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ep.43 再会

 


 ――ターマイト制圧戦が始まった。


「っしゃあ!」

「俺にも残しといてくれよアニキ!」

「張り切って行くぜー!」


 大剣の表面に反射する光がゆらりと揺れると、パキラは飛びかかってきた魔族達を両断すると、剣を構えたビンカと、短刀を構えたシネラリアがそれに続いて魔族を斬り伏せていく。


「一人で突っ走らないでくださいよ!」

「私達も行くぞアマリリス!」

「よろしくってよ!」


 大楯と剣を構えたイキシアと、大きなハンマーを担いだアマリリスが彼らに続いて魔族と対峙すると、四葉が剣に炎を纏わせ、彼女らを援護するように炎の斬撃が飛ばし魔族を斬りつける。


「俺達も行こうか」

「さっさと終わらせちゃいましょ♡」

「オリビア殿、フォティニア殿、援護を頼む!」


 カクタスが飛び上がり、魔族の群れの中心に降り立ち槍を振って一気に払い除けると、デイジーとラークもそれに続いて魔族達へと向かって行った。


「小狡い人間共がぁ‼︎」

「邪魔だどいてろ!」

「なんだと⁉︎」


 オリビアはカクタス達を援護をしつつ、言い争う魔族達に視線を向けて眉を寄せた。


「(ずっと言い争ってる……そういえば、私達に向かってお前らの仕業かって怒ってたわね……あの死骸の山の事?あれは一体――)」

「魔法使いをやれ‼︎」

「!」


 魔族が声を上げると地面が大きく揺れ、足に何かが絡み付き勢いよく引っ張り上げられた。


「オリビア‼︎」

「リリー‼︎」

「ゲェッ!なにこれ!」


 横を見るとそこにはオリビアと同じように宙吊りになったリリーがいた。

 足元には霞がかったピンク色の触手――土が大きく盛り上がると本体が姿を現した。

 神の目を使って確認すると、それは先程声を上げた魔族に使役されたモグラの魔物だった。


 魔族が一斉に集まってくると、オリビアはリリーと視線を合わせ、風属性魔法で集まる魔族を吹き飛ばし、リリーの火属性の魔法で触手を焼き切り脱出した。

 すぐに態勢を整え、リリーが火属性魔法を放ち、それに合わせてオリビアが風属性魔法を放つと、炎は威力を増し彼らを燃え上がらせた。


 彼女達は顔を見合わせると、にっと笑みを浮かべた。


「あたし達ちゃんと強くなってんね!」

「油断しないで、来るわよ!」

「分かってるって!」


 リリーは炎を纏い、オリビアは棘の生えた蔓を伸ばし鞭のようにして魔物を退けると、後ろから鈍い音が聞こえた。

 オリビアがそちらに視線を向けると、頭から血を流す四葉が視界に入る。


「四葉‼︎」

「っ……リリー大丈夫?」

「なんで……!あたし気付いてたよ!」


 どうやらリリーに向けられた攻撃を四葉が代わりに受けてしまったらしい。

 リリーはそれに気付いていた。だから手を貸さなかったのだが――四葉は気付いていなかったらしい。


「どうして……あたしの力……信用してくれてないの……?」

「そうじゃないよ……!でも……リリーをまた失う事になったらって思ったら……」

「四葉……お願い信じて……あたし、もうあの頃とは違うんだよ……!」


 四葉が負傷したのを見て魔族が一気にそちらに向かって行くと、パキラとカクタスがそれを止める為に走り出すが――


「待って‼︎」


 オリビアはリリーのマナを感じ取ると、慌てて蔓を伸ばして勇者達を捕まえた。そして、近くにいる仲間達も蔓で巻き込むように集め、守るように前面に土の壁を作ると――リリーが強力な火属性魔法を辺りに解き放った。


