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ep.53 ゴブリン対策

 

「ひっく……ぐすっ……」

「そんなに嫌なの?」

「うわぁぁん‼︎好きでもない人の塗りたくったりそれがついたものをもらって喜ぶバカいませんよカランコエのバカァ‼︎」

「好きな人ならいいの?」

「バカァァァッ‼︎」

「カランコエを隔離して」


 泣き叫ぶフォティニアを無意識に刺激するカランコエを引き離すように頼むと、オリビアは額を押さえた。


「あの……」

「…………ゴブリン除けのお守り……頼んでおいて」

「う、うん……」

「それはいいの?」

「早くカランコエどっか連れてって‼︎」

「カランコエちょっとあっちに行こうか……」

「なんで俺怒られてるの?」


 オリビアは連行されるカランコエに背を向けてグズグズと泣くフォティニアの背中を摩った。

 パキラ達も気まずそうにテントから出て行くと、四葉の仲間達が苦笑を浮かべて2人を慰めた。


「お、お2人は遠距離チームですし、お守りで十分ですわ!」

「そ、そうだぞ……塗りたくらなくて大丈夫だ……!」

「ぅっ……でもそのお守りも……」

「ゴブリン戦の時だけの我慢です!」

「うぅ…………」

「そうよフォティニア……これは戦争なの……我慢よ…………塗りたくるよりマシよ…………そうでしょ……?」

「うぐっ……うぅ……はい……」


 フォティニアは唇を噛み締めて涙を拭うと小さく頷いて、オリビアもそんなお守りは身につけたくなかったが、ぐっと感情を抑え込んだ。



 夜になると、リリーが大喜びで広間を走り回っていた。

 理由はやっと四葉と共に寝られるからだ。

 転移魔法陣を設置し、多くの兵がここへ移動して拠点地を拡張した事で、魔族の巣が勇者達専用の休息場になり、それぞれのテントが張られた。


「おい黒髪、ちゃんとすぐに寝ろよ」

「…………ゴブリン対策シナイト……」

「バカ!俺様達にもちったぁ気を使え!」

「防音の魔道具使うんで大丈夫ですよ!」

「そういう事じゃねぇよ‼︎赤髪こいつなんとかしろ‼︎言っておくがずるいとかは思ってないぞ⁉︎」

「俺に振らないでください……」


「なんの話?」

「「「イエ、ナンデモナイデス」」」


 オリビアが外から戻って来ると勇者3人は気まずさから目を泳がせた。

 その様子に首を傾げるとオリビアは顔についた血を拭った。


「オリビア何があったの⁉︎」

「嬢ちゃんの血じゃねぇよな⁉︎」

「他に怪我は⁉︎」


 それを見た勇者達が立ち上がり慌ててオリビアに問いかけると、近くで見ていたビンカは静かに溜息を漏らした。


「アニキよく見ろ、返り血だ。エルフは無傷だよ」

「ええ、さっき外の塀を補強してたら魔族が襲撃して来たの。でも少数だったから私と兵士達で片付けたわ」

「次からは呼んでくださいよ!」

「何言ってんの、上級魔族ならまだしも……これぐらいは私達に任せてよ」

「でも……」

「まったく、心配しすぎよ……ちょっとリリー!うるさいわよ!走り回ってないで早く寝る準備しなさい!」


 オリビアがリリーを叱りに向かうと、彼らは顔を見合わせ苦笑を浮かべた。


「まるで母親みたいですね……」

「嬢ちゃんっていくつだっけか?」

「そういえば知らないな……お酒は飲んでたから18以上だとは思うけど……」

