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ep.2-27 曖昧な関係

 


「大丈夫だった?」


「問題ないわ」


 チューが乱入した事によって中断された会議は夜になって再開された。

 何があったのか、オリビアに深く問う者はいなかった。


「勇者様も、準備できたようです」


「クロッカス、大変かもしれないけどよろしくね」


「大丈夫です」


 クロッカスのスキルは複数の相手と同時に繋がると、混線してしまう事がある。

 その為、今回は彼が要点を纏め、双方に伝える形式が取られた。


 クロッカスは目を伏せ、耳を澄ませるように集中する。

 やがて、紙にペンを走らせながら勇者側の発言をオリビア達に伝えた。


「やはり、ヴァイスは2つの魔法陣を使っての移動しかできません。座標を指定して移動する事はまだ困難なようです」


「朗報だね。シュバルツに設置された魔法陣をなんとかできれば――」


 キャットはクロッカスが情報を書き込む紙の横に置かれた計画書に視線を向けて笑みを見せた。


 勇者達はシオンの話、そしてオリビアの存在によって協力を受け入れたが、兵士達は彼らのようにはいかない。


 このままでは創造神との戦いの妨げになる。


 彼らと戦う選択肢を取れば、パキラの意見も変わってくるだろう。



 ――そこで考えたのが、彼らをヴァイスに送り返す策だった。


 兵士達をヴァイスへと転移させ、時が来るまで遠ざける。

 転移の魔法陣が機能しなければ彼らは海路でシュバルツに向かうしかない。

 バークビートルへの移動も含めれば、十分な時間を稼げる。


 今シュバルツ各地に設置された転移の魔法陣は勇者が転移を終えた事で警備が手薄な状態だ。機能を停止する事は前ほど難しくない。

 ヴァイスの人間に危害を加えるわけではない為、誓約魔法のあるスロウスに兵士達をヴァイスへ転移させる事も問題ない――はずだった。



「さて、問題はここからだ。クロッカス、魔法陣の設置場所に関して勇者様達はなんて?」


「少しお待ちを…………ふむ……やはり把握していないようです」


「……侯爵家には困ったもんだね」


「どういう事?」



 何故そこで侯爵が出てくるのか――

 首を傾げるオリビアに、キャットは頭を掻いて説明した。


「今朝ヴァイスにいるアサガオとセージから報告があったんだ。侯爵家に転移の魔法陣があるのを確認したって。恐らくシュバルツにも侯爵が用意した魔法陣が設置されてる。…………国や勇者様達が把握していないものがね」


「なんで魔法陣が……あれは勝手に持ち出していい技術じゃないわ」


「……魔法使いに金を握らせたみたいだよ」


 キャットは苦笑を深める。


「その侯爵様さ、魔王との戦いで援助を渋った貴族の一人なんだ。

 国民は義務を放棄しようとした彼に不信感を抱いててね……

 今回の件で国民の怒りの矛先が俺達だけじゃなく彼にも向いた。

 で、挽回しようと必死になってるみたい」


「……関係ないじゃない」


「関係ないね。でも、国民にとってはそうじゃない。国の危機は貴族にも責任がある。魔王討伐に消極的だった彼は恰好の的ってわけ」


 キャットが肩を竦めゆっくりと首を振ると、オリビアは眉間を押さえた。


「…………まずはその魔法陣を探さないとね」


「俺の予想ではバークビートルにあると思うけど……その侯爵家の私兵は確か赤髪の勇者様のとこに配属されてたね。頑張って聞き出してもらって」


「伝えます」


「こっちも動きましょう。シオン、蜘蛛の魔族達に探るよう頼んでくれる?」


「分かった」


「ゴースト達にも何か知らないか聞いてみるわ。とりあえずこの件は進展があればまた……他の計画についても話し合わないと」



 ――その他にもいくつか作戦を立て、勇者側の時間の制限もあり、今回の作戦会議は1時間程で終了となった。


 “「オリビアちゃん」”


 オリビアが部屋から出ようとすると、クロッカスがスキルを使って声をかけてきた。

 クロッカスの方を向いて首を傾げるオリビアに、察したシオンが目を細めてじっと視線を送る。

 その突き刺さるような視線に困った顔を浮かべながらクロッカスは言葉を続けた。



 “「赤髪の勇者様が少しお話ししたいと…………スキルでお繋ぎしても?」”


