ep.54 四者面談
「はい……ゴブリン除けのお守り……」
「「…………」」
オリビアとフォティニアは顔を引き攣らせながら手配してもらったゴブリン除けのお守りを受け取った。
そして、じっと見つめるカランコエを睨み付けて「余計な事は言うな」と圧をかけ、そんな2人を見てカクタスは苦笑した。
「腰の辺りにつけるといいらしいよ」
「……はい」
「……分かった」
お守りを横に置くと、カランコエは何も言わず2人とお守りを何度も往復して見やった。
「……えーっと……一応出発は明後日で、これから俺は会議の続きで少し隊長達と話してくるけど、皆はどうする?」
「俺は少し体を動かした後、見張りに参加してきます」
「アタシは武器のチェックしてるわ」
「俺は本読んでる」
「カランコエを見張ってます!」
「フォティニアも働いてきなよ」
「邪険に扱わないでください!」
「私は――」
「オリビア」
どうしようかと悩んでいると、テントの向こうからシオンの声が聞こえた。
カクタス達がその声に反応しているのを見て時が止まっていない事に気付くと、オリビアは慌ててテントの外に飛び出した。
「ちょっと!」
「話がある」
「オリビア、その兵士さん……」
カクタスが後ろから顔を出して怪訝そうな表情でシオンを見ると、オリビアはシオンを隠すように間に入った。
「えーっと、彼は――」
「オリビアを少し借りて行くぞ」
「ちょっと!……この兵士と話してくる」
オリビアはシオンの腕を引っ張り慌ててその場を離れると、残されたカクタスは顔を引き攣らせた。
「あら……今の兵士さんオリビアの知り合い?」
「…………ちょっと見てきます」
「勇者様は隊長達とお話があるのでは……?」
「…………」
「これ知ってる。修羅場でしょ?」
「………………会議、行ってきます」
カランコエの言葉にカクタスは眉をぴくりと動かすと、顔を引き攣らせたままテントから出て行った。
「ちょっとシオン!どういうつもりなの!」
人気のない場所に移動してシオンを問いただすと、彼はオリビアの反応に態とらしく首を傾げた。
「何がじゃ?兵士の格好をしているから問題ないじゃろ」
「普通の兵士はあんな馴れ馴れしくないわよ……」
「あいつの顔を見たか?クククッ……」
オリビアは喉を鳴らして笑うシオンを叩いて睨み付けた。
「……で?話って?」
「上級魔族に動きがあった」
「!」
シオンは懐から地図を取り出して現在地を指差し、そのまま指を滑らせ、ある場所で止めた。
「様子を見に行ったキャットからの情報じゃ。ここに群れを移動させ、場を整え待ち伏せている」
「群れってことはカランコエの元主ね…………」
「ルートの変更を提案するべきじゃ」
「…………でも、群れの数を減らせばその上級魔族の攻略が容易くなるわ。待ち伏せてる場所が分かってるならそこまで脅威じゃない」
「ふむ……問題は勇者達にどう伝えるかじゃな……勇者達が待ち伏せに気付くようにキャットに立ち回ってもらうか……オリビアも警戒を促してくれるか?」
「分かったわ」
シオンは地図をしまって口元に手をやり少し悩むような様子を見せると、オリビアに視線を向け静かに口を開いた。
「オリビア、手を握ってもいいか?」
「……シオンってやたら手を握りたがるわよね」
「セクハラじゃないぞ!…………お前の願いを叶える為に必要な事じゃ」
「…………私本当に…………いえ、なんでもないわ」
オリビアの手を握りシオンは目を閉じた。
手袋越しにシオンの体温がじんわりとオリビアの手に移ると、どこか心まで温まるような感覚を覚えた。
「必ずなんとかしてやる」
「……なんでそこまでしてくれるの?」
「こんな事に協力すると言ってくれたお前に感謝しているから、という理由が一番じゃが……
お前は、僕の友人に似ている。雰囲気もそうじゃが、性格も。
…………僕は彼女を助けられなかった」
シオンは目を開いてオリビアを見ると、手を握る力を少しだけ強めた。
「じゃから、お前を助けてやりたい。お前はその友人に重ねられて嫌かもしれないが……」
「…………大切な人だったのね」
「とても」
シオンが悲しげに笑うと、オリビアはその友人が殺されたというもう1人の神である事を察して視線を落とした。
「…………友人に似てると言ったが、それとは別でお前の事も好きじゃ」
「別にいいわよ」
「本当じゃ!あいつは果物を分けてくれなかったがオリビアはくれたから好きじゃ!」
「それしかないわけ⁉︎」
シオンは「彼女に比べれば叩く力も控えめだし……」と付け加え、更にオリビアを呆れさせた。
「……とりあえず、絶対カクタスに誤解されたから言い訳一緒に考えてよ……」
「フンッ……誤解させておけばいい」
「私が嫌なのよ!時間戻せないの?」
