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ep.44 ケンカ

 


 オリビアは残った火を消火し終えると、全てが灰となった地に視線を移す。

 皮肉にもローレルによってターマイトは短時間で制圧できてしまった。


「オリビア怪我はない?」

「平気よ、巻き込んでごめんね。……カランコエ、ローレルの言ってた先生って……」

「うん、俺の主」

「なんで教えてくれなかったんですか‼︎」

「聞かれてないし、そいつの名前なんて知らなかったし」

「……そうね」


 オリビアが眉を寄せて俯くと、パキラが様子を伺いながら声をかけてきた。


「ちょっといいか?話にあんまついていけねぇんだけど……」

「…………前にモドキについて聞いたわよね。私の住んでた村はモドキに襲われて……あいつと私はその村の生き残りなの」

「…………オリビアさんはマナエルフなんですか?」

「オリビア……」

「…………」


 ローレルはマナエルフ特有の緑の髪を隠していなかった。誤魔化す事は難しい。


 オリビアはイヤリングを外すと自身がマナエルフだという事を明かし、村が襲われた時の事、そしてその後ローレル達と決別した事を話した。


 話を聞き終えると、彼らはそれぞれの反応を見せた。


「通りでマナ量がえぐいわけだぜ……」

「エルフってだけでも珍しいのに驚きですわ……」

「マナエルフは昔欲深い人間に目をつけられ奴隷化や神の石目当てに多くが虐殺され住処を追われ――出会うことが困難となった幻の種族だと聞いてる。まさか本当に存在し、しかもあんた以外がシュバルツに移り住んでるとはな……」

「攫い人に元許婚か……モテるなエルフ」

「冗談はやめて」

「おう、やめる」


 カクタスの鋭い視線が飛ぶと珍しくビンカは顔を青くして黙った。


「事情は分かった。だが、嬢ちゃんはいいとして……シュバルツに移ったマナエルフをどうするかだな」

「…………」

「制圧は済んだ事ですし、まずは報告しませんか?」

「そうだな」


 今は優先しなければならない事がある。

 魔族の生き残りがいないか、オリビア達は手分けして周辺を見て回った。


「流石に残ってる魔族はいないわね〜……」

「皆燃えちゃったんですね……魔族達、何かに怒っていたみたいですけど結局分からず仕舞いですね」

「そういえばそうだね……たぶんあの死骸の山が関係あると思うけど……」

「誰かがあれを使ってターマイトに住む魔族を集めたんだと思う」


 カランコエの発言にカクタスは口元に手をやると考えるように目を細めた。


 しばらくして、確認を終えたパキラと四葉達が戻って来ると、ヘリーはオリビアの作ったドームの中に魔法陣を設置した。


 魔法陣から多くの兵士が転移してくると、勇者達に挨拶を済ませ、大急ぎで拠点作りを開始した。

 次々と建てられるテントに感嘆の声を上げていると、ヘリーがカクタスの髪を軽く引っ張った。


「勇者様、休息を取って次の戦いに備えましょう!」

「船の方は大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ!頭が悪くて助かりました、海の上にいる我々に手も足も出せず勝手に倒されてくれるんですから!」

「ちょっと…… いくら敵でもそんな言い方……」

「大した攻撃手段を持ってないのに応戦しようとしたあいつらが悪いよ」


 カランコエはそう言うと、フォティニアの鞄から本を取り出してカクタスの為に張られたテントへと向かっていった。

 カクタス達は顔を見合わせると、カランコエに続いてテントへ向かった。


 用意された白い大きなテントは入口やテントの一部に赤と金の装飾が使われていた。

 他の勇者のテントを見ると同じようにそれぞれの勇者の髪色と、金の装飾が施されていた。


 豪華な見た目とは違い、中は椅子と机、そして布団のような物があるだけで、とても簡素だった。フォティニアはそれを見てがっくしと肩を落とした。


「豪華なベッドとかあると思ったのに、残念です……」

「んもう!贅沢言わないの!」

「とりあえず指示があるまでゆっくりしようか」


 カクタスとラーク、そしてデイジーが椅子に腰を下ろし、フォティニアとオリビアはテントの中をぐるりと見て回った。


 特に面白い物はなく、フォティニアが飽きてデイジーの隣に行くと、オリビアはテントの隅で本を読むカランコエの隣に腰を下ろした。


「え、なに?」

「…………カランコエ、ローレル達の事聞いてもいい?」

「マナエルフの話題が出た時、あれ以上聞きたくなさそうにしてたのに今は気になるの?」

「……勝手よね」

「別に聞きたいなら話すけど、そこまで詳しくは知らないよ」

「お願い、教えて」

「……マナエルフ達は俺が魔造スライムとして生まれる前にはもうあの人の所にいた。女は閉じこもってるのか見る事はなかったな……男は剣を振り回すか、あの人の実験に付き合うか、たまにふらっと出かけてたね」