「意外に俺様より年上だったりしてな!」

「パキラさんいくつでしたっけ?」

「26」

「わっ、俺と9も離れてるんだ……」

「おいやめろよ!」


 カクタスは顎に手を添えて目を細めると、リリーを叱るオリビアへ視線を向けた。


「赤髪どうした?」

「いえ……なんでもないです」


 ――――


「何してんの」


 オリビアが遅れてテントに入ると、フォティニアがデイジーとラークの間で2人と腕を組んで横になっている姿が飛び込んできた。


「……ゴブリン対策、らしい……またカランコエが余計なことを言って……」

「アタシはオス臭くないわ‼︎カランコエに頼みなさいよ‼︎」

「カランコエは嫌です‼︎」

「いつまで怒ってんの?」

「ふんっ!」

「……まぁ、何もしないよりは多少効果があると思うけど……」


 カランコエは触手でフォティニアの膨れた頬を突くと彼女はラークとデイジーの腕をしっかり抱きしめて目を閉じてしまった。


「…………まったく……火消すわよ?」


 カランコエがマットに移動して目を閉じると、ラークとデイジーは顔を見合わせた後、諦めて目を閉じた。

 オリビアはおやすみと声をかけてランタンの火を消し、マットに横になった。

 しばらくして彼らの寝息が聞こえてくると、カクタスがオリビアの肩を軽くとんとんと叩いた。


「カクタス……?」

「起こしちゃった?」

「寝てなかったから大丈夫よ、どうしたの?」

「…………オリビアはゴブリン対策しなくていい?」


 カクタスの言葉にオリビアは思わず吹き出すとデイジーの唸り声が聞こえ、慌てて口を押さえた。


「……下心が透けて見えるんだけど」

「バレた?」

「もう少し隠しなさいよ」

「ははっ」


 カクタスは笑いながら毛布を捲り隣をぽんぽんと叩くと、オリビアは少し考えた後、カクタスの隣に寝転がった。


「……オリビアっていくつ?」

「急に何よ」

「結構知らない事が多いなと思って……色々聞いてみようかなって」

「……19」

「えっ、俺より年下なんだ」

「失礼ね、なんで驚くのよ」

「ごめんごめん、大人びて見えたから……じゃあ好きな食べ物は?」

「うーん……果物と……辛いのも好き。カクタスは辛いの苦手なのよね?」

「うん……」

「なら辛い食べ物が出たら私が代わりに食べてあげる。だから酸っぱいのはカクタスが代わりに食べて」

「ははっ、酸っぱいの苦手なんだ?」

「うん。……カクタス好きな花は?」

「俺?うーん……ひまわりかな……」

「私もひまわり好き」


 皆を起こさないように小声で2人は好きな物、苦手な物、興味のある事――眠くなるまで色んな話をした。


「この戦いが終わったら……もっと……色んな国を見たいから…………旅に出たいな…………ふぁ……」


 しばらく話しているとオリビアが欠伸を漏らし、それを見たカクタスは小さく笑って、優しく声をかけた。


「そろそろ寝ようか。付き合ってくれてありがとう、おやすみオリビア」

「ん……おやすみ、カクタス……」


 オリビアが眠気に耐えられず目を閉じると、カクタスは彼女の頭を軽く撫でてから自身も目を閉じた。


「……旅か…………俺も一緒に行きたいな……」

「……一緒よ、当たり前でしょ」


 カクタスは返事が返ってきた事に驚いて目を開けると、オリビアは口元に笑みを浮かべながら静かに寝息を立てていた。