 しばらくして土の壁がぼろぼろと崩れ落ちると、多くの魔族が火に包まれ踠き苦しんでいる姿が視界に入った。


「あ、あぶねー……」

「四葉くん達は――」

「それよりも残った魔族を!」


 運良く炎を避けた魔族の姿を見つけると、すぐさま勇者が向かって行き、オリビアとジェンシャン、そして遠距離組は彼らを援護した。


「オリビア!さっきはごめん!」


 四葉とリリーは少ししてから戻ってくると、すぐに戦闘に加わった。


「次からはちゃんと伝えてから魔法使いなさいよね……大丈夫なの?」

「もう大丈夫!」


 リリーは申し訳なさそうに眉を下げて笑った。

 四葉を見ると、先程の様子とは違って自分の戦闘に集中しているようだった。


「よーし!迷惑かけた分頑張りますか!」

「頼りにしてるわ」

「任せ……ッ⁉︎」


 リリーの様子にオリビアが安堵した次の瞬間――複数の炎を纏った石がオリビア達を襲った。


 ジェンシャンは雷属性魔法を使ってそれを破壊し、オリビアとリリーは風属性魔法で壁を作り防ぐと、上からローブを被った何者かがオリビア達の目の前に降りて来た。


 オリビア達が新手かと身構えると、魔族達が一斉にそのローブの男に武器を向けた。


「蛇野郎のペットが何しに来やがった‼︎」

「醜い下等生物が汚ねぇ口開くんじゃねぇ‼︎」

「なんだとクソヤロウ‼︎」


 罵声を浴びせ合う両者に困惑していると、ローブの男に掴み掛かろうとした魔族の頭が突然燃え上がった。

 火はだんだんと大きくなり体を包み込むと、その魔族は地面に倒れ動かなくなった。

 ――そして、火は消える事なく威力を増して爆ぜ、次々と魔族達を燃やし、灰にした。


「……一瞬であんな人数灰にしちゃうなんてとんでもない火力だよ……!何者なのあいつ……!」


 人を灰にする程の火力を出そうとすれば、大量にマナを消費し、軽い立ちくらみぐらいは起こすはずだが――ローブの男にはその様子が見られない。

 オリビアはローブの男が自分に匹敵するマナを所有している事を察すると、顔を強張らせた。


「はぁーホント雑魚だな。こんな辺境で縄張り争いしてるのも納得だ」

「なんだと⁉︎」

「おい」


 ローブの男は魔族達を無視して勇者達に声をかけた。


「お前らが勇者?雑魚っぽいけど」

「雑魚しか言えねーのか?」

「口の聞き方に気を付けろよ。…………そこのお前、フード取れ」


 ローブの男はオリビアに視線を向けると、フードを指差し指をちょいちょいと動かした。

 オリビアが男の言葉に眉を寄せて何故かと問いかけようとした時――ローブの男は舌打ちして、強風を吹かせオリビアのフードを無理矢理吹き飛ばした。


 目が開けられない程の強風に、顔の前に手をやると、風に乗ってローブの男の声がオリビアの耳に届く。


「……チッ、やっぱりハズレか……」


 どこか悲しそうに聞こえた声――

 風が止み、指の隙間からローブの男を見ると、“彼”と重なり、オリビアは無意識に名前を呼んだ。


「ローレル……?」


「…………なんで俺の名前…………オリビア?」


 ローブの男は名を呼ばれ、そして彼女の顔を見て、大きく目を見開いた。

 男がフードを取るとターバンで全ては見えないが深い緑の髪が、所々からはみ出していた。


「…………嘘……」


 最後に見た時より身長は高く、顔も幼さが抜けているが、そこにいたのは間違いなくローレルだった。


「髪の色、どうなってんだ……?でもお前、オリビアだろ……?」


 ローレルは呆然と立ち尽くすオリビアに駆け寄り、頬に手を添えて確認するように顔を覗き込むと、嬉しそうに笑みを溢した。


「よかっ――」


 ローレルは何かに気付くと突然表情を険しくさせて後退した。

 そのすぐ後に、カクタスの赤い髪が視界を隠すように靡くと、オリビアはハッとした。


「なんだテメェ……」

「オリビア大丈夫?」

「う、うん……大丈夫よ……」

「雑魚が無視してんじゃねぇぞ」


 カクタスは怒りの強く滲んだ目で彼を睨みつける。

 しかし、カクタスが口にした名前を聞いてローレルは視線をすぐに彼女の方に向けた。


「やっぱりオリビアなんだな」

「……久しぶりね。見ないうちにかなり口が悪くなったじゃない」

「お前は変わらないな」


 ローレルは昔と変わらない笑みを浮かべると再びオリビアの方に歩いてきた。


「オリビア、こっちに来い」


 オリビアは今にも飛びかかりそうなカクタスを押さえながら、差し出された手に視線を向けた。


「ずっとお前を探してた。……あの時、無理にでも連れて行くべきだった」


 ローレルは眉を寄せてどこか悔しそうに呟くと、再びオリビアに笑みを向けた。


「俺の子供を産んでくれ」

「こいつ何を……‼︎」


 ローレルの言葉にカクタスが声を荒げると、ローレルはそれを鬱陶しそうに睨み付けながら言葉を続けた。


「神と先生のお陰で俺達は多くの子を成した。……だがそれだけじゃダメだ。

 今の女達じゃ子を産むにも限界がある。そして何より、お前のように優れた才能はない。

 お前と俺がたくさんの子を成せば、更なる力を神が授けてくれるはずだ。

 その力で俺達を苦しめて来た人間に、神の代わりに罰を与えよう。

 もう俺達は怯えて暮らさなくていいんだ。オリビア、俺と夫婦になろう」


「オリビア……こいつ少し黙らせた方がいい……」