「実験?」


 その言葉にオリビアは眉を寄せると、カランコエは本のページを捲りながら続けた。


「……あの人は自分の力の為に神の石を大量に欲した。

 生き残りのマナエルフの雄は生殖機能が整っていない子供を除いて一人しかいない。


 しかも子供ができるまでかなりの時間が掛かるし確実じゃない。だから色んな実験をしてるんだ」


「…………そういえば、ローレルのステータス……遺伝子異常って表記されてた…………」


「うん、あれはもう純粋なマナエルフじゃないよ。本人達は力を授かったって喜んでるみたいだけど……」


 オリビアの体から一気に血の気が引くのが分かった。


 ――実験って、人体実験……?

 遺伝子異常って一体何されてるの?


 カランコエが静かに本を閉じると顔を青くするオリビアを見て「聞いた事後悔してる?」と問いかけた。

 オリビアはぐっと唇を噛み締め首を振ると「教えてくれてありがとう」とカランコエの元から離れた。


 深呼吸をして気持ちを落ち着けると、外の空気を吸いにオリビアはテントから出た。

 ――珍しくカクタスが声をかけてくる事はなかった。



 外に出ると、オリビアはテントから少し離れて忙しなく動く兵士達を眺めながら先程の話を思い出し、考えた。

 ――あの様子から見るにカランコエの元主はローレル達を騙し、利用している。

 “彼女の中のオリビア”の感情が流れ込んできているのか、心に強い悲しみと怒りが込み上げると、静かに胸を押さえた。

 可能なら説得したい。でも――



「…………あの時も私の話を聞こうとしなかったわね」


「オリビアさんどうしたんです?」


 どうしてこう問題ばかり増えていくのだろうかとオリビアが静かに溜息を吐くと、近くを通りかかった四葉に声をかけられた。


「ちょっと外の空気を吸いにね」

「奇遇ですね、俺もです」

「……逃げてきたんじゃなくて?」

「ぅっ……」


 オリビアは四葉のテントからリリー達の騒ぐ声が聞こえてくると、思わず笑みを溢した。


「リリーとはちゃんと仲直りしたの?」

「はい。……俺の行動がリリーを傷付けた、反省してます」

「あなたが彼女達が大切なように、彼女達もあなたが大切なのよ」

「そうですね…………実は俺、神様の力でこの世界の女性に好かれやすいんです。

 それで俺、調子に乗って……不純な動機で皆を仲間にしたんです」


 突然の告白だった。

 オリビアは目を細めて彼を見ると、四葉は目を伏せて静かに言葉を続けた。


「でも今は……彼女達が本当に大切で、大事にしたいと思ってます。だからこれからは、もうあんな顔させないように、もうあんな風に思わせないように……仲間として、恋人として変わるつもりです」


 真剣な顔付きでそう宣言する四葉。

 最初は彼に嫌悪感を抱いていたが、今はもうその気持ちはない。

 オリビアは彼の話を聞き終えると小さく笑った。


「とんでもない告白と誠実な宣言ね」

「オリビアさんの秘密を教えてもらったので」

「マナエルフの事?…………そういう事なら今のはノーカンね」

「へ?」

「私の目の事忘れたの?最初から知ってたわよ。あなたの魅了(ひみつ)

