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ep.2-28 失敗作の魔法陣

 


「魔法陣の場所、把握したよ〜!」


 キャットは頭に雪を積もらせたまま部屋に飛び込んで来ると、暖炉の前に座って手を温めるように擦り合わせた。


「案外早かったわね」


「私兵がおバカちゃんで助かったよ。独り言の大きいこと……」


『よし、この魔法陣はちゃんと機能する……‼︎バークビートルには2ヶ所設置したが、どっちが見つかったんだ⁉︎とにかく両方確認して――』


 キャットは慌てふためく私兵を思い出し、大きな口を開けてケラケラと笑った。


「まったく……大変なのはここからよ」


「オリビアホントに才能ないねぇ……」


「まだ数式書き始めたばっかりでしょ‼︎」


「そこ角度がズレてるぞ。…………お前、兵士を殺すつもりなのか?」


「えっ⁉︎」


 兵士達を一斉に転移させるとなるとスロウスの負担は膨大になる。

 そこでオリビアは魔法陣を模写して転移を手伝おうと考えたのだが――相変わらず魔法陣を描く才能だけはなかった。


「手伝いなんていらないよぉ」


「あれだけの兵士をヴァイスに転移させるのよ?負担が大きすぎるわ。あんたはまだ子供なんだから、無茶させたくないの」


「ボク子供じゃないよぉ‼︎オリビアが魔法陣描きたいだけでしょぉ‼︎」


「うるさいわよ‼︎」


 睨み合う2人にナスタチウムは呆れ顔で肩を竦めると、魔法陣が書かれた紙を指差してキャットの方を向いた。


「まぁ、使い道はある」


「失敗作なのに?」


「それは練習したやつだから失敗作じゃない‼︎」


「オリビア、黙ってろ。魔法陣もなく突然転移すればさすがに違和感を抱くだろ。……これはパッと見ただけじゃ失敗には見えん」


「確かに」


「オリビア、失敗作量産しとけ。キャット、後で“出来のいい失敗作”を選ぶぞ」


「ナチ‼︎」


 オリビアは丸めた紙をナスタチウムに投げつけたが、それは彼をすり抜けて床に転がった。





 魔法陣の位置が分かった事で計画は一気に固まった。


 あえて姿を現して兵士達を集め“失敗作の魔法陣”を見せる。そのタイミングに合わせてスロウスが兵士を転移。

 そして、その裏でシュバルツにある転移の魔法陣の破壊。

 ――それは目的を悟らせないように全て同時進行で行う事に。



「こりゃ総動員だな…………兵士達が集中しているのはスパイダーマイトと、バークビートル、それからクリソメリドか……その他は数が少ないから魔族に頼むとして、この3ヶ所は俺とオリビアちゃんが行った方がいい。もう1人は――」


「俺はゴーストだからな……姿は見えると言っても、何かあった時に役に立てん。チューかアジに頼むのがいいだろう」


「声をかけておくわ。……スロウス、ヘリーだけは絶対に取り逃がさないで」


「ああ、あの連絡鳥ねぇ……分かったよぉ……」

 

