ep.2-29 共同作戦開始
「ふぁ〜ねぇねぇ四葉ぁ〜……ボクあっち行っててもいーい?」
「あんまり離れ過ぎるなよ?」
スロウスはふよふよと浮かびながら四葉の側から離れた。
元々は“敵”であり“魔族”であるスロウスに、今の兵士達は好んで近付こうとしない。
しかし、視界には必ず姿を捉えている。
スロウスはそんな彼らを小馬鹿にしたように笑い、クロッカスの合図を受けて小さく指を鳴らした。
「えっ」
――次の瞬間、スロウスの体は真っ二つに裂けた。
兵士達はその光景に思考を停止させる。
そして、地面に転がったスロウスが血溜まりを作ると、顔を青くして遅れて悲鳴を上げた。
「何が起こっ――」
「こっちから来たよー!」
この状況に不釣り合いな明るい声と共に一つの影が目の前に飛び込んでくると、兵士達は顔を強張らせた。
そこには反逆者の一人――キャットが、剣から血を滴らせながら立っていた。
「は、反逆者だ‼︎兵を集めろ‼︎」
「ヘリー、離れてて」
「は、はい……!」
カクタスはキャットの姿を確認すると、ヘリーを自分達から離れさせた。
キャットは兵士達に囲まれないように距離を取って指を鳴らすと、四方から伸びる糸が兵士達を拘束するように絡まる。
その糸の先には蜘蛛の魔族がいた。
「なんだよこれ‼︎」
「今拘束を解きます‼︎」
「させないよー」
キャットは勇者達と疑われない程度に武器を重ね、その間に蜘蛛の魔族は次々と兵士達を拘束していく。
「兵士達に近付けない‼︎」
パキラ以外は中々に演技派だ。
キャットは糸に絡まった兵士達の数を確認して態とらしく肩を竦めると、懐から魔法陣を取り出した。
「避けろ‼︎」
何か来る――
カクタスの声に兵士達は顔を強張らせた。
助けを求めるように手を伸ばした直後――眩い光に包まれ、彼らはシュバルツの地を追い出された。
「…………どう?」
「兵士達の反応はない」
ジニアの報告に、勇者達は安堵に胸を撫で下ろした。
スロウスの死体が地面に溶けるようにして消えると、キャットは後方に目を向ける。
そこには蜘蛛の魔族達が集まっていた。
「魔法陣の破壊も完了したのだわー!」
「ネリネちゃんお母さん達について来ちゃったの?」
「ネリネも戦士の一人なのだわ!……むふふ、これでシオンに褒めてもらえるのだわ!」
「叱られると思うけど…………さて」
キャットは空を見上げ、クロッカスの連絡を待った。
同時刻、
クリソメリドでは――
「魔族だ‼︎」
「魔族っすよ〜!」
アジはサキュバス達を引き連れ兵士達の元を訪れていた。
集まって来た兵士達にサキュバス達は妖艶な笑みを浮かべ、指を滑らせるように動かして手招きする。
「お兄さん達おいで〜」
「捜索続きで疲れてるでしょ〜うちらが癒してあげるよ〜!」
「バカめ!サキュバス対策は万全だ!」
兵士達は反逆者側にサキュバスがいる事を把握している。
全員がマスクを装着して武器を構えると、サキュバス達はおかしそうに笑った。
「頭悪すぎて笑っちゃう」
「何を……」
「おいで?」
兵士達は自分達の足がサキュバス達に向かっている事に気付くと、驚きに目を丸くした。
「な、なんで……」
「姿現してからフェロモン撒くわけないだろバーカ!」
「(オリビア姐さんに言われるまではそうするつもりだったくせに調子いいなぁ……)」
奥にいた兵士達も集まって来ると、アジは事前に聞いていた兵士の数と、目の前にいる兵士達の数が合っている事を確認する。
「これで全員っすねー……」
アジはサキュバス達に発情している兵士達を見て顔を引き攣らせつつ、魔法陣の描かれた紙を彼らに向けた。
「さよーなら!お元気で!」
「待っ――」
兵士達はサキュバス達に触れる前に、光に包まれ跡形もなく姿を消した。
そして、それと同時に衝撃音と共に地面が揺れると、チューが腕を振り回しながらアジの元へとやって来た。
「アジ、魔法陣破壊したよ」
「姐さんお疲れ様っす!」
「オリビア様に褒めてもらわないと!クロッカスから連絡は?」
「せっかちっすねー……ちょいと待ってくださいよ……」
――バークビートル
オリビアは半年前まで魔王がいた屋敷を拠点にする兵士達の前に姿を現した。
「オリビアさん‼︎」
全ての兵を集める為にマナを練っていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
その声の主はヘリーだった。
「お、お話を――」
「反逆者だ‼︎」
「なんと好都合‼︎バークビートルに来てよかった‼︎」
ヘリーの声を掻き消すように兵士達が声を上げる。
その中には、キャットが話していた侯爵家の私兵もいた。
「貴様を捕らえ、侯爵様に引き渡す‼︎」
「勝手な行動をするな‼︎」
「うるさいぞ‼︎」
隊長の指示を聞かず襲いかかる私兵を四芒星の水晶で弾いたが、彼はすぐに体勢を整えて再び飛びかかってきた。
選ばれるだけの事はある――多少は動けるようだ。
「(まぁ……動きに甘えが多いけど)」
オリビアはそれを捌きながら集まって来た兵士達を確認すると、魔法陣の紙を取り出した。
「オリビアさん‼︎どうか話を‼︎」
「オリビア様‼︎」
「!」
声をかけて来たのはヘリーだけではなかった。
魔王を倒す為、共に行動したことのある兵士達――
オリビアが口を開こうとした時、侯爵家の私兵が声を荒げた。
「なんだお前ら‼︎こいつらは反逆者だぞ‼︎」
「しかし……‼︎」
ヘリーやその兵士達は、オリビアを心配している様子だった。
――このまま長居をするわけにはいかない。
「オリー」
オリビアはぐっと口を引き締める。
肩に隠れていたオリーが頷いてライラックと代わってオリビアの中に入ると、周囲の植物にマナを流し込んで兵士達を拘束する。
そして、魔法陣を兵士達の前に突き出すと――
「オリビアさん‼︎シャナ様が――」
光が彼らを包み込み、次の瞬間には消えていた。
「シャナ……?」
消える直前、ヘリーが何かを言いかけていた。
一体何を伝えようとしていたのか――オリビアは久しぶりに聞いた名前に眉を寄せる。
創造神が憑依していたパロサントのシスター。
今はパロサントから出て行方が分からないと聞いていたが――
「おいオリビア!魔法陣ぶっ壊して来たぞ!」
「…………分かったわ。クロッカス、状況を報告して」
考えた所で、ヘリーはヴァイスだ。
もう聞く事はできない。
オリビアは頭を軽く振って意識を切り替えると、クロッカスからの返答を待った。
“「全ての魔法陣の破壊に成功しました」”
“「分かった。残っている兵士がいないか確認したらスパイダーマイトの城に集まるように伝えて」”
オリビアは魔族達と兵士が残っていない事を確認するとスパイダーマイトへと向かった。
――去っていくオリビアの背中を見つめる男は、口元に笑みを浮かべた。
「なかなか逞しい女性ですねー。さてさて、僕達も準備しましょうかね」
男の言葉は誰に届くわけでもなく、雪に静かに解けて消えた。
トランクを手にゆっくりと立ち上がり、男は軽い足取りでその場を立ち去った。