 カクタスの顔は今までに見た事がない程に、怒りで歪んでいた。

 オリビアが彼を落ち着かせるように背中を撫でると、ローレルはその様子を見て炎を纏い声を荒げた。


「…………さっきからなんなんだテメェは‼︎下等な人間風情が邪魔すんじゃねぇ‼︎黙ってろダボが‼︎」


「……はぁ……あんたの事ずっと心配してたけど、楽しくやってるみたいね」


 オリビアはパキラに頼んで怒りに震えるカクタスを後ろに下げた。

 そしてローレルの方へゆっくりと近付くと、彼は嬉しそうに笑みを浮かべて話を再開した。


「同じ神の愛し子である先生が、俺達を新天地に連れて行ってくれたんだ。あの人のお陰で新しい加護も授けてもらった。お前も行こうオリビア」


「あの時と同じ……まるで変わらないわね……」


「……?」


 オリビアは勢いよくローレルを殴り、胸倉を掴んで引き寄せると彼の額に勢いよく頭突きして睨み付ける。

 ローレルは呆気に取られていたが、じわじわと湧き上がる怒りを抑えるように口端を吊り上げて笑うとオリビアの胸倉を掴んだ。



「一緒には行かない」

「返事は“はい”しか受け付けねぇ」

「また私に泣かされたいの」

「女の癖に相変わらず生意気だな……優しくすんのはもうやめた。手足折ってでも連れて行く」


 ローレルの周りに火の粉が見えると、オリビアは水属性魔法で彼の周りを囲い、掴まれたローブを脱いで距離を取った。


 ローレルは腰に下げていた2本の剣を抜いて炎を纏わせると、オリビアに向かって飛びかかる――しかし、刃がオリビアに届くよりも先に、ローレルはカクタスによって地面に蹴り落とされた。


 ローレルは受け身を取ってカクタスからの追撃を避けるようにその場から飛び退くと、今度はパキラと四葉が彼に斬りかかった。

 ローレルはそれを避けて更に距離を取ると、剣を構えながら怒りに満ちた表情で彼らを睨み付けた。


「クソが‼︎邪魔すんじゃねぇよ‼︎」

「身内のケンカに水差して悪いが俺様達も急いでるんでね」

「チッ‼︎めんどくせぇ‼︎」

「!」


 オリビアがその隙に神の目を使って彼を確認すると、気になる項目が多くあった。


 ローレル(19)

 遺伝子異常。ベース:マナエルフ

 加護属性:火、地

 装飾による追加属性:水、風

 魔法特級、双剣術上級、格闘上級……


 ローレルが緩んだターバンを外すと額にはサークレットの様な物をつけていた。

 それには4色の小さな石が嵌められている。


 オリビアは彼の額にある石の正体に気付き顔を青くすると、デイジーが駆け付けた。


「オリビアボーッとしないで!敵はあいつだけじゃないのよ⁉︎」

「ご、ごめん……」


「な……なんだそいつは…………」


 オリビアはデイジーの言葉にハッとして謝ると、ローレルの震えた声が耳に届いた。

 ローレルを見ると、肩を震わせながら顔を青くして強い恐怖を瞳に滲ませていた。


「…………アタシのこと?」

「あ、あたし……⁉︎」


 彼が恐怖を向けていたのはデイジーだった。


「お、お前……男……だよな……?なんで女の格好をして……女の喋り方を…………」

「やだぁっ!ここまでひどい反応されたの初めてだわ!」

「⁉︎」


 デイジーが怯えるローレルにおかしそうに笑うと、彼は更に顔を強張らせた。


 オリビアはそれを見て、

 彼も自分も男は男らしく、女は女らしくと強く言われて育った事を思い出した。


 男性でありながら、服装、そして仕草に口調は女性のもの――デイジーの存在はローレルをひどく混乱させた。


「どうなってんだ……!なんでそんな……!お前男だろ⁉︎」


 デイジーはローレルの言葉に再びおかしそうに笑うと、髪を軽く後ろへ払った。


「そうね、でもアタシって美しいでしょ?」

「……は?」

「なら所作も、そして話し方も美しくなければ……そしてこの服は、アタシの美しさを一番引き立ててくれると思ったから着てるの」

「何を言ってるんだ……?」

「男だとか女だとか、そんなものに囚われる時期はとうの昔に過ぎたのよ。見なさい、このフリルを!アタシの胸筋、三角筋を美しく引き立てているでしょう⁉︎」


 デイジーがポージングをとると、ローレルは慌てて後ろへ飛び退き、光る神の石に気付いて顔を歪ませながら剣をしまった。そして、視界にデイジーを入れないようにしながらオリビアを睨み付ける。


「オリビア……もう一度言う、俺と来い」

「オリビアは連れて行かせない」

「あぁっ⁉︎さっきからテメェ何様のつもりだ⁉︎」


 ローレルがオリビアの前に立つカクタスを見て再び剣に手をかけるが、急かすように光る神の石を見て唸り声を上げ、頭をガシガシと掻くと大きく舌打ちをして声を荒げた。


「クソが‼︎……オリビア、次は会う時は必ずお前を連れて帰る……んでお前‼︎お前は必ず殺す……いいな‼︎……あとお前もだ‼︎」



 ローレルがカクタスとデイジーを指差すと、辺りに火の粉が舞い始める。

 それに気付いたオリビアは慌てて魔法を使って仲間達を守るように土の壁を作ると、一気に炎が辺りを燃やし尽くした。



 勢いが収まり土壁が崩れると、そこにはローレルの姿、そして生きた魔族の姿はなく――灰が静かに宙を舞っていた。

少し改稿しました。

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