「クロッカスに連絡して勇者様にも伝えるよ。日はまた改めて」


 キャットは地図に魔法陣の位置を描き記してスロウスと共に部屋から出て行った。

 残されたシオンとナスタチウムは、魔法陣の模写を再開するオリビアを見てじっと目を細めた。


「…………何よ」


「またズレてるぞ」


「…………」



「オリビア」


 口を尖らせるオリビアに、シオンは複雑そうな顔を浮かべながら声をかけた。


「……なに?」


「今回の作戦、オリビアはバークビートルかクリソメリドを担当しろ」


 オリビアが不可解そうに片眉を上げるのを見て、シオンは不機嫌そうに眉を寄せて言葉を続けた。


「スパイダーマイトには勇者達がいる」


「……だから?」


「はぁ……赤髪の勇者とはなるべく関わらんようにしろ」


「なんでよ」


「ただでさえ魔族の相手をしとるんじゃ、あれの面倒までみるなんて……」


「面倒?カクタスは子供じゃないわよ」


「そうじゃない」


 シオンは机をとんとんと指で叩きながら溜息を吐き出した。

 何が言いたいのか――オリビアは口をへの字に曲げてシオンの言葉を待ったが、彼は口を閉ざしてしまった。


「……まさかヤキモチ?はぁ、心配しなくてもシオンの相手もしてあげるわよ」


「違うわ‼︎」


 シオンが腕を振り回し怒り始めると、オリビアはおかしそうに笑い声を上げた。


 あの日から、オリビアはまたよく笑うようになった。

 悪夢に魘される事も減ったようで、顔色もいい。


 しかし――シオンはそれを嬉しく思いながらも、カクタスの深い執着心に不安を抱えていた。


 脳裏にアカネの顔が思い浮かぶと、シオンはそれを振り払うように頭を左右に振った。


「その……僕が言いたいのは……恋人になったとはいえ、節度を持って――」


 シオンの言葉にオリビアは紙をくしゃりと握り締めた。


 その反応にシオンとナスタチウムは顔を見合わせる。

 何かまずい事を言っただろうか――再びオリビアに視線を戻すと、彼女は顔を青くして口をパクパクとさせていた。

 そして、シオンが声をかけようとした次の瞬間、彼女は顔を押さえてそのまま机に突っ伏した。


「お、オリビア……?……節度をと言っても何もするなと言っているわけじゃなくてじゃな……」


「…………ない……」


「な、なんじゃって?」


「つ……付き合おうって言ってない……」


 あの日、

 想いを告げ、キスもした。

 ――しかし、正式に付き合おうとは言わなかった。

 オリビアは焦りに汗を滲ませると、ナスタチウムは呆れ気味に溜息を吐き出した。


「……わざわざ申し込まないと恋人ってのはなれないもんなのか?」


「そうじゃない、と思うけど……でも…………ま、待って‼︎そういえばあの時……」


 会議後、カクタスが話したいと言っていたのはもしかしたら、その確認だったのでは――


「そうだとしたら……私はそれを断ったって事……?」


 オリビアは青ざめて額を押さえた。


「さ、最低だわ…………思わせぶりな事だけして…………怒ってないわよね……?……いや……まだそうと決まったわけじゃ…………でもどうしよう……どんな顔して会えばいいの…………」


 1人で勝手に暴走するオリビアに、 2人は顔を見合わせて呆れたように頭を振った。




 ――――



「オリビアちゃん大丈夫?」


「……大丈夫よ」



 結局、前回のように話がしたいとカクタスから声がかかることはなく、

 オリビアも日々の忙しさに追われ、気付けば作戦決行の日を迎えていた。



「(今は作戦に集中しよう……シオンやナチがカクタスとの関係を快く思っていないのは、きっと私が気を取られると考えているから。ちゃんとしなきゃ)……皆集まった?」


 この作戦が終わったら話をしよう。

 オリビアは深呼吸すると、作戦内容を再確認した。


 クリソメリドにはアジ、バークビートルにはオリビア、そしてスパイダーマイトにはキャットが向かう。

 他の土地へは比較的判断力のある魔族達を向かわせ、魔法陣の破壊は隠密持ちの部隊が担当する。


「ウイキョウ達は少し離れた場所で待機。何かあったらすぐ動けるようにしといて」


「フンッ……つまんねぇ仕事押し付けやがって!俺が代わってやってもいいぜ?」


「バカには無理よ」


「バカって言うな‼︎」


「準備できたってぇ?」


 気の抜けた声と共にスロウスが現れると、オリビアはその顔を引き締める。



「クロッカス、頼んだわよ」


「お任せください。……では、スキルで繋ぎます」


 クロッカスは目を光らせると触手を大きく広げた。


 “「作戦を開始します。皆さん、配置へ」”



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