「あっ……」

「ぷっ……」

「あ、あはは…………元気出たみたいでよかったです」

「他に秘密はないの?」

「えーっと……」

「あー‼︎なに四葉いじめてんの‼︎」


 リリーは四葉と一緒にいるオリビアを見て慌てて駆け寄って来た。

 守るように四葉を抱き締めるリリーに思わず笑うと、ぽかぽかと殴られた。


「黒髪の勇者ありがとう。お陰で少し気持ちが落ち着いたわ」

「えっと……どういたしまして……?」

「じゃあね」


 テントから次々と出てきて四葉を囲む女性陣に神の目を使うと、そこにはもう愛の奴隷(ラブスレイヴ)の表記はなかった。


 威嚇してくる彼女達にオリビアはまたおかしそうに笑うと、カクタス達がいるテントへ戻った。


 ――ローレルは私の話を聞かないだろう、

 でもやっぱりこのままにはしておけない。


 オリビアの知るローレルは優しい少年だった。

 きっと、自分が最年長の“男”だからと、残された村人をローレルなりに救おうとして、間違って魔族の手を取ってしまっただけだ。


 説得してヴァイスに連れて帰る。

 オリビアは決意を固めると、テントへ戻った。




「カクタス、話があるの」


「…………今じゃないとダメかな?」


 テントに戻ると、オリビアはすぐに話をしようとカクタスの元へ向かった。

 しかし、彼は眉を下げてどこかオリビアの話を聞きたくないような雰囲気を醸し出した。

 オリビアはそんな彼の反応に少し驚いた。


「……あっ……疲れてるよね、ごめん」

「…………」

「なら、また後で話すわ」


 オリビアは静かにカクタスの元を離れようとすると、突然腕を掴まれた。

 驚いてそちらを向くと、苦しそうに顔を歪ませたカクタスが彼女を見つめていた。


「…………カクタス?」

「ダメだ」

「えっ……」


 オリビアがカクタスの一言に困惑すると、彼は顔を険しくさせたまま俯き、言葉を続けた。


「彼を説得したいって話なら、許可できない……」

「な、なんで…………」

「あの様子を見るに話し合いは無理だ…… 」

「た、確かに説得できるかは分からないけど……それでも……!」

「あいつとは決別したんだよね……?」

「それは……」


 まさかカクタスにここまで反対されるとは思わず、オリビアが言葉を詰まらせると、見かねたラークが声をかけた。


「勇者様……少し話をするぐらいいいんじゃないでしょうか……?」

「……次はあいつ1人とは限らない。あいつの仲間が大人しく話し合いを見守ってくれると思う?戦闘になればその仲間を話し合いが終わるまで俺達が押さえるの?オリビアが拐われないように注意を払いながら?」

「…………」


 カクタスの言葉に段々と怒りが込められていくのが分かると、それに比例するようにオリビアの心が重くなっていく。

 オリビアが服を握りしめて唇を噛むと、カクタスは大きな溜息を吐いて頭を掻いた。


「はぁ…………あいつに執着するのはなんで?」

「……執着なんてっ…………ローレルは……ずっと一緒に育って来た、家族みたいな存在だから…………」

「子供を産めなんて言う男が?自分や仲間を危険に晒してまで結果の見えてる話し合いに時間を割く必要がある?」

「…………じゃあ見捨てろって言うのね」


 オリビアは涙が落ちない様に堪えながらカクタスを見ると、カクタスは驚いた表情を浮かべた。


「……オリビア……ごめん…………」

「…………ローレルの事は1人でなんとかするわ、悪かったわね」

「だから……っ」

「ちょっと待ちなさいオリビア!勇者様はアンタのこと心配して言ってくれてるのよ……きつい言い方だけど…………勇者様も!妬くのは分かるけどもう少し言い方があるでしょ!」


 デイジーが慌てて間に入ると、オリビアはカクタスの腕を振り払い背中を向けた。


「…………妬くってなによ……私とカクタスは別に恋人でもなんでもないじゃない」

「!」

「んもう!オリビア、アンタこっちに来なさい!ラーク、勇者様を頼んだわよ!」

「お、おう……」


「フォティニア、なにあれ」

「えーっと…………」



 デイジーはオリビアを連れてテントから出ると、大きな溜息を吐いてハンカチを取り出しオリビアの目元を押さえた。


「まったくまだ子供ね」

「私だって分かってるわよ、可能性が低い事ぐらい。でもほっとけないんだからしょうがないじゃないっ!」

「そうよね、まるで家族みたいに一緒に育って来た幼馴染が道を踏み外したのを放ってはおけないわよね。

 でもね……勇者様の気持ちも分かるのよ……

 あの幼馴染はオリビアを軽視する発言をした、オリビアの話には一つも耳を貸さずに。そんな奴とこれ以上話して欲しくない、傷付いて欲しくない。心配なのよ……」

「っでも……」


 オリビアが涙を流しながら鼻を啜ると、デイジーはうんうんと頷きながら涙を拭き続けた。


「そうね、だからといって勇者様のあの態度はよくないわね。……まったく泣かないの!女の涙はそう簡単に見せていいものじゃないのよ?ほら、鼻かみなさい!年頃の女がずーずー鼻を鳴らすんじゃないの!」

「うーっ……」

「どっちも自分の気持ちが前に出過ぎたわね……どっちにも共感できるところはあるけど、どっちにも悪いところがあるとアタシは思うわ。

 勇者様は心配と嫉妬で言い方を間違えたし、アンタは心配する勇者様を突き放した。お互い反省が必要だと思うんだけど、まだでもでもだってする?」


「…………少し頭を冷やすわ」

「ちゃんと後で話するのよ?」

「うん……」


 デイジーがテントに戻ると兵士や白魔法士が何人かこちらへ来るのが見え、オリビアは袖で涙を拭ってテントの影に移動した。


 オリビアは気持ちを落ち着けて、改めて考えた。

 自分がカクタスの立場だったらきっと同じように心配する。

 彼の言い方にはカチンときたが、向こうの気持ちを考えたら確かに自分は勝手だった。


 そして、子供のようにそっぽを向いて、仕返しのように嫌味な発言をした。

 カクタスの気持ちも、自分の気持ちも分かってる癖に。


 また涙が溢れそうになると、オリビアは乱暴に袖で目を擦った。


 ――謝らなくちゃ



「オリビア……」



少し改稿しました。

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