「時間を戻せば僕はしばらく動けん!キャットがいないのにそんなくだらない理由でリスキーな事はできん!」
「あんたがあんな風に……!…………もういいわ……あいつからもう少し情報がもらえたら教えてくれる?」
「分かった」
「…………もうあんな風に私を呼び出すのはなしよ」
「考えておく」
オリビアは唇を尖らせ不貞腐れるシオンに対して溜息を吐くと、その場を後にした。
――――
オリビアは少し食事係の手伝いをしてからテントに戻ると、まだ会議中だと思っていたカクタスがカランコエと話をしている姿を見つけて驚いた。
「会議終わったの?」
「いや、まだ途中だよ。少し気になる事があってカランコエに元主の話を聞いてたんだ」
「うん、確かに……あの人の性格なら群れに待ち伏せさせてる可能性は高い。待ち伏せてるとしたら地形的にロンジコーンならこことここ、バークビートルならここかな」
“待ち伏せ”
その言葉にオリビアはぎょっとしてカクタスを見ると、彼女の反応にカクタスは首を傾げた。
「どうかした?」
「う、ううん……待ち伏せされてるかもしれないの?」
「四葉くんが上級魔族の話をしてた時、その可能性に気付いて……」
「そう、なの……」
カランコエが指差した場所の一つは、シオンが言っていた待ち伏せ場所と同じだった。
偶然だろうか――
このタイミングで待ち伏せの話が上がった事に、オリビアはシオンとの会話を聞かれていたのではないかと疑念を抱いた。眉を寄せて地図を見下ろすと、カランコエは顎に手を添えて目を細めた。
「本人は屋敷にいるだろうけど、もし群れが待ち伏せてるなら戦力を削るいい機会だね。索敵できるやついないの?」
「確か……クフェアとジニアは索敵スキルを持ってたはず……」
「ゴブリンを潜ませてる可能性が高いからこの地点に近付いたらそのジニアってやつに索敵を頼むといい。……よかったね、お守りの出番だよ」
フォティニアが横目でじとりと睨み付けると、カランコエは鼻を鳴らした。
「この話を伝えてくるよ」
「……いってらっしゃい」
オリビアはこの話をシオンに伝えるべきかと悩んでいると、フォティニアが顔を覗き込んできた。
「なに?」
「あの兵士さんと何話してたんですか?」
「えっ……ああ、少し……物資の話を…………」
「オリビアに気がある感じですか⁉︎」
「ないわよ……」
「え〜!残念です……」
「(そういえば、カクタスからシオンの事質問されると思ってたけど……なんとも思ってなさそうだったわね……まぁ、会議の途中だったのもあるだろうけど)」
特に気にしている様子が見られなかった事にオリビアは少しだけ安堵しつつ、テントから出てシオンを探したが彼を見つける事はできなかった。
「どんだけ話し合いすんだよもー……」
日が暮れ、
オリビア達が夕食を取りに向かうと、会議続きでゲッソリとするパキラを他の仲間達が慰める姿が目に入った。
「カクタスは会議ばっかりで疲れてない?」
「平気だよ、大事な事だしね」
「おい赤髪!お前がそんなこと言ったら俺様の立場が悪くなるだろーが!」
「す、すみません……」
カクタスはパキラの言葉に苦笑を浮かべ頬を掻くと、逃げるように夕食の配布列へ並んだ。
その列で兵士達と談笑しながら順番を待っていると、オリビアは変装したシオンとキャットの姿を見つけた。
「(合流したのね……また話を聞かないと……)」
「すみません」
スープとパンを受け取りながらそう考えていると、カクタスが突然シオンとキャットの元に駆け寄り声をかけた。
オリビアが驚いてカクタスを見ると、2人も驚いた表情でカクタスを見ていた。
「えっと、どうされましたか……?」
「よかったら一緒に食べませんか?」
「いやいやいや!勇者様と夕食を共にするなんて畏れ多いです!」
「そんなこと言わず」
カクタスは2人の前から退こうとせず、まるで圧をかけるように笑顔で見つめると、キャットが助けを求めるようにオリビアの方を向いた。
「……カクタス、どうしたのよ……困ってるじゃない」
「オリビアと仲がいいみたいだったから」
「仲がいいなんてそんな……少しお話をしたぐらいで……」
「僕はオリビアと仲がいいぞ」
「おいジジイ‼︎お前はちょっと黙ってろ‼︎」
カクタスが眉をぴくりと動かしシオンを見ると、シオンは口元に笑みを浮かべ見つめ返した。
「せっかくのお誘いじゃ、断る方が失礼じゃろ」
オリビアとキャットは眉間に皺を寄せて額を押さえると、フォティニアとデイジーは好奇心に目を輝かせ、ラークはそそくさと他の兵士達の元へと向かった。
兵士達のテントが並ぶ横の空いたスペースに移動すると、4人はなんとも言えない空気の中静かに腰を下ろした。デイジーとフォティニア、そしてカランコエは彼らから少し離れて座り、じっと様子を見守っている。
――キャットは怒りに顔を引き攣らせながらシオンを肘で突き小声で声をかけた。