「……ホント……ずるいな……」



 ――――


 オリビアは目を覚ますと時計に手を伸ばした。

 まだ日が昇る前――彼女は再び目を閉じようとしたが、カクタスに抱き締められていることに気付くと恥ずかしさから眠気が引いてしまった。


 起こさないようにゆっくりと彼の腕を退けると、オリビアはテントから出た。


「……ゲッ」

「ゲッてなによ」


 そのタイミングで青髪の勇者のテントからビンカが出て来ると、オリビアを見てあからさまに嫌そうな声を漏らした。

 それに対してオリビアは片眉を上げて口を尖らせると鼻を鳴らした。


「ふんっ……意外と早起きなのね」

「うるせー」

「どこ行くの?」

「外で軽く鍛練だよ」

「ふーん?」

「なんでついて来るんだよ!来んな!」


 オリビアは嫌がらせのように後をついて行くと、ビンカは手をしっしっとさせながら逃げるように走り出した。

 しかし、オリビアは構わずビンカを追いかけると、彼は勘弁してくれと機嫌悪そうに顔を歪ませた。


「私も鍛練しようと思って」

「別のとこ行けよ!」

「別にいいじゃない、一緒に鍛練しましょ」

「嫌だ……お前と関わると碌な事がない…………」


 段々面白くなってきたオリビアはランニングにも丁度いいとビンカを追いかけ回し、最終的にビンカが折れた。


「……なんでお前と鍛練しなきゃいけないんだよ…………」

「あんたがそんな態度取るからよ」

「この女……チッ!」


 2人で並んで腕立てを開始すると、ビンカはオリビアよりも早く体を上下させて意地悪く笑って彼女を煽った。

 オリビアは競争心に火がつくと足を上げて逆立ちで腕立てを始め、

 それを見たビンカは同じく逆立ちして、更に片腕で腕立てを始めると、オリビアは彼を睨み付けた。


「どうしたエルフ!そんなもんか?」

「ガキね……」

「煽ってきたのはお前だろうが!」


「手合わせしましょ」


 オリビアは飛び上がり静かにビンカの前に着地すると腕を組んで見下ろした。それに対してビンカは鼻を鳴らして笑うと、立ち上がってオリビアを見下ろした。


「いいぜ?だがカクタスや他の奴らと違って俺はお前が女でも容赦しねぇ」

「ハンデちょうだい」

「…………お前ホントいい性格してるよ」


 近くにいた兵士に審判を頼んで2人は向き合った。

 ビンカは武器なし、右腕を使用しないハンデを承諾。

 オリビアは特に制限なく、手合わせを行うこととなった。


「よろしいですか?」

「おう」

「いいわよ」


「では、初め!」


 オリビアはビンカに向かって勢いよく蔓を伸ばすと左腕を絡め取り、ビンカの足元から彼の顎に向けて地面を鋭く隆起させた。

 ビンカはそれが届く前に足で砕くと、腕に巻き付いた蔓を引きながら強く足を踏み込み、オリビアを叩きつけるように勢いよく腕を振った。


『ビンカは強いよ』

『…………』

『いや……ホントだよ?船での手合わせでも勇者以外には全勝だったし……』


「うっ!」

「っし、俺の勝ちだ」


 オリビアが蔓を手放し体勢を整えて魔法を放とうとすると、既にビンカは距離を詰めていた。ガードするも間に合わず、ビンカの蹴りが直撃すると彼女は地面に転がった。オリビアを押さえつけるようにビンカが上に乗ると、のしかかる体重にオリビアは思わず唸り声を上げた。


