えるのも難しい。


 シオンの能力を使えば楽に倒せるかもしれないが、ヘリーがいる限りその情報が神の耳に入れば何かしらの介入があるかもしれない。

 それはシオンを危険に晒し、自分達の目的にも支障が出る。……カクタス達への説明も難しい――


 “「シオン様の能力を使って殺すことはできませんよ」”

 “「…………呼び出し音みたいなのはないわけ」”

 “「驚かせてしまいましたね、すみません。かなり考え込まれていたようなので」”

 “「シオンの能力じゃ殺せないのはなんで?」”


 “「便利な能力のように感じますが、あれは時を止められた者への介入ができません」”


 “「……そうなのね」”


 オリビアはクロッカスに礼を言うと静かに目を伏せた。


「オリビア大丈夫?」

「え……ああ、大丈夫よ。熊の魔族の魔法をどう攻略しようかと思って……」

「スマホでうまく話し合いができればいいですけど、できない可能性の方が高そうですもんね…………勘弁して欲しいですよ……チートキャラは主人公が相場だってのに……」



 四葉はスマートフォンの画面をつんつんとしながら大きく溜息を吐いた。

少し改稿しました。

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