「クソジジイ……俺がいない間に何しでかした……」
「オリビアに話をしに行っただけじゃ」
「何してんだバカ……!」
「どうかしましたか?」
「いえいえなんでもないですご飯おいしいですね!」
気にしていないと思っていたが、カクタスは明らかにシオンに対して威圧感を放っている。
胃が痛い思いをしながらオリビアがパンを口に運ぶと、カクタスがオリビアに声をかけた。
「オリビア、紹介してくれる?」
「へっ⁉︎…………いや……そんなにこの人達のこと、よく知らないし……」
「でも朝――」
「く、果物あげたら変に懐いちゃって!ちょっとあなた!馴れ馴れしくしないでよね!」
「ひ、ひどい……!」
「こいつ惚れっぽくて!勇者様やお仲間に迷惑をかけたみたいですみません!」
カクタスが腑に落ちないような顔でシオンを見ると、キャットが慌てて話題を変えた。
「赤髪の勇者様!前にも言ったんですが俺あなたのファンで!俺達は物資係なので戦闘には参加できないんですが応援してます!」
「あ、ありがとうございます……」
カクタスはキャットの圧に若干気圧されると、キャットはオリビアに目配せして言葉を続けた。
「本当にかっこいいです!」
「そうね、カクタスはかっこいいわ」
「ですよね!あとすごく優しいですし!」
「かっこよくて優しいし、しっかりしてるのよ。頭もいいし」
「わー!本当に尊敬します!」
「ちょ、ちょっと……」
照れた事でカクタスから威圧感が消えると、キャットは内心ホッとしながらさっさとここから抜け出さなければと急いでスープを口にかっ込むと、シオンが眉を寄せて口を開いた。
「評価されるようになったのはオリビアのおかげじゃろ。褒めるならオリビアじゃ」
「ブフォッ」
「うわっ!汚っ!お前何しとるんじゃ!」
「このクソジジイお前は黙ってろ!」
「オリビアは気立てがいいしそこらの娘よりも少しきついが可愛い顔をしてる!」
「ちょっと何言いだすのよ‼︎」
「嫁にやるならもっと自分を持ったしっかりした男がいい!オリビアに凭れかかるようなこんな男よりも…………むぐぅっ⁉︎」
「お前は父親かなんかか‼︎」
キャットがシオンの口に無理矢理パンを捩じ込むと恐る恐るカクタスの方を振り向いた。
カクタスはシオンの言葉に驚いた表情をして固まっていたが、しばらくしておかしそうに笑い出すとキャットとオリビアはなぜ彼が突然笑い出したのか分からず顔を強張らせた。
「オリビア」
「は、はい……」
「面白い人だね」
「…………」
オリビアはカクタスに笑いかけられると、困惑に言葉を詰まらせた。
向けられた彼の笑顔は、嫉妬や疑念のない、いつもの穏やかなものだった。
「お、俺達そろそろ行きますね!失礼します!」
「もごっ!むぐぐぐっ!」
キャットは慌てて頭を下げるとシオンの腕を引っ張り逃げるようにそこから離れた。
残されたオリビアは気まずさを感じていたが、カクタスはそれ以上彼らの事には触れず食事を進めた。
「スープおいしいね」
「そ、そうね……(逆に怖い……)」
カクタスはオリビアがスープを飲む様子を横目で見た後、静かにシオン達が走り去って行った方に視線を移して何か考えを巡らせていたようだったが、オリビアが気付く事はなかった。
「もう少し近くに座ればよかったわ……何話してるかわからなかったわね……」
「勇者様笑ってましたね?修羅場にならず残念……ゴホンッ!よかったですね!」
その様子を見ていたデイジーとフォティニアは話を聞きたくてうずうずとしながら食事を進めると、カランコエは首を傾げてカクタスを見つめた。
――――
夜は魔族が襲ってくる事はなく、静かに過ぎていった。
オリビアはあれからカクタスの様子を観察していたが、特に変わりはなかった。
「オリビア、そろそろ冷えるから中に入った方がいい」
「うん」
兵士達に見張りを頼みテントへ向かうと、相変わらずラークとデイジーの間に挟まるフォティニアを見てオリビアは苦笑を浮かべた。
オリビアは皆が横になったのを確認すると火を消して、隣にいるカクタスに視線を向けた。
「(今日は大人しく寝るんだ……)」
目を閉じた彼の顔を見るとオリビアは少し残念に思いながら、魔族の待ち伏せの件を思い出して眉を寄せた。
シオンから聞いた後に、その話題が会議で上がったのはただの偶然で片付けるにはタイミングが良すぎる。
誰かが会話を聞いていた可能性がどうしても拭えない。
しかし、夕食の件もあって今シオンに接触するのは避けたい。
カクタスの話では四葉が待ち伏せの可能性をあげたようだが、それを探るのは墓穴を掘るような気がして――オリビアは溜息を吐いた。
「ダメだ……寝よう……」
もやもやとする気持ちを落ち着けると、オリビアは静かに目を閉じた。
少し改稿しました。