「…………」

「なんだ?泣いてんのか?」

「まだまだ……!」


 地属性魔法でビンカに向かい硬度の高い岩をぶつけようとすると、彼はすぐにそれに気付いてオリビアの上から飛び退いた。

 オリビアはローブを脱ぎ、再び構えると水属性魔法で小さな球体をいくつも作り出しビンカに向かい飛ばした。


「おもしれぇ!徹底的に叩きのめす!」



 ――――


「赤髪起きろ!」

「ん……?」


 カクタスは外から聞こえてきたパキラの声に目を覚ますと、隣にオリビアの姿がない事に気付いた。

 起き上がって髪を雑にまとめ直すとラーク達も声に気付いたようで次々と目を覚まし、デイジーがテントの出入り口を捲るとパキラが顔を青くして立っていた。


「ど、どうしたんですかパキラさん……」

「止めるの手伝ってくれ…………」


 よく見るとパキラの後ろには申し訳なさそうにする隊長の姿があった。

 カクタスは首を傾げながらパキラから事情を聞くと同じように顔を青くして外へと向かった。



「ぐぅっ……!て、んめ……ッ!」

「参りましたは⁉︎」

「ふざけんな‼︎」

「っぐ……‼︎」


 オリビアは地面に仰向けに倒れ込んだビンカの頭を足で挟み締め上げるが、ビンカは意地で上半身を起こすと勢いよく体を倒してオリビアの体を地面に叩きつけた。

 オリビアが力を緩めた隙を逃さず抜け出すと左腕を彼女の首に押し付けるが、股間を蹴り上げられ慌てて後ろに飛び退いた。


「ッてめ‼︎」

「何やってんだビンカ‼︎」


 パキラの声にビンカの意識がそちらに向くと、オリビアは彼に飛びつき足で顔を挟み込む。

 そして、地属性魔法を使ってビンカの足を跳ね上げさせると、そのまま体を後ろに反らして地面に叩きつけようとしたが――ビンカは叩きつけられる前に体を捻り、右手でオリビアを掴んで逆に彼女を地面へと叩きつけた。


「なめんなよ‼︎」

「ゲホッ……あんたの負けよ……」

「俺の勝ちだ!」

「あんた……右手、使ったでしょッ……」

「なっ…………あークソ‼︎」


 兵士達から歓声が上がると、オリビアは鼻血を拭って腕を上げた。


「てかアニキが来てなかったら俺の…………あっ」


 ビンカは不服そうに口を尖らせると、パキラの存在を思い出して恐る恐る振り返った。

 オリビアもそちらを見ると、そこには怒りと呆れを顔に滲ませたカクタスとパキラの姿があった。


「何やってんだバカ‼︎」

「て、手合わせしてたら……ちょっと熱くなっちまって……」

「手合わせの度を越してるだろうが‼︎…………はぁ……ったく……兵士達が困ってるって聞いたんだがな……」


 周りで湧き立つ兵士達を見てパキラが溜息を吐くと、カクタスは額を押さえながら首を振った。


「オリビア……」

「……ごめんなさい」

「なんでよりによってビンカに…………手合わせなら俺だって協力するのに……」


 そう言って眉を下げるカクタスを見て、ビンカは態とらしく大きな溜息を吐き出して舌打ちした。

 

「お前らは変に手抜くだろ」


 ぽつりと呟いたビンカの言葉に、カクタスとパキラが視線を向けると、ビンカはちらりとオリビアを見て言葉を続けた。


「昨日も見てて思ったけどよ……そいつが女だからか知らねーけど、アニキ達は気遣いすぎなんだよ。

 俺と同じで“一緒に戦う”為に連れて来たんだろ?

 なのに変に気にかけるから、そいつも不満感じててムキになったんじゃねーの?…………まぁ、今回は俺もやり過ぎた、それは悪かった」

「…………私こそごめん」


 ビンカがフンッと鼻を鳴らすと、パキラが頬を掻いてオリビアを見た。


「確かに、守る対象として見てたとこあったかもな」

「…………実力を疑ってたわけじゃないよ」


 カクタスは目頭を押さえて唸り声を上げると、静かに息を吐いてオリビアを見た。


「……確かに、少し過保護になってたかも。オリビアからしたら不服だったよね」

「心配してくれてるのにごめん……」

「嬢ちゃんの気持ちは分かった。……だが、今回のは下手したら大怪我だ。そこは反省してくれ」

「……ごめんなさい」

「よし。ビンカもだぞ!」

「すみません……」


 オリビアとビンカは2人に頭を下げると、パキラがそういえばと顎に手を添えて彼らの戦いを思い出しながら口を開いた。


「嬢ちゃんがあそこまで動けるとは思わなかったな」

「師匠の所にいた時は毎日手合わせしてたから、体術もそれなりに自信があるわ」

「だが、足技使うならもう少し下半身に筋肉をつけた方がいい。…………まだ改善点があるかもしれない、一度俺様にも足技をかけてくれねぇか?」


 パキラが目をキリッとさせながらオリビアを見つめると、ビンカは顔を青くして思わず「うわぁ……」と声を漏らした。


「…………オリビア、これに関しては過保護のままでもいいかな」

「……どういう意味?」

「パキラさんには足技絶対使わないで」

「分かったわ」

「お、おい!なんでだよ!俺様は純粋に!純粋に改善点をだな……」



 カクタスはオリビアを抱き上げると、パキラから逃げるようにその場を後にした。



少し改稿しました。

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