「おい、コソコソと何を話しとるんじゃ」


「…………いえ……」


「オリビア、ゴースト達に話を聞くんだろ。さっさとしろ」


 ナスタチウムも一緒になってじとりとクロッカスに視線を向けると、“保護者”2人の視線にクロッカスは気まずそうに視線を泳がせた。



「…………また今度話しましょうって伝えて」


 オリビアは少し考えてからそれを断った。

 シオンとナスタチウムが面倒である事と、カクタスに対して気恥ずかしさもあったからだ。

 クロッカスは困ったように唸り声を上げ、言葉を選びながらそれをカクタスに伝えた。











 ――――


「あ、赤髪……向こうも忙しいんだって……」


「そ、そうですよ……嫌とかじゃないですって……」


 カクタスはお断りの連絡を受け、顔を青くして放心していた。

 パキラと四葉が必死にフォローするが、彼の耳には届いていない。


 ――あの時、がっつき過ぎて引かせた……?

 ――いや、そもそも今の自分達の関係って恋人でいいのか……?

 ――気持ちを伝えて、キスもしたけど…………もしかしてそう思っているのは自分だけ……?


 カクタスは拒否された事で強い焦燥と不安に襲われると、顔を引き攣らせて槍を手に取り立ち上がった。


「…………半殺しにすれば魔法陣の場所を吐きますかね」


「待て待て‼︎」


「カクタスさん落ち着いて‼︎」


 本当にやりかねない雰囲気を感じ取り、パキラと四葉は慌ててカクタスを止めて椅子に座らせた。

 心のうちを悟らせないように振る舞っていた彼はどこに行ってしまったのか――


 呆れつつも感情の起伏が戻ってきたカクタスに、2人は困ったように笑みを溢した。



「とりあえず血が流れない方向で作戦考えましょ?ね?」


「しかしどうするか……魔法陣どこに設置したかなんて馬鹿正直に聞くわけにはいかねぇしな……

 酒でも飲ませてみるか?口を滑らせるかもしれねぇぞ」


「それは無理ですよ……お酒はパキラさんも止められてますよね?」


「んん?あ、そうだっけか?」


「(この人は…………)」


 四葉が呆れた視線を向けると、パキラは目を泳がせながら口笛を吹いた。

 カクタスは深呼吸して焦る気持ちを落ち着かせ、考えを巡らせる。


 そして、

 何か思いついたのか、カクタスは口元に指を這わせると、薄く笑みを浮かばせた。


「……少し、煽ってみましょうか」







 ――翌日の朝。


「勇者様、昨日は3人で何をお話しに?」


 仲間達と集まって談笑していると、狙い通り貴族の私兵が現れた。


 昨日の会議ではクロッカスのスキルに干渉する可能性を考え、勇者同士の念話を使わず適当な理由をつけて部屋を隔離してもらったのだが――それがいい餌となった。


 カクタスは深刻な顔を作り、声を抑えて問いかける。


「…………誰にも言わないと約束できますか?」


「話してくださるのですか?」


 その問いかけに私兵の目がぎらりと光る。

 カクタスはその反応に目を細め、彼の耳元に静かに口を寄せた。


「秘密ですよ?――実は、パキラさんがバークビートルで転移の魔法陣らしきものを見つけたそうで……それを国に報告すべきか、相談を受けたんです」


「へ⁉︎」


 私兵は素っ頓狂な声を上げて後ずさった。

 カクタスは痛む耳を押さえて顔を顰めさせたが、私兵はそれに気付かずひどく狼狽えている。

 呆れたように溜息を吐き出すと、そんな彼に追い討ちをかけるように言葉を続けた。



「まぁ……使えないみたいなので、少し調査を――」


「使えない⁉︎」


「はい、そう報告を受けてます」


「そんなはず…………」


 私兵は慌てて口を押さえると、顔を青くして考え込んでしまった。


 そんな彼を見て、カクタスは煽るように兵士に調査を頼む事を知らせると、私兵は慌てて声を上げた。


「お待ちください‼︎調査は私にお任せを‼︎」


「でも、バークビートルにいる兵士に頼んだ方が……」


「いいえ‼︎あのような者達には任せられません‼︎」


「……そうですか?では、準備を整えてください。隊長達には俺がうまく伝えておきます」


「はい‼︎…………あの、危険性がないと分かっても、報告を……?」


 私兵は恐る恐る問いかける。

 カクタスは一瞬キョトンとした後、私兵を安心させるように穏やかな笑みを浮かべて返事をした。


「危険性がなければ国には報告はしませんよ」


「い、行ってまいります‼︎」


 私兵は駆け出して行った。


 危険性がなくとも、報告するのが当たり前だ。

 それも分からないほど焦っているのか――


「…………馬鹿な男だ」


 カクタスがチラリと視線を木々の影に向けると、一つの影が私兵を追うように飛んで